ふたり静 (文春文庫 ふ 31-1 切り絵図屋清七)

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  • 文藝春秋
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  • / ISBN・EAN: 9784167810016

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりの藤原緋沙子さんの作品が、私の心を温めます。
    ふたり静 ー 切り絵図屋清七シリーズの1作目
    2011.06発行。字の大きさは…中。2022.06.03読了。★★★★☆
    苦労して育った長谷清七郎は、人の心の痛みが分かるやさしい気持ちの持ち主です。その清七郎が江戸の町で颯爽と生きて行く人情物語です。
    春塵、紅梅坂、ふたり静、の連作中編三話。

    【春塵】
    浪人の長谷清七郎25才は、勘定組頭で旗本三百石長谷半左衛門が、台所女中に産ませた子である。3年前に義兄で長谷家の嫡男・市之進と木刀で対決して勝ち、屋敷を出て長屋で暮らしながら浮世絵や絵双紙を扱う「紀の字屋」で働いています。
    紀の字屋の主・藤兵衛が脚気(かっけ)で足を悪くして店を清七郎に譲ると言いだした。
    紀の字屋に出入りしている絵師で甲州石和の名主の息子・与一郎が、賭場で捕まったのを助けた、お節介な清七郎のまわりに人が集まって来ます。
    春塵(しゅんじん)とは、春風に舞い上がるすなぼこり。

    【紅梅坂】
    旗本千八百石の牧野長門守の奥方は、子供が出来なかったが、三年奉公で知行地からきた女中・おみよに牧野が手を付けて子供が生まれます。奥方は、我が子として育てる。三年経っても帰って来ないので、知行地からおみよの父・佐治平と許嫁・伊太郎が訪ねて来ると。佐治平が殺され。そして傷を負った伊太郎が、紀の字屋に助けを求めてくると…。

    清七郎は、父・半左衛門と三年ぶりに屋敷で会うと。父は、清七郎に帰って来るように言うが、それは嫡男・市之進が祝言を挙げた織恵が病弱で子供を生めないと思われるため。万一の場合の跡継として屋敷に留め置こうとする。清七郎が、紀の字屋を継ぐことを話すと一年間の期間で成果を上げるように言い、もし上げることが出来ない時は、屋敷に帰って来るように命ずる。

    清七郎は、母が亡くなっあと長谷家に引き取られるが。長谷家では、父・半左衛門の次男としてではなく、家士(家来)として扱われ。半左衛門を父とは呼べず旦那様と呼んで育つ。

    【ふたり静】
    清七郎は、むかし父・半左衛門から頂いた、幕府の普請方が、御府内の道路、水道、町屋敷、武家屋敷などの変遷を知る必要に迫られて作成した御府内の「御府内往還其外沿革図書」という絵図を商いに使うことを考え、両刀を捨てて町人となり、名も「清七」と改めて御府内の切絵図を作ることを始めます。まず最初は、江戸城御曲輪内の切り絵図と、外桜田門の絵図を七色の色刷りで作り各百文で売ります。

    小平次は、一家で紙問屋津野屋に世話になっていたが、店を乗っ取ろうとした番頭の房次郎に謀られ父が毒殺され。津野屋の主人も毒殺され。房次郎は、津野屋の一人娘・おふくと祝言を挙げ店を乗っ取ります。小平次は、荒れ狂いとうとう巾着切り(掏摸)に身を落とします。そこを紀の字屋の先代に助けられます。

    【読後】
    藤原緋沙子さんの作品は、人を掘り下げて、人情味豊かに書かれていて、心があたたまり、ほんわかしてきます。展開も早く、テンポもよく、余分な文章もなく、読みやすいです。今回は、紀の字屋を営む清七、手伝う小平次、与一郎の三人を各話で深く語っています。藤原さんは、私の心に、登場人物を溶けこませていきます。

    三話とも良かったです。その中でも小平次が秘かに想う津野屋の一人娘おふくへの想いを書いた「ふたり静」が特によかったです。
    2011年6月~2019年12月までで6冊出版されています。これから読むのが楽しみです。

    【再読】
    読んでいる途中で、あれ、筋書が分かってきます…。いつ、読んだかはっきりしませんが、このシリーズは途中まで読んだようです。

  • 主人公は絵双紙本屋の紀の字屋に出入りする浪人・長谷清七郎。

    切り絵図というのがこのシリーズの切り口で、まだまだ題材はあるんだなぁ、と感心。

    作者の藤原さんはもともと脚本家だそうで、この本もなるほどの運びです。

    清七郎はじめ周囲の人物のことがある程度わかり、これからシリーズが始まっていく、という感じです。

    解説の縄田一男氏によれば、佐伯泰英、鳥羽亮、鈴木英治、そしてこの藤原 緋沙子氏が文庫書き下ろし時代小説の四天王と思っているのだとか。

    なんと誰も読んだことがない。

    とりあえずこのシリーズは読んでみよう。(ってまだこの一冊だけなんだけど)

  • プロローグとして上手くまとめられていると思いました。第二巻も楽しみです。

  • 長七郎江戸日記も良かったが、今回の切り絵図屋清七も、面白い。

    橋回り同心の平七郎控えも、好きであった。

    人生谷あり苦ありで、平々凡々とは、生涯を過ごせないように、小説でも、苦労しながら、育った清七郎が、武士を捨て、絵草子本屋の紀の字屋の清七となる。

    3話からなるが、、切り絵図の製作にかかわっていく清七の姿と、心根は優しいのだが、羽目を外した与一郎と、巾着切りだった小平治の3人が醸し出していく これからの仕事ぶりが、楽しみである。

    先日 飯田橋や神田ヘ行って来たばかりであるが、やはり、江戸時代の古地図を見て、散策したいものだと、思った。

    そうそう、未届け人秋月伊織事件帖も好きな作品である。

  • 第一弾
    絵双紙本屋紀の字屋を引き継ぐことになった元武士の精七郎・精七と
    過去に問題のある仲間たちの出発の物語
    中心になろう小平次、与一郎の過去を題材にした短編二編と自分の幼い日を重ね合わせた忠吉の話で構成
    紀の字屋の主藤兵衛とその世話をする不思議な女おゆり等
    登場人物には事欠かない

  • 発生する事件を解決していく、おなじみの形式の連作短編だが、主要人物の新事業を根底に敷いており、事件のみならずそちらの行方も気になる。
    主要人物の性格設定もよい。

  • いま時代小説がはやっているらしい。

    書店で平積みされた表紙とタイトルを見て思わず買ってしまった一冊。

    江戸時代のことを知りたい。
    日本人としてきちんと江戸時代を評価しておきたい。

    こんなたいそうな動機で小説をあさっています。

    本当は小説だけではいけませんよね。

    しかし、わたしにはもう残された時間がない。
    楽しみながら江戸時代を体感しましょう。

  • 清七、小平次、与一郎の三人の青年らが、
    切り絵図を作成し、店を切り盛りしていく、
    青春群像に、武士社会のいざこざを盛り込んだ、
    読みやすいシリーズものだ。

    これまで、時代小説、特に江戸の市井小説を
    かなり読んできたのだが、
    そのたび、そこに登場する場所や、
    橋、川の名前を地図でたどりつつ読んだら、
    主人公たちが泣き、笑い、走り回る様が
    生き生きと感じられるだろう、なんて、思っていた。

    古書店で売られている古地図は、
    とてもとても手が出るようなものではなく、
    ネットに掲載されている絵図をダウンロードして、
    印刷し、楽しんでいる。

    清七たちが作る切り絵図、手に取って眺めてみたい。

    主人公の清七はもともと、勘定組頭、長谷半左衛門の
    次男、清七郎として長谷家に住んでいたが、
    半左衛門が女中に産ませた妾腹の子で、
    長谷家の奥方から苛め抜かれ、下士同然の扱いを
    受けていた。

    そして、ついに、我慢の限界を超えた清七は、
    長谷家を飛び出し、絵双紙本屋「紀の字屋」の主、
    藤兵衛に拾われる。

    その後、勘定奉行が関わる不正、殺人など、
    もろもろの事件に、紀の字屋で仕事をする仲間、
    小平次、与一郎とともに挑んでいく。

  • (2019-07-20L)

  • 内容(「BOOK」データベースより)

    絵双紙本屋の紀の字屋に出入りする浪人・清七郎は、弱い者を見過ごしにできぬ性分。江戸の町に不慣れな者たちが辛い目に遇っていると知り、自分の足で調べ上げた切り絵図を作りたいと夢を抱く。折しも主の藤兵衛が病に倒れ、清七郎に店を譲りたいと持ちかけられる…。清新な時代小説書き下ろし新シリーズ。

    平成30年6月4日~6日

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著者プロフィール

藤原緋沙子(ふじわらひさこ)
高知県生まれ。立命館大学文学部史学科卒。シナリオライターとして活躍する傍ら、小松左京主催の「創翔塾」で小説を志す。2013年に「隅田川御用帳」シリーズで第2回歴史時代作家クラブ賞シリーズ賞を受賞。本書は土佐の絵師として人々の幸せを願い描き続けた金蔵の生涯を温かい眼差しで活写した渾身の時代小説。著者の作家生活20周年記念作品である。著書に「橋廻り同心・平七郎控」シリーズ(祥伝社文庫)他多数。

「2023年 『絵師金蔵 赤色浄土』 で使われていた紹介文から引用しています。」

藤原緋沙子の作品

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