骨は珊瑚、眼は真珠 (文春文庫 い 30-4)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167561048

作品紹介・あらすじ

夢の中で、十二年に一度の沖縄・久高島の祭イザイホーに、巫女として参加している自分を見つける「眠る女」。亡くなった夫の骨を砕き海に撤く妻を、遠くからそっと見守る夫がやさしく語りかける「骨は珊瑚、眼は真珠」。さわやかに、そして心に深く届く言葉が紡ぎだす九つのものがたりを収録した秀作短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • 眠ること、あるいは仰向けになって空を見ることなど、人生の根源的なものとはおそらく「空(くう)」なのではないかというテーマが趣旨の短編集。
    『眠る女』は言いたいことはわかるが、とにかくあざとい。また、女の仕草に対する表現がぎこちなく、その点でもこの小品は評価に値しなかった。
    『アステロイド観測隊』は少しばかりSF的要素を散りばめている。器用な作家なのだなとは思うが、発電所の電源を切るという小さな罪が、人類史の大きな契機となったという点ではあまり訴求力を感じなかった。
    『パーティー』はわずか9ページの小品で、余程強いメッセージがないと成り立たない。しかし、亡霊のようなものを土台に据えたこの作品にそれを感じることはなかった。
    『最後の一羽』は絶滅直前のフクロウをテーマにしたものだ。生のアルゴリズムに従って淡々と生きる。子と妻を失ったときに抱いた焦燥感はいまは薄く、日々の務めを果たす。飢餓感のなかで見つけたトガリネズミという餌が、地球上で最期となるこのフクロウの寿命を数日延ばした、という件は悪くない。
    『贈り物』日本の暮らしに馴染めない外国人留学生が、サンタクロースがたくさん乗ったバスに遭遇にして元気をもらうという話。悪いがまったく趣旨がわからない。
    『鮎』人生を仮想体験するという、よくある話だが、必然性を感じない。加えて、既存作品をなぞらえたものだということから、なぜこれを上梓したのか、理解できない。
    『北への旅』謎のウイルスによって人類のほとんどが死滅した世界。このウイルスを避けるべく地下シェルターで1年暮らした主人公が、それに飽き飽きして外へ出るというところか話は始まる。外気を吸うとその瞬間に感染し、死までの時間は1ヶ月余。苦しむことなく死ぬことができることを拠り所に感情を押し潰してしたいことを行う。しかし願望はすでに存在していなかった。行動に価値を見出せないから、死までのカウントもある意味で無価値だということだ。ところが最終的な落ち着き先と決めた土地で、自分が小さなときに祖父からもらったガラス玉と同じものを見つける。固く閉じていた心が裂け…という展開なのだが、どうも厚みを感じさせない。
    『骨は珊瑚、眼は真珠』この短編集の表題ともなっている小品だが、自分が死に、未亡人となった妻に当てたメッセージという展開だ。要は「遺骨は散骨してね」ということなのだが、遠回しに人生論を語る。欲のない夫(主人公=語り部)は、最後に収められた『眠る人々』や冒頭の『眠る女』にも繋がるが、人生ってすでに満たされたものなのだというメッセージを語るには、少し理屈っぽいように思える。とは言え、設定の意外性は面白いと思った。
    『眠る人々』では、主人公が幸せを過剰に意識する。満ち足りた幸せのなかにいる人類は、幸せを実感できていないと思っているが、周囲に理解してもらえないという点で、世の中から浮いており、山のなかで仰向けになって空を仰ぐことで大地から浮いているという感覚を覚える。彼の眼前に登場するUFOは心象風景なのかもしれない。地球人類を代表して謝罪を述べているような、一風変わった展開の小品で、まあまあだと思う。

  • 雪のこと、星のことを書くことについて考える。このひとの書く雪と星には本当にこころ揺さぶられる。

  • 表題作と『アステロイド観測隊』が好き。

  • 短編9編を収録しています。

    表題作である「骨は珊瑚、眼は真珠」は、自身の遺骨を海にまいてほしいと願う夫が、死後に妻に対して語りかけるかたちで叙述された物語です。また「眠る女」と題された作品は、深い眠りについているあいだに巫女となって沖縄の祭りに加わる体験をする女性の物語です。「眠る人々」は、UFOに遭遇するという体験と、個人の幸福に対する疑問がつづられています。

    これらの作品に典型的に見られるように、この世界に生きている私たちが、自分自身を超えるなにかとつながりうることを、幻想的な物語に託して語っている作品が多く含まれています。「解説」を担当している三浦雅士は、本作のテーマに「根源的な淋しさ」があると指摘し、「夢でしか回復されることのない共同体は、そこから切り離されてしまった現在の、根源的な淋しさをこそ強く印象づける」と述べています。ややスピリチュアルな道具立てに戸惑いをおぼえましたが、本作に収録されているいくつかの物語を通じて、著者がえがき出そうとしているテーマが浮かび上がってくるように感じられました。

  • ・SSさんのHPで話題の「Dr.ヘリオットのおかしな体験」の訳者
    ・Jasmineさんの無人島への一冊の著者
    というわけで、突如池澤氏に興味を持ち買いました。
    しかし。。。。
    申し訳ないけど、私には良く判りません。どこか突破口なり、琴線に触れるところがあればジンと来る感じがあるのですが、スルリと逃げてしまった感じです。
    文章そのものの良さは感じられるのですが。。。

  • 2015/09/06 読了

  • 静謐な死がたくさんあらわれる。ただ、そうした死を反射鏡として描かれる生は、そのかたちは多彩。死は一つでも生はたくさんなんだな、と、そんな気にさせられる。

     それにしてもこれを初めて読んだ20代半ばのころは、「北への旅」ラストは実に平凡に思えた。最近、あのラストは辛くて読めなくなった。自分の変化が感じ取れておもしろい。

  • ユニークな作品が詰まってます。

    私が気に入ったのは、大学教授が講義で話す形式の『アステロイド観測隊』
    惑星気象学の専門家であるのに、まるでスパイのような行動をすることになってしまう…。

    人類最後の日を唯一生き残った主人公が、残りわずかの生をどう過ごすかを描いた『北への旅』

    自分の幸福は、だれかの代わりに得たものではないのか
    そう思う主人公が夢の中で、水中に多数の人が眠っている映像を見る。
    幻想的な描写が印象的な「眠る人々」

  • 2009.04.11. 不思議な話も入ってる短編集。「贈り物」が、なんだかいいなーいい話だなー。感触的には「鮎」が1番好き。どっかの民話(アイヌとかの)を、静かに聞いてるような気持ち。

  • 主題は「孤独」。
    人類が次々と病に死に絶えてゆく地上で、
    キャンピングカーを借りてたどり着いた一軒家で
    クリスマスの準備をしながらツリーに明かりを灯して
    一人、クリスマスの夜にあなたなら何を思いますか?
    短編集です。そのほかの作品も秀逸。
    クリスマスのこの時期に紹介したい一冊。

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著者プロフィール

1945年生まれ。作家・詩人。88年『スティル・ライフ』で芥川賞、93年『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、2010年「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」で毎日出版文化賞、11年朝日賞、ほか多数受賞。他の著書に『カデナ』『砂浜に坐り込んだ船』『キトラ・ボックス』など。

「2020年 『【一括購入特典つき】池澤夏樹=個人編集 日本文学全集【全30巻】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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