乃木希典 (文春文庫 ふ 12-6)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (169ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167593063

作品紹介・あらすじ

旅順で数万の兵を死なせた「愚将」か、自らの存在すべてをもって帝国陸軍の名誉を支えた「聖人」か?幼年期から殉死までをつぶさに追い、乃木希典の知られざる実像に迫る傑作評伝。日露戦争開戦100年後に書かれた本書は、従来の乃木像をくつがえすとともに、「徳」を見失った現代日本への警告ともなっている。

感想・レビュー・書評

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  • 日露戦争後の乃木将軍は、学習院院長として昭和天皇の指導にあたった。明治天皇の死を機会にみずからにけじめをつけたのだろうが、その威光は、昭和天皇を通じて、今も日本を照らしつづけている。乃木が無能な将軍であったことなど考えられない。無私の人、損得のない人は、その良し悪しはともかく、典型的な日本人としてその人柄をしのばせる。

  • 乃木希典の生涯をコンパクトに、旧からの批判とあわせてなおその魅力に迫ろうとしている。若いころを書いている部分は本人と同じくらい鬱々してしまい退屈を感じるが、病院のくだりなど思わずはっとするような「うつくしいひと」である部分が見えて、それだけでもこの煮ても焼いても食えぬような堅物の偉大さに触れる一瞬がある。要領の良くなっていく世に愚直といううつくしさがあるのだと思いおこさせてくれる。

  • 乃木希典(のぎまれすけ)
    乃木神社に祭られている明治の将軍。
    明治天皇が殉死された後あとを追って夫婦で殉死。日露戦争の旅順(りょじゅん)戦で九割近い兵士をなくした司令官。愚将と呼ばれる要素はあれど、殉死後に神社がたつほど国民や天皇から愛されたのは何故なんだろう。
    生い立ちは不遇な人目線で読んでいたけど、中盤にやさぐれていてとんでもない女遊びをしていた時期もあり、なかなかの人物像。一方で 作者の言う通り現代の日本人にない愛国心がこの時代には確実にあり、そのなかで希典は殉死後に国民から慕われたんだろうなと思った。

    そして乃木神社にまたお参りに行きたいなと思った。

  • 司馬史観による乃木希典像を改め、日本の進むべき道で彼が演じたことこそが美しく、評価すべき点である、という内容で、文献もなんちゅー数があるんでしょう、と思いましたが、ちょうどこないだ司馬遼太郎の殉死を読んだので、あとがきにある右派ぽい人の解説が、こうした乃木希典をめぐるアカデミックの動きがどのようなものであるか非常にわかりやすく書いてありますね。それにしても事象だけとってみれば名前が上がらぬ人物がこれほど長く議論の対象となるのは、当時殉死したことがいかにセンセーショナルだったかにおわせますね。

  • 乃木希典の評伝です。著者の発言はいつも、二重にも三重にも戦略的な企図がはりめぐらされているのですが、本書はとくにそのことを強く感じました。

    200ページに満たない小さな本なので、乃木の生涯を詳しく追うことはせず、乃木が「徳義」ということをみずからの生き方そのものとしようとしたことに焦点が絞られています。

    いうまでもなく、そうした視角から乃木を見ることは、司馬遼太郎の『坂の上の雲』に代表される乃木の見方に対する異議申し立てとなっています。そしてそれを、乃木という人物の評伝を書くことによって実現しているところに、不思議な興味を覚えます。たとえば、乃木を愚将扱いする人びとの軽薄さや卑小さをえぐることによって、「徳義」を重んじる著者の立場を打ち出すこともできたはずです。むしろその方がずっと容易に違いないと思います。しかし著者はそうせず、乃木の生涯を読者の前に示すという方法を選びました。

    興味を覚えるといったのは、そうした著者の態度と、演出過剰と思われるほどの端整な本書の文体に、同じものを感じたからです。本書が提示している乃木の生き方と、それを称えるする著者の文体は、著者と立場を異にする読者を、「ツッコミたい」という思いでうずうずさせるような装いをまとっています。著者のこうした「したたかさ」には、いつものことながら参ってしまいます。

  • 激動の時代を生きた軍人、乃木希典。彼は旅順で数万の兵を死なせた「愚将」か、自らの存在すべてをもって帝国陸軍の名誉を支えた「聖人」か ―― ? 幼年期から殉死までをつぶさに追い、乃木希典の知られざる実像に迫る。日露戦争開戦100年後に書かれた本書は、「坂の上の雲」などで描かれる従来の乃木像をくつがえすとともに、「徳」を見失った現代日本への警告ともなっている。

    1 面影
    2 国家
    3 徳義
    4 葬礼(武士道よりも厳しい道

  • 本棚から引っ張りだして電車の中で読み返す。
    有能より有徳が尊いという福田さんの論は、たしかに今の時代だからこそ、うなづける。
    ときどき読み返してみたい本。

  • 軍人としての乃木希典ではなく、人間乃木希典が描かれている。
    軍人としての乃木は無能であったとよく言われるが、人としてはなかなか魅力的な人物であったようだ。
    奥さんにはかなり強くあたっていたようだが、部下にはとても優しかったらしい。重要な公務よりも部下が風邪を引かないか心配する姿などは、現代なら理想の上司として扱われそうではないか。
    実は学者になりたかったのだが、肝心の学力も足りなかったなどという話も人間味あふれていて興味深かった。

  • 20111003紀伊国屋書店三宮

  • 乃木希典といえば…夏目漱石の『こころ』の中に登場する、『乃木大将夫妻の殉職』という時代背景が印象的で、乃木希典という名前だけはよく覚えていました。


    本書が描き出した乃木希典の像は、従来のどの乃木希典とも異なっている。
    司馬遼太郎が『坂の上の雲』で書いたような貶められた乃木像ではなく、また誠実で清廉なストイックな気質(実はこのストイシズムには、葛藤がつきものだった)が一人歩きを始めた結果生まれた乃木像とも違う。


    著者・福田氏によると、乃木希典の異常なまでのストイシズムには、『立派で有徳な人』であろうとした、乃木自身の使命感のようなものがあったという。

    その覚悟たるや並々ならぬモノを感じるが、乃木も人の子だったということだろう。

    乃木希典を論考するにあたり、他の偉人との対比により乃木の人格を描く、炙り出しのような手法も大変な見応えがある。

    著者は児玉源太郎を有能とし、乃木希典は有能ではなかったが、有徳であると断言している。

    ここまでの論考は、なかなかスリリングであるものの非常に分かりやすくて良いと思うのです。


    現代にも通ずる所のある乃木に対する幾つかの論考は、非常に分かりやすく読み応えのある一冊でした。

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著者プロフィール

1960年、東京都生まれ。批評家。慶應義塾大学名誉教授。『日本の家郷』で三島賞、『甘美な人生』で平林たい子賞、『地ひらく――石原莞爾と昭和の夢』で山本七平賞、『悪女の美食術』で講談社エッセイ賞を受賞。

「2023年 『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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