玻璃の天 (文春文庫 き 17-5)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167586058

感想・レビュー・書評

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  • シリーズ第二作。「幻の橋」「想夫恋」「玻璃の天」の三編の連作短編。時代が昭和初期なので、後の時代を知っている者だからか、段々と不穏な空気がひたひたと迫ってくるのを感じる。
    学習院(と思われる学校)に通う令嬢、花村英子と彼女の女性運転手、別宮みつ子をワトソンとホームズにしたような小説。時代背景が現代ではないので、基礎となる知識が現代とは違っていて、物語を読みながら、自分なりに調べながら読んだ。そうしたくなるような本だ。
    戦争の気配が濃くなる中でも、学生が「うれー」(嬉しい)「すてー」(素敵)のような流行り言葉を使うのが、微笑ましく、可愛らしい。

    「幻の橋」は英子の同級生の恋のお話。英子は満14歳ということだが、昔の女性のお輿入れは早かったのだなあ、と痛感する。シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」も10代の話だった。この短編に出てくる月岡芳年の画集を持っていたので、見てみた。芳年が好きな私は、この絵が発禁になったことがある、ということは芳年に原因があるのか(妊婦の逆さづりとか描いているし)と思っていた。しかし調べてみたら、天皇の出自に関すること(大正天皇の母になるのだが、大正天皇に疾患があることの原因を生母にもとめたらしい)で発禁になったのか、と驚いた。美人と名高い柳原白蓮の叔母にあたる方である。

    「想夫恋」は英子が積極的に友人を作り、その交流を中心に描いた短編と思いきや…。これもYouTubeで「想夫恋」を聞いてみた。
    この短編で心惹かれたのは「例えば、《あたし達》という存在は、小は家庭から、大は国家、そして世界に囲まれている。そこに映る自分を、どのように見つめるかは、大変に難しいことだろう。」という部分。これは現代でも同じではないだろうか。

    「玻璃の天」で別宮さんの正体がわかることになる。「幻の橋」で桐原勝久様が別宮さんに「あなたに、ドアを開けさせはしませんでしたよ」と言った意味が分かる。
    また与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」の歌の解釈について英子と兄で話すシーンがある。自分の解釈の仕方が全く通り一遍で別の角度から見たら、ということが想像できずにいたことが、「なんて残念な自分…」と思ってしまった。確かに軍隊にいる弟にとって、戦意高揚しようとしている国で自分の姉が上記のような歌を詠んだら、弟の軍隊での居心地が良いものになろうはずがない。
    お料理の描写も多く、資生堂パーラーでのお食事の場面は、銀座に行ってしまいたくなる。

    本当に北村薫は何度でも読みたくなる。次は直木賞の「鷺と雪」だ。

  • シリーズ1作目の街の灯も良かったが、2作目は言葉では表せないくらい良かった。って言うより、感想を上手に自分の言葉で書き綴ることが出来ない。
    いつもだけど、北村薫さんの本を読むともっと勉強したくなる。
    枕草子も伊勢物語も、平家物語も…。
    そしてこの物語で描かれている時代についても。
    ベッキーさんのことが少し判ったけど、これからどうなるんだろう?
    さあ、シリーズ最終章を読もう!

  • シリーズ一作目よりもその世界観にぐっと引き込まれた。若月さんや綾乃さん、乾原さんと、新たに登場した人物が魅力的だった。情熱と哀しみが入り混じっているようなそれぞれの心に惹きつけられた。
    なんとなく、読んでいる間ずっと周囲が夜のような気がした。だんだんと戦争の話になっていくんだろうか...。主人公とベッキーさんとの日常に馴染んできたからこそ、次作を読むのが少し怖い。

  • お嬢様と別宮(ベッキー)さん、どちらもしっかり教養と自分の考えを持っていて素敵だった。
    ユーモアもあって面白かった。
    ミステリーとしても面白かった

  • 昭和初期を舞台とした、ベッキーさんシリーズの第2巻。「街の灯」の続編に相当します。
     
    随分昔(調べてみたら3年も前だった!)に前作の感想を書いた際、「時代設定上どんどんつらい話になっていきそうでちょっと不安」と記したのですが、やはりどうしてもトーンは暗くなりがちですね。登場人物たちのきらびやかな暮らしが、あるいは栄華を誇る帝都が、今後どうなるか予測がつくだけに辛いものがあります。芽生えつつある恋のロマンスも、どうも先行き不安です。
     
    北村薫氏の作品に接すると、何気ない一言にドキッとさせられる事が往々にしてあるのですが、今回はこの一言。
     
    「貴女様の役回り」
     
    凛としたベッキーさんの"闇"を垣間見たようで、背筋がぞくりと震えました。この"闇"は、終盤でよりはっきりと、そして思わぬ形でその輪郭をあらわにする訳ですが。

    暗澹とした展開が続くものと予想されますが、それでも一筋の光明が灯る事を期待して、次巻を待ちたいと思います…ってもう出てますね(笑)。

  • ベッキーさんシリーズの1冊目「街の灯」を読んで面白くて
    大喜びでこの第二弾の「玻璃の天」を読んだわけですが。
    今回は先が気になり過ぎてゆっくり読めずでした。
    文章もあんまり味わう余裕がなかったです。
    お話の中の雰囲気が、不穏な空気が漂っていて重い感じを受けました。

    違う本のことを書いてしまって良くないのかもしれないけど
    つい最近読んだ広瀬正さんの「マイナス・ゼロ」の中に出てくる時代(の一部)と殆ど同時期で
    あちらは庶民の目から見た銀座界隈の生活を描いていましたけど
    その先の戦争のことも書いてあって・・その辺のことを思い出したりで
    なんか「ああこの先は・・」とか思っちゃって辛かったです。

    ベッキーさんのことが段々と分かってきて、悲しくなったり
    英子ちゃんのこれからを思うと心配になってきたりとか
    とても素晴らしい本なのは確かなのに、レビューに暗いことばっかり書いてしまいます・・。
    シリーズ最終の「鷺と雪」も買ってあってすぐ近くに置いてあるんだけど
    なんとなく手が伸びません・・。
    なんだこの「街の灯」の時とのテンションの違いは。
    もう少し落ち着いたら読むことにしよう・・。

    こんな変なレビューだけど、本当に良い本だからこそ影響を強く受けて気持ちが動いているってことだと思ってます。

  • やっぱり好きだなぁ北村薫さんの描く女性が。上品で教養があってそれでいてい芯のしっかりした自分の意見がちゃんと言えて、茶目っ気もあって。憧れます。それに北村さんの書く文章がまた綺麗なこと!極上!
    今作でベッキーさんの素性がはっきりした。やはりタダモノではなかったのですね。でもそんな悲しい過去があったとは!昭和初期が舞台なので時代がだんだん暗く戦争へと向かっていく日本。次で終わりらしいのでどのようになるのか気になる!伏線があって解決していくミステリだけどオチも洒落ててほんっとお素敵!

  • 北村薫作品で私が一番好きなベッキーさんシリーズ第二弾。今回は謎多きベッキーさんの核心に迫る話。ミステリーとしては勿論私の大好きな昭和初期の華族を中心とした上流階級の世界をこれでもかと描いくれていてとても満足。私たちはこの10年後には日本が焦土と化していることを知っているわけだが、主人公2人の悲痛な想いにどうか救いをと祈らずにはいられない。

  • 2022.2.21読了
    再読。
    社長令嬢の花村英子は華族学校に通う女学生。
    好奇心旺盛のお嬢様は運転手のベッキーこと別宮と共に様々な謎に挑んでいきます。

    戦争の影がひたひたと忍び寄る昭和初期。
    それでも三越、資生堂パーラー、晩餐会、展示会等、女学生を通じて明るく華やかな描写は続く。しかし楽しくも悲しい。あくまでもお嬢様は特権階級だから。

    やっぱり北村薫はいいなー

  • 「ベッキーさんシリーズ」第2弾。
    「街の灯」から1年が経ち、時は昭和8年、時代はますますきな臭くなり、戦争の影がひたひたと押し寄せる。そんな暗さを通奏低音のように含みながら進む3つの中編。

    「幻の橋」では、明治来犬猿の仲だった両家の手打ちの場で起きた浮世絵喪失の謎を、「想夫恋」では、残された手紙の暗号を解き失踪した学友の行方を、「玻璃の天」では、ステンドグラスの天窓から転落死した男の死の真相を英子とベッキーさんが解き明かす。その過程で明らかになるベッキーさんの正体。

    前作では邪気もなく上流階級の生活を謳歌していた英子も、折あるごとに正義とは、国家とは、大義とはということを真剣に考える。
    中でもパーティーで知り合った若き少尉とのバルコニーでのやり取りは圧巻。15歳の少女が軍人相手にここまで堂々と自分の考えを展開できることに驚くとともに、若い二人の今後の関係にひそかに胸がときめく。

    英子と月岡少尉、ベッキーさんと思想家、終盤での英子、ベッキーさんと乾原のやり取りなど、緊張感あふれる言葉の戦いは、このあと訪れる暗い歴史を知っているからこそ、その一言一言が胸を抉る。

    「金魚鉢の中にいる金魚には、鉢の水が見えないものだろう。どのような水の中にいるのか――その判断は、時か所を隔てないと、普通は出来ないし、それ以上に、することを許されない。許されないのが、我々の知る国家というものだ。
    百年経ち、千年経った時、人の知恵は、そういう国家のあり方を少しは変えられるのだろうか。」
    英子の質問に私たちはどう答えればいいのだろう・・・

    次はいよいよ2.26事件の年。クライマックスです。

著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。著作に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジーなど幅広い分野で活躍を続けている。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

「2021年 『盤上の敵 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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