ドラママチ (文春文庫 か 32-6)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 2008
感想 : 216
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167672065

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  • 高円寺、荻窪、吉祥寺……中央線沿線の「街」を舞台に、ほんのすこしの変化を、ドラマチックな何かを待ち望む女性たちの姿を描いた短編集。
    もう12年前、高校を卒業して、上京するため東京駅へ向かう高速バスのなかで読んでいたことをまだ覚えている。ちょうど部屋を借りているのは吉祥寺で、それから私はしばらく中央線ユーザーとして東京で暮らすことになる。
    日常に倦むということがよくわかっていない18歳は、新生活に胸を躍らせるばかりで、この本の中にいる女性の誰にも共感することはなかった。傲慢にも「自分はこんなふうにはならない」とまで思っていたかもしれない。
    だけどそれから十年以上経ち、日々凡庸さを極めていく己と生活に飽き飽きするにつれ、私は春が近づいてくるたびに、上京するあの日の自分と、本書のことを懐かしい気持ちで思い出すようになった。吉祥寺駅から徒歩20分のせまいワンルームまでの道のりを、嬉々として歩いていた日々が、むしょうに恋しくなる。

    『ドラママチ』と題名にあるように、彼女たちはそれぞれに待っている。不倫相手の離婚、プロポーズ、子ども、称賛、本当の自分、やる気、それさえ手に入れば、あとは何もかもがうまくいくのだと無条件に信じられるもの。
    でもこうして二度目を読み終えた現在の私には、もうわかる。ページをめくりながら、そのことを確かめるような、言い聞かせるような気持ちでいた。
    待っているものはやってこない。何もかもがうまくいくだなんて、人生を変えてくれるだなんて、そんなものは、ない。
    流れる季節のなか同じ場所でただ一人立ち尽くし、待つことはとても苦しかった。私の人生を動かしてきたのはいつだって一歩何かに向かって踏み出すための勇気だけで、それはやっぱり聞き飽きた言葉だけれど「動き出さなきゃ始まらない」ってことなんだと思う。
    あの日、高速バスに乗っていた若者の未来は、彼女が思い描いていたようには到底いかない。
    けれどもう、あの日にもどってやり直したいとは思わない。未来はうまくいくと、ただ夢みるように高速バスに乗れるような、あの愚かな行動力を褒め称えたい。高速バスの窓から見えた都心のキラキラを、冴えない日常にしてしまいたくない。
    待つよりはうんといいのだ。欲しいものがあれば自分でつかみとっていくしかない。それを、今また教えられたような気がしている。

  • 人のどうしようもないもてあましてしまう気持ちの表現が上手くて、それに主人公が平凡な日常をみな送りつつそれぞれに何かを抱え特別な人達ではない所に惹かれるのかもしれない。
    で、これからどうなるのか分からないまま終わってしまうけれども幸せってこうして見つけていくものなのかなと、ハッピーエンドではないのに何故かホッとする短編集。

  • いただき本

    中央線のいろんな街が舞台の短編。
    ドラマチックな何かを求めるけど、日常はさにあらず。

  • 30代~40代になると待つことに慣れてしまうのかもしれない。自分の中で何かおかしいと気づいていても、何年もそういう自分を続けることに異議を唱えるわけでもなく、自分を変えてくれる奇跡的な出来事をひたすら待つ。他力本願の姿勢に入ってしまえばそれを崩すのは至難の技だ。

    でも実際は...何もやってこないし何も起こらない。これはたぶん年とともに発達した強力な妄想力が起こす幻覚症状にほかならない。気が小さくて何かを起こす勇気がないだけでしょ?という正論は左耳から右耳へ突き抜けるだけ。何かを待つことしかできないほどの長年蓄積した疲労感を分かって欲しいという思いがふつふつとあるのだけれど。

    その思いを代弁してくれるように、疲労感に身をゆだねるしかなかった彼女達のせつなさやりきれなさは、正論をぶつけるなんて申し訳ないほどに圧倒的に描かれ、いたるところでピリピリヒリヒリとし、ついでにこの小説を勧めた友人の意図はなんなのかとモンモンとした。登場人物が憑依したのは久しぶり。

    でもピリピリヒリヒリは必ず癒される。彼女達はちゃんと変わっていくのだ。各章の1/5あたりに空気がざらっと変わる瞬間が訪れ、彼女達は新しい”自分”へと脱皮する。それは明日から新しい自分が始まるような気分、例えようがないくらいの清々しさをもたらす。

    身の程を知り、しがみついていたものを手放し、今までの自分から自由になる。それだけなんだけど、ちょっとした空気のざらつきからあっという間の自分への気づきが無理なくリアルに描かれて、ドラマへと引き上げる作者の手腕が奇跡かもと思う。

    「ツウカマチ」の主人公、彼氏いない暦14年で異性との距離のとり方がおかしくなっているし、”14年あったら人は漢字も書けるようになるし円周率を出せるようになるのに、好きという気持ちが分からない”という嘆き方も情けないし、ヘタレっぷりが面白すぎる。こういう可笑しさを理解してくれる人が現れればいいねえと、ついつい同情交じりの応援をするのだった。

  • とても怖いがリアルテイのある女性たちが描かれている。
    友達にも恋人にもしたくないような
    執着心の強い主人公。でも、何故か気になってページをめくってしまう。
    スッキリと終わらない話が多いが、それがまた人生だなと、妙に納得する。

  • 何かを待ってる女の人の短編集

    何気ない風景とか感情の書き方がすごいすき
    特に心に響いて余韻に浸っちゃうような内容ではなかった
    さらっと読める

  • 欲しいなぁ
    やりたいなぁ
    できるかなぁ
    できたらなぁ
    いつなのかなぁ…
    .
    こんな時って、何かしらを待ってるよね。
    そうか、
    私もきっと“〜マチ”しながら生きてるんだなぁって。
    そんなつもりがなくても
    この本を読んだらそう思った。
    .
    どの物語の“街”にも
    味のある喫茶店が出てくる。
    そこに大人を感じるというか
    奥深さを感じるというか…。
    もう少し心が大人になったら
    喫茶店通いたいな☺︎☕️笑

  • 「待つ女」の短編集。なんともならないこの閉塞感。もどかしい。

  • 何かを待つことをテーマにした八つの物語。
    待つことをテーマにしていると分かっていても
    女性は人生の節目などにいつも待っているのだなと思ってしまいました。
    いくら行動的に活発に動いている人でも
    男性にまつまるものだと自然と待ってしまうものかと。

    中央線沿線の街を舞台にしているので、
    どの作品にも喫茶店が出てきて
    それがまた良い雰囲気を醸し出しているので
    人生の待つ場所には喫茶店は良い場所なのかなと思いました。
    そんな行きつけの喫茶店があるというのも
    少し大人のような気分で羨ましいです。

    印象に残った作品「ドラママチ」、「ワカレマチ」。
    「ドラママチ」の 彼女のようになんとなく毎日がマンネリ化していても、
    その中に何かドラマを待ってしまうそんな気持ちが共感できます。
    こうゆう気持ちになるというのは元来女性というのは
    お姫様になりたい願望があるのかと思ってしまいますが、
    きっとそうやって強く生きていく方法なのだなと思えました。

    「ワカレマチ」は冒頭から憎しみから始まり他の作品にはなかった
    母と子の関係がリアルに描かれていて、
    代表作でもある「対岸の彼女」、「八日間の蝉」、
    「森に眠る魚」を彷彿させるようなものがあります。
    実の母を知らず、義母は実の子達からも毛嫌いされているような
    環境の中にいる女性が母になるというのはやはり
    相当の決心が必要なのかと思わされました。
    けれどラストの言葉にはどこか哲学的だけれど
    人の流れをじっくりと見てきたからこその言葉であって、
    とても希望も持てる言葉だと思いました。
     子供を作るということは、
     不要な別れをひとつ作り出すようなことに思えた。
     それでもいいような気がした。
     その子どもが成長して大人になったいつか、
     ともに入った喫茶店の光景を一瞬でも思い出してくれるなら、
     それもいいような気がした。

    女性の大切な人生の節目に合わせてリアルに描かれているので、
    共感できるところが多く読みやすいかと思います。
    はっきりとした答えは出していないですが、
    誰もが同じような悩みを抱えても
    必ず希望の光が見えてくるという前触れが表れているので
    また少し前を向いて歩いてみようかという気にさせられました。

    待つことがテーマの作品ですが、
    女性が待つことが多いのは巡り合う男性によって変わるのかとも
    思わされます。
    やはり環境と男性によって女性の幸せは変わるのでしょうか?
    これは永遠のテーマなのかもしれないかとふと思いました。

  • 自分が今何も待っていないから、作品自体は面白いとは思うもののあまり共感が出来ず。

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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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