星々の舟 Voyage Through Stars (文春文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784167709013

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、『お兄ちゃんたちとはパパがおんなじだけどママがちがくて、お姉ちゃんとはママがおんなじだけどパパがちがうの』と語る小学生に何を思うでしょうか?

    “日本において夫婦と子供2人によって構成されている世帯の形態を意味する””標準世帯”という言葉。今やそんな世帯は、この国の5%にも満たないと聞くと、この国の家族のあり方の変化に驚きもします。しかもここでいう子ども2人とは当然にそんな夫婦と血のつながりを持つという前提でしょう。しかし、今の時代、そんな単純には語れない家族像が浮かび上がります。三組に一組が離婚するという現代において血のつながりということを前提に考えていくこと自体どんどん難しくもなっているのだと思います。

    そんな中では、私たちは『四人兄妹』です、と紹介されても単純にその本当の関係性を言い当てることは難しい場合もあるのだと思います。四人のうち、誰と誰に血の繋がりがあって、ということなど外からはなかなかに伺いしれない現実がそこに隠されている可能性があるからです。

    さて、ここに、『長兄の貢と、二十歳近くも離れて生まれた次兄の暁とが、先妻の子。そこへ志津子が、暁とは一つ違いの幼い沙恵を連れて嫁ぎ、そのさらに四つ下に末っ子の美希が生まれたのだ』という『四人兄妹』を描いた物語があります。母親の志津子の死を期に十五年ぶりに再開した家族を描くこの作品。まさかの”禁断の恋”の存在が匂わされもするこの作品。そしてそれは、主人公たちそれぞれがひたむきに今を生きていく姿を描く家族の物語です。
    
    『受話器を置き』、『あれから何年になるのだろう。生まれた町を飛び出したのが大学二年の頃』と、それから『一度も家に戻ったこと』のない今を思うのは主人公の水島暁(みずしま あきら)。そんな時『どうしたの』『誰からだったの』と『寝たのはもちろんのこと、部屋に上げたのもゆうべが初めて』という涼子が問いかけます。『ああ、妹』と答える暁に『良くない知らせだったのね』と訊く涼子。そんな涼子に『おふくろが』『危ないんだと』と答える暁は、『クモ膜下出血』と説明します。『行くんでしょう?』と訊き返され『さあな』と答える暁に『行かないと、あとで後悔するわよ』と涼子は答えました。『産みの母親の顔を』覚えていないという暁にとって『自分を育ててくれた志津子が実の母でないなどとは想像したことも』ありませんでした。大工をしていた父親・『重之が無事復員して五年の後に貢が』生まれ、暁が生まれた翌々年に実母は亡くなります。そして『住み込みの家政婦』として暮らすことになったのが志津子でした。娘の沙恵を連れた志津子はやがて重之の後妻として迎えられます。そんな家族の暮らしを思い出す暁は、『誰のお陰で食えると思ってるんだ!ええ?誰のお陰だ、言ってみろ!』と時に激しい暴力におよぶ重之の『恐怖がありありとよみがえ』る一方で『父の肩車』の思い出、『くすぐったいような誇らしさ』を感じたことも思い出し、『父こそが拠り所だったのだ』と思います。『かつてのささやかな幸せがずっと続いていたなら、自分が家を飛び出すことはなかったのだろうか』と思う暁は、『遅かれ早かれその時は来たはずだ』、『そう ー 彼女がいる限り』と思います。そして、『今さら会ってどうする』という思いと『今会わなくてどうする』というせめぎ合いの思いにさいなまれながらも羽田に降り立ち病院へと向かった暁。『遅いじゃないのようっ』と妹の美希に睨まれる暁が到着する三時間前に母親は息を引き取っていました。『ったくこの馬鹿が。来るなら来るで、どうしてもっと早く』と兄の貢にやれやれとした口調で言われた暁。そして、母親の枕元に向かうとそこには妹の沙恵の姿がありました。『良かったねえ、母さん』、『お兄ちゃん、やっぱり帰ってきてくれたよ』と母親に語りかける沙恵。そんな沙恵のことを見て『きょう、あきらくんとさえちゃん、チューしてた』と『向かいの家に住む』清太郎が口にした一言で『凍りついた食卓』を思い出す暁。そんな暁の家族それぞれの過去と今に光が当てられていく中に、家族それぞれが抱える物語と、彼らの結び付きの先にある家族の姿が描かれていきます。

    “平凡な家庭像を保ちながらも、突然訪れる残酷な破綻。性別、世代、価値観のちがう人間同士が、夜空の星々のようにそれぞれ瞬き、輝きながら「家」というひとつの舟に乗り、時の海を渡っていく”と内容紹介にうたわれるこの作品。2003年に第129回直木賞を受賞した村山由佳さんの代表作の一つでもあります。6つの短編が連作短編を構成するこの作品は各短編ごとに視点の主が交代していきます。では、そんな6つの物語についてご紹介していきましょう。

    ・〈雪虫〉: 『小樽港にほど近い古い倉庫』を『店舗として利用した西洋骨董の店』を妻の奈緒子の父親から任される暁が主人公。『大学二年の頃』に家を飛び出した暁の元に母親が危ない旨の連絡を妹から受けた暁は躊躇の後、病院へと向かいます。そこには、久しぶりの家族の姿が、そして、十代の頃『最後の一線を越え』てしまった妹・沙恵の姿がありました。そんな過去の記憶を振り返る暁は…。

    ・〈子どもの神様〉: 『誰かのものである男とつき合う以上、中身以外の要素はとくに大事』と思いつつ年上の相原と付き合う美希が主人公。『この家で、家族全員と血がつながっているのは私だけ』と思う美希は『ばらばらになりそうなみんなをこの家につなぎとめておく』役目を負っていると感じて生きてきました。『モデルハウス』に務める美希は、設計士の相原と付き合う中、一方で家族の中で一つの役割を果たしていきます。

    ・〈ひとりしずか〉: 『お前が誘ったんだからな』と『十七になったばかり』の沙恵を犯した『浪人生』の言葉を思い出す沙恵が主人公。そんな沙恵は、『いちばん初めは、家に出入りしていた大工だった』という幼稚園の頃から幾度となく性的な嫌がらせを受けて育ちました。そして、浪人生に犯された後、『何されたんだお前!』、『ぶっ殺しててやる』と激しい怒りを見せた兄の暁。そんな暁と関係を持つことになる沙恵…。

    ・〈青葉闇〉: 『この歳になって妻を裏切ることになろうとは』と真奈美の寝顔を見つつ思う貢が主人公。市役所の広報課で課長補佐を務める五十の貢は、大卒で就任して間もない二十四歳の真奈美とあることがきっかけで関係を持ちました。『まるで少女にいたずらしてでもいるかのような後ろめたさを覚』えながらも彼女のアパートへと通う貢は、一方で『土いじりにのめりこんでい』きます。一方で、『家に帰るのが苦痛になっ』ていく貢は…。

    ・〈雲の澪〉: 『三階の窓際の席から』、サッカーで『司令塔気取り』をしている健介のことを見る聡美(貢の娘)が主人公。そんな聡美は『いつか投稿しようと』漫画を描きためています。『受験を五か月後に控え』、『この道のプロになる力などない』と思いつつも描くことをやめられない聡美。そして、教室を見回す聡美はアメリカ帰りの美少女・可奈子を見ます。『二人して同じ図書委員に選ばれ』たことから親密になった二人…。

    ・〈名の木散る〉: 『曾根原さん。昨日、上京してみえたんですって』と電話がかかってきたことを沙恵に言われた重之が主人公。そんな重之は『いないと言ってくれ』と繰り返し伝えます。一方で『生徒たちに、お義父さんの戦争体験を話してやってくれませんか』と頼子(貢の妻)に頼まれた重之は『自分たちは、戦争を生きたのだ… 赤い紙きれ一枚で家族も恋人も引き裂かれた、それが戦争だったのだ』というあの時代を思い起こします。

    以上の通り、6つの短編には、冒頭の短編で命を引き取った志津子以外の水島一家、父・重之、長男・貢、次男・暁、長女・沙恵、次女・美希という五人にプラスして、貢の娘である聡美にまで視点が回っていきます。実に親子三世代に渡る物語ですが、過去を振り返ることはあってもあくまで時間軸は現代にあるため、大河小説という作りではありません。しかし、『自分たちは、戦争を生きたのだ』という重之の物語と、『受験を五か月後に控えて』漫画を描く聡美の物語は当然ながら隔世の感があります。しかもそんな聡美の物語の次が重之の物語という順になっているため、重之の物語を読み始めた先の違和感、異物感がハンパなく読者を襲います。正直なところ、私も、えっ?という衝撃に襲われました。この作品は内容紹介的には家族を描いた物語という印象です。実際、暁から聡美までの五つの物語は、家族の構成員と、そんな彼らの集まりである水島家の光と影が描かれていきます。

    物語は『あれから何年になるのだろう。生まれた町を飛び出したのが大学二年の頃』、『あれ以来、一度も家に戻ったことはなかった。戻りたいとも思わなかった』といういかにも訳ありの暁の物語からスタートします。そこには、父親の激しい気性と、暁の産みの親・晴代と、育ての親・志津子を巡る四人の兄妹の複雑な関係性が次第に明らかになっていきます。そこには、内容紹介に” 禁断の恋に悩む兄妹、他人の男ばかり好きになる末っ子、居場所を探す団塊世代の長兄”と記される四人兄妹それぞれの人生が描かれていきます。読者的には暁と沙恵という兄妹の間の”禁断の恋”は間違いなく衝撃的です。

    『曲がりなりにも兄と妹として育った以上、罪の意識がなかったといえば噓になる。けれどそれは、最後の一線を越えたとたんにくるりと裏返って、互いを駆り立てる要素へと変わっていった』。

    『いったん唇を重ねてしまうと、後は歯止めがきかなかった』という先の”禁断の恋”の物語はこの作品の中軸といって良いものです。こんな内容を持ち出してしまった以上、それをどう決着させるのか、間違いなくこの決着のさせ方はこの作品の成否を握ります。ネタバレはできませんのでこれ以上煽るような記述(笑)もやめておきますが、村山さんの選ぶ余韻を残すようなその絶妙な結末には是非ご期待ください。

    次に注目したいのは聡美の物語です。一人だけ孫世代が登場するという異物感の中に描かれていくのは、『きっと、あの時が境目だったのだ、と聡美は思う。深津健介という存在が、自分にとって、ただの幼なじみから一人の男へと変わったのは』という青春を描く物語の側面を持ちます。しかし、読み味として後に残るのは、内容紹介に”いじめの過去から脱却できないその娘”と記される側面です。そうです。この物語には後味の極めて悪い いじめを取り上げた物語が描かれていきます。なんとも鬱屈とした読後感、これにはもう少しなんとかしていただきたかった思いが残りました。

    そして作品のトリを務めるのが重之の物語ですが、上記した通り、いきなり先の大戦に舞台が移ります。もちろん上記した通り、それは重之の過去の振り返りではありますが、単なる振り返りの域を超えて極めて生々しい戦時下がそこに描かれていきます。

    『歩兵操典や戦陣訓をようよう暗記し終え、せっかく寝入ったかと思えば突然叩き起こされて一列に並ばされ、〈ありがたく思えよ。これから貴様らの軍人精神を鍛えてやる。気をつけ!歯を食いしばれ!〉わけもわからず殴られる』。

    そんな徴兵後の日々。

    『殺さねば、殺される』、『手にした銃剣の切っ先が、柔らかくて固い肉に呑みこまれるあの感触。かっと見ひらかれた少年の目が、ほんの五寸ほどの近さから重之を凝視する』。

    そんな戦場の緊迫感溢れる描写。そして、

    『初めて人を殺した日は、怖ろしくて怖ろしくて眠れなかった。何日も飯がのどを通らなかった』。

    そんな先にある『人の痛みを痛みと感じなくなっていく』という戦場の感覚の描写は、家族の物語を読んできた中で、不倫もあった、いじめもあった、という直前までの物語とは全く別世界、全く異世界の作品が誤って製本されてしまったのではないか!としか思えない内容の跳躍ぶりです。これには度肝を抜かされました。そんな物語に、『急に目の前にトラクが止まて、いいから黙て乗れと無理やり乗せられたです… 無理やり乱暴されたです』と語るまさかの『従軍慰安婦』に関する違和感のある記述を生々しく登場させてもいく村山さん。小説はさまざまな内容が包含されるものであり、読み始めと、読み終わりでは予想もしなかった展開に驚くことは多々あります。しかし、この作品はそんな次元を超えます。”もちろん、『星々の舟』は戦争小説などではない”、”これはあくまで、叶えられない幾つかの恋の物語であり、人と人とが形づくる星座、すなわち家族の物語であり、そしてまた、人々の来し方行く末をゆるやかにつないで流れる歴史の物語”と村山さんは語られます。いや、そうかもしれません。作者の村山さんがそうだとおっしゃるならそうなのかもしれませんが、一読者の私の読後に残ったのはこの作品は”戦争小説”だったという印象です。この感覚、これから読まれる方には実際どう感じられたかを是非お聞きしたいと思いました。

    『幸福とは呼べぬ幸せも、あるのかもしれない』。

    村山さんらしく、美しい言葉の中に深い含みを持たせる言葉が印象的に物語を読者の心に刻み込んでいくこの作品。そこには、家族6人それぞれの生き様が描かれていました。家族それぞれの視点からお互いがどのように見えるかを描く中に、それぞれの繋がりの意味をも感じるこの作品。まさかのリアルな戦争の描写に度肝を抜かれるこの作品。

    “どこかに一条の光が射すような終わり方を心がけたつもりでいる”とおっしゃる村山さんの主人公たちへの優しい眼差しを見る中に、”幸せ”とは何かを読者に問いかける、そんな作品でした。

  • 大工の父親、病気で亡くなった先妻との長男と次男、後妻の連れ子の長女と夫婦の子の次女。6章からなり、それぞれを主人公としながら家族を描く連作短編集の形式をとった一作品です。

    母親が亡くなった事で、家族が今までの気持ちを整理し始める。
    「雪虫」連れ子の少女に恋をしてしまう次男。二人は、互いの気持ちを認め合う。しかし、父親が同じである事を知らされる。次男は家族から離れて生きる。
    「子供の神様」次女は自分が家族の交差点となるように振る舞ってきた。姉も父も子と知った後の喪失感。彼女のその後の恋愛観に影を落とす。
    「ひとりしずか」兄への気持ちが残る長女。善良な男との結婚にも踏み切れない。
    「青葉闇」早くから父親の不倫を知り家を出ていた長男。公務員となりしっかりした家族があるが帰宅拒否気味。50にして初不倫。
    「雲の澪」長男の娘の夏の厳しめの経験。
    家族は、なんらかの諍いがあろうと、生き違う時間があろうと、一つの舟に乗ったり降りたりしながら生きていく。各章の主人公の性別や年齢が変わるので、共感できる章があるのではと思います。


    「名の木散る」が最終章で父親の戦争体験から家族を得ていく章なのですが、作者さんここに力を入れています。ですが、書きたいことは読めたつもりですが、どんな経験をしたとしても、この父親の不倫隠蔽や暴力が認められる根拠に思えず。
    幸福とは呼べない幸せ が村山さんのたどりついた感慨との事です。

    • おびのりさん
      はいはい。
      はいはい。
      2023/09/05
    • kazekaoru21さん
      おびのりさん、こんばんは。
      実は私も昨日、この「星々の舟」を読み終えました。
      私も、父親のことがひっかかっています。例え戦争の傷跡があれ...
      おびのりさん、こんばんは。
      実は私も昨日、この「星々の舟」を読み終えました。
      私も、父親のことがひっかかっています。例え戦争の傷跡があれど。自分は戦争の体験をしていないので何も言えませんが。
      好みは別として、とても胸に迫るものがありました。頭が整理できておらずまだ感想が書けません・・。
      2023/09/05
    • おびのりさん
      kazekaoruさん、こんばんは。

      コメントありがとうございます♪
      私が感じていた事をわかっていただいて、なんか、うれしいです。
      読み始...
      kazekaoruさん、こんばんは。

      コメントありがとうございます♪
      私が感じていた事をわかっていただいて、なんか、うれしいです。
      読み始めから、なかなか読ませてくれて、好きな作品だなと思っていたんです。父親像をどう描くとしても、作家さんの自由だと。この家族の元凶となっている父親を最後どう扱うか。
      シベリア旅行体験から、戦争を書きたかったような後書きでしたけれど、自分の子供に許されるばかりか、肯定さえされる感じが受け入れ難くて、残念な読後感でした。
      2023/09/05
  • 水島という家族、それぞれ6人の視点から描かれた連作。重いし辛い、最後まで読めるかなと。
    内々のことは、なかなか他の人には伝わらないものだが、ある事情を除けばよくありがちな家族だと思う。ゆっくりと年月を隔て、父、母、息子たち、娘たち、息子の娘が内に抱え込んでいる悩み苦しみを主人公をかえながら綴られていく。
    兎に角、ひとりひとり丁寧に描かれていて
    一章読むごとにずしりと響く。目頭が熱くなった章もあった。生まれ育った環境のせいにしているとしても、時には道を反れることってあるのでは。特に、長男貢の章が気に入ってしまった。郊外での野菜作りに生き甲斐を見いだす。重い話の中、畑仕事の描写はほっとするひとときだった。
    いま、ここに生きているという圧倒的なまでの実感それだけでいいのだった。貢の言葉から、正直な人間臭さを感じる。
    親が有耶無耶にしてきたことで、我が子の幸せに影響を与えた。そこが気になった。最後は沙恵と寄り添ってるように見えるが、何があっても親子、ということだろうか。
    戦争体験、慰安婦の話は辛く、ずしんときました。これを持ってこられた理由があとがきにかえて、でわかりました。ひとつの家族の在り方はそれぞれ違う。登場人物の生き方に自分自身を投影させたり、何があっても生きてる意味があると、そう感じた作品でした。

  • 村山由佳さんの直木賞受賞作。6章からなり、それぞれ、戦争に行き激動の時代を潜り抜けてきた重之と、その4人の子供達(異母兄妹)+孫(長兄の娘)の視点から語られている(順不同)。
    戦争、慰安婦、禁断の兄妹愛、血の繋がり、不倫、いじめ、女性消費、、、など沢山のことが盛り込まれていて考えさせられる物語だった。3世代の視点から描かれているからこそ、いろんな世代の読者が読んで共感する部分も、他の世代の立場に立って考えるきっかけにもなる部分もあると思う。戦争に対する認識の世代間の違いは読んでいて興味深かった。

    沙恵が過去に名も知らぬ男性から受けた数々の行為の羅列を読んでいたら、自分も思い起こすことが多々あり、不快感と、今更ふつふつ怒りが湧いてきた。あまり思い出さないようにしていたけれど、こういう体験が女性にとってありふれているなんて、本当にこの国はおかしい。

    慰安婦についてはこの本を読んで初めて知った知識もあった。
    不勉強すぎて恥ずかしいので他の本でも読んでみたい。

    「自由=孤独」というのは激しく同意。

  • これは凄い!
    家族ひとりひとりが抱える何かしらの不幸、問題、しがらみ、トラウマ、わだかまりの中に見つけたほんのささやかな幸せ。
    それを村山さんは、なぜこんなにすんなりと読ませる?
    今のところ、村山さんのいちばん。

  • 人の記憶というのは、楽しい事は断片的であまり残らないが、悲しいこと、辛いことは始終記憶に残る。過去の苦い思い出も「いいもの」に映る、身も心も過去には戻らないがその記憶だけはそのままそっとしておきたいのが人かもしれない。一方、人は寂しい、侘しい時、過去の思いにふけがちだが恋愛、愛で人は変わり、変わる必要がある、思い通りにいかないのが人生というものかもしれない。

  • 久しぶりに どっしりと心に響いた。

    「星々の舟」の響きと表紙から恋愛ものかと思ったの全然違った。4人兄妹と先妻、後妻、孫娘、父親。各々精一杯生きたんだなと思う。
    家族に大きな影響を与えた重之は戦争の傷痕を抱えていて、最終章、そうだったのかと納得しつつ、振り返れば、重之がこんな感じでなかったら4人兄妹は?とも思う。
    やっぱり戦争はいけない。

  • 叶わない恋、叶わなかった恋、人の倫から外れた恋…と、恋愛小説がメインテーマのアンソロジーでありつつ、最終話、父・重之の戦争の話が出てきたところで思わず涙してしまった。
    恋愛模様だけではなく、家族愛や母親の無償の愛がそこかしこに感じられて、そしてどのストーリーにもさりげなく出てくる花々の描写が美しくて、あっという間に読み進められる内容だった。

  • 読み応えあり。
    不器用な生き様が人間らしさやねんな。
    戦時中の理不尽で悲惨な日々、終戦後もそれは連綿と続いて周りをも不幸にしてしまう。つらい。

  • タイトルと綺麗な表紙に惹かれて購入。

    家族のそれぞれの視点からの連作短編なので、読めば読むほど一人ひとりの事情や葛藤がわかり、辛かったです。

    基本は暁と沙恵の報われない恋の話が軸の恋愛小説のつもりで読んでいたのですが、
    父の重之視点の「名の木散る」は特に重く、この話に限っては戦争の話として考えることがたくさんありました。
    〈どうして誰も、戦争はいやだって言わなかったんですか?〉に対する重之の思いが印象的でした。

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著者プロフィール

村山由佳
1964年、東京都生まれ。立教大学卒。93年『天使の卵――エンジェルス・エッグ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2003年『星々の舟』で直木賞を受賞。09年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞をトリプル受賞。『風よ あらしよ』で吉川英治文学賞受賞。著書多数。近著に『雪のなまえ』『星屑』がある。Twitter公式アカウント @yukamurayama710

「2022年 『ロマンチック・ポルノグラフィー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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