還るべき場所 (文春文庫 さ 41-3)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (623ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167684037

作品紹介・あらすじ

世界第2の高峰、ヒマラヤのK2。未踏ルートに挑んでいた翔平は登頂寸前の思わぬ事故でパートナーの聖美を失ってしまう。事故から4年、失意の日々を送っていた翔平は、アマチュア登山ツアーのガイドとして再びヒマラヤに向き合うことになる。パーティに次々起こる困難、交錯する参加者の思い。傑作山岳小説、待望の文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 486p一気読み。
    場所はプロードピーク、死と隣り合わせの登攀で様々な困難と直面する登山家達。
    揺れ動く人間模様。人はどう生きどう死んでいくかを問われている。スリリングで感動を味わえる素晴らしい山岳小説。

  • 正統派山岳小説の力作。

    若き登山家の矢代翔平は、世界第二の高峰k2を登攀中に最愛のパートナー聖美を失ってしまう。しかも、翔平と共に宙吊りになった聖美が、翔平を助けるために自らロープ切断して命を絶ってしまった。

    ショックから立ち直れず引きこもり生活を続けていた翔平に、再びk2へのチャレンジを持ちかけたのは、翔平の以前の山仲間で登山ツアーを生業とする亮太。ブロードピークへの公募登山にガイドとして同行し、その後にk2をアタックしよう。という提案だった。

    そのツアーに参加したのが日本エレクトロメディカル創業者の神津邦正とその秘書の竹原。ワンマン経営者だが経営権を巡る社内抗争を抱えていて…。

    ブロードピークへのアタックは、人為的なミスを含めこれでもかと言うくらいトラブル続出で、ちょっとうんざりするほど。でも、世界屈指の高峰への挑戦はそれだけ厳しい(幸運が重ならないと成功しないくらい大変な)ことなのかも知れない、と思い直した。

    神津が登山の魅力について語った言葉「しかし山に登ることで、わたしは〈魂の糧〉を得た。それは何者によっても奪いとることができないわたしという人間の本質に関わるものだ。それに気づかずこの歳まで馬齡を重ねてきた。だがわたしはいまそれを知っている。それが命を懸けてでも追い求める価値のあるものだということを――」が印象に残った。沢木耕太郎の「凍」を読み直して見ようかな。

  • 「山岳小説の名作」という評判に違わぬ作品であった。ラストに近づくに連れて、手に汗握るようなスリリングな展開を見せ、作品世界に引き込まれていった。
    本作品は、2008年発刊の作品ということで、登山の戦術・技術・装備に関しては現在と大きな違いがなく、最新の登山状況を踏まえていると思われる。
    本作品で主に取り上げられるのは、ヒマラヤ8000m峰ブロードピークの公募登山での出来事であり、ヒマラヤ公募登山の実態や問題点が示されていて、興味深い内容だ。公募登山に関しては、金で登頂を買うなどの批判的な意見もあるが、作者は肯定的に取り扱っている。

    主人公は、学生時代にK2東壁を登攀中に、恋人であり、ザイルパートナーでもある栗本聖美をロープの切断によって失った八代翔平。
    翔平は、聖美がロープで宙吊りになった時に、翔平を助けるために自らロープを切断したのではないかという疑念を持ち続け、それ以降、山から遠ざかり、世捨て人同様の生活を送るが、学生時代の岳友、板倉亮太が企画するブロードピークの公募登山隊のサポート役で参加することになる。
    それ以外の主要登場人物は、竹原充明と神津邦正。
    竹原充明は学生時代にK2登山に参加しており、その際にメンバーの雪崩遭難を目撃し、それがトラウマとなって、登山から離れるが、勤務している会社の会長である神津の要請により、登山を再開し、その繋がりでブロードピーク公募登山隊に参加することになる。
    神津邦正は心臓のペースメーカーを製造する会社の会長であり、自身もペースメーカーを装着しており、人生の夢として、8000m峰登頂を追求している。

    ブロードピーク登山が開始されると、様々なトラブルに遭遇する。特に、自ら先行して登ろうとはせずに、他の登山隊が張った固定ロープを無断で使用したり、デポしてある酸素ボンベを盗んだりする、アルゼンチン三人組の存在が厄介。先行するアグレッシブ2007隊が悪天候に捕まって、救助が必要となるなど、次々と起こる障害や試練を、翔平たちは、勇気と決断で乗り越えていく。金銭を対価として契約でつながっているだけの公募隊が、一致団結して、危機を打破するようになっていく。第4キャンプへの下降中に、致命的とも言える事態が判明するが、それを打開する翔平のアイデアが実にすばらしい。

    作中で、神津と竹原らが、山と人生に関わる問答を行っており、含蓄のある内容で、興味深い。
    終章で、翔平は4年間背負い続けた負い目から解放される。このラストの場面も印象的だ。

  • この手の山岳小説は初めて読みました。本格的な登山経験も無く、初めて聞く専門用語が出てきましたが純粋に楽しんで読めました。

  • 話がおもしろい上にちゃんと謎も回収されてさすが

  • サスペンスやハードボイルドよりも、より強いスリルと緊張感に心が震え胸が押し潰されそうだった。登場人物が極寒と対峙していた8000m付近で本を読んでいるのではと思えるくらい息苦しかった。 どちらかというと諦めがよく、こういうシチュエーションだと命を落とす側のタイプなので、今更だけどもっと前向きで心の強い男になるぞ

  • 面白い。
    易しい文章ではないけれど、言葉がどんどん頭に入っていく。

    登山の知識がなくても楽しめる。
    登山の怖さや魅力を知れた。
    登山に挑戦したいとさえ、思った。

    特に印象に残ったフレーズは以下。
    「夢を見る力を失った人生は地獄だ。夢はこの世界の不条理を忘れさせてくれる。夢はこの世界が生きるに値するものだと信じさせてくれる。そうやって自分を騙しおおせて死んでいけたら、それで本望だと私は思っている」
    作品の中では、夢に対するネガティブな考えとして、何度も出てくる。今の自分に重なる考えだった。

    神津さんと竹原さんの今後が気になった。

  • 登山の本だと思って読み進めていたが、これは人生について考えさせてくれる本だと思った。

    夢をかなえるゾウを読んでやりたい事リストを作らないとなぁと思いながら、なにかもうひと踏ん張りが出来ず、やりたい事リストを作れなかったが、この本を読み進めていくうちに、人生について考えるようになり、リスト作成に手がつけれた。

    次から次へと問題の出てくるブロードピーク登山の緊迫感を見事に表現し、こちらもドキドキした。

    笹本さんの本は初めてだったが、難しい内容なのに状況がイメージしやすく、くどさもなくてとても読みやすいと思った。

  • 次から次へと難関が押し寄せてきてハラハラドキドキした。
    が、主要な登場人物が生きてくれてそれは良かった。
    聖美はどうしてしまったんだろう。
    下山途中で亡くなったのか。

    山を登る意味や人生や夢とかみんな熱く語るが、山が好きやねん!頂上着いた時めっちゃ感動!そんな簡単ではいけないのだろうか?

  • 「春を背負って」が面白かったので作者の書いた山岳小説をもっと読んでみたいと思って読んだ。
    それなりにボリュームのある作品で半分ほど読み進めたところで一旦ストップしてしまいましたが、後半は登山以外にも様々な要素がストーリーに織り込まれていて緊張感を維持しながら一気に読むことが出来た。

    明らかに人生の折り返し地点を折り返してしまった自分に、登場人物の神津の語る言葉の一つ一つが心に沁みた。何というか生きる事へのメッセージがストレートにガツンとくる作品です。

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著者プロフィール

1951年、千葉県生まれ。立教大学卒。出版社勤務を経て、2001年『時の渚』で第18回サントリーミステリー大賞と読者賞をダブル受賞。04年『太平洋の薔薇』で第6回大藪春彦賞を受賞。ミステリーをはじめ警察小説、山岳小説の名手として絶大な人気を誇る。主な著書に『ソロ』『K2 復活のソロ』(祥伝社文庫)他。21年逝去。

「2023年 『希望の峰 マカル―西壁』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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