新装版 酔って候 (文春文庫)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167663100

感想・レビュー・書評

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  • 幕末に賢候と呼ばれた四人の大名についての四編の短編が収められた短編集。それぞれの大名が皆別々の思いを抱いて幕末に臨んでいたことが詳しい人物描写を通して知れた作品でした。司馬遼太郎の歯切れの良いリズム感のある文章も相まって日本史のことを勉強したことのない私でも背景が分かりやすく理解できました。容堂の何かしたいがどうしようもなさ、大久保の時間をかけた策略や嘉蔵の不遇さが痛い程伝わってきて、当時の生活が手に取るように分かりました。読後の満足感もとても強く司馬遼太郎の他の作品へ興味が湧きました。
    個人的に初めて読んだ歴史小説だったので新鮮でとても楽しめました。

  • 明治維新に活躍した西郷隆盛や坂本龍馬などの志士たち。彼らは低階級の武士身分に属し、そのコンプレックスをモチベーションにして、社会変革を成しとげた。では、彼らの上司である藩主は、維新や志士たちにどのように関わり、どんな考えを持って行動したのか。

    多くの志士たちを排出した薩長土肥の4藩主を主人公にした短編小説集で、司馬遼太郎がそんな疑問に答える。

    表題作は、土佐藩主の山内容堂が主人公。彼は武芸にたしなみ、知識欲も旺盛、自ら行動しないと気がすまず、そして大酒豪。大名ではなく、藩士として生まれていれば、歴史に名を残す志士になったかもしれない。

    そんな彼は時代の変化を感じながらも、大名として、徳川家に忠義を尽くすことを最善と考える。そして、徳川家を残す最高の一手として、大政奉還という奇抜なアイデアを発表。さらに大久保や岩倉との議論にも勝利目前。が、その安心感と美味い酒は一瞬だった。

    この山内容堂をはじめ、維新の藩主たちは時代に翻弄されるだけだった。命ずべき武士たちは勝手に藩を離れて、志士となったり、切腹したり。そのうえ、廃藩置県で領地も大名としての身分も没収。この時代の藩主というのは才能があろうとなかろうと、同じ運命だった。酒でも飲まなきゃ、やってられない。

  • 酔って候
    その時代の制約がある。
    その制約を 打ち破ることができず 自己矛盾に陥っていく。
    自分の才能を 時代の中で どう客観的に見つめるのか。

    『殿様』は、やはり バカ殿様 である。
    才能があり、剣のたしなみあり、詩人である 山内容堂。
    殿様になれないはずが 急死がつづき、
    殿様になることで 悲劇と喜劇が始まる。
    身分 というものを 肯定して
    人が 平等であるとは つゆとも思わなかった。
    バカ殿が 周りの殿を バカ殿と思うのが面白い。

    歴史の本を読むことで 自ら 信長と呼ばれたいとおもう。
    自分を英雄化することが、好きで、その立場にいた。
    そして、自分の中にあるのは 『果断』 だとおもう。
    その『果断』が、暴走する。
    安政の大獄で 隠居させられるが、復活 そして
    武市半平太グループを 弾圧する。

    公武合体。
    徳川家の恩を感じる。それが200年前のことであるが。
    そして、天皇を敬ったりする。
    どちらが正しいのか よくわからないほどだ。
    『酔えば勤皇、覚めれば佐幕』と言われた。

    韓非子の言葉に準ずる。
    『仁を持って衆を撫する、というのは嘘でござる。法を用い、刑をもうけ、恐怖を持って統制する以外に治国の道はござりませね。』と吉田東洋は説いた。

    佐幕で 英雄にもなれず
    倒幕で 英雄にもなれず
    酒と美女に囲まれて 45歳で 死す。

    きつね馬
    島津久光 という 薩摩藩の殿様の話。

    斉彬と言う殿様が 偉大すぎて、ある意味では 損な役割である。
    出生も 江戸の大工の娘 が母親 というのも
    何となくうさんくさく、その上で 斉彬の子供たちを
    殺してしまうと言う 執念にも恐れがいる。

    久光は 鹿児島から 外を出たことがない 田舎殿様。
    あくまでも、自分中心主義で 周りがよく見えない。
    また、西郷とは 徹底して そりが合わない。
    小松帯刀、大久保利通の 言うがママに動いていく。
    大久保利通は じつに 政治家であり、陰謀に満ちている。
    江戸の薩摩屋敷を 焼いてしまうと言うのが すごい。

    久光は、大久保利通に担がれるままにいても、
    本人は気がつかず
    自分の藩士を殺し、生麦事件で イギリス人を討ち、
    それだけで、薩摩が 時代を作るような 雰囲気を醸し出したのは
    時代のなせる技だった と思う。

    伊達の黒船

    伊達宗城は 宇和島藩 10万石の 殿様。
    ラッキーに 殿様になれた 経緯がある。
    土佐、薩摩藩に 恩を売ることで 幕末のすぐれた殿様として登場。
    黒船をつくる というアイデアが 原動力だった。

    それを 提灯はりの 嘉蔵に 任せちゃうのが すごい。
    この話は 花神の 大村益次郎と 交差する。
    嘉蔵は とにかく、蒸気船を作ってしまうのだから、さらにすごい。

    嘉蔵のおかれた立場を通じて その時代の矛盾が浮き彫りとなっている。
    サムライとは、上前をはねるだけの存在であることが、
    なぜか、中国の高官の姿によく似ていて 笑える。

    肥前の妖怪

    佐賀藩は 長崎を管理していた。
    鍋島は長崎で持つとも言われていた。
    閑叟は 磯浜に育てられた。
    潔癖性で 手をしっかり洗う。

    佐賀藩は 葉隠れ で有名であった。
    その葉隠れの精神を 大隈重信は嫌った。

    鍋島閑叟は 金が全くない藩であることを知り、
    金が すべてである。金を稼ぐことで 藩を強くしようとした。
    そして、兵器を最新式のものとした。

    そのことが 薩摩 長州 土佐 肥前 という 
    明治維新の中心的な役割を果たした。

    それにしても この4人の殿様 
    じつに 喜劇的な存在である。

  • 幕末ものの小説の主人公の多くは志士であることが多かったのですが、本作品は4つの短編で構成され、藩主が主人公です。それも当時いわゆる「賢侯」と言われた殿様達です。明治維新の原動力となったのは多くは、藩主に仕える武士階級でした。それを藩主の立場での視点、思考がそれぞれの藩主によって異なり、それでも藩を主導するもの、時代から取り残されたものなど様々です。後者は島津久光。
    タイトルの「酔って候」は、これだけでわかる方にはわかりますが、土佐藩主の山内容堂が主人公です。四賢侯の一人です。文武両道で剣技は神技、議論は負け知らず、しかも詩文家という万能ぶりを発揮しますが、下士を認められることができずに維新では置いてけぼりを食らった感じがします。
    個人的に好きなのは「肥前の妖怪」です。鍋島閑叟が主人公で、徹底した現実主義者で、「葉隠」を藩主自ら批判しています。その現実主義の末、施条銃、アームストロング砲などを手に入れ、薩長土の武装を強化するのに貢献することになりました。
    革命期の指導者も個性的で魅力的な殿様がいるのですが、それが霞むくらい時代が沸騰していることを間接的に感じさせてくれました。

  • 土佐藩独特の階級制度、それは関ケ原の戦いでの(微妙な)武勲による土佐領地のやり取りまで遡るわけだから、歴史の長い遺恨になるのも当然で、そりゃちょっとやそっとでは解決しないよなぁ、と。武市半平太や坂本龍馬のような郷士出身の志士を最後まで全く相手にしなかったという容堂候の、お殿様としてはちょっと変わった男気に溢れ義士的で徳川幕府に対する忠信を持ち続け、当時の諸国大名の中では珍しい才覚をもった豪快なひとりの男の人生、という意味で非常に面白かった。
    とにかく土佐の男はいごっそうで酒豪なんだわなぁ。

  • 久しぶりに司馬遼太郎。
    しかも短編集。
    舞台は幕末、新選組や江戸幕府直結関係かと思いきや
    全然また違う当時200以上いた藩主の話。
    土佐藩の山内容堂・薩摩藩の島津久光・宇和島藩の伊達宗城・肥前佐賀藩の鍋島閑叟
    山内容堂はもう説明なしで有名すぎるから特にw
    表紙の瓢箪の絵(お酒が入った)然り、まぁとにかく終始お酒が好きで気性が激しすぎ。
    島津久光は自分が一番!って思いこみすぎてほかの人の意見聞いたり聞かなかったり(自分でなんとなくしか考えずに)ふと気が付けば倒幕なう。みたいな。
    伊達宗城は思い付きがすごいというか何で黒船を
    提灯職人に任せるのか謎だったけど結局は出来ちゃったのがすごい。
    しかしこの職人がとてもかわいそうだった…
    して、最後に鍋島閑叟。
    この人が個人的には一番面白い。
    富国強兵が趣味だもの…趣味にすんごいお金使ったおかげでまぁ強くなったんだけど。
    パッとしないのは、脱藩者ほぼいないので佐賀藩独自という感じ。
    こうゆうのドラマにしてほしいんだけど。

  • 幕末維新で描かれる雄藩の四賢侯それぞれを描く短編集。
    なんといっても、「酔って候」土州の山内容堂。口をきけばやくざ、態度は粗暴、歴史と教養と酒に溺れるばかやろうです。最初は嫌な男と思っていたのに、程なくして惚れてしまった。
    安政の大獄、大政奉還後の情勢、何度も浮き沈みがあり、自分が田舎にいることに地団駄踏み、大舞台では吠える。鯨海酔侯、いい男です。
    公卿の家に二升のひょうたんを持って乗り込み、主人が居留守の間ごくごく飲み干します。空になったひょうたんにまた二升注げと言って、また飲み、最後に現れた主人に政論を説こうとするが、
    「酔った。(公卿に向かって)運がいい」
    と言って帰るエピソードが一番好きです。表紙の意味がやっとわかりました。
    「痛快淋漓たる豪傑におわす。」と評される通りの人で、気持ちが良かったです。

    「きつね馬」の島津久光は、つまんない男というのが如実に描かれていて、本当に魅力のないつまんない話でした。

    「伊達の黒船」は人斬り以蔵に似ている。歴史に残らない身分の低い町人の話でした。戻りますが、武市と以蔵を捉え、吐かせて殺したのは容堂だと「酔って候」を読んで初めて知りました。宗城の名君ぶりも気持ちいい。

    「肥前の妖怪」は、見事な妖怪ぶりでした。実業的、スマートで軍国主義、まさか当時の佐賀がそこまで軍事的に優れ、ヨーロッパ諸国の技術を取り入れているとは露ほどもしりませんでした。ただ、藩主の名前が難しくて最後まで頭に読み仮名が残らなかった…なんだっけ…。

    四国九州いいですね!旅に出たいです!特に、土州。山内繋がりで功名が辻も読みたくなりました。

  • 幕末期の賢侯と呼ばれた異色の大名をモチーフにした4つの短編より構成されている本書だが、その中で、伊達宗城が治める宇和島で身分も低く渡世も苦手な一庶民である嘉蔵が、40代になってから自身に眠るクリエイティビティを目覚めさせ、見たこともない蒸気機関の製作に挑む『伊達の黒船』は特に心を揺さぶられて秀逸だった。

  • p.199
    親が子をおしあげて隠居させ、自分が相続者になるというはなしは、町人の社会にもあるまい。
    p.313
    人間の物の考え方というものは議論でやるべきものではない。眼で見、手で触れる物で表すべきだ。

    藩主の視点で見ると幕末のイメージもまた変わってきます。いろんなフィルターを自分の中にもっていたいなーと思いました。

  • 容堂さんの事きらい?

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著者プロフィール

司馬遼太郎(1923-1996)小説家。作家。評論家。大阪市生れ。大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960(昭和35)年、『梟の城』で直木賞受賞。以後、歴史小説を次々に発表。1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞受賞。ほかの受賞作も多数。1993(平成5)年に文化勲章受章。“司馬史観”とよばれ独自の歴史の見方が大きな影響を及ぼした。『街道をゆく』の連載半ばで急逝。享年72。『司馬遼太郎全集』(全68巻)がある。

「2020年 『シベリア記 遙かなる旅の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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