ハリガネムシ (文春文庫 よ 25-2)

著者 :
  • 文藝春秋
3.06
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167679989

作品紹介・あらすじ

サチコ、底辺を這いずる痩せた、小さな女。手首に無数のためらい傷を抱えて。その女を知って、高校教師の内のハリガネムシが動きだす。血を流し、堕ちた果てに…。身の内に潜む「悪」を描き切った驚愕・衝撃の芥川賞受賞作。人間存在の奥の奥を見据えて、おぞましくも深い感動を呼び起こす。単行本未収録「岬行」併録。

感想・レビュー・書評

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  • 良くも悪くも、暴力と汚物の描写が気持ち悪かった、という印象です。不快感を湧き上がらせるというのは、それだけ文才を感じるということでもあります。起承転結というより、ただ時系列に沿って狂気が増していきます。文庫本併録の「岬行」にも共通することだけど、途中まで何を伝えたい小説なのかよくわからず、だらだらと同じような場面が繰り返されます。でも妙にリアルで読み進めてしまい、半分あたりから、何についての小説なのかわかってくる。まさに純文学だな、という感じです。

  • 2003年芥川賞受賞の表題作と、岬行の2篇。

    表題作「ハリガネムシ」は、小学校教諭の慎一が、風俗嬢のサチコと堕落していく物語。カマキリに寄生するハリガネムシを、人間の欲望や暴力性の暗喩として用い、欲望や暴力性に流されて社会から逸脱していく様を描いている。

    いくらきれいごとを言ったって、人間って、こんなものだよね。醜いよねと作者がサディステックに鏡を突きつけてきているような読後感。

    おっしゃるとおり、どんな人にも醜い面、嫌な面はあるし、どうしょうもなく醜い人間も沢山いますよねとしか言いようがない。

  • 痛い。とにかく痛い小説だ。それは、心の奥底ではこんなことがしたいと思っているよ、という吐露でもある。普通の人間として生きていくために、心にしまいこんだ欲望が誰にもあるはず。それを慎一は実行に移してみせる。堕ちていく自分を意識しながら、それを止められない。だから私はこの作品が好きなのだ。まさに、カタルシスのために存在している小説。
    一方、同時収録されている『岬行』は駄作である。なので、星5つは純粋に『ハリガネムシ』のみにつけた評価だ。まるでどこかの同人誌でも読んでいるような、素人くさい文章。退屈な作品だった。

  • この世にはあらゆる形の暴力があるのだということを実感させられる一作.

    それは部屋に出た虫を殺す暴力や風呂場で排泄をするという暴力に始まり,
    主人公慎一の弱きを自らの好きに破壊したいという衝動に由来するものから,子を捨てたり嬲る男に自らを捧げるといったような自らに向いた弱さゆえの暴力まで様々である.

    本作はそうしたあらゆる形の暴力が対応し,絡み合って一つのまとまりのある作品を構成しているという点において,傑作だと思う.

    同じカテゴリのもの(今回は様々な暴力)を一作で同時に取り扱えばしつこく感じられがちだが,本作においてはそれぞれが明確に機能を有しているように思われ,作家の腕の良さを明確に感じた.

    ただ個人的な話として,好みではなかったという点も補足しておく

  • ▼福岡県立大学附属図書館の所蔵はこちらです
    https://library.fukuoka-pu.ac.jp/opac/volume/151791

  • 怖い。怖いし不快だし痛々しいし面白い。人間の奥に潜む欲望や衝動は、時として人間を操ってしまう、ということに共感してしまう。嫌だけど。

  • ハリガネムシ
    鬱屈した日常の中で男性教師が内に飼っていたハリガネムシが目を覚ます…。
    なんて、そんな風に書くとすごくおどろしいけどそれほどのこともなく、冗談みたいなことやりつつ狂気が続いていくのが面白かった。
    いやそれほどのことか?読んでいてアホな箱庭劇のようで現実感が乖離する印象を覚えた。
    ロゼワイン男とか職員の男とか、当たり前にクズしかいないのが笑える。

    岬行
    ハリガネムシも面白いけど、こっちの方が好きかも。登場人物みんな癖のあるダメ人間。だけど憎めない。どんな話だったかはほぼ忘れたけど洋画で『冒険者たち』っていう作品があったのを思い出した。おそらく全然似てないんだけど。汚らしい大人たちが『冒険者たち』よろしく青春を疾走しようとするとこんななっちゃうんかなぁとか、読みながら思った。いやいやいや、普通はならないから!読んでいて主人公のもつ離人めいた感覚には惹かれるものがあった。何か一大事が起きていても他のことを客観的に捉えていたり。

    と振り返りつつ感想書いたけど、一日で一気呵成に読んだのに『岬行』を読んでから最初の『ハリガネムシ』の結末がまったく思い出せない!
    パラパラとめくってみて「あぁそういえばそういう話だったな。サチコに首を絞められて云々」と思い出す。
    『岬行』が印象強すぎたか?というとそうでもない。
    一方で、翌日になって朝食を食べつつ思い出したのは『ハリガネムシ』のどうでも良いような小ネタだったりする。
    サチコが笑う時うさぎみたいになるとか。
    となると脇道が強烈すぎて、結末を凌駕したのか。
    なんだかこの小説との付き合い方がわかりかけたようでまったくわからない。
    いっそこのままの気持ちで全裸でまた読むのが向いてるかもしれない。

  • 教師2年目の慎一のところに、一度だけ行ったソープランドで出会ったサチコが訪ねてくる。欲望のままサチコと関係していくなかで、施設にいるサチコの2人の息子似合いに行くことを決める。休暇を取りなし崩しのまま四国へ向かうものの…。

    あー芥川賞っぽいなと思ったら、芥川賞だった。いつでも拒否できるのに拒否せずに流されていく主人公。主人公の預かり知らぬところで、激しく動いているサチコの人生。どうしようもなくながれていく人生と、暴力と絶望。

    薄い小説だが、幻覚のごとく現れ、現実との間を揺れ動く世界。それらが全く同じコントラストで淡々と描かれるため、読み始めすぐにあれ?と引っかかる文章である。

    芥川賞の純文学ではあるが、比喩という比喩は特に無く、主人公の想像が比喩の代わりをなしているのであろう。何度も噛み付いては引きちぎる皮膚や肉。それらが現実なのか想像なのかがわからなくなる感覚に時々襲われる。

    「何をやってもダメだしもうダメだ。世間が悪いのだ」という、一時期の芥川賞作品よりは、逃げ場が常にあるあたりは好感が持てた。ただ、1冊にもう一作くらい入れてほしかったな。

  • 読んでいて、想像力が掻き立てられて嫌悪感がすごい。汚いものを見る感じ。ただ、だからこそ見てしまう。この人の本はやはり好みである。

  • えげつなくて汚くて、痛々しい話なのに、目が反らせない。これを物語として完成させられる作者の精神状態がすごいと思ってしまう。

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著者プロフィール

1961年愛媛県生まれ、大阪府育ち。1997年、「国営巨大浴場の午後」で京都大学新聞社新人文学賞受賞。2001年、『クチュクチュバーン』で文學界新人賞受賞。2003年、『ハリガネムシ』で芥川賞受賞。2016年、『臣女』で島清恋愛文学賞受賞。 最新作に『出来事』(鳥影社)。

「2020年 『ひび割れた日常』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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