その数学が戦略を決める (文春文庫 S 3-1)

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (453ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167651701

作品紹介・あらすじ

ワインの将来の価値を予測する。症状の統計から病気を診断する。脚本段階で興行収入を最大化する。そしてあなたに最適な結婚相手まで決めることも、「絶対計算」が可能にする!IT時代の兆単位のデータがもたらす新世界ビジネス戦略。イェール大学気鋭の計量経済学者がわかりやすく書いた知的大興奮の書!文庫版は補章追加。

感想・レビュー・書評

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  • 巨大企業がビッグデータを活用しているというニュースを頻繁に耳にするようになったIT全盛の今、データってすごく活用できるんですよと言われると、そりゃそうでしょうと思わない人は少ないだろう。それだけでなく、AIが発達して人間から仕事を奪うという意見もよく耳にするようになった。この本はまさにそんな統計データが想像しているよりもずっと多くの場面で活用されているということだけでなく、統計データの解析と人間の関わり方についての本でもある。ただ、取り上げられている理論を詳細に解説するような本ではないので、より深く勉強するには他の専門書を手に取った方がよい。

    活用法は脚本の段階で興行収入を予測したり、教育政策の効果を検証するなど企業から正負までたくさんの例が紹介されているのだが、その中で印象的だったのはワインの品質(値段)が

    log e (その年のボルドーワインの平均価格/61年物の平均価格) =
    -12.145 + 0.00117×冬の降雨量+0.616×育成期平均気温-0.00386×収穫期降雨量+0.0238×熟成年数(83年の時点)

    という方程式で導けるという主張だった(実は上式は本文中のものとは違う。これについては後述)。というのも、偶然にも先日読んだ『熱狂のソムリエを追え!』では味覚や嗅覚などの感覚を極限まで高めてワインの評価をするソムリエたちを通してワインについて語られていたからだ(こちらもとても面白かった)。この本ではそのような主観的要素を排した統計データの解析でワインの評価をする話が初めに書かれていて、同じワインに対してここまで方向性の違うアプローチがあるということに面白さが感じられた。

    そもそもワインの品質と値段を同一視していいのかという意見もあると思われるが、これについては『熱狂のソムリエを追え!』でも同じ話はあった。それによると、ある一定の値段までは値段に伴って品質も向上するが、そこを越えると希少性が高まるのでさらに値段が上がるということだった。とはいえ、訳者付記でも書かれていたように品質を現実的に判断するのに値段を用いるのはそれなりに有効であるという主張には納得できるところもある。

     このように具体例を挙げるだけだったら感心して終わりだったが、この本の主眼は別のところにある。最近AIが人間の仕事を奪うのではという意見がよく見られたが、ここでも同じ話が出てくる。一般人だけでなく、専門家の予測よりも統計データに基づく予想の方が優れているという結果がたくさん出てきているからだ。医者の下す診断よりも、データから同じ症状を示す病気を調べた方が正確だったという話は聞いたことがある人もいるかもしれない。それでは人間はいらなくなるのかというと、そうではない。これがこの本の後半の論点で、正しくデータを活用するには人間は必要で、うまく折り合いを付けなければいけないという話になる(ただし、きちんと知識を身に着けたうえで)。というのも、先程は主観的要素を排してと言ったが、分析に使う変数や、分析の結果から何をするのかを決めるのは人間だからだ。いずれにせよ、これからの時代を生きていくには色々なことを学び続けないといけないということなのだろう。

    最後に先程のワイン方程式だが、気になって調べてみたところ訳者など複数の人が検証していた。詳しくは下記を参照していただきたいが、論文から引用する際のミスで式が本来のものとは違っているようだ。情報を鵜呑みにせず自分で調べることも大事だということを再確認するという副次効果を得られたということにしよう。
    https://cruel.hatenablog.com/entry/20150121/1421802947
    http://tenmei.cocolog-nifty.com/matcha/2014/07/post-746c.html

  • ラリーサマーズ、男女で学力の標準偏差に差があることから、優秀な物理学者の数には生来の要因から男女差があると話したことが問題になった。これは男が標準偏差が大きいためだが、悪い方の数も多いことや、より平均よりも離れた学力の集団ほど標準偏差の差が数の大小に影響することがメディアに理解されなかった。

  • 面白い。統計予測の豊富な成功事例(米国)とその影響(専門家の反発や社会問題等)。ただ成功本なので、あまたの失敗事例・紆余曲折・注意点の説明はない。訳者後書きがこの点と日本の現実を淡々と述べていて良かった。

  • ざっと統計学を学校で習ったことがあるのだが、習ったことを応用して実際利用する となると難しい
    この本の八章では特に、講義で聞く統計学とは違った角度から標準偏差と無作為抽出が説明されていて、腑に落ちる感じがあった
    あと記憶が確かならベイズ理論の説明でよく 三つの扉に当りがひとつ隠れてる云々 の話が使われると思うが、この本の八章の説明のほうが理解しやすかった。

  • ビッグデータの可能性を指摘した本。実例が豊富で説得力ある。ビッグデータが日本で騒がれ出したのはここ最近だが、著者をはじめ研究者はだいぶ昔から着手していたようだ。
    自分の研究の時代遅れっぷりを痛感させられた。

  • 231116-5-1

  • 統計学の啓蒙書。近年の多量のデータに基づく統計分析による革命についての本。回帰分析が意外とすごいということを教えてくれる。単純な回帰式による予測が専門家の知識と経験を上回る。もう診断と治療法はコンピューターが教えてくれるようになり、内科医はディスプレイ上のフォームにデータを入力するだけの下等な存在と化すだろう、とまで予測している。自分もぜひとも何かで回帰分析してみたいと思ったが、見積りとかに使えそうだ(たとえば購買の例:pp.151-152)。ただ、そうなると技術の伝承とかいらなくなるようなと思ったが、回帰式を作るときに知識と経験が必要なのか。
    それから、これを可能にしたのは、コンピューター技術、特にストレージの発展で、テラバイト単位の多量のデータを容易に扱えるようになったこと、データを容易に収集・分析できるようになったことだと書かれている。また、悪い面も示していて、たとえば、差別に使われたり、プライバシーが完全に消滅する可能性を示している。データを蓄積していくことの重要性がよくわかった。そしてそのコストの低下こそが、統計の革命の真因であることも。
    そしてDI(Direct Instruction)。詰め込み、機械的反復、個性無視、教師の創意工夫否定の教育が最善であるという面白いもの。素読や暗記教育こそ正道だったか? 成績の低い子にこそ効果があるというところがミソである。これぞ基礎の重要性を物語る。個人的な経験から言っても、複雑で難解な問題を時間をかけて解くよりも、簡単な問題を数多く解いたほうが理解が深まる。というか成績が上がると感じる。
    また、2SDルールは使える。正規分布のとき、2σの範囲に95%が入るというだけの話であるが、使い方の具体例があるだけで、これまでの知識だけとはまったく異なる。あとはベイズ統計関連を詳しく知りたかった。

  • [評価]
    ★★★★★ 星5つ

    [感想]
    統計や数学に興味を持ち、色々と調べて本書を読んだのだが非常に面白く参考になる内容だった。
    はじめのワインの品質を計算する数式を統計から作り出すことに始まり、医療、教育、政策、映画、経営など非常に多くの分野で統計が活用されていることを知ることができた。
    今まではボンヤリしていた統計に対するイメージが本書を読むことでハッキリしてきた。

  • 本書の中でも評論家の未来予測の的中率は一般人のそれとほぼ同じというのは驚きだった。やはり人間の直感や思い込みはあてにならないことを痛感させられる。
    本書の邦訳は2007年が初出だが、14年後の現在、さらにその傾向は強まっている。シンギュラリティは着実に近づいている。

  • 2007年に単行本、2010年に文庫化ということで、世の中でビッグデータがもてはやされ始めた時期の作品です。内容的には、マネーボールや標準偏差などの話題に触れながら、「絶対計算」の未来と限界を論じたもの。
    以下は、閑話休題。
    本書の翻訳者は山形浩生氏。
    1964年、東京都に生まれる。麻布中学に入学し、学校の帰りに橋本治の『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』を立ち読みして影響を受ける。また、当時からSFや漫画にも興味があったという。中学校3年生ごろから御茶ノ水の駿台予備校に通う合間に秋葉原へ行くなど、パソコン少年でもあった。予備校には、秋山仁と山本義隆の講義を受けるために通っていた。麻布高等学校を卒業し、東京大学理科I類に入学する。東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻を経て、野村総合研究所研究員となる。その後、マサチューセッツ工科大学大学院不動産センター修士課程を修了する。 野村総合研究所で開発コンサルタントとして勤務する傍ら評論活動を行っている。また先鋭的なSFや、前衛文学、経済書や環境問題に関する本の翻訳を多数手がけている。(ウィキペディア)
    文庫本あとがきで、質問に対する著者からの丁寧な返答に「ありがとう」、翻訳ミスを指摘してくれた人にも「ありがとう」・・でもそこは、「ありがとうございます」でしょう!確かにすごい経歴ですが、ここではイチ翻訳者であるという立場がわかっていないと思わせる俺様感が強烈。

    イアン・エアーズ:経済学者、弁護士。イェール大学ロースクール教授
    NYタイムズ、ウォールストリート・ジャーナル、FTなどに寄稿。彼の研究はプライムタイム・ライブ、オプラ、グッドモーニング・アメリカ(いずれもテレビ番組)でも取り上げられている。ベストセラー『その数学が戦略を決める』など、著作は10冊に及ぶ。イェール大学およびMITで学位を取得。

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著者プロフィール

経済学者、弁護士。イェール大学ロースクール教授
NYタイムズ、ウォールストリート・ジャーナル、FTなどに寄稿。彼の研究はプライムタイム・ライブ、オプラ、グッドモーニング・アメリカ(いずれもテレビ番組)でも取り上げられている。ベストセラー『その数学が戦略を決める』など、著作は10冊に及ぶ。イェール大学およびMITで学位を取得。

「2019年 『ライフサイクル投資術』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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