永遠のとなり (文春文庫 し 48-2)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 988
感想 : 125
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167772024

感想・レビュー・書評

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  •  主人公「私」は青野精一郎が語り部となっています。
    小説の舞台は福岡市で地元の高校から、現役で早稲田大学の政経学部に進学し、卒業後業界五番手の損害保険会社に就職しました。四十三歳で企画部門の部長に抜擢され、仕事に手応えを感じ始めていた矢先、会社が業界最大手の会社と合併してしまったところから彼の転落人生になります。
     主人公は、かつて部下だった女性と不倫関係に陥ったことがあります。そのことが、後年になって深いダメージを受け、うつ病を発症し、退社とともに離婚もしました。

     小説が書かれている時期は、その後ちょうど一年を経過したところから物語が始まります。主人公は、故郷の福岡に帰り、一人暮らしをしていたのです。

     主人公の親友は、津田敦という人物で、本書では、「あっちゃん」と呼ばれ、同い年の幼なじみです。彼は主人公と同じ高校を出て一橋大学に進み、卒業後は都市銀行に就職、母子家庭で努力家です。

     二十代で独立し、東京・銀座で経営コンサルタント事務所を開業していました。銀行勤務時代に親孝行をしようと思って母親を東京に呼び寄せていたところ、母親は死んでしまいます。そして煙草も吸わないのに肺がんになり、つらい治療に耐えているのです。この世の不合理に怒りさえ抱いてしまう。

     主人公とあっちゃんは、時に対話しながらそれぞれの考えを深めて、再生するという過程が、この物語の特徴ではないかと思います。

     著者の作品を読むのは初めてですが、読みにくい小説ではなく、著者とは世代が同じくらいで、所々含蓄があり腑に落ちて、思索をしていました。

     ※本書より抜粋
    『いつでもどんなことがあっても自分だけは、いまの自分というものを根本的に愛し、認め、許すようにしようと言い聞かせつづけてきた。結局、そうした他愛のない子供じみた自覚だけが、自らの病気を徐々に癒してくれる』
     お薦め作品です
     読書は楽しい。

  • 自分が虚ろな状態が鬱ではないか。未来の病気や過去の男出入りのことへの嫉妬、ましてやいま目の前の人に対して、天涯孤独な下枝を選ぶなど、自分のことばかり欲しがる。すべては己がつくりだした幻で、その幻に苦しめられる。いまだって、本を読んでいなければ、ぼくの中にできた心の隙間に幻が入り込んできて、自分を保てなくなってしまう。本に向き合ういまでさえ、君はどの文で泣き、笑い、励まされたのか思いを馳せてしまう。いつでも、どこでも、その気になれば情報を得られる現代、死を身近に感じることが減り、あきらめきれないことが多すぎる。生きること、死ぬこと、愛すること、愛されること、いつ、どこで、自分もどうなるか分からないなと思った。みんななにかを抱えてる。裏表があるから成長できる。まあ、それでも、ぼくの問題はそんなややこやしかったり、大きなことではなくて、自分のことばかりな幼稚さ。それだけのことなのに、いままで生きてきた癖はなかなか直せない。いまは気づけるようになったので、後悔の連続。それに気づかせてくれたのは、とても有り難い。だから、心からなにか力になりたいとは思う。応援するしかできないけど。現状への不平や不満ばかりを募らせて、いつも性急によりよい自分になろうとし過ぎていた。だからこそ、こうしてずっと厭いつづけてきたかつての自分自身たちから強烈なしっぺ返しを受けている。時が経ち、誰かに相談し、新たな関係性が築かれていくということは、もうもとには戻れない自覚を強めていく。そういうものだとも思う。

    女性は、やさしく、強く、たくましいな。

  • 死を意識したときの人。病んだ心を休ませ、ゆっくりとした回復途上の人。混ざりあったときの、静かな静かな心の交流。

  • 進学と就職で東京に出て、故郷に戻ってきたおじさん友達の話。
    わしと自称すると気が大きくなる、とかそんなことを言う友人をなぜそんなに主人公が親しく思うのか意味不明だった。あっちゃんが主人公に取って魅力的に見えるような描写が少ないせいで、最後の方で主人公があっちゃんをかけがえのない存在のように言ってていたがしっくりこなかった。

    また2人の過去についてももう少し掘ってくれないと2人の人間性全体像がよく見えてこない。

    中途半端な小説に感じてしまいました。

  • 読み始めは淡々とストーリーが進んでいて、イマイチかもって思っていたのが、だんだんだんだん何をテーマにしているのかが分かってきて後半は惹き込まれた。
    生と死、病、家族、仕事、友情、そして人生とは、、深かった。
    博多が舞台というのも良かった。
    博多には一度しか行ったことないけど好きな街。
    博多弁も好き。

  • 実は読むの2回目
    最近出た白石氏の新刊を読んでもう一度
    読みたくなり再読。
    鬱病になった主人公と癌を患った親友が
    東京から故郷福岡に戻った日常生活を描いた作品。
    幼馴染むの二人の距離感がなんとも言えず良い。
    この作品の二人と同世代の年齢の私は
    凄く共感出来る部分もあり、
    逆に毎日仕事に追われる身としては
    自分の時間がある主人公を羨ましく思うところもある。
    白石氏の作品の中で1番好きな作品。

    • ギテンさん
      またしばらくしたら読みたくなりそう
      またしばらくしたら読みたくなりそう
      2020/04/05
  • 順風満帆な人生を送ってきた男が部下の自殺により、鬱病を発症し東京から郷里へ帰ってきてからの物語。
    ガンと闘いながら生きる幼馴染みとの交流を描く。
    淡々と香椎で暮らす男たちの日常。
    再生の物語ではあるが、登場する幾人かの女性に寄り添えず、いまいち入り込めなかった。
    今年の11冊目
    2017.11.6

  • 私、この作家さん好きです。
    うつ病ってそうなんだって、実感できる表現。がんを患うとそうなんだって胸に迫る表現。

    あとまだ何冊か購入済み。楽しみ。

  • 二人のまわりで起こることが淡々とした文章で書かれている。白石さんの文章はものすごく綺麗でも流暢でもないが、するする淡々と読めてすっと心に入る。心の中も話す言葉も会話も、普通の人が生活しているうえで感じていても誰かに伝えられない感情を言葉にしていると思う。また白石一文の本を読みたいと感じた。

  • 白石作品の多くはエッジが強い。その文筆の強さがこの作家の魅力でもあるが、その強さは読む者にも大きなエネルギーを必要とする。

    本作は従来の作品に比べると穏やかである。社会と欲望との責めぎ合いが薄く、登場する人物も穏やかであり流れる時間も緩やかである。

    しかし、物語の中心となる二人には抗うことから逃れられない病気が側にいる。彼らは病気と向き合いながら自分自身と向き合う。来し方行く末を案じる。

    人生は生きているだけで価値があるというのはとても納得できる。誰かの死を通じてでしか自分の死と生を感じることはできないかもしれない。だからこそ焦らずにゆっくりと歩こうとするこの作品には鋭さよりも厚さがある。

    圧倒的な強さを持った白石節を期待すると少し物足りないかもしれないが、他の作品を知っているからこそ、本作の魅力がより味わえるということでもある。

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著者プロフィール

1958年、福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。文藝春秋に勤務していた2000年、『一瞬の光』を刊行。各紙誌で絶賛され、鮮烈なデビューを飾る。09年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞を、翌10年には『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞。巧みなストーリーテリングと生きる意味を真摯に問いかける思索的な作風で、現代日本文学シーンにおいて唯一無二の存在感を放っている。『不自由な心』『すぐそばの彼方』『私という運命について』など著作多数。

「2023年 『松雪先生は空を飛んだ 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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