あまりにロシア的な。 (文春文庫 か 58-1)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167801816

作品紹介・あらすじ

国家崩壊後のロシアの熱狂とノスタルジー!国家崩壊から三年後のロシアで“ペテルブルク病”にかかり、酔いどれたちの坩堝で芸術・文学と向き合う日々。異色の留学記がここに!

感想・レビュー・書評

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  • ソローキン『青い脂』をもぞもぞ読んでいたときに、文庫化されていたのを知って、「何かの手がかりになるかもしれないなあ」と即買い。

    『カラマーゾフの兄弟』新訳の亀山さんが、40代はじめに2度目の留学をされたときの見聞が、書簡・新聞記事のクリップ・エッセイと、さまざまな形をとられてまとめられている。再留学当時は、ソ連が崩壊しロシアが成立して間もない、混乱冷めやらぬ時期。それもあってか、留学記にはつきものの、浮き立つような軽やかさというのは、全般を通じて少ないように感じられる。美的なものと下司なものと強権的なものの間で、亀山さんが学問の合間に「はああ」と息をつかれる様子が見えるような気がする。淡々とジャーナリスティックな描写や、書簡風エッセイの抑えた甘さの筆致が、愁いをおびて素敵。

    詩人・マヤコフスキーをはじめ、ロシア・ソ連文学、芸術関連のそうそうたるメンバーが紹介されるものの、悲しいかな、ほぼ完全アウェイ(涙)。それだけ、ロシア帝国→ソビエト社会主義共和国連邦→ロシア共和国という流れと、その文化が日本に紹介されるチャネルが細ってしまっているということなんだろう。卓越したロシア語通訳で、優れた文筆家でもあった米原万里さんが彼岸に旅立たれてしまってからは、特にそう思う。

    文化のパトロンを自任していた人物が、祖国のために収集していたはずだった芸術作品を海外に売り飛ばそうとした顛末の報道や、ご自身も写真撮影を気軽にしたところ、公安部門から執拗な追跡を受けるといった、「いかにもロシアあるある!」なとっつきやすいエピソードを追いつつ読み進め、アウェイはアウェイなりにロシア文学関係者の名前を覚え、彼らのエピソードを少しでも知るようになると、不思議なことに、それが『青い脂』とつながってくる(ような気がする)。具体的にどうとは言えないけれど、あの素っ頓狂な小説のディテールが徐々にリアリティを持ってくるというか…「あれって、結構ノンフィクションじゃないのー?」という感覚が増してきて、『青い脂』の楽しさが増してきた。にわかに仕込んだ知識だけでもこれだけ感覚が変わるんだから、その背景に明るい人にとっては、『青い脂』はある部分ではリアリティ満載の、抱腹絶倒パロディなんだろう。

    『青い脂』と平行読みをしたこともあって、結局半分以上は、『青い脂』理解のための副読本と化してしまったような気がする。偏った読みかただとは思うけれど、亀山さんによるソローキンのインタビューもソローキン評も掲載されているので、これから『青い脂』を読まれる予定のかたは、こちらも手元に置かれると、ちょっと感じが違ってくると思いますよ。いやほんとに。

  • あまり頁をめくる手が進まず…
    読了には至らなかったと思う。

  • ほんのちょっと古い内容かもしれないけれど、ロシアの事ほとんど知らない自分には読みやすいかなと思って。
    読む気にさせたのは、解説を読んだからかもしれない。。。

  • 【国家崩壊後のロシアの熱狂とノスタルジー!】国家崩壊から三年後のロシアで“ペテルブルク病”にかかり、酔いどれたちの坩堝で芸術・文学と向き合う日々。異色の留学記がここに!

  • 佐藤優氏のロシア評にしろ,ロシアという国には極めて頽廃的な臭いをそこらかしこに感じる.共産主義を背景とした国の有り様を議論する気はないが,ロシア外交の困難さの一端を垣間見ることは容易である.

  • 亀山郁夫教授が国家崩壊後から3年後のロシアに赴き、現地での文化や芸術に向き合う濃密な日々を記した書籍です。かなり難しい内容ですが、あの当時のロシアが持つ『光と闇』の部分が浮き彫りになっております。

    本書は亀山郁夫教授の「ロシアと私」とも言うべき体験記です。コラージュ的な書かれ方をしているので、読むのに苦労しました。旧ソ連崩壊から3年。1994年から1年間のロシア滞在で目の当たりにした『国家の崩壊』が描かれており、これは元外交官で現在は作家の佐藤優氏が『甦るロシア帝国』で描いたロシアと一致する時期や出来事があるので、個人的には本書と対になっております。

    ここで明らかにされているのですが、亀山教授はある日、ヴォルガ沿岸の町で撮影してはいけない橋を撮影してしまったということで、秘密警察からスパイの嫌疑をかけられ、悪夢のような時間をすごしたことについても触れられております。亀山教授は一度、大学時代にドストエフスキーと決別した後、何を専門分野にしていたのかというと、スターリン時代の「ロシア・アヴァンギャルド」という芸術のジャンルで、僕はこれを読むまでは一切知ることのなかったジャンルで、作中に出てくるマヤコフスキーやブレーブニコフなどのロシアの芸術家たちの軌跡を調べるために「科学アカデミー」に出入りして調査、研究をするのです。

    その過程の中で行われたオペラ、観劇、コンサート会場へ亀山教授は日参していたり、現地の研究者たちとのウオトカを交えながらの濃密なやりとりに、『ロシア的なるもの』を見つけ出し、その真髄に触れるというくだりは、この体験記が異質ながらも『時代の断片』を見事なまでに切り取り、「全体主義国家」としてのロシア/旧ソ連の光と闇の部分を浮き彫りにさせてくれたと思いました。

    あまり我々の日常には馴染みにくいのと、扱われているジャンルのテーマのマイナーさと難解さで、最後まで読み通すのは本当に骨の要ることでございました。読み終えた後にドストエフスキーの翻訳で一躍脚光を浴びた亀山教授の『原点』に触れることができたような気がしてなりませんでした。

  •  ソ連崩壊後、ロシアの地を巡行した留学記。とりあえずロシア文学に無知な僕には知らない人名の嵐で疲れた。だって、古典作家以外で読んだことあるのはソローキンだけなんだもの。
     しかし、そんなことが消し飛ぶほど意表を突かれたのは、この体験記がロシアへの嫌悪と病的な妄想に満ち満ちていること。時系列を無視してコラージュされる記憶と景色から沸き上がる不条理な世界観、これがロシア的なのか。

  • 「あの時代」…1994年頃から20年近くの時間が流れ、「ロシアの若い人達さえ、朧にしか知らない…」という状況になった現在であるからこそ、こういう本は広く読まれるべきかもしれない…

    「あの時代」…1920年代に書かれたというような戯曲が随分多く芝居として上演されていた…そしてそれが妙に“今日的”と思わせる空気が漂っていた…そんな雰囲気が伝わる一冊だ。

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著者プロフィール

名古屋外国語大学 学長。ロシア文学・文化論。著書に『甦るフレーブニコフ』、『磔のロシア—スターリンと芸術家たち』(大佛次郎賞)、『ドストエフスキー 父殺しの文学』『熱狂とユーフォリア』『謎とき『悪霊』』『ショスタコーヴィチ 引き裂かれた栄光』ほか。翻訳では、ドストエフスキーの五大長編(『罪と罰』『白痴』『悪霊』『未成年』『カラマーゾフの兄弟』)ほか、プラトーノフ『土台穴』など。なお、2015年には自身初となる小説『新カラマーゾフの兄弟』を刊行した。

「2023年 『愛、もしくは別れの夜に』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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