強運の持ち主 (文春文庫 せ 8-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167768010

感想・レビュー・書評

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  • 瀬尾まいこさんが好きです。
    告白しているわけではもちろんありません。
    大好きな作家さんの筆頭格のお一人という意味です。

    柔らかく、優しく、温かみのある言葉でふんわりと包んでくれるその作品は、現実味のある作品であってもどこかファンタジーの世界を思わせるような不思議な味わいを感じさせるものが多いと思います。そんな瀬尾さんがこの作品で挑むのは『占い師』を主人公とした物語です。私は”占い”には全く興味はありません。街で”占い”をしている光景を見ても胡散臭としか感じたことはありません。なので、この作品が他の作家さんの作品なら間違いなくスルーしたと思います。でも、瀬尾さんが描く”占い師の物語”という、もしや?を感じさせる組み合わせ!それに魅かれてこの作品を手にした私は偉かった!そう、そこには絶品の”瀬尾まいこワールド”が広がっていたからです!

    四つの短編からなるこの作品ですが、主人公・ルイーズ吉田(吉田幸子)が占い師として色んな人々を占うことによって、その人の人生に関わっていく連作短編の形式をとっています。短編というと連作短編であっても、短編ごとの出来不出来というものを感じることが多いと思いますが、この作品は”ハズレなし”の絶品揃い。ここまでクオリティの高い短編ばかりで構成された作品は、他の作家さん含めてすぐに思い浮かべることができません。そんな中でも瀬尾さんの魅力が直球ど真ん中に飛んできたのが最初の短編〈ニベア〉でした。

    『あなたはそう見えて、弱いところがあるでしょう?いつでも自分のことを置いて、人のことを考えすぎてしまうのよね』と説得力を持って語るのは主人公のルイーズ吉田(吉田幸子)。『そうなんです!すぐ落ちこむし…。でも、すごい。どうしてわかるんですか?』と問う女性は『彼氏とかできますか?』と幸子を信じて問います。『それは、あなたしだいよ』とそれらしく表を描きながら『四月、…後は十二月かな?すてきな人が出てくる暗示があるわ』と答える幸子。『がんばって。きっといいことがあるわ』と前向きに語る幸子に『がんばります。ありがとうございました』と満足そうに立ち去る女性。『これで、三千円。ちょろいものだ。一人、二十分で三千円』という占いの金額。『一日平均二十人は占うから、合計六万円。場所代や諸々の費用を除いても、いい儲けになる』という幸子は『何より一人でできる仕事だし、気楽でいい』とショッピングセンターの片隅で占い師を始めて一年が経ちました。そして『私が占い師になったのは三年前だ』と過去を振り返る幸子。短大を出て、会社で営業の仕事に就いたものの半年で辞めてしまったという幸子は『アルバイト情報誌』で『占い師の仕事』を見つけます。『「未経験者大歓迎。時給千二百円」の募集広告』を見て『ジュリエ数術研究所』を訪ねた幸子。所長のジュリエ青柳は『結局適当なことを言って!来た人の背中を押してあげるのが仕事なのよ』と幸子にその仕事を説明します。一日だけの見習い期間を経て占い師・ルイーズ吉田として仕事を始めた幸子は『毎日大盛況だ。世の中には平気で無駄遣いをする人がたくさんいることに私は驚かされた』という感想を抱きます。そして、最初は習った通り本を見ながら占いをしていた幸子でしたが、次第に『本に書いていることと、どう見ても正反対のお客さんがいたりする』と気づきます。そして『私は自分の直感で占うようになった』という展開。やがて『不思議なことに私の占いは当たると評判になり、人気が出てきた』という結果がついてきます。その後独立して今に至る幸子。そんな幸子は占い師として、占いをきっかけに、年齢も性別も他種多様な人たちの人生に大きく関わっていくことになります。

    『占い師』が主人公であるこの作品。”占い”をしてもらったことのない私には、まずその舞台裏に広がる世界がとても新鮮に感じられました。『当たるも八卦当たらぬも八卦』がモットーというジュリエ青柳に教えを乞い、やがて独立していく幸子ですが、そもそもアルバイトの募集広告で見つけた時給1200円の仕事という時点で”占い”という世界の神秘性が一気に崩れ落ちました。そして『相手の人柄や今ある環境を当てることはさほど困難なことではない』という幸子は『外見や話し方からほとんどのお客さんの性格はわかる』と言い切ります。『どんな人だって、弱いところがあるし、頑固なところもある』という納得感のある説明。確かに『繊細だって言われれば喜ぶし、優しい人だと言われて悪い気はしない』というのは私自身恐らくそう感じるであろう感覚です。それを『そういう誰にでも当てはまりそうなことを、それらしく話しておけばいいのだ』という幸子。こんな風にその舞台裏を淡々と説明されると、『二十分で三千円』はとても出す気になれません。さらに『未来を占うのも簡単』と具体的に言う幸子。『明るい未来と暗い未来を、七対三の割合で話す』というそのカラクリ。『外れたって、そうそう文句を言いに来る人はいない』と開き直りにも感じられるその考え方には、いやいやちょっと待ってください、と思わず詰め寄りたくもなります。『結局は話術だ』という『占い師』の舞台裏。実際に全ての『占い師』の方がこうなのかはわかりませんが、少なくとも私の中に少しは存在していた神秘性が一気に消し飛んでしまいました。そんな『占い師』の舞台裏を知ると、読み進める興味も失ってしまいそうですが、そんなところにこの作品の本質はありませんでした。

    『金持ちだけど自己中心的な年上の彼か、優しいけど生活力のない年下の彼。どっちと付き合うべきか。それが彼女の深刻な悩みだった』というように恋愛の相談が圧倒的な『占い師』の仕事。当初、『無駄遣いをする人がたくさんいる』と『占い師』の舞台裏を知って驚いた幸子ですが、同時にジュリエ青柳からは『三千円の価値をどうつけるかはあなたしだいよ。大事なのは正しく占うことじゃなくて、相手の背中を押すことだから』という言葉を伝えられていました。当初、意味を理解できなかった幸子ですが、人気が出て独立し、『占い師』として日々多くの人と対峙する中で『悩みなんて、人に話せた時点で半分は解決だから』と思うようになり、『ちょっぴり秘密にしている部分を誰かに話すのは楽しいことなのかもしれない』と”占い”に訪れる人々の気持ちを理解するようになっていきます。生きていると、自分の中にすでに答えを持っているにもかかわらず、その答えを出すということに躊躇する場面って結構多いと思います。自分が答えを出すべきことは、どこまでいっても自分で決着すべき問題です。そんな時、人は身近な誰かに相談をし、背中を押してもらおうとします。答えが出ていても最後の一押しを期待する人の弱さ、それは誰にでもある感情だとも思います。そんな役割はかえって利害関係の全くない赤の他人の方がいいと考える気持ちもわかります。『その人がさ、よりよくなれるように、踏みとどまってる足を進められるように、ちょっと背中を押すだけ。占いの役割って、そういうことなんだね』と気づいていく幸子。ただただ、胡散臭と思っていた『占い師』という職業について、その印象がごろっと変わってしまった、そんな読後感でした。

    『見ず知らずのいろんな人の話を聞くだけでも面白いのに、その上、その人の身の上のこととか、将来のこととか一緒に考えられる』という『占い師』の醍醐味を感じるこの作品。柔らかく、優しく、温かみのある言葉でふんわりと包んでくれる瀬尾さんの醍醐味溢れるこの作品。瀬尾さんならではの結末の絶妙な終わらせ方含め、瀬尾まいこワールド全開なその魅力にすっかり魅了された絶品中の絶品!でした。

  • ニベア、ファミリーセンター、おしまい予言、強運の持ち主、どれも温かかくて少し不思議なお話だった。
    占いは直感とか人相でっていうのもなんとなく分かる。100%当たることを伝えるのではなく、その人の背中を押してあげるような、そんなアドバイスをしたり悩みを聞いてあげるのが占い師の仕事なのだと思った。
    瀬尾まいこさんの作品は悪い人が1人も出てこないから良い。また他の本も読んでみたくなる。面白かった。

  • 縁起のよさそうなタイトルだったので、図書館で借りました。
    インチキ占い師に就職したルイーズ吉田こと私と恋人の通彦をめぐる連作短編集です。

    『ニベア』
    なぜかお小遣いをたくさん持って、何度もやってくる小学生の男の子がお客です。とっても好きなお話しでした。よかったです。

    『ファミリーセンター』
    好きな男子に振り向いてもらいたいという、女子高生がお客です。いくら占いが外れても、「次はどうすればいい」とやってきます。ちょっとしたどんでん返しがあります。

    『おしまい予言』
    これは何でも他人のおしまいが見えてしまうという大学生の男の子武田くんとのお話し。

    『強運の持ち主』
    ルイーズがアシスタントに竹子さんという女性を雇います。竹子さんは占い上すごい「強運の持ち主」であるはずの通彦を占うことになりますが・・・。

    ルイーズはインチキ占い師だけどインチキなりに(実は占いはできないので)逆にどうしたら問題が解決するか、お客さんのために考えます。
    もちろん、世の中にはどうしても解決できない問題や大変なこともあると思います。
    でも、このお話は、自分でどうしたらいいか考えて、行動すれば、よりよい方向に進んだり、人生を少し変えてみることはできるんだよ。というメッセージを発しているように私はかんじました。
    強運の持ち主とは、自分で、自分の道を切りひらいていこうと、考えたり、行動したりすることのできる人のことではないかと思いました。

  • 誰が強運の持ち主だったのだろう?

    とても楽しく読むことができ、心がほっこり暖かくなりました。
    読み終えた後、1つ疑問に思いました。強運の持ち主とは誰のことだったのだろう?
    父と母のどちらを選ぶか悩む少年、占いが何度外れてもやって来る女子高校生や、おしまいが見える青年、彼氏の通彦や主人公のルイーズ吉田など…
    誰しも生きていれば悩んだり、様々な選択を迫られることがあると思います。
    でも、自分で自分の直感を信じてあげられる人がもしかしたら、1番の強運の持ち主なのかもしれないとも思いました。

    誰かに背中を優しく押してもらったり、誰かの背中を優しく押したり…この本の登場人物の関係性がとても好きです。

  • 休日前の夜に思い切って購入し、1日で一気に読みきった。

    人の悩みには冷静なのに、いざ自分の悩みになると、答えそのものをつい求めたがる。そんな占い師の主人公に思わず共感。

    正しいことを言うことも必要だけど、相手の背中をそっと押してあげるのがアドバイス。

    そんな大切なことをふわっとした気持ちで知ることができる、いい本だと思う。

    • ikezawaさん
      「思い切って購入」ってのがイイ
      「思い切って購入」ってのがイイ
      2019/08/08
    • 旅する本好きさん
      コメントありがとうございます!
      コメントありがとうございます!
      2019/08/09
  • 読みやすく面白かった。人の運命は占いだけで決まるものじゃない。占い師も人としての寄り添いが大切なのだなと感じた。

  • 【ニベア】が、おもしろかった!

    お母さんが亡くなり、お父さんと息子の二人暮らしのお話。
    占い師 ルイーズ吉田
     『堅ニ君のお父さん、あんな妙ちくりんな女装、普通できないよ』

    『まあね』
    少年は自慢げに笑った。

    この本を読んで笑えておもしろかったし、
    私は、その日にあった 笑える話、嫌な出来事とかをいつも聞いてくれる人がいるって嬉しいことなんだなぁと思った。

     

  • さらさらと読めるあったかい物語。
    ルイーズさんの話術がすてき。
    占いにくる人たちって、本当は自分の中では答えが出ていると思うのよ。だけれど、誰かに背中を押してもらいたいの。それで思うとおりに応援してくれたりしたら、やっぱりね!と勇気も貰えて頑張れる。けれど反対でもされたときには、えーっ、でも…、だけど…なんて納得いかない自分がいるのよね。占いって道標みたいなもんだけど、最後は自分で答えを出すしかないわよね。

  • とても読みやすくて、ほっこり明るい気分になる本です!

    ルイーズ吉田という元OLの占い師がいました。
    ルイーズは人と関わるのを面倒くさいと思い会社をやめ、一人で直感的に占いをしていました。
    この本では4人のお客さんの占いをピックアップしていて、「お父さんとお母さん、どっちがいい?」という小学生や、振り向いてほしい人にどうアタックしたらいい?と何度占いがはずれてもやって来る女子高生、物事のおしまいが見えるんよ!という大学生。
    あとルイーズ吉田の彼氏である強運の持ち主の通彦など…
    師匠であるジュリエ青柳に相談しながら、占いをしていく。

    通彦の料理などすごく面白いのでおすすめです!

  • とてもほっこりする1冊だった。
    スルスルと読破できる心地良さがあった。

著者プロフィール

1974年大阪府生まれ。大谷女子大学文学部国文学科卒業。2001年『卵の緒』で「坊っちゃん文学賞大賞」を受賞。翌年、単行本『卵の緒』で作家デビューする。05年『幸福な食卓』で「吉川英治文学新人賞」、08年『戸村飯店 青春100連発』で「坪田譲治文学賞」、19年『そして、バトンは渡された』で「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『あと少し、もう少し』『春、戻る』『傑作はまだ』『夜明けのすべて』『その扉をたたく音』『夏の体温』等がある。

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