新装版 翔ぶが如く (8) (文春文庫) (文春文庫 し 1-101)
- 文藝春秋 (2002年5月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (345ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167663025
感想・レビュー・書評
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【感想】
読み始め、このシリーズは西郷と大久保を中心に作成された、維新後→西南戦争までの壮大な物語なのだと思っていた。
この2人を中心に、伊藤・桐野・川路・山県などの準メインキャラクターで物語は進展していくと思っていたが・・・蓋を開けてみればそれ以外のサブキャラや、はたや農民たちまで出てくる始末。
明治初期から西南戦争までの時代小説として、とても広範囲の勉強にはなるものの、読み物としては少し蛇足が多い気がする。
薩摩藩や西郷隆盛が思ったよりも張子のトラだったのか、或いは彼らの自負心がそうさせたのか、戦線は初期段階から思いのほか接戦になっている。
事を成すにあたって、敵や状況をしっかり見極め、天狗にならないようにしっかり準備をする事が大切なんだなと教訓になった。
窮鼠猫を噛む。僕自身、どんな相手と向き合う時も、手抜きせずにしっかり戦術を持って臨もう。
【あらすじ】
明治十年二月十七日、薩軍は鹿児島を出発、熊本城めざして進軍する。
西郷隆盛にとって妻子との永別の日であった。
迎える熊本鎮台司令長官谷干城は篭城を決意、援軍到着を待った。
戦闘は開始された。
「熊本城など青竹一本でたたき割る」勢いの薩軍に、綿密な作戦など存在しなかった。
圧倒的な士気で城を攻めたてた。
【内容まとめ】
1.明治時代の西郷の態度の不可解さには理解に苦しむ。
頭を強打して15日間寝ていたことが原因か?
2.桐野・篠原らの感覚では、西郷その人の存在こそそのまま戦略であるとした向きが強かった。
西郷さえ持ち出せば、その圧倒的人気によって、戦略の機能を十分果たしうると思っていた。
3.経済に綿密だったはずの西郷が軍資金について全く無頓着だった。
また、作戦行動中、戦いは桐野らに任せきりで終始無為傍観の態度を通していた。
【引用】
p14
誰の目にも明らかであったことは、以前に比べ、根気がなくなったそうでございます。
しかし天気の良い日は以前と変わりなく頭が冴えていて、勘が鋭かったそうでございます。
南洲翁の持病は、ご高承の通り陰嚢水腫がありましたが、頭を強打して15日ばかり寝た事は、あまり知られてないのではございませんか。
西南戦争について西郷がとった態度の不可解さには理解が苦しむとされている。
一つは本来、経済に綿密だったはずの西郷が軍資金について全く無頓着だったこと。
作戦行動中、戦いは桐野らに任せきりで終始無為傍観の態度を通したことなどが挙げられる。
p103
「自分は東上する。ついては貴下は兵隊を整列させて自分の指揮を受けよ。」
さすがに西郷好きの樺山もあきれ、これはまさか西郷が書いたものではあるまいと、何度も問うた。
西郷の使いに対する熊本城 樺山中佐の応接態度は、ほとんど喧嘩腰だった。
たしかに樺山は西郷の恩も感じていたし、尊崇もしていたが、しかしこの書信は正気の沙汰ではないとも思った。
p220
政略はいわば気体のようなものであり、それを固体化するのが戦略であったが、桐野・篠原らの感覚では、西郷その人の存在こそそのまま戦略であるとした向きが強かった。
西郷さえ持ち出せば、その圧倒的人気によって、戦略の機能を十分果たしうると思っていた。
要するに、桐野・篠原らは西郷という世間的価値に、世間以上にまず自分たちがまばゆく眩んでしまったということであろう。
このために、常識的な意味での政略も戦略も考えなかった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ようやくサクサクと読めるようになった。西南戦争への経緯や過程は終了し、とうとう戦争勃発。今までとは打って変わり登場人物一人一人の背景よりも、戦闘シーンが事細かに描かれていた。明治10年(1877年)2月のほんの数日の両軍の動きが実に事細かに描かれているのだ。
この時代に関して素人の私は西南戦争とは薩摩にて完結した戦争だと思っていたが、すぐに誤りに気付いた。西郷隆盛ら薩摩軍は別に薩摩内で反乱を起こそうとした訳ではなく、東京に行きたかったのである。その途中、鎮台があった熊本城を破ろうとしたものなのだ。なるほど、確かに熊本城は堅牢である。なので、熊本城に籠城する政府軍との攻城戦のほか、その北西地域の随所において戦闘が繰り広げられたのだ。私は去年秋に熊本県を訪れ熊本市内を歩き回り、他の街も電車で巡っているため、少しだけ熊本の土地勘がある。そのお陰で幾分か位置関係が分かり楽しむことが出来た。
本巻で印象的だった記述を一点だけ引用したい。
・戦い全体においても緒戦が大事である。小さな隊ごとにあっても同じだ。最初に敵と出会った時、どんな無理をしても勝たねばならぬ。最初の戦闘で負けると、敵の士気を上げてしまうだけでなく、味方の士気が低下し、敵を怖れるようになる。その開きは埋め難いほど大きい。また最初の戦闘に負けた指揮官は、次の戦闘で名誉を回復しようとし、つい無用の無理をし、また負けたりする。いかに次の機会に苦闘し、その次の機会に苦闘しても、人は、あれは名誉回復のために焦っているのだとしか見ず、正当な評価をしてくれない。戦闘は最初において勝たねばならない。
→薩人の与倉中佐が作戦会議で力説したもの。まさに先手必勝である。 -
西南戦争開戦。内容は戦の描写が中心となる。思想や制度など、新しい日本が如何に築かれていくかを描いていた七巻以前の方が面白い。
何回にもわたり、薩摩軍の自信過剰さ、戦略の無さが記載されている。過去の成功体験や西郷のカリスマ性に因ることが大きく、悪い企業に置き換えて読んだ。
ドラッカーの言う、リーダシップにカリスマ性が要らない云々の考えが正に当てはまる一例。 -
ついに西南戦争勃発。歴史を動かす大小さまざまな歯車を細かく鮮明に説明しています。
大作だ。 -
やっとドンパチが始まる。薩摩軍のオプティミズムは後の日本陸軍に通じるものがある。偶像と化した西郷隆盛は不思議な存在だ。