キサトア (文春文庫 し 52-2)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 81
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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167801908

作品紹介・あらすじ

世界的アーティストだが病気で色がわからないアーチ、朝と夜それぞれ真逆の時間に眠る不思議な双子の妹キサとトア。不便な事もあるけれど、"風のエキスパート"である父と海辺の町の愉快な仲間と共に楽しく暮らしている。だが父の仕事が原因で一家は少し困ったことに…。やさしい四季の物語。文庫書き下ろし掌編を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 主人公アーチは、風のエキスパートである父と双子の妹たちと住んでいる。妹のキサは夜明けに起き、夜更けに寝る。トアは夜更けに起き、夜明けに寝るという不思議な体質だ。風の通る海辺の町で、優しい人々に囲まれながら過ごす春夏秋冬を描いたファンタジー。
    アーチが語る文章は優しく、温かい雰囲気に包まれていて、読んでいてとても癒された。こんな人達と一緒に、こんな素敵な町に暮らせたら、どんなに幸せだろう。読み進めていくに従って幸せな気持ちは増し、読み終わった時にはとても優しい気持ちになれた。

  • 一部抜粋
    「キサとトアは、ああいう生活をしているけれど、たくさんの人たちに愛されている。お前は色を失ってしまっているけれど、独特の感性を持っている。なにかを失っているんじゃない。逆に何かを得ているんだ。そういう風に考えている。もしかしたらそれはお前たちへの贈り物なのかもしれない。だから無理に取り戻そうとしなくてもいいのかもしれない。すべては、時が来たらなるようになるんじゃないか」
    主人公の父が言った台詞で、他にもこの世に存在するものの繋がりとバランス·常に流動的で循環している…など自然物に対する考え方が個人的に共感できるし面白い。
    自然(風·水·緑·大地)に興味がある人にはオススメ。

  • ファンタジー小説のような、児童文学のような、不思議な感覚の本でした。
    作品が世界的に評価される、「色がわからない」小学生のアーチ。かれの双子の妹である「キサ」と「トア」はそれぞれ日の出ている時間と日の沈んでいる時間にしか起きていられないという不思議な子。彼らの父親のフウガは<風のエキスパート>として尊敬を集めており、一家は簡易宿泊所「カクンジョー」を経営しながら、町の人たちと楽しく暮らしています。

    父親の仕事が原因となって町の人と距離ができてしまったり、アーチの作品が盗まれたり、「水のエキスパート」が新たに町に呼ばれたり、と彼らを取り巻く環境にはつねに「変化」がありますが、「大きな事件」としてではなく、あくまで日常生活の一部として描かれています。

    自然と人間の営みのバランスを意識して行動することができる「エキスパート」の父を持つアーチの視点から描かれる物語は、ハラハラドキドキの冒険譚ではありませんが、今のあるがままの環境を受け入れ、それを楽しむ「子ども」の視点の大切さを改めて教えてくれる作品だと思います。
    心温まる、ほっとする物語です。

  • 【図書館本】良書!オススメ!とてもステキな物語でした!大人ファンタジーで雰囲気がとても好き。人物の設定も個性豊かなのに、お互い引きたてあって、この物語は街のみんなが主人公だと思った。ノスタルジックな感じにもなるし、旅に出たい気持ちにもなる。最後の記事では思わずニッコリしちゃいました。思い合う、支え合う、みんなの存在をしっかり感じる、そういう生き方はステキだな。キサトアちゃん、アーチくんとその仲間の成長が頼もしいです!

  • ほんわか系

  • 海から昇る朝日と、沈む夕日を見ることが出来る海辺の町に住む家族。
    父親は風のエキスパートで、長男のアーチは天才的アーティストだが色が認識できない。
    双子の妹でタイトルにもなっているキサとトアは、キサは日の出から日没まで、トアは日没から日の出までの間だけ起きていることが出来る。
    魔法使いも超能力者も出てこないけれどファンタジックな世界。

    主人公のアーチがすごした一年を描いている。
    登場人物がどんどんでてきて最初は混乱するものの、設定とキャラが分かりやすいから途中からは障害ではなくなった。

    大人達の対立、それにより仲のよかった子と遊べなくなったり、不穏な伝説の謎や盗人被害などがでてきて、春夏秋冬の、夏の終わりまでは傑作の予感がしたものの、終わりがなんとも尻つぼみ。
    玉手箱を見つけなかった浦島太郎的な…。
    不幸なことは起こらず大団円なわけだが山場がなく終わってしまって肩透かし…。

    アーチはいろいろなことを考え、知って成長はしていくものの、どうも肝心なところで周りが助けすぎている感じがして今一歩のカタルシス不足。
    読んですっきりよい話、だけど今一歩塩気が足りない感じ。
    なんとも惜しい。

  • ヤングアダルト作品なんで、買うのを少し躊躇したが、小路さんはホント、ハズレなしだね。

    おとぎ話のような内容だけど、その優しい世界に包まれている間の幸福感がたまらないねぇ。

    読後、少しだけ目の前の世界の色が変わったような気がした。

    「どんなに空が曇ったって雨が降ったって、正しいことをしている人間の心は雲の上みたいに真っ青さ。(中略)風は、いつか雲を吹き飛ばしてくれるよ。」(P203)

    「お前のハートは強い。でも、父さんのハートはそれよりももっと強いからな。しんどくなったらいつでもぶつかってこい」(P211)

    「この世界は、皆がそう望めば素晴らしいものになるんだと、皆に思い出させてくれ。その才能で、この町から、多くの幸せや希望をあちこちに運ぶ架け橋になってくれ」(P278)

  • とある町の子供達を取り巻く、優しいファンタジー。
    残酷な自然や理不尽な大人のしがらみの中でも、真っ直ぐに伸びてゆく子供達の姿がまぶしい。
    色が分からないアーチと、日の出日の入りと共に逆の眠りにつく双子のキサとトアの病気も、「病気」ではなく「個性」と思えるほど、町の人々の理解と協力が暖かく感じられました。

  • 自然と共存しながら、ハンデを持った人も分け隔てなくみんなが自分らしく生きている。自分にできることを精一杯やり、できないことはみんなで補い合える、理想的な社会だった。
    ほんの少しの想像力と優しさと閃きが幸せを呼ぶ。
    他者とどう付き合っていくか、基本に立ち戻らせてくれた。



  • 世界的アーティストだが、病気で色彩がわからない主人公の男の子。その双子の妹も不思議な病いを持つ。朝と夜それぞれ真逆の時間に寝起きする。
    ノン・24アワー・スリープウェイク・シンドローム。
    そんな子供達と、不思議な力を持った父親と小さな村の住人のお話。小路幸也氏のこういう、人情ものというか、ふんわりと柔らかい物語の紡ぎ方は癒されるな。
    とは言え、2012年に出版された年を考えると東日本大震災の影響は受けているな。科学技術が進歩しても、太古から現代まで人間の歴史は自然との戦いを繰り返し、共存してゆくと。
    久しぶりにバタフライエフェクトを思い出した。
    物事の距離の取り方。均衡、バランス、大切ですね。

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著者プロフィール

1961年、北海道生まれ。広告制作会社勤務などを経て、2002年に『空を見上げる古い歌を口ずさむ pulp-town fiction』で、第29回メフィスト賞を受賞して翌年デビュー。温かい筆致と優しい目線で描かれた作品は、ミステリから青春小説、家族小説など多岐にわたる。2013年、代表作である「東京バンドワゴン」シリーズがテレビドラマ化される。おもな著書に、「マイ・ディア・ポリスマン」「花咲小路」「駐在日記」「御挨拶」「国道食堂」「蘆野原偲郷」「すべての神様の十月」シリーズ、『明日は結婚式』(祥伝社)、『素晴らしき国 Great Place』(角川春樹事務所)、『東京カウガール』『ロング・ロング・ホリディ』(以上、PHP文芸文庫)などがある。

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