語り手の事情 (文春文庫 さ 34-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167656102

感想・レビュー・書評

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  • 3/10 読了。

  • いま「失恋ショコラティエ」見てるのだけど、妄想力については断然小説がリードするなぁって。
    酒見賢一は苦手な系統に思えていたけど、変な説得力があってまた次の作品を読みたくなる。

  • 酒見さんの人生哲学と温かみが感じられ、たとえ本筋を忘れてしまっても何かは残る作品だ。
    『後宮小説』はとくにそうだったが、この作品もエロがオープンで爽やか。
    そう思っていたら、佐藤亜紀さんが解説で「エロチックな記述においては特に女性読者からの熱烈な支持を得ている酒見賢一氏」と書かれている。なるほど。

    ※以下、ネタバレ。

    とはいえ、性はあくまでもテーマの1つであって、この作品の面白味はほかにもたくさんある。小説でいうところの神的視点、すなわち語り手の視点という物語装置について語るという入れ子形式になっている(といってさしつかえあるまい)。そこに「主人公」という能動性を宿すとどうなるのか。ずいぶんと実験的な試みで心がはずむ。
    もともと酒見さんは語るのが巧い。落語のような日本的語りは、重石になる文語と伸びやかな口語が溶け合い、緩急があるので声に出して読みたくなる。くわえて、Circumstance.n の冒頭描写から語り手のえぐるような口舌に移る下りなんかは、「やりすぎ」なのに「やりすぎ感」がなく、攻めの姿勢に転じる要所をとらえている。
    こんな文体で英日翻訳ができたらという妄想に駆られてしまう。妄想が想像となって、創造できればよいのだけど。酒見さんのように、古典を作品に活かしている方は、翻訳の理想をどのように語られるのだろう。
    さて、肝心の恋愛について。後書きで酒見さんは「恋愛小説」だと言い切られている。それは否定しない。たしかに恋愛小説だと思う。性が持ち出されるのは恋愛を描いているからであり、恋愛を描く以上は性を持ち出さないわけにはいかない。とはいえ、今回は恋愛事情のほうは、ちょっとおろそかになっている。語り手の事情はわかるにしても、相方の心境がいまいちわからない。語り手に同化しても、惚れられた感がない。もっといえば、アーサーの妄想に惹かれない。「惚れられたから惚れてしまった」という単純な状況に、ときめきがない。
    もうひとつ。本作は完璧にうんちく小説なので、それなりに雑学がないと楽しめないうえ、英語がわからないともやもや感が残るかもしれない。これは短所でもあり長所でもある。
    最後になるが、『語り手の事情』は後書きまで面白い。「恥じらいが美徳であり、性欲をそそる、というようなことは20世紀までで終わりにしていいよ、別に」などは、巷に溢れるセックスレス問題に対する具体的解決策だと思う。

  • このお話を語っているの、登場人物の誰でもないけど、誰?
    …なんて、それは言わないお約束…のハズなのに、その「語り手」にスポットを当てたなんとも風変わりな小説です。

    そしてこの小説『語り手の事情』の「語り手」が語るお話はと言うと、かなり性的、でも淡々とその歴史や背景について語られていて、神聖な儀式のように思えてくる…という、これまた風変わりな物語。

    酒見賢一さんの小説はどれもちょっと風変わり。
    自分にとって、定期的にその小説を読み返したくなる作家さんの1人です。
    『語り手の事情』はちょっぴり難しい言葉や思想が並んでいて、でもそれも「語り手」の世界に引きずりこむための作戦なんだろうなあ、と思う。
    ストーリーを楽しむ、というタイプの小説では無いので、酒見賢一さんを初めて読むならおススメしない(デビュー作『後宮小説』がやっぱりおススメかな)けれど、酒見さん世界をすでに味わっていて、その風変わりさがちょっとクセになってきた…なんていう方に。

  • なんだこれ、すごく面白かった。倒錯する性を描いた連作短編的な話。だけど、なるほど確かにこれは恋愛小説なのかもしれない。作者のうまさが際立つ小説。

  • 3でもいいけど、辛めに2。
    この人は村上春樹がエッセイを書いてバランスを取るように、ときどきふざけたものを書いて精神の安定を図っているんだろうか?

  • 酒見賢一の小説はセクシーな文体が魅力ですが、それが遺憾なく発揮された小説です。語り手の情事というような言葉遊びもところどころにちりばめられていてそこも楽しめます。

  • 愛すべきおばか小説。アーサーと語り手がそれぞれかわいくみえる一瞬、この本大好きって思う。

  • 時はヴィクトリア時代の英国。性に関するものが厳重に包み隠された此の時代、性妄想を抱えてヨタヨタフラフラする紳士だけが招かれる謎の屋敷で、メイドの姿を借りた『語り手』の語る顛末がズバッと気持ちいい。引用からお分かり頂けるとは思うがこの『語り手』の個性である慇懃(時に無礼)な語り口で語られる、妄想(未だ成し得ない欲望)と現実(望むばかりで実際手に余る力量不足)。当時のポルノ作品を揶揄しつつ愛でる作者さんの視点がすっごく愛にあふれていて、この方のはいつもそうなのですが、ああすごく物語というものを愛しておられるなぁ、と嬉しくなってしまうのです。文庫版あとがきがとても面白いので、ハードカバーの装丁が素敵ですがこちらがおすすめ。性行為の経験がある程度有る方のほうが楽しめるかと思います。取り扱うテーマは性についてのものですが多分まったくズリネタにはなりません。とても真剣な、恋愛小説です。大好きです。

  •  ヴィクトリア時代、妄想を抱いた紳士が招かれる謎の屋敷があった。「語り手」は、客人の妄想を語る。

     煽り文句が、ほうって感じなんだけど…。いやいや、これじゃ妄想できないって。
     中身は、真面目な性談義です。
     ついでに、「文庫版のあとがき」も堅いです。なんつーか、エロいのを期待したこっちが悪い子みたいで、居心地悪いですよ、ホント。

     「語り手」の造形は面白いのになぁ。
     キャラクターもよかったのに、ちーっともエロくない。エロい話をしてるのにエロくないというのも、まぁ、一種のテクニックなのかもしれないですがね。

     と、ヴィクトリア時代となると、即座に出てくるジャックザリッパー。確かに、こういう時代だったんですよと説明しなくてもいい<記号>なんだと思うけど、でもって、別に酒見氏が悪いわけでもなんでもないけど、この<記号>には<安易>という負荷がついてきてる気がいたしますよ。
     はい。

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