水の眠り 灰の夢 (文春文庫 き 19-2)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (475ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167602024

感想・レビュー・書評

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  • 時代背景や設定が好みなのもあるが、一瞬たりとも飽きない展開に、どれも個性的な登場人物が魅力的で読み易くて引き込まれる。知らずに手に取ったが、村野ミロシリーズを一から読んでみたいと思う。

  • ミロのお父さん、村野善三の若かりし頃の話。
    ミロシリーズ、個人的な意見だけど、一作目が一番引き込まれたなー。

  • 桐野夏生にはまったので、比較的旧作にも手をつけてみたが、ストーリー展開の緻密さと登場人物のリアリティは昔からの筆力か、更にはテーマがトップ屋たちライターの世界。作家には得意のジャンルでもあったのだろう。一つの事件を追いながら、自らの身の回りに起こる事件と少しずつ重なり、戦後初期を舞台に、物語りはハードボイルドミステリー仕立てに展開。面白くないわけがない。

    桐野夏生はグロテスクとか残虐記でも、ノンフィクションをなぞった小説を書いているが、そういった著作では、犯人の人間性を多面的に分析して描く必要があるため、特に著者の良さが出るのだろう。これが出来ない作家は、登場人物の年齢やIQの違いをキャラ設定を露骨に表すことで表面的にしか描けず、深みがない。まさに才能だ。

  • 東京オリンピック間近な1960年代、高度成長時代に突入した東京が舞台。雑誌のトップ屋村野が主人公。サスペンス小説ではあるが、「謎を解く」ということが主眼ではないと感じた。サスペンスとして描くことで、当時の日本の成長の勢いとそれに伴う危うさがうまく表現されている。
    日本がその後たどる戦後成長期の第一歩、当時の日本の若者の風俗、大衆文化を織り込みストーリーが展開していく。まだ日本人の誰もが未来に成長を思い描けた時代だといえる。この時代でなければ表現出来なかったサスペンスともいえるだろう。
    私自身は当時はまだ子供で実際、このような社会現象や大衆文化を身をもって体験していた世代ではないが、ここに登場する文化等をテレビや雑誌、映画等で観てきた世代といえる。しかしなんとなく懐かしさを覚える内容だった。

  • ミロさんの親父さんがジャーナリストの時のお話
    時代的に夕日3丁目的な雰囲気も醸し出して、いい味出している
    ミロシリーズもおもしろいけど、この親父さんをシリーズ化した方がおもしろそう
    作家の立場からは、時代考証とかの制約やら面倒臭さがあるかもしれないけど

  • 2022.11.19読了

  • 1963年の社会情勢や風俗もよく描かれています。東京オリンピック間際です。
     物語は女子高校生殺人事件と、薬物にまつわる事件(草加次郎事件)がクロスします。
    50年前の週刊誌創成期の雰囲気がよく伝わります。全体が白黒テレビで放送されるような。読むのには時間が掛かりました。

  • 「顔に降りかかる雨」「天使に見捨てられた夜」でシャープに活躍するヒロインの私立探偵村野ミロの父村野善三の若かりし日のハードボイルド・ミステリー。
    そして、「ローズガーデン」にて濃密なミロの世界を創り出した源の出生の秘密が解き明かされる。

    時は1963年。東京オリンピック開催一年前。私の若き日と同時代!
    時代の風物が、特に銀座の風物が私のノスタルジーをくすぐる。

    冒頭の一節、

    『熱風と轟音が開け放たれた窓から入ってくる。地下鉄はどうも好きになれない。』

    のっけから、ほんとその通りだったよ。地下鉄はものすごく蒸し暑いが当たり前。夏は地獄。地下鉄の全車両にエアコンがついたのは何時からだったのかなー?

    主人公、村野善三が地下鉄爆発事件の始まりの不審な新聞紙の包みを偶然見つけるのは、灯りが消えて読んでいた新聞から目を離して車内を見渡したからだ。これも真実、しょっちゅうあった、実体験している(笑)
    よくあったことだが地下鉄銀座線の車内の照明が突然パッと消えてまたついたから。銀座線が特に多かったなー。一番古い地下鉄だからかしらん。

    この導入部にはほとほと感心する、桐野さんとてもうまい。導入部分だけでない前編がそう、だから私が浸るのは当然だった。

    このハードボイルド・ミステリー「水の眠り 灰の夢」で私が感じるノスタルジーをざっと挙げよう。

    お江戸日本橋の上にかかる高速道路。(物議をかもした)
    キャバレー『クインビー』、森永の地球儀のネオン。
    週刊誌、トップ家。(週間誌のはなざかり)
    小松ストアー。(もうない、よく買い物したのに)
    ホンコンシャツ。バイタリス。アイビーファッション。(アイビールックといっていた)
    映画『天国と地獄』(恋人と見た)『灰とダイアモンド』(忘れられない)

    …きりがない。

    この映画『灰とダイアモンド』はこの小説の底の、副のテーマだと思う。
    村野善三と後藤伸朗と大竹早重の持っている個性が織り成す理想と現実との戦い。

    『君は知らぬ、燃えつきた灰の底にダイアモンドが潜むことを……』(映画の中で主人公マチェクが墓碑銘を読むシーン)

    もちろん、ノスタルジーだけではない。
    当時の上り調子な世相、向上と上昇と物欲、反逆、底辺のうめき、うごめきがないまぜになってスピードのある面白いストーリだった。

    この本の解説(井家上隆幸)も適切で参考になった。

  • この作者の小説に私立探偵村野ミロという人物が出てくるようだか、本書はその父である村野善三が若かりし頃の話であり、トップ屋という週刊誌記者が主人公のミステリーである。昭和38年を舞台に、実在する人物や出来事の中、真実を求めて追いかける週刊誌記者の活躍。村野ミロの話を先に読んでいれば、より楽しめるのではないか。

  • 草加次郎…1963年頃に、東京で連続爆破事件を起こした犯人である。僕がこの名を知ったのは、幼かった当時ではなく、もちろんずっと後になってからだ。事件は解決しないまま、迷宮入りになったようだが、不勉強なんで詳しくは知らない。
    で、この作品。著者の一連の作品に登場する人気キャラクター、村野ミロの父親である村野善三が主人公。いわゆる週刊誌のトップ屋(今でもこの言葉はあるのだろうか)だった頃の時代背景が描かれている。1964年の東京オリンピックを前にした高度経済成長が始まる、とにかく活気に溢れていた時代のことである。
    この頃の僕は、二筋に垂れた青っ鼻を袖でぬぐっているような幼児だった。まだ戦後の焼け跡が残っている家の前の原っぱで遊んでいると、たくさんの洗濯物を脇に積んで、大きな金タライを抱えるように洗濯板でごしごし洗っている今は亡き母が、背中越しに「のりちゃん(僕のこと)、知らないおじさんについていっちゃだめだよ」と、よく言っていたことを思い出した。吉展ちゃん誘拐事件という、身代金誘拐の代名詞にもなったような事件があったのもこの頃ではなかったか。
    草加次郎事件はそんな時代に起った。トップ屋として事件を追っかける善三と、実名でどんどん出てくる、当時のタレントや企業が、まるでノンフィクションを読んでいるようなリアリティをみせてくれる。吉永小百合ならいざ知らず、あのお千代さん、島倉千代子がすごいアイドル(この言葉もあったのだろうか)だったということにも驚き。太陽族の石原裕次郎を彷彿とさせる人物も出て来たりして、当時の世相を知る上でも勉強になった。解説を読むと1964年は、<車>と<女>と<ファッション>を三本柱とした「平凡パンチ」の創刊の年、情報の娯楽化が始まった年だったという。あれからすでに40数年の歳月が流れている。

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著者プロフィール

1951年金沢市生まれ。1993年『顔に降りかかる雨』で「江戸川乱歩賞」、98年『OUT』で「日本推理作家協会賞」、99年『柔らかな頬』で「直木賞」、03年『グロテスク』で「泉鏡花文学賞」、04年『残虐記』で「柴田錬三郎賞」、05年『魂萌え!』で「婦人公論文芸賞」、08年『東京島』で「谷崎潤一郎賞」、09年『女神記』で「紫式部文学賞」、10年・11年『ナニカアル』で、「島清恋愛文学賞」「読売文学賞」をW受賞する。15年「紫綬褒章」を受章、21年「早稲田大学坪内逍遥大賞」を受賞。23年『燕は戻ってこない』で、「毎日芸術賞」「吉川英治文学賞」の2賞を受賞する。日本ペンクラブ会長を務める。

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