イタリア語通訳奮闘記 パーネ・アモーレ (文春文庫 た 56-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (293ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167679231

感想・レビュー・書評

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  • 今細々とロシア文学/イタリア文学探求をしているので、通訳本の露伊比較するのも面白いかなと思って、『不実な美女か貞淑な醜女か』に引き続いて読んでみた。

    『不実な…』が通訳という仕事、言葉や異文化交流に対する考察に多くの紙面を割いているのに対して、本書はイタリア人が多く登場して、イタリア文化を炙り出すことの比重が高くなっている。
    ミヒャエル・エンデが「イタリアの生の軽やかさ」を絶賛していることからイタリアに興味を持ち始めた私には、嬉しい内容!

    やっぱり社会的規範(他人軸、政府への信頼または盲従の気質も含む)よりも、自分にとっての人生の楽しさ(自分軸=悪戯すること、恋愛に体当たりなこと、独立独歩の精神を重んじること)を重視して、そのために臨機応変に立ち回ること、またそういう行動に対して社会が一定の理解を示していること、が「生の軽やかさ」の秘訣なのかな?
    これは、すごく大雑把に言うと、北と南の文化の違いな気がする(例えばドイツ⇔イタリア、日本⇔タイの比較)

    また、著者が出会った著名なイタリア人像から、イタリアのモノづくり・クリエイティビティが産業の中核にある構造がよく見え、これもロシアと対比が際立っていて面白かった。(ロシアは宇宙や原子力など、冷戦構造を背景にロシアが国として投資してきた科学技術関連の話が割合多かったと思う)

    著者同士も仲がよく、お互いがお互いの著作に登場しあっているのも面白かった。特に、"東太后"万里さまに宛てた手紙は最高だった。

  • GoogleMapで本文にでてくるイタリア地方を疑似散策しながら「シモネッタのデカメロン」を読んでいたら面白すぎてのめりこみ、息をつく間もなく、ふと我に帰ると「パーネ・アモーレ」に突入していました。引き続き、日本最強イタリア語同時通訳、田丸公美子さんのパワフルな通訳奮闘記です。プロの世界の厳しさが諄々と綴られていましたが、子供の頃からの憧れであった通訳という生業に、建築士免許の勉強をしている身でありながら、恋心が燃え上がるようなときめきを感じてしまいました。

    ●通訳は本当っぽい美辞麗句を捏造することがある

    通訳者の鉄則は、発言者の発言の長さにだけは最低合わせることと、両言語共通である固有名詞などは絶対に落とさないこと。

    特に前者は、わからない部分があれば拾えた単語で作文してでも死守するのだそうです。正確に訳そうとするあまりにその場のピンチを嘘で切り抜けられない人は、通訳として向いていないらしい。絶句は御法度です。会議のテーマに関する基礎知識はもちろん、わからなければ内容を推測しながら、即座に立派な日本語を作文する創造力が必要とされます。

    それでは、例えば料理の批評を内容は定かではない場合どうごまかすか。著者を含めた五人の他言語通訳者が順番に嘘をついてみると「素材の味を生かしきっていますね」「重厚で、しかも後味がさわやかです」「イタリアの宮廷料理の伝統を現代風によみがえらせています」「美と味の華麗な競演をみごとに演出しています」でるわでるわ。全員するすると、素晴らしく本当に聞こえる嘘を十五くらい編み出したのだとか。恐れ入りました!

    ●通訳は単語に対し常に複数の訳語のストックがある

    プロとして大切なのは、その場のコンテキストにぴったり合った訳語に仕上げること。通訳者は、複数の訳語から最もふさわしい単語を選択するというプロセスを瞬時に行います。"conflitto" なら、紛争、戦い、葛藤、矛盾、係争、相剋、軋轢、せめぎあい。"preoccupare" なら、心配する、懸念を表明する、危惧する、心を痛める、憂慮する、と反射神経で使い分けます。

    例えば同じ "Vogliamo promuovere questro progetto." という言葉でも、政治家の演説なら「当案件を鋭意推進していく所存であります」、広告代理店のプレゼンなら「大々的に広告宣伝を打って出、広く訴求を図ります」となります。単語単位だけではなくて、TPOに沿ったそれらしい口調、表現があるんだなと、言葉職人の力量に惚れ惚れしてしまいました。

    ●通訳にとって発言者の原稿は死活問題である

    ある高名な建築家の大規模な講演会の前日、読み原稿をもらおうと著者が送ったメッセージに、建築家がヘソを曲げてしまった。講演開始一時間前の打ち合わせになって、やっともったいぶって渡されたテキストに、世界の建築物の名前、外国人建築家の名前、エジプトやドイツの地名、建築部材の固有名詞などがスライドの説明として列挙してあり、憤慨したこと。

    デザイナーはプライドが高いわりに繊細な所がありますからね。場面が目に浮かびます。私にとってそれらの単語は聞き慣れた得意分野。私なら建築デザイン芸術関係に強い通訳になれるだろうな、なんて野心もむくむくと沸き起こってまいります。その準備のためと思って建築士の勉強に励むのもまた一興かな、などと画策しております、浮気な建築士見習いでございます。

  • お友達からご紹介いただいて、この本と、そして著者の田丸さんに出会えました。 前書きの後、最初に、「通訳はその言語の文化に同化する」と、いきなり興味深いタイトルが。 私自身、少ないながらも複数の欧米言語を話しますが、うんうん、とナットクしてしまいました。 イタリア語を学び始めの頃、感じていた違和感は、文法(あいまいな時制、例外だらけの前置詞など)のせいかと思っていましたが、原因は別にあったのかもしれないです。 語学の達人なのに「イタリア語は好きになれない」という友人、逆に英語もろくにできない(失礼!)なのに、イタリア語になると生き生きする友人、不思議だと思っておりましたが、言語との相性は、文化との相性なのだとあらためて思いました。
    著者と同じ大学を目指す長女に、「偏差値にみあった語科を受ければ」というのは、見当違いのアドバイスなのかもしれないです。 
    30年以上も、通訳として活躍されている著者の方の体験はおもしろく、また、彼女自身が「イタリア語通訳」は天職なのだなぁ、と感じました。 いかにも「イタリアっぽい」お人柄も、とても魅力的に感じました。 

  • イタリア語同時通訳の筆者による楽しいエッセイ。通訳に求められるのは幅広い知識、どんな場合でも即座に対応できる機転力、そしてくそ度胸らしい(笑)この本を読んでいると、著者がイタリア人と日本人どちらの愛すべき欠点も美点も大好きなのが伝わってくる。生活の拠点は便利で清潔な日本がいいが、やっぱりラテンの大らかさを愛してやまないのだろう。数知れない通訳の経験は常に真剣勝負、失敗が許されない戦場だが、どんな苦境に陥ってもそれを新たな勉強と捉えて挑戦していく筆者の心意気には乾杯だ(笑)日本とイタリアを同時に学べるとても楽しい奮闘記だった。

  • イタリア語通訳の抱腹絶倒エッセイ。めちゃくちゃ面白い。前に読んだようだが初めてのように楽しめた。(何も覚えていないのが怖い)

    1970年東京外語大の学生のとき、イタリア人30人をアテンドして東京、日光、箱根、伊勢志摩、京都、神戸、大阪を12日間回る地獄がデビューだったという話が一番印象的だった。その後通訳技術も日本の名所案内もうまくなっていったはずなのに、貰ったチップは最初が一番多かったというのは何やら含蓄深い。

  • 米原万里さんのご友人?

  • 米原万里さんに続いて面白い

  • 再読。

  • 読了。イタリア語通訳者の話。幼少期から通訳という仕事にいたるまでの話、仕事での失敗談など、さすが言葉を生業とする著者だけあって表現力が豊富で言葉のセンスが素晴らしい。想像を超える苦労と思われるエピソードも面白おかしく読めてしまう。
    以前、英語通訳の長井鞠子さんの本を読んだが、言語が違うと、また違う苦労があるようで、お国柄というのは面白いと思う。
    彼女のいう「言葉は自分が自分である存在理由」はまさにその通りだと思う。
    通訳とは外国語が流暢に話せればできるわけではなく、一般常識も踏まえて日本語がきちんと話せることが基本であり、なおかつ即座に嘘をつく能力、想像力が必要。他人になりきりその人の言わんとすることを他者に伝える恐山のイタコそのもの。こう表現する田丸さんはやっぱりすごい女性だと思う。面白かった。
    次はほかの言語訳者の本を読んでみようと思う。さしあたって、あとがきの米原万里さんの本を買おう。

  • "先日、森永卓郎さんの講演を聴いた。経済学の専門家なので、昨今の経済状況をわかりやすく講演していただいた。森永さんは、日本をイタリアのように明るい国にしたいという妄想?(森永さんごめんなさい)を抱きつつ、日夜奮闘されている。(私も、森永さんの計画に100%賛同している。)イタリア人のように、明るく飲んで、唄って踊って、恋をしよう!と必ず講演の時にお話をする。
    そこで、ふと思い出したのが、米原万里さんの本に出てきたイタリア語通訳の方の話。シモネッタという愛称を持つ田丸公美子さん。この方の本を読みたくなり、本屋で購入して読んでみた。イタリア人の気質、文化の一端を田丸さんの体験談からかいま見られる。男の人がナンパしまくる国民では、女性はそんな男達の中でどんな気持ちでいるのか気になる。そんな疑問にもふれている。口説くのが礼儀と思っている男性、そんな男性達から毎日「きれいだ」「かわいい」「すてき」と言われ続ける女性達は、ますます美しくなる。とのこと。
    このほかにも、子育て、とんでもない通訳の仕事、ご自身の成長記など楽しいエッセイが詰まった本。楽しいひとときが過ごせた。"

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著者プロフィール

(たまる・くみこ)
広島県出身。東京外国語大学イタリア語学科卒業。イタリア語同時通訳の第一人者であり、エッセイスト。大学在学中から来日イタリア人のガイドを始めた。著書に『パーネ・アモーレ―イタリア語通訳奮闘記』『シモネッタのデカメロン イタリア的恋愛のススメ 』『シモネッタの本能三昧イタリア紀行』『 シモネッタのドラゴン姥桜』『シモネッタの男と女』イタリア語通訳狂想曲 シモネッタのアマルコルド』などがある。軽妙で味わい深いエッセイのファンは多い。

「2014年 『シモネッタのどこまでいっても男と女』 で使われていた紹介文から引用しています。」

田丸公美子の作品

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