- Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167654085
作品紹介・あらすじ
古来、日本では、"悪"は、"強"という意味をもっていた。そんな"悪"の魅力にみちた「粋で、いなせで、権太くれ」な男こそ灘の男。実在した二人の男の破天荒な生涯に材をとった「灘の男」のほか二篇を収録。私小説の名手が新境地をひらいた、聞き書き小説の精華。
感想・レビュー・書評
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車谷長吉『灘の男』文春文庫。
リズムのある口語調で綴られた3編から成る短編集。
表題作の『灘の男』は実在した濱田長蔵と濱中重太郎の破天荒な二人をモデルに姫路の激動の時代を描いてみせる。
他に『深川裏大工町の話』『大庄屋のお姫さま』を収録。 -
本作は、私小説ではなく、聞き書き、あるいは「オーラル・ヒストリー」といってよい作品です。それ故、私小説群とは異なり、流暢な播州弁が全面展開で、その語りの世界を堪能できます。時にネィティブすぎて、意味を測りかねる表現にも出くわしますがーー。ここでの灘は、神戸の灘ではなく、姫路の灘、かの「ケンカ祭り」でその名を世界に馳せる灘です。その灘が生んだ2人の経済人の聞き書きで、決して間違っても日経新聞の私の履歴書にはのらいないような、人生の歩みが、本人、ときには周りの人から語られます。中小企業に支えられた、この地域の産業構造が、経済書からでは決して得られない生き生きとした形で浮かび上がってきます。
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初読 ★2.5
私小説家廃業宣言をした後の作品らしく
口伝調の実在の人物伝3編。
それなりには興味深いんだけど
「…………で?」という感が無きにしも非ずw
特に「灘の男」は誰が誰やらこんがらがった。
「大庄屋のお姫さま」の終わり方は意味深で良かった。
しかしこれ読むと
(やっぱりこの人、人一倍権威主義な反動なのでは…)
とちらっと思ってしまうw -
実在した人物と、
その人々が生きた土地とについて、
それぞれが語る物語。
こうして言葉にして、
人は時間をこの世に、
既存のものとして残すのだろうと連想しながら、
その言葉を聞き取り、書き取っている、
独りの人間のことを想うと、
なぜか胸が締め付けられ、
そして温かくなった。
車谷長吉の作品で、
このような感触は初めてだと感じていたら、
あの自己愛に満ちたねっとりとした私小説から、
脱却を宣言した最初の作品だったか。
ねっとりとした世界も、
もちろん好きだが、
その先にこのような言葉を構成できたことが、
作者の精神性の高さと純正なのだろう。 -
かつて「反時代的毒虫」を自称した作者の
私小説から「私」の毒を抜いたら
懐古的な(?)ロマンが残った
車谷長吉の小説をちょいちょい追ってきた自分などからすれば
なんだかほっこりする展開である -
文体から荒々しさは出ているのだけど、もう少しなんとかならんかったんやろうか?