点と線 (文春文庫 ま 1-113 長篇ミステリー傑作選)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167697143

感想・レビュー・書評

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  • 本編とはほとんど関係ないけど「点と線」で好きな場面が一つ。
    九州の出張から帰ってきた三原刑事が、東京の馴染みの喫茶店でコーヒーを飲んでいるとき、東京は自分がいなくてもいつものように時間が流れていて、その時間、井原が何を体験しても、東京は何も変わらず時間が過ぎていく。
    そのことに井原が孤独を覚えるシーン。

    数行で終わるし、本編とも関わりのない何気ない場面だけど、こうしたところをスッと小説内に織り込むのが、松本清張の作品の特徴を現しているような気がします。

    経済成長や都市化によって、日本社会が劇的に変化していく中で生まれた人の孤独や社会の歪み、時代の闇。それが時に犯罪として小説内に現われ、また描写として作品の陰を飾る。
    松本清張が社会派推理小説の祖として君臨し続けているのは、そうした変化と、社会の歪み、人の心と時代の闇を、犯罪と描写に載せたからだと思います(といっても清張作品は、まだ二冊しか読んでないけど)

    博多で見つかった某省の役人と、料亭の女性の遺体。ふとしたきっかけから二人の死に疑問をもった地元の鳥飼刑事と、彼に賛同し捜査を引き継ぐ井原刑事。やがて捜査線には一人の男が浮かんでくるものの、その男には鉄壁のアリバイがあり……

    文春文庫版『点と線』では有栖川有栖さんの解説が載っているのですが、この解説はなかなかに手厳しい(苦笑)
    まあ、自分も読んでいる最中、有栖川さんと同じ部分で引っかかりを覚えたので、メインのアリバイトリックを単体で評価するのは、ちょっと厳しいかも。
    もちろん時刻表の4分間の空白なんかは素晴らしい発想だし、場面を想像するとより興奮が増すのだけど、そこも有栖川さんの言う通り、詰めが甘いことは否めない。

    でも、この『点と線』はそこを越えるドラマがある。北海道から福岡まで飛び回り、二重、三重に仕組まれた犯人のアリバイを突き崩していく楽しみと興奮、そして刑事の執念。

    名探偵の推理って大抵は「まだ証拠がない」だとか「可能性の段階」だとか言って、最後まで推理を明かさず、最後に一気に壁を突き崩す感覚があります。
    一方で、『点と線』で刑事は足で地道に壁を突き崩し、かと思えばまた壁に阻まれ、それもまた推論と足とで突き崩し……。行っては戻り、また行っては戻りをジワジワと描いていく。

    名探偵という印象では無いけれど、普通の人が謎にかじりつき突破口を開いていく、その快感。
    その感覚を描く上で、このアリバイトリックが有効だったのは、確かだったとも思います。だからこのアリバイトリックは、ミステリ的には「むむ?」と思うところがあっても、それを越える魅力があるのだと思います。
    それが『点と線』が、日本のミステリの潮流すらも変える作品として語られる理由だと感じました。

    『ゼロの焦点』を読んだときもそうだったのですが、今回も犯行時の状況や、犯人の心理を想像してしまう。直接的に犯行の様子が書かれているわけでもないし、犯人の心理描写や自白があるわけでもない。それでも、事件の背景を自然と想像させてしまう凄み。
    時代の闇、社会の歪み、人の心理。大仰なアリバイトリックと、忘れがたいインパクトを残す4分間。描かれる様々な土地の風景と刑事の執念。

    そんな様々な要素の合わせ技の結実、様々な要素の点と点が繋がり、一本の線となったのがこの『点と線』なのだと思います。

  • 動機が不純だが、点と線と名付けられた日本酒を買い、小説もと手に取ったもの。
    時代を感じるが色褪せない真理があった。
    先入観が間違った線を引く。これこそが最大のトリックなのでは。
    人の心理、行動。自然に入ってくる。不自然と気づいた時、出発点が違っていたことに気づく。
    読後感は良くないが、人物が生きているように感じた。

  • 2016年2月24日読了。福岡・香椎の浜で情死した一組の男女。関与が疑われる男・安田のアリバイ「四分間の空白」は完璧に見えたが、刑事たちの地道な捜査により見えてきた真相は・・・?松本清張ミステリの超古典。読む側をあっと言わせる時刻表トリックは「その手があったか!」と言うよりは「え、それ言ってよかったの?」と思わされるのはさすがに時代が違うからしょうがない。読むうちにじわじわ伝わってくる暗くじめっとした怨念、昭和のさびしい街の風景の描写などがたまらない。終章の唐突感も、遠くまで投げ飛ばされるような感覚があって爽快。面白かった。

  • 辛口の解説が読みたくて借りたが、挿画もいいね。松本清張は新潮文庫が定番だったが、少し高くてもこっちだな。

  • 後半、九州から北海道への移動が焦点になってくるところを読みながら「飛行機で行けば簡単だけど当時は空路もそれほど発達していなかったのかもなあ」と思っていたら、あっさり「飛行機で行った」という種明かしで精神的にコケてしまった。『砂の器』の超音波殺人といい、読む前のイメージに反してどうもいろいろと緩さの目立つ作家である。しかし容疑者の妻がじつは黒幕だった(らしい)という結末はよかった。

  • 『点と線』
    2023年4月12日読了

    鉄道トリックと言えば!という一冊と聞き、早速読んでみた。
    有栖川有栖の解説にもあるように、物珍しいトリックでハッとさせられたというわけではない。しかし、なぜか心に留まり、モヤモヤとさせられ、最後にはなんとも切ない気持ちでいっぱいになってしまうのだ。
    九州から東京、そして北海道におけるリアルな情景描写。トリックが明らかになっていくスピード感。読者を惹きつけ飽きさせない絶妙な文章。すべてが心地いいのだ。
    だからこそ、本作はここまで読み続けられているのであろう。

    本作の鮮やかなる導入かつ一番の目玉は、「空白の4分間」であろう。
    しかし、果たしてこの4分間は必要だったのだろうか。
    重なるように発見された2つの遺体、両者にあった愛人の影など、列車に乗り込むところを見せなくとも「情死」を判断されなかったか。むしろ、この不自然なまでに完璧なタイミングでの偶然が、安田の犯行を思い当たらせてしまった原因ともいえよう。

    わたしには「空白の4分間」が亮子の賭けに思えてならない。
    情死を決定づける証言であるとともに、安田にとっては不可解な行動ともとらえかねない「空白の4分間」。あえて、「空白の4分間」を登場させたのには、やはり小雪との複雑な事情が絡んでいたからか…と考えてもみてしまうのだ。
    つまりは、小雪を情死と見せかけ、安田と小雪の関係を隠し、自らの不甲斐なさから、現実から目を背けるためではなかったのかと。

    真犯人である亮子の複雑な胸の内には、同情を禁じ得ない。
    頭ではわかっていたとしても、心がどうにもならなかったのだろう。
    病弱な自分の不甲斐なさ、小雪への嫉妬、夫への怒り…様々な負の感情がただただ溢れていたであろう。
    小雪が悪いわけでも、夫が悪いわけでもないし、亮子の感情を否定することはわたしにはできない。
    だからこそ、苦しい。
    そう思った結末だった。


    風間完氏による挿絵もすばらしかった。読者のイメージを膨らませ、没入感をさらに高めてくれた。「情死」とされた事件の哀愁、いや亮子の複雑な心の内がひしひしと伝わるようだった。

    前述したとおりの有栖川有栖による辛口で、でもリスペクトにあふれた解説も必読。
    なるほど、作品が読み続けられている理由がわかる。

  • お久しぶりの松本清張。
    松本清張のミステリーはトリックよりも動機重視のイメージだったから、時刻表のアリバイ含め、結構謎解きの方に重点が置かれてて珍しいなぁと思った。
    正直アリバイトリックとしては詰めが甘いというか陳腐だなぁと思うところもあったけど(特に実は汽車じゃなくて飛行機を使ってた、とか)、最後の有栖川さんの解説で溜飲が下がった感じ。

  • 初めての松本清張でした。
    物理的なトリックだけでなく人の感覚が大きなウェイトを占めるせいなのか、とても人間臭く、スペシャルな名探偵ものとは違う魅力を感じました。ほぼ倒叙で人物像や関係性がしっかり描かれているのも好みです。
    それとこの版だけ?のイラストがとても良い。

    2022年80冊目。

  • 初 松本清張さんでした。
    ちょっと古い感じがするのかなぁ~と思っていたのですが とんでもないです! 
    とても文章がおしゃれでした。
    「星が砥いだように光っていた」って かっこよかったです
    鉄道の時刻トリック 鉄分が少なめの私でも面白かった 
    この本はとってもすてきなイラスト入りなのでそれも楽しめました。

  • 名前の知る作家ということで読んでみましたが、面白い! 散歩のついでの本にはピッタリですね。 男と女の関係って時には怖くなりますが、普通の生活をしている私などは想像するだけですが、いろんな人の心を知れるなと。 小説は面白いね

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著者プロフィール

1909年、福岡県生まれ。92年没。印刷工を経て朝日新聞九州支社広告部に入社。52年、「或る『小倉日記』伝」で芥川賞を受賞。以降、社会派推理、昭和史、古代史など様々な分野で旺盛な作家活動を続ける。代表作に「砂の器」「昭和史発掘」など多数。

「2023年 『内海の輪 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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