日本の路地を旅する (文春文庫 う 29-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (383ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167801960

作品紹介・あらすじ

中上健次はそこを「路地」と呼んだ。「路地」とは被差別部落のことである。自らの出身地である大阪・更池を出発点に、日本の「路地」を訪ね歩くその旅は、いつしか、少女に対して恥ずべき犯罪を犯して沖縄に流れていった実兄との幼き日の切ない思い出を確認する旅に。大宅壮一ノンフィクション賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 被差別部落問題ってなんとなくずっと心に引っかかっている。ふつうに学校の授業を受けている時間だけではこの言葉に出会ってこなかったと思う(ってもちろん私が聞いてなかっただけかもしれないけど)。それでもこれを知っているのは、高校の学校行事で行った広島旅行で、被差別部落を訪問するというコースを選択したからだ。今よりもっともっと世間知らずだった私、「どんな特殊な地域なんだろう?」という好奇心もあって選択したわけだが、行ってみると拍子抜けというか、とても普通だった。ますます、なにがどうしてなぜ差別をされているのかわからなかった。それから大学の研究旅行の中でも、三味線作りの見学に行ったとき、「皮を扱う職業は、アレなんで、デリケートな方もいらっしゃるんで、写真撮影はダメです」とだけ言われて、今思えばそこをアレで済ませて研究旅行としてよいのか疑問、という感じで帰って来た。結局なんなん?という気持ちがずっとある。

    で、こういう本を読んでみて、全てが氷解!というわけではもちろんないのですが、「で、フラットに、当事者の人はいまどんなふうに過ごしているの?」という疑問に答えてくれる良書でした。全国の被差別部落(著者はそれを路地と呼んでいますが)を取材して歩く著者の原動力が、(どちらかに偏らざるを得ない)熱い正義感、とかではなく、ご自分のルーツ探しのようなところがあって、それゆえの謙虚さというか、時には立ち入り過ぎたことは聞けず収穫少なく帰ってくることもある、まんじり、みたいな余韻も、誠実でいいなあと思いました。ルポルタージュというものをそうそう読みつけていないので、取材する者の腕としての良し悪しはわかりませんが、自分は別次元の人間だーみたいに勘違いしてガツガツえぐり取っていくような悪いイメージが、ルポライターってあったので(ごめんなさい)、知りたいことは知れたけど自分も悪いことをしたような不快感ばかりが残るようだったらどうしよう、という不安は、杞憂に終わりました。
    最近、美味しいなあと思っているかすうどんが、著者によると屠殺を生業にしていた路地の料理だそうで、びっくりした。屠殺、三味線作り、芸人さん、出産の時に出る胎盤の処理、、、などなどの職業が路地とは関わりが深いようだが、どれもこれも自分だってお世話になっている大事な仕事だというのに、なぜ人は差別するのでしょうね。かすうどんは美味しいし。やっぱり理解できないなー、そう思う反面、自分はそういう謎の差別をしていない/しないと言い切れるのか?胸に手を当てて考えてみる。そういう時間をくれる本でした。

    • chapopoさん
      私も部落問題は中学か高校の時からずっと気になっていて、何故そのような差別が発生したのか、その人たちが差別されるに至った理由が何かあるのかお知...
      私も部落問題は中学か高校の時からずっと気になっていて、何故そのような差別が発生したのか、その人たちが差別されるに至った理由が何かあるのかお知りたかった。
      お父さんが若い頃仕事で被差別の人たちと交流があったと聞いていたので、質問したことがある。
      大した理由なんて無いだろう、というような趣旨の返事だった。
      結局謎は謎のまま。
      『狭山裁判』っていう本が私の本棚にあるが、あれも部落問題が根底に有るのよね。
      ユダヤ教にしてもそうだけど、私は根っこの部分が知りたくて、いろいろ読んだけど、はっきり分からない。
      多分、きっと、大した理由なんて無い、のだろうと、最近は思っている。人間は弱い生き物だから、自分より弱い対象が欲しかっただけなのかも知れない。だからそれは誰でもよくて、たまたま、その時隣に居た人、くらいの理由かもしれない。その本読んでみようっと。
      2013/07/13
    • akikobbさん
      そうねえ、なるほど!というような理由なんてないんだろうねえ。
      覚えてたら本持ってく。
      そうねえ、なるほど!というような理由なんてないんだろうねえ。
      覚えてたら本持ってく。
      2013/07/15
  • 「路地」とは作家中上健次氏のいう「被差別部落」である。東日本に居ると実感が持ちにくいが、部落問題は東洋のカーストと称され差別が遺恨とその後の特権を生んだ、戦後社会に蔦のように絡み付く問題であった。昨今、世代交代が進み良くも悪くも風化しつつある路地を筆者は巡る。筆者自身が「路地」である更池出身であり、旅情気分で淡々と路地を訪問しているようで神経を抉り取られるような思いで自らのルーツに向き合っていることが読み取れる。

    『血縁』の章は綺麗事一切なしの剝き出しの現実がそこにあり哀しさと美しさが残る。敗残者として南西へ逃避していった兄と向き合ったとき、現実は劇的な事など起こりようもなく無味乾燥で酷薄なものなのであろう。客観を保つことが難しい自身の深淵な傷を眺める、ドキュメンタリーの何たるかがこの章に込められている。

    おまけで西村氏のあとがきがなかなか面白い。

  • 路地とは、かつて中上健次がそう呼んだ被差別部落のこと。筆者は自らのルーツである大阪更池を皮切りに、全国の路地を訪ねていく。私も大阪の下町で育ち、作者とほぼ同年代であるから、その雰囲気くらいはわかる。友人にも路地の子がいた。全国には6000を超える路地があるという。おそらく気がついていないだけで、身近な地域に路地はある。
    筆者自らスケッチと語るように、まとまりのいい体裁とはなっていない。学術書ではないため出典も明白ではなく、成否を論ずることは難しい。しかし、路地のウチとソト、その境界を行き来できる著者だからこそ書けたルポと言える。

  • 差別はとてもデリケートな問題で、そっとこのまま消え去っているのが一番いいと思っているのですが、実際にそこで生まれ育った人たちにとっては故郷でもあるわけで、なかなか一遍通りには行かない問題だと思います。
    関東に居ると全然感じませんが、関西の人は結構カジュアルに差別用語口に出したりするので、差別的な事と非常に距離が近いんだろうと思います。
    興味を持ったのは「路地の子」という自身の父親を主題にした被差別部落のノンフィクションを読んでの話なのですが、この本が後日誤認多数ありという事で、社会的に問題を巻き起こしている本で、ノンフィクションとしては眉唾ものとして扱われています。フィクションとして読めばリアル「血と骨」のような本でぐいぐい読ませるのですが、なんとも言い難いケチが付いてしまったものです。
    何冊か読みましたが、アウトローな雰囲気が多大に感じられる人なので、読んでいても反感を覚える事も有り、純粋に感覚を共有する事は難しいです。この本もわざわざ掘り返す必要があるのかと何度も突っ込みを入れて読みましたが、何しろ自身が被差別者であるという強みがあるので皆何も言えない部分が有ります。
    本書は日本各地に残る被差別部落の名残(路地と表現)を訪ね歩く内容で、やるせない気持ちになります。人間の暗部というか、どこか自分よりも下を作って安心したいという薄暗い本能のような物を感じます。
    どう考えても同じ人間なのに、地域地域で差別される人々がいて、綿々と受け継がれているという事が本当に不思議です。
    多分僕らの孫世代が大人になった頃には痕跡しか残らない愚行になると思っています。

  • 地方を含め様々な同和地区を探索したエッセイ。
    同和地区の成立ちや文化等無知な部分多かったため、非常に興味深く面白く読めた。

  • この本は、かなり、面白かった。昔から部落問題が言われていたが、それらが、日本の地方の暮らしに深くかかわっていて、今は、平穏に見えるかその土地も身分、家、部落などのしがらみの中で、生活してきたとわかり、今の寂れた地方の底流にあるものが見えた気がした。しかし、その場所を本から特定して、地図で、確認したいと思っても、取材される側に遠慮をしているのか、不正確にしか書かれていないので、場所が特定できない場合が多かった。また、見方が若干、被差別再度よりと思える部分も感じた部分もあった。犯罪者、犯罪に関する部分などが、個人的にそのように感じた部分も一部あったように思った。後は、訪ねて行ったが、いなかったときに、引っ越し先に行って、その話を聞くなど、もう少し、掘り下げてもらいたい部分もあったが、あの的ヶ浜にある旅館に長期滞在している中年女性の話、この旅館の様子などの記述は、素晴らしかった。また、路地を訪ねて旅をするうちに、日本の地方の古い、裏のことを探っているようで、面白かった。また、もう少ししたら、路地、部落のことも、わからなくなると思うので、記録を残す意味でも、いい本と思いました。面白かったです。夢中で、読みました。

  • 上原善広氏の「日本の路地を旅する」(2012.6)を読みました。東京下町路地裏散歩が好きな私は、その延長の本と思って図書館で借りましたが、全く違った本でした。大宅壮一ノンフィクション賞受賞作品です。被差別部落のことを「路地」というそうで、最初にそう呼んだ人は作家の中上健次氏だそうです。全国に路地は6000以上あるそうですが、著者は13年かけて500以上の路地を巡り歩き、この作品を刊行されたそうです。路地の哀しみと苦悩、路地の過去と現在を描いた作品です。

  • 身近にあった路地。よく知っているつもりだったけど、知らないこともたくさんあった。素朴な疑問。屠場で働く人は差別されるが、肉は高級品。何故だ?屠殺が汚らわしいてか?命を射るもの、命を食すもの、同じやん。

  • 丸善のフェアで中上健次の『紀州』と並んでいたので、こちらも購入。
    『紀州』では中上健次が自身のルーツである和歌山の被差別部落を回っていたが、本書は著者の出身地である大阪を皮切りに、全国を巡っている。
    この2冊の共通点は、どちらもルポルタージュの体裁を取りながら、実際は自身の内面への旅ではないのか、というところ。解説で西村賢太が『私小説』と表現しているが、ルポルタージュと私小説のあわいにあるものだと感じる。
    最終章で著者が兄と再会する時のいたたまれなさが、一時期の私小説にあった独特の雰囲気と通じるものがあると思う。

  • 幕末に孝明天皇は何故、「開国」を断固として拒んだのか?歴史と食文化の現状に無知な公家たちは「肉食」が穢らわしい、異人自体も穢らわしいとしか思えなかったのだろう(伊沢元彦『逆説の日本史』)。新鮮な食肉を求める外国船の要求に松前藩は箱館に穢多の者を呼びよせ対処することにした。第2章、最北の路地。皮が太鼓作りに使用される。ねぶたの太鼓は馬が良い。(そういえばゲーム『花と蛇』の主人公は川田といった)。肉を扱う者が差別されるのは日本だけ。著者のルーツ大阪は第1章。自らの出自を誇るというスタンスで日本各地の人と交流

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著者プロフィール

1978年、大阪府生まれ。大阪体育大学卒業後、ノンフィクションの取材・執筆を始める。2010年、『日本の路地を歩く』(文藝春秋)で第41回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。2012年、「『最も危険な政治家』橋本徹研究」(「新潮45」)の記事で第18回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞大賞受賞。著書に『被差別のグルメ』、『被差別の食卓』(以上新潮新書)、『異邦人一世界の辺境を旅する』(文春文庫)、『私家版 差別語辞典』(新潮選書)など多数。

「2017年 『シリーズ紙礫6 路地』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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