囮弁護士 下 (文春文庫 ト 1-10)

  • 文藝春秋
3.50
  • (1)
  • (2)
  • (5)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 42
感想 : 0
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167661816

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • (上巻の感想からの続き)
    1つ星を減点にしたのには二つ理由がある。
    まずイーヴォンの性格にあまり感情移入出来なかった事。頑固な禁欲主義者という設定から隠れレズビアンだったという移行はあるものの最後まで魅力を感じなかった。嫌っていたロビーに徐々に心を開いていくのは寧ろ物語の常道であるから特に語る事はない。
    もう一つはロビーが無免許弁護士だったという設定。これは捜査の致命的な打撃になったがその後、これによって捜査が大幅に沈滞する事も無かった。何故この設定を持ってきたのか納得いかない。
    物語の起伏を持たせる因子としてはあざとく、寧ろ不要だったのではなかったのだろうか?

    さて、今回気付いたトゥロー作品の特徴がある。それは各章の終わりを決めゼリフで括る事。
    これが非常に効果的で、物語を段階的に引き締め、心に印象を強く残すのだ。さらに登場人物に決めゼリフを云わせることで徐々に彼らの性格付けを読者の心に浸透させていくのだ。
    もしかしたらデミルもそうかもしれない。注意して読んでみよう。

    書きたい事は実はまだまだ沢山ある。
    セネットという人物の、正義を旗印にかかげているのならば何でもしてもよいといった倣岸な性格付けの見事さ、クラザーズ判事を化け物じみた威厳の持ち主として設定したことでこの物語への介入が更に深まった事、贈賄の証拠を掴むまでの数々の駆け引きはアイリッシュの長編を髣髴させるそれ自体が1つの短編のようである事などなど。
    しかしこういう濃厚な作品を十全に語る事は非常に難しい。ここに書かれない千にも渡る数々の感想は胸に秘めておこう。

    後に出た『死刑判決』を先に読んだ御蔭でジリアン・サリヴァンという人物を実に深く心にとどめることが出来た。
    今回では単なる贈賄事件に関わった判事の一人としてしか描かれず、登場人物表にも載っていない。もし先にこの作品を読んでいたら『死刑判決』でのサリヴァンの復活は再度想起させられる事はなかっただろう。
    トゥロー作品は刊行順に読む必要はない。
    いや寧ろ、最新作から第1作へ遡って読む方がキンドル郡を愉しく歩けるのかもしれない。

全1件中 1 - 1件を表示

スコット・トゥローの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×