シャイロックの子供たち (文春文庫 い 64-3)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (347ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167728038

作品紹介・あらすじ

その日、銀行は戦場に変わる……。

ある町の銀行の支店で起こった、現金紛失事件。
女子行員に疑いがかかるが、別の男が失踪……!?
たたき上げの誇り、家族への思い……
事件の裏に透ける行員たちの葛藤。

著者の池井戸さんが「ぼくの小説の書き方を決定づけた記念碑的な一冊」と明言し、
原点にして最高峰とも言える傑作ミステリ。


【映画&ドラマ W映像化‼】

映画版は、松竹配給。2023年2月17日に全国公開です。
今回の映画は小説と展開が異なり、独自のキャラクターが登場する完全オリジナルストーリー。
主演の阿部サダヲさんのほか、上戸彩さん、玉森裕太さん、柳葉敏郎さん、杉本哲太さん、佐藤隆太さん、柄本明さん、橋爪功さん、佐々木蔵之介さんと豪華キャストが出演。監督は本木克英さん。かつて池井戸作品初の映画化となった「空飛ぶタイヤ」を担当し、ヒット作として大きな話題を呼びました。
主題歌には、エレファントカシマシの書き下ろし『yes. I. do』に決定。

ドラマ版は現在、WOWOWオンデマンドにて配信中。
主演に井ノ原快彦さん、共演に、西野七瀬さん、加藤シゲアキさん、 三浦貴大さん、前川泰之さん、萩原聖人さん、玉山鉄二さんという豪華な顔ぶれです。

感想・レビュー・書評

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  • 1.著者;池井戸氏は、子供の頃から国内外のミステリ―を読み漁ったそうです。大学卒業後、三菱銀行に入り、32歳の時に退職。その後、コンサルタント業の傍らビジネス書を執筆。「果つる底なき」で江戸川乱歩賞を受賞し、作家デビュー。氏は、ミステリ―のセンスを企業小説と融合させた新しいタイプの小説家と言われています。江戸川乱歩賞(果つる底なき)と吉川英治文学新人賞(鉄の骨)及び直木賞(下町ロケット)の三賞を受賞した実力作家。
    2.本書;大手銀行の支店を舞台にした十話(第一話;歯車じゃない~第十話;晴子の夏)の連作短編集。大方の企業にある、厳しいノルマ・パワハラ・出世の為の醜い競争、・・・。「銀行という組織を通して、普通に働き、普通に暮らす事の幸福と困難さ」を描いていま。シャイロックは、シェークスピアの戯曲「ヴェニスの商人」に出てくる強欲な金貸しの事。人間ドラマとしての秀作。
    3.個別感想(心に残った記述を3点に絞り込み、感想と共に記述);
    (1)『第五話;人体模型』より、「人も羨むエリート街道を突き進んできた男が、ある日突然、本人の希望と合わない転勤辞令を理由に退職を申し出てくる事もある。一方で、希望した部署に配属される事無く定年まで勤め上げる行員も少なくない。そのどちらの人生が尊いのか。価値があるのか。いや、人生というのは等しく尊いもののはずだ」
    ●感想⇒金融業の離職率は、業種別で16位;4.3%(1位;宿泊業15.6%)。傍から見れば、安定した業種です。それでも、銀行業務は、人間的な部分がどんどん排除されて機械的になったと言います。そうした中で、日常業務に追われ、ギクシャクした人間関係の中で、仕事にやりがいを見出せず、退職する人もいると聞きます。これは、他業種でも多かれ少なかれ同じだと思います。原点に戻れば、人間は個々人が人生の主役なので、ライフステージの重要な段階(進学・就職・結婚等)で、自身の選択を熟慮する事が重要です。そして、一度決めたら信念を曲げずに生きるのです。文章にあるように、「人生というのは等しく尊いもののはず」なのです。悔いの残らない人生を送りたいし、たとえ悔いが残ったとしても、絶えず前向きな気持ちを持ち続ければ、きっと良い事もある筈です。
    (2)『第七話;銀行レース』より、「“気に入らない事があると、すぐに反抗的な態度を取っていました。・・・笛吹けど踊らずという奴でしてね。困ったものです” 黒田は嘆息した。部下の悪口イコール自らの保身。こういう管理職が、一番質が悪い。そして、こういう管理職が、銀行には最も多い。いや、銀行だけでなく、どんな会社でも同じかもしれないが」
    ●感想⇒「部下の悪口イコール自らの保身。こういう管理職が、一番質が悪い」。銀行に限らず、どこの企業にも大なり小なりこういう管理職はいます。昇進人事の際に、❝問題を他人の責任に転嫁するような人❞を管理職にしない制度があると良いのですが、難しいでしょう。入口で篩にかけられないのなら、昇進後に多面評価(本人×上司・部下・同僚)で降格させれば良いと思うのですが、これも限度があるでしょう。良い方法があるといいのですが。私は、こんな上司に使えたくないと思った経験があります。人事考課の際、平均化の為の点数調整する際に、部下の点数を無条件で他部署に与える(自分の部下を庇わない)管理職がいました。自身の指導を棚に上げて、部下の責任にする管理職は言語道断です。❝人のふり見て我がふり直せ❞と肝に銘じたいものですね。
    (3)『第八章;下町蜃気楼』より、「“悲惨ですよ、まったく。オレも欲しいよ。公用車” “よっ、支店長候補!” 庶務行員の根本はそう言ってからかい、田端を苦笑させた。支店のこういう人間関係は嫌いではない。不思議な事に、出世とか昇格とか、そんなものとは無縁の人間達ほど、魅力的で温かい。銀行って所は、ヘンな所だ」
    ●感想⇒「出世とか昇格とか、そんなものとは無縁の人間達ほど、魅力的で温かい」。私は若い頃、守衛さん・社食のおばさん・クリーンスタッフさん・・と親しく会話して、色々な事を教えて貰いました。皆さんは、自分の仕事に誇りを持ち、前向きでした。そして、最も大切な事は❝人間としての姿勢❞だと言っていました。曰く「偉くなると、こちらから挨拶をしても知らぬ振り、こんな人を見習ってはいけない
    」と。会社での職位は、役割であって、偉さとは違うと思います。こうした、❝縁の下の力持ち❞の人々がいてこそ、私達は良い仕事が出来るのです。感謝あるのみ。
    4.まとめ;池井戸氏は、元銀行員です。本書は、銀行の内幕(システム・人間関係等)がよくわかる小説です。銀行支店という小世界の中での人間ドラマを上手く描いています。未だに、選民思想を持った銀行員もいると聞きますが、この話はあくまでもフィクションであって、やや大袈裟な気もします。会社の中には、本書のような人々もいますが、私は前述した人々や❝仕事の意義や生き方❞を教えてくれる人達にも出会いました。要は、個々人の心の持ち方が大切なのです。企業の歯車にならず、絶えず目的意識を持って、❝世の為人の為❞に行動し、小さな善行を積みたいと願います。池井戸作品の魅力は、解説に凝縮されています。「勝ち組になるというのは、組織の論理に自分を沿わせる事と同義でもある。池井戸作品の主人公は、それを良しとしない人間ばかりだ。そんなことより、自分の仕事を一所懸命に地道にこなすーそういう人間の姿と、そういう人間の勝利を、池井戸潤は書こうとしている」。(以上)

  • 池井戸潤ファンには堪らない作品だと思います。
    中盤位からもう止まりませんでした。最後まで一気読みです。
    どうしようもない銀行でのイザコザ。組織に揉まれて現実に飲まれていく。考え方は誰しもが同じではない。見てくれだけでは人はわからない。色んな見方ができる小説でした。
    映画ではどのように表現されたのか、まだ観てないので楽しみです。

  • 今の銀行は知らんけど、
     出世!
     出世!
     出世!
    やな。

    もう少し、地に足付けて、物事進めていけんのかね…
    毎月毎月、ノルマがあるのは分かるけど、その為には、どんな手段も辞さない…
    銀行やから違うけど、今話題のクルマ傷つけて、修理代多く保険屋さんに請求するのと同じような感じ。
    で、満たされるんかな…モノはともかく、ココロは?
    あんまり、物欲ないし、出世欲もないから虚しいとしか思えんけどな。

    そこまでして、一生懸命働いて、何をしたいのか。でも、何かと言われると良い役職に付いて、お金も!ってなるんやろな。
    時間なくて使えん気もするけど、それに目が眩んで…御用!やもんな…

    池井戸さんにしては、スッキリした終わり方やなく、ヤツの裏の顔は分かったけど、どこや!どこ行ってん!
    え〜!
    で終わってしまった…

  • ひっさしぶりの池井戸さん♪
    半年くらい積読本として本棚にあり、最近読んでるジャンルと違うのを挟みたく。

    めっちゃ面白かったー!
    金融関係の企業で働いた事ある人は、より緊迫を楽しめるはずで、そうじゃなくても銀行内の事をよく知れる。(もちろんオーバーな大袈裟な感もあるけれど私は気にならず)

    東京第一銀行の本社、支店に関わる物語。
    登場人物たくさんいるけど、10章ある中の1章毎にメインで出てくる人が変わるので、明確に覚えられる&強烈な特徴の作り込みがいつも通り逸脱。

    家族、親族、先輩、上司、同期、エリート、出世、癒着、保身、不正、ロジック、稟議書……など、使われてる言葉や人物は池井戸さんらしい。

    それぞれの登場人物の背景にある家族模様は、切ないシーンなどもあり、最後まで一気読み。
    最後だけモヤモヤ、どうなったの!?!?

    そして愛理と彼はどうなったんだ?書いてたっけ?再読しよう。


    シャイロックとは?
    シェークスピアの『ヴェニスの商人』に登場する強欲な金貸し一一一
    その一線を越えた時、銀行員はシャイロックになる。
    ぼくの小説の書き方を決定づけた記念碑的な一冊。
    池井戸潤

    と、裏表紙に記載あり。

    私、全然発刊順番知らずに無視して数冊読んでるけれど、再び池井戸さんの他のも読みたくなる気持ちになりました〜
    仕事で激疲れの繁忙時期には避けていた為、久しぶりの池井戸さんは新鮮でした♡(╹◡╹)♡

    • 1Q84O1さん
      なんなんさん、シャイロックの子供たちだ!
      わたし、池井戸さんの作品の中で一番好きです^_^
      難しい題材をテーマにした池井戸さんも好きですが、...
      なんなんさん、シャイロックの子供たちだ!
      わたし、池井戸さんの作品の中で一番好きです^_^
      難しい題材をテーマにした池井戸さんも好きですが、本作は読みやすくて面白いですよね♪
      2023/05/30
    • なんなんさん
      1Q84O1さん、すごく読みやすかったです!!
      これ、2008年とか、結構昔の発刊なんですね。
      映像化されてるけど、全然内容違う〜とのコメン...
      1Q84O1さん、すごく読みやすかったです!!
      これ、2008年とか、結構昔の発刊なんですね。
      映像化されてるけど、全然内容違う〜とのコメント多数見ました_φ(・_・
      池井戸さんの他もぜーんぶ読みたい気持ち再到来ですっ、大変だ大変だ(^◇^;)
      2023/05/31
    • 1Q84O1さん
      なんなんさん、映画は観てませんが全然内容が違うんですね…
      本の内容が好きなので映画版は観ないほうがいいのかなw
      一時期、池井戸さんにハマって...
      なんなんさん、映画は観てませんが全然内容が違うんですね…
      本の内容が好きなので映画版は観ないほうがいいのかなw
      一時期、池井戸さんにハマって読みまくりました!
      どの作品も良いですよね♪
      2023/05/31
  • 昔、金融機関で同様の営業をやったことがあるので苦い思い出がフラッシュバックする。表向き客のためと言いながら、支店のノルマを優先して会社に都合の良い商品を売る。営業は多かれ少なかれ、そうかと思うが、持続する会社は客に取って良いことをする会社と思う。
    シャイロックとは「強欲な金貸し」のようで、まさしくそのような内容だった。ミステリ仕立てのようだが、殺されたのかどうか最後の疑問がはらされていない。モヤモヤが残る。

  • 一つだけ、気になってスッキリしない。

    捻りの利いたいい作品には違いないのだが。

    上には絶対服従、下には有無を言わせない。昔は今より顕著だったか。(古川一夫)

    営業は、客と上司に精神的にやられることもあるだろう。(友野裕、遠藤拓治)

    人生では悪意の濡れ衣を着せられることもあるかもしれない。(北川愛理)

    スポーツで挫折しても、その経験はいずれ生きる可能性は残る。(竹本直樹)

    機会さえあれば、このような賭けに出る人は意外といると思う。(黒田道春)

    今の若者の価値観•行動に最も近いんじゃないかな。(田端洋司)

    いかにも「小説」的だが、実際にいてもおかしくない。(滝野真)

    でも、西木雅博のキャラクターだけは、ストンと胸に落ちてこない。

    著者は、この人物だけ、敢えて闇を描かず、余韻を持たせたかったのか。

    読むのは二回目だが、まだ読み逃しているところがあるかもしれない。

    • サンキューサンチューさん
      読んでたのを思い出した。池井戸潤にハマって読み倒してたときだなあ。続けて同じ作者を読むと印象が薄れることに最近気付いたわ(笑)
      読んでたのを思い出した。池井戸潤にハマって読み倒してたときだなあ。続けて同じ作者を読むと印象が薄れることに最近気付いたわ(笑)
      2022/09/11
    • shukawabestさん
      そうやね。同じ著者を続けて読むと、確かにその後の記憶には留まりにくいかな。漢字や英単語覚えるとき、同じ単語を連続で書いても、すぐに忘れてしま...
      そうやね。同じ著者を続けて読むと、確かにその後の記憶には留まりにくいかな。漢字や英単語覚えるとき、同じ単語を連続で書いても、すぐに忘れてしまうのと似ているかも。僕もこの本、最初の数ページで「二回目だなぁ」と思い出せたよ。
      2022/09/11
  • ナニコレ、名作やん。

    池井戸潤さん大好きと公言している割に
    手を付けていなかった自分を呪いたい。

    以前、架空通貨を読んだときは
    「自分には、難しかったなぁー。」
    というネガティブな印象が
    あったんだと思います。

    読後、

    心が濡れました。

    心が動くどころではなかった。
    父として、世帯主として、
    筆頭として、働く人。

    家族を養っていかねばならない
    という人は涙必至物語!
    です。

    とりあえずカツカレー食べに行って
    悦に浸りたいと思います笑



    シャイロック≒劇作家シェークスピア 
    ベニスの商人に出てくる、
    ユダヤ商人の強欲な金貸し。

    行方不明の彼も
    またシャイロックの子どもたち
    だったのか…

  • 組織に入れば経験する理不尽な仕事や、人間関係のしがらみ、真っ直ぐ生きる事の難しさ。人間の弱さを見事に表現した群像劇。

  • 今回、阿部サダヲ主演で映画化されるというので、原作を読み返してみた。
    やはり上手い。
    ミステリーなのに、最後に痛快な結果があるわけではなく、読み手に空想させる手法。
    ミステリーなのに、銀行マンの物語なのに、根幹にあるのは家族愛。それと、組織の在り方。

    『いくら質の高い仕事をしても、それを評価する側がとんちんかんだと正しく評価されないんですから。』

    どこにでもあるよね、こういうこと。

  • 映画観に行きたかったけど。。行けなかったので本を購入⭐︎人昔前の銀行なのかな?私は銀行員ではないからよく分からないけど。。融資を契約する時に担当者だけで行くのかな?私の取引してる銀行は必ず融資が決まる前も決まってからも担当プラス上司がきてたけど。。担当のノルマの重さ、責任の重さが凄かった。
    西木さんのその後が謎な感じで気になる!西木さん目線で別冊書いて欲しい‼︎

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著者プロフィール

1963年岐阜県生まれ。慶應義塾大学卒。98年『果つる底なき』で第44回江戸川乱歩賞を受賞し作家デビュー。2010年『鉄の骨』で第31回吉川英治文学新人賞を、11年『下町ロケット』で第145回直木賞を、’20年に第2回野間出版文化賞を受賞。主な作品に、「半沢直樹」シリーズ(『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』『アルルカンと道化師』)、「下町ロケット」シリーズ(『下町ロケット』『ガウディ計画』『ゴースト』『ヤタガラス』)、『空飛ぶタイヤ』『七つの会議』『陸王』『アキラとあきら』『民王』『民王 シベリアの陰謀』『不祥事』『花咲舞が黙ってない』『ルーズヴェルト・ゲーム』『シャイロックの子供たち』『ノーサイド・ゲーム』『ハヤブサ消防団』などがある。

「2023年 『新装版 BT’63(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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