天使 (文春文庫)

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著者 : 佐藤亜紀
  • 文藝春秋 (2005年1月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167647032

天使 (文春文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 第1次大戦前夜から末期まで、すなわちオーストリア・ハンガリー帝国の崩壊期。一貫して、ほの暗いムードの中に物語は推移する。この時期のヨーロッパの全体像はおろか、オーストリア、あるいは1戦線の帰趨さえ定かではない。それは、物語の主人公ジェルジュにとってそうであるばかりではなく、読者たる私たちも同様である。作家自身も、ことさらに時代背景を説明しようとはしない。それは、主人公たちに他者の思惟や感覚を読みとるといった特殊な能力を付与しつつ、感情表現を極力抑える技法でもあった。リアリティの在り処が根底から違うのだ。
     夜行列車が、朝まだきのウイーンに近づき、まだ目覚める前のウイーンの街の煤けた描写などは実に見事だ。

  • 無駄がないが匂い立つ文章で第一次大戦前夜のウィーンを舞台にした異能力の主人公の戦いを描く作品。
     
    というか、すごく挑戦的な本だ。通常の小説なら当然のごとくある「メタ説明」が皆無なのだ。歴史的経緯の説明がないし、主人公たちの関係性の説明もない。だいたい主人公たちが使う「能力」を明確に説明しない。読者は主人公の視点で語られる、主人公視点の語りで前提の知識は説明されないままで読者は読むことになる。だから普通の小説のような気持ちで読むと、話についていけない。何が起こっているのかピンとこないし共感できない。美しいシーンと魅力的な設定なのだが。
     
    出来損ないの小説かというとそうではない。徹底的に意図をもって「不親切」なのだ。いたれりつくせりのサービス満点な小説に慣れた怠惰な読者への意地悪な著者の挑戦なのかと、色々考える。再読の必要あり。

  • 読みやすくはないです。でも気高い文体です。
    高校時代に世界史を選んでいて西洋史が好きだった自分はWW1の頃の西洋の時代背景を覚えていて、だからわりとさくさく読み進めることができたのかもしれません。
    まるで西洋人が書いたような錯覚に陥る本です。

  • 第一次大戦渦のウィーン。人並みならぬ『感覚』を持ったジェルジュは、その戦いに身を投じていく――。

    これは目を瞠った作品。
    なんというか・・・腰を据えて読んだ。というより、腰を据えないと読めない本だ。
    私は夜に一章ずつ、四夜連続で読んだ。
    ある意味、読者には不親切な小説だと思う。文体もかなり硬く、相当本を読みなれている人でなければ、途中で投げ出してしまうだろう。

    けれど、ストーリーと語りは圧倒的。
    不親切なのだが、そうされても文句を言えないだけの小説だった。『感覚』の書かれ方もさることながら、人物もみんなばちっと決まっていて、隙がない。
    もちろん時代背景や当時の風俗は言わずものがな。

    こういう作品を自分が読んで「面白い」と思えたことも、ちょっと感慨深かった。
    たぶん、あと数年手に取るのが早かったら、とても読みこなせなかっただろう。

    並み居る超能力モノとは一線も二線も逸する、恐れ多いエンターテイメントである。

  • なんて緊張を強いられる小説だろう。

    正直なところ、読むのはとてつもなく疲れる。脳の運動神経をフル稼働させることを要求されているようだった。

    ジェルジュ・エスケルスは「一世代に精々一人か二人だ」という程、天賦に恵まれた“感覚”と呼ばれる能力を持っている。果たして“感覚”とは何か。それを超能力のように明らかに表現することは佐藤亜紀にとって屈辱でしかないだろう。佐藤亜紀は“感覚”をリズミカルな文体で感覚的に、艶かしい筆致で表現する。読者は努力さえ怠らなければ、ジェルジュや他の人物の“感覚”を共有することができる。感情の飛躍や揺れを小説という形式で、これ程までに映像的・音楽的に現すことに成功した作品があっただろうか。

    三島由紀夫は「私には音楽が色に見える」という風な言葉を遺した。

    「天使」では、紙というややもすれば乏しいメディアの上に印刷された黒い文字の羅列が最上の音楽や映画になるのだ。愉しみに溢れている。

    しかし、気軽に天使を友人・知人に勧められるだろうか。結論否だ。「よくわからなかったから途中で読むのを止めた」と云われたらどれ程悲しいか。

    だが、この作品をみんなに教えたい、“感覚”について皆と語り合いたい。けど、否定されたくない。私の独りよがりな我儘とはいえ、なんとも悲しいジレンマを私に感じさせる佐藤亜紀はとても罪深い小説家だ。

  • ある本好きな人のブロクで絶賛されていて、どうしても読みたくなった一冊。
    そして大当たりだと思った。素敵な作家さんに出会えた感激・至福。

    内容は、歴史×SF。かの世界大戦時、裏では『感覚』という特別な能力を持った人々が暗躍していた、というお話です。
    確かにひどく読みづらい。文章は硬くて突き放すような。

    でも、喰らいついていきたくなるくらい、面白い! 
    なにより『感覚』の描写が素晴らしい。なんというか、官能的。
    ジェルジュ達の見る、色彩に溢れた、鮮やかな世界。
    視野が急激に広がるような恍惚。解放感。
    そして、著者の圧倒的な知識量。 くらくらしてしまう。
    構成は少し分かりにくいし、登場人物が多くて少し混乱してしまうし、主人公の人物像が少し曖昧で感情移入しにくい部分はあるのだけれど。
    そういった読者に媚びない感じがこの著者の態度なんだろう。

    結構文章の中に作家さん本人が見えてくる本は多いのだけれど(その作家さんの人間性によってはそういう本も大好きなのだけれど)、佐藤さんの本では著者自身は完全に隠蔽されていて、素直に物語の世界を堪能できました。
    上質で贅沢な本だなあと思います。

  • 異次元。
    置いてけぼり気味になりつつ、ギリギリで読み進めた部分も少なからず(^^;;; なのだけれど、逆に言えば、雰囲気だけでも読み進められちゃう得体の知れない「魅力的かつ魔力的」な「文章でありストーリー」なんですよ。

    ゆっくりじっくり、他作品も読み進めるよ。
    読み手を極端に選ぶであろうこの作家、自分は大好きだわ。

  • 佐藤亜紀は結構前に「バルタザールの遍歴」を読んで以来。まるで翻訳もののような独特の文体は相変わらず、良くも悪くも読者を選ぶなあという印象。うまくいえないけど、純文学の文体で書かれたエンタメ小説というか・・・素材としては皆川博子などに近いものなのだけど、皆川博子ほどのサービス精神はないのだろうなという感じで、でもこの高飛車さ、きらいじゃないですけどね。気楽に読むには敷居が少々高いのだけど、はまるところは、はまる。面白くないかといえば、面白い。ただやっぱ、とっつきにくい。

    舞台は第一次世界大戦前後のハンガリーやオーストリア、ロシアあたり。「感覚」と彼らが呼ぶ一種の超能力のようなもの(テレポートやサイコキネシスの類はできない。あくまで研ぎ澄まされたテレパシー能力の応用)、それを持つ人間はおもに諜報活動に重用され、戦争の裏で暗躍している。時代背景や設定に関する説明は一切なし。主人公その他の登場人物の立場なども読者は「察する」しかない。不親切なのだけど、とりあえず読ませてしまうあたりは流石。後からじわじわ染みてくる気がする。

    個人的には解説で豊崎由美が力説するような「萌えっ」は感じなかった(苦笑)失礼ながら、主人公ジェルジュが美少年だとも美青年だともひとことも作者は書いていなかったと思いますよ?しかしそうやって読者に思わせてしまうあたりも、作者の力量といえば力量か。

  • 何年か前に読了。佐藤亜紀初邂逅。
    何というか…成年女性読者向き?竹宮恵子さんの風と木の詩を彷彿させるなんて言ったら笑われるかな。文体は好み。フランス映画のノベライズを日本語に訳したらこんな感じかな、とか。
    内容はエスパーの闘争物。
    この後、1809ナポレオン暗殺を読んで佐藤亜紀女史を揃える気になる。

  • 第一次世界大戦時を舞台にした、超感覚を持つ人々のお話。
    これ、現代日本を舞台にするものすごく安っぽくなってしまいそうなのですが、さすが佐藤亜紀さん。
    めちゃくちゃ重厚な話になっております。

    他の佐藤亜紀さんの作品に比べると軽めなので、バルタザールの遍歴と並ぶ佐藤亜紀さん入門にぴったりな一冊ではないかと。

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