半島 (文春文庫 ま 19-2)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (345ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167703028

感想・レビュー・書評

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  • 透明な川のような美しい文体で、ぐいぐい飲み込めた。迫村という中年男がせかせかした東京での生活に嫌気がさしてぶらりと「半島」へと流れ着くというありがちといえばありがちな設定なんだけど、この半島が一癖あり、しかしなかなか尻尾を表さない。酒池肉林とは違う方向で、地味だけれどこの半島は桃源郷。序盤のほうでyen townみたいだな、と感じていたので最後本当にそれっぽい表れ方したのが拍子抜けだったけれど、またあの半島を読みたいと思える、そのぐらい魅力的な「半島」でした。

  • どぶろくがうまそう。

  • キャラクターに愛着を感じてしまったので、ラストがちょっと寂しかった。

  • あー、読み終わってしまった。
    ここに書いてあることは人生のこと。何度も何度も重ねて書いてあってもまだ足りないことってあるんやなぁと思う。好きで仕方ない。ワタシの好きな小説とは、こういうものだとしみじみしている。迫村に好きなひとをあてはめて、心のなかで動かしていたら、変な夢を何度も見るようになった。もう少しで掴めそうなのに手が届かないところもなんとなく恋と似ている。半島って半分島ってことでしょう。ワタシは島が好き。モチーフとしての島が。迷路のようにいりくんだ狭い露地や、不思議な店の地下が繋がっているのとか、A地点と遠いと思っていたB地点が案外ぐるりとまわれば近いとか、人の記憶もそうではないかと迫村が考えるのとか、本当に好きなところだらけ。絶対絶対これは大切な小説になると確信している。再読の時期はいつかな? すぐきそうです。

  • あけすけに言えば、迫村という男が、おじさんの幼稚な妄想を体現しているように思えてならなかった。社会的地位を一応は得たものの、そこに費やしてきた嘘と苦々しさにいくらかの自覚を持っている(まだ救いのある)おじさんの妄想。というのは、辞表を提出する、若い女と寝る、旅に出る、アウトローな人物と付き合いがある、殺人現場に居合わせる、などなど。そして過去を回想する。
    にもかかわらず最後まで読ませたのは、人間以外の描き方とアトラクション的イメージ。だから本書はべつに、幼稚でもいいのである。優等生である著者は、きっとそこまで考えぬいているのだろう。本書で描かれている「半島」は、幼稚な欲望を肯定する一大遊園地なのだ。
    (あと思ったのは、古井由吉を通俗化すればきっとこんな小説ができあがるだろう、ということ)

  • 主人公の迫村は白昼夢を見る。白昼夢の中に昔を思い出し、もう一人の冷淡な自分と会話する。現実からの逃避をし、自由を求める。
    舞台は瀬戸内海につき出した半島、穏やかな海とのどかな生活だが、話が進むに連れ、マカオや香港の半島に思えてくる。
    十分に破綻しているように思えるが、話は破綻させずに進行する。松浦寿輝は破綻させず、話の出口から引っ張っている。手を話すと魑魅魍魎が跋扈する半島に閉じ込められる感じがしました。
    読者の好みが分かれる作家なのかもしれません。

  • (幸太さん)

  • 大学教師を辞めた迫村が寂れた島で暮らすなかで、不思議な出来事に流されていく話。

    ほんと不思議。読み終わって、しばらくぼんやりとしてた。

  • 読書会の課題図書だった.松浦寿輝の小説を読むのはこれが初めて.四十台半ばの大学教授が大学を辞め,瀬戸内の島に滞在し,不思議な体験をするという話.

    本書の特徴の一つはその文体だろう.読点をあまり用いないうねるような独特の文体で,最初はいくらか戸惑うが、すぐに慣れて意外とするすると読めてしまう.著者は詩人でもあるらしく、この技はそれによるものだろう。こういった「テキストの自然さ」には職業上の関心があるので、注意しながら読んだ。読点の少ない文章は、読点による係り受けの曖昧性の抑制の恩恵を受けられないので、曖昧性を解消するために冗長になりやすい。例えば、そういった文章で省略を頻繁に使ってしまうと読み手が文意を正しく復元できなくなってしまう。しかし、著者の文章は冗長性が抑制されていながら曖昧性が少なく、そのためするすると読めてしまうのであるが、これはさすがの手腕である。

    文体はさておき,本書では,人生における一つの変化点に直面しこれまでの自分の人生を省みるなど,いい齢をしてある種の価値観の混乱に見舞われながら(もう四十而不惑,という時代でもないのだろう),かといって劇的な変化に身を投じるわけでもなく居心地のよい日常に埋没してしまう中年男性の心象風景が描かれる.舞台は瀬戸内の想像上の島.主人公はベトナム料理店で働く中国人女性と懇意になり,島の住民と酒を飲んで二日酔い,午前様でその女の家に帰宅,というまったくいい加減な男なんだが,この舞台となる島がとにかく魅力的で,まさに中年男性のためのワンダーランド,といった趣になっている.

    酒が好きで仕事に倦んでいる30代以上の男性におすすめ.不真面目な性格であれば更によし.

  • いきることは文学を読むことににているし社会はまるっきり文学みたいだと私はしばしば思うわけだが、綴れ織りの坂をつらつらあるいてアラーこんなところにキレイな花がとかマァ珍しいとかげねーとかそんな風にして進んで、一人きり、他に語らう誰もおらず自分と向き合うしかないのが人生なんでしょう、

    で、

    それを実際に中年のおじさんが執着とか未練とかおいらくの理想とかを背負いこんだまま夢の国(といっても知識人のおじさんなのでネズミの国とかじゃない、適度に萎びていて景色がよく語らえる同年代のじいさんと尊敬してくれる青年と自分に笑いかけてくれる若い女がいるところだ)に行ってみるとこうなるんじゃないですか、多分。でもねえ夢は夢なんですよね。それは形骸で、うつしみの肉体も思想も夢から醒めたあとで大きな口を広げる虚無とか絶望とかのなかにしか、ないのかも知れません。たそがれどき、けうといひかり、鬼に食われて死ぬのはだあれ。

    でもこれ好きです。
    緻密でシュールリアリズムかとも思うような描写も好きだし短調さもほの暗い救いのなさも好き。私はこんな風にいきるのだと思う。こんな風に生きてると思った。

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著者プロフィール

1954年生れ。詩人、作家、評論家。
1988年に詩集『冬の本』で高見順賞、95年に評論『エッフェル塔試論』で吉田秀和賞、2000年に小説『花腐し』で芥川賞、05年に小説『半島』で読売文学賞を受賞するなど、縦横の活躍を続けている。
2012年3月まで、東京大学大学院総合文化研究科教授を務めた。

「2013年 『波打ち際に生きる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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