インド ミニアチュール幻想 (文春文庫) (文春文庫 や 44-1)
- 文藝春秋 (2009年11月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (511ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167773199
感想・レビュー・書評
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16世紀から19世紀にかけてインドの宮廷で栄えた細密画(ミニチュアール)。神話や歴史、自然や音楽、文学までを繊細な筆使いで描いたミニチュアールは、ヨーロッパの絵画にも大きな影響を与えました。有名なところではレンブラントがミニチュアールを模写したものが残されています。ミニチュアールはもともと経典の写本にルーツを持つ宗教画でしたが、インドの思想や芸術、生活をいまに伝える大切な資料となっています。
本はミニチュアールに関わる画家一族やコレクター、骨董商などを取材したドキュメンタリー。このミニチュアールがインドでいかに特別なものか、教えてくれます。特に細かいところはリスの毛1本で描くという記述など、ミニチュアールの凄さとそれを大切にしてきたインドの人たちの本気さが伝わってきます。
ミニチュアールを通じてインドに触れる部分は、いままでインドのガイドブックなどにはなかった情報が満載で、読み応えも十分。著者はインドと「知られざる魯山人」など北大路魯山人をテーマにしたものの2テーマのみ。その潔さも魅力的です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
インドに限らずミニアチュール(細密画)が好きなので、そういう話が載ってるのかなーと思って買ってみた。描き出されるモチーフの背後にある神話のことや風物に詳しい解説があるのかと読み出したら、全然違っていて、それはそれでビックリするほど面白かった。
絵に描かれたモチーフについての解説はほとんどなく、細密画がインドのどの時代に、どこで描かれたのかということや、どんな人々が創り出しているのかという「現在進行形」の話がほとんどで、いろいろな切り口やいろいろな時代、細密画家だけに留まらず、細密画を生み出すに至った独立前のインドや独立による変化、インド思想、音楽、そして細密画家という職業カーストがいつ、どのようにして生まれたのかという歴史にまで踏み込んでいく。
個人的には細密画に魅了されたがあまりに犯罪に走ってしまった高名な収集家の話や、著者自身が地方の古美術商で掘り出し物を求めて繰り広げる丁々発止の駆け引きがとても面白かった。こんなところでユングのマンダラの話に出会うとは思わなかったけど、無意識とインド思想は物凄く近いところに位置しているらしい。