1922 (文春文庫 キ 2-38)

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  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167812140

作品紹介・あらすじ

8年前、私は息子とともに妻を殺し、古井戸に捨てた。殺すことに迷いはなかった。しかし私と息子は、これをきっかけに底なしの破滅へと落下しはじめたのだ…罪悪のもたらす魂の地獄!恐怖の帝王がパワフルな筆致で圧倒する荒涼たる犯罪小説「1922」と、黒いユーモア満載の「公正な取引」を収録。巨匠の最新作品集。

感想・レビュー・書評

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  • ご無沙汰となりました、、、。

    1日20ページくらいでコツコツ読み進めた。読了まで2週間弱かかったのだがその間、ゼロから十までどっぷりな暗黒世界観に囚われ、寝る前に夢に出てこない事を日々願うルーティンが定着した濃密期間だった。努力は報われた、安眠マン。

    息子と共に妻を殺した「わたし」が語り手。
    妻の殺害について、何時(1922年)、何故、どうやって、が事細かに綴られた告白文はとても陰鬱で重たい。夕飯に油物を控えたくなるくらいに重たい。当然、気分が高揚する訳がないので読むタイミングは完全に自己責任願う代物だろう。食欲減退効果はあるのでダイエットにはオススメだ。

    怒涛の畳み掛けも無ければ衝撃の結末が待ち受けている訳でも無い。特筆された展開は無く、内容としては短編で事足りる情報量だ。
    しかし、「わたし」ことウィルフレッドが妻、アルレットを殺害する描写と、息子ヘンリーを巻き込み共に底に堕ちて行く心理描写は派手さは無いものの圧巻だ。ゆっくりゆっくり侵食していく闇がまるで姿を持たないモンスターの様だった。

    後に現れる無力で(小さいとはいえ大きい)おぞましいネズミ達が与える恐怖は計り知れない。アルレットの亡霊が魅せた悪夢なのだろう。
    アルレットは死してネズミの餌となり、寝床となり、そして彼等の女王となり従者達をウィルフレッドに送り込んだ。彼を蝕み、心を壊し、息子共々破滅の道に引きずり込むよう命じたのだろう...か。

    因みに息子ヘンリーの若気が至り過ぎる青い言動はそこまでピンと来なかった。何色にも染まり視野の狭い一般過程真っ只中の主人公の息子くらいの認識だ。彼は愚かだった...報われるよう願っている。

    さて、終始不穏極まりない雰囲気とワードが広範囲に散布された文を目で追い続けていると、現在の自分の置かれた平穏な環境が急に不安定な物に感じてしまう。
    実際は 空は青く、空気は美味しく、飼い猫は日向でゴロゴロしている、のにだ。この通称、「摩訶不思議現象」を魔法のように追体験させてくれるキングの作品はやはり大人になっても止められないもので、現実に戻った時の「平穏」の有り難さを何倍にも感じる事が出来る。
    ーーーーーーーーーーーーーーーー

    「俗悪だ」と言われればそれまでだし、若い世代に胸を張ってオススメする事が出来ない作品なのは間違いない。
    しかし、人を憎み 人を殺め 人を壊す事を決して正当化せず、「それをした人間の末路は破滅だ」と恐ろしい描写で表現するキングに対して、時に私は彼を世界の平和を守るダークヒーローに感じる時がある。闇堕ちしがちなダークヒーローですが(笑)

    ネトフリにて映像配信されている様なのでそちらも楽しみたいと思います。

    • akodamさん
      NORAxxさん、こんにちは。
      相棒、ご無沙汰で心配したぜー。
      安眠マンだったようで安心*´-`)

      今回も熱量たっぷりなレビューをありがと...
      NORAxxさん、こんにちは。
      相棒、ご無沙汰で心配したぜー。
      安眠マンだったようで安心*´-`)

      今回も熱量たっぷりなレビューをありがとう、ぐらっつぇ。

      姿を持たないモンスターというのが印象的で末恐ろしいが、きっと最も的確な表現なんだろうと妄想。

      スティーヴン キング。
      私のミステリ推察力からして、まだまだ彼の背中が遠いのですが、いつかチャレンジしてみたい。
      2021/11/12
    • NORAxxさん
      ぼなせーら、akodamさん。
      お久しぶりだー相棒よ、感慨深い( ;꒳​; )笑

      姿を持つ文字通りのモンスターが出るキング作品も魅力的で...
      ぼなせーら、akodamさん。
      お久しぶりだー相棒よ、感慨深い( ;꒳​; )笑

      姿を持つ文字通りのモンスターが出るキング作品も魅力的ですが、得体の知れない闇 蔓延る展開もまた違う鳥肌が味わえました。

      akodamさん好みのミステリ枠ではありませんが、愚かにも暗黒書物に手を伸ばす闇堕ちヒロイン疑似体験がしたくなったら是非手に取って見て下さいな!!笑

      久々の投稿にコメント、ぐらっつぇぐらっつぇ( 人˘ω˘ )
      2021/11/12
  • これは怖い…。
    ゾゾ〜っと背筋が凍る類の恐怖。
    まさに、人を呪わば穴二つ。

  • スティーブンキングらしい、陰鬱な感じのストーリーだが
    冒頭の妻殺しの部分だけでオエっとなって
    ドロップアウトしそうだった。
    自業自得ではあるがちょっと鬱々としすぎていてて。。。。

    これと短篇「公正な取引」、主人公が本当に対照的だった

  • 全盛期のキングには程遠いながらも、それでも普通に読ませるのはさすがと言うべきなのか。とはいえ、たくさんあるキングの傑作小説の中にあれば埋没必死の凡作になるだろうなぁ。

    救いのない闇小説2編
    表題作は読んでみればすぐ分かる救いのなさ。息子と2人で結託して嫁さん殺して幸せになるわけがないわな。もっとも振り回された親友(元?)はたまったもんやないやろけど。

    もう1作の方はちょっとひねってある。作品自体じゃなく読んだ人の心のダークさを試す展開。人を呪わば穴2つと言うが、1つの穴を金で塞いで幸せになれるのかどうか

    読後感はよろしくないが(キングにそれを求めるのはグリーンマイルと刑務所のリタ・ヘイワースぐらいなもんで…)キングらしい暗くて痛いヤな感じは味わえる。

  • 新年早々最悪の読後感の本を読んでしまったが、こういうのは嫌いではない。長めの中編「1922」と短編「公正な取引」が収録。「1922」はある農夫が妻を殺害して、庭の古井戸に遺体を捨てる。しかも息子を唆して手伝わせるのだ。もちろん彼は報いを受けて人生の大切なもの全てを失い恐ろしい最期を迎える。その過程が圧倒的だ。殺害シーンや遺体についての描写は生々しいし、農夫と家畜の関係もリアルだったり、こういった細部の丁寧さがストーリーに深みを与えるのだと思った。

  • 暗い、汚い、怖い、3K。
    表紙を見て、ネズミ?可愛いかも?
    なんて手に取ったのだが…
    どこか、Jホラー的な怖さかも。

    寝る前に読んだら、ガッツリ悪夢になった。

  • スティーヴン・キングは『ペット・セメタリー』のあとでちょっと方向転換をしてしまい、ハッピーエンド志向とか、ゾロアスター教ふうの「善悪二元論」が前面に出されたりとか、あるいはそろそろ創作上のアイディアのパワーが弱まってきたようにも思える。かつてほどの「ベストセラーメーカー」ぶりはもう影が薄く、人々にも飽きられてきたかもしれない。
    しかし彼の小説に出てくる「いかにもアメリカ人的な」モノローグの粘りが私は好きで、それはドストエフスキーや太宰治にも比較すべきものだと考えている。彼のスプラッタ趣味には共感というものは感じないが、物語をとおして「内面」のうねりを形成してゆく手腕は、文学的価値をも持っていると思う。

    さてこの本には2つの作品が収められているが、最初の「1922」は文庫本1冊として出しても良いくらいに長く、面白い。
    この小説では、冒頭、農夫が息子と共に、性悪な妻を殺害し、井戸に死体を隠す。動機としては、妻の人格的問題もあるが、「土地」を売るか売らないかという問題が、いちおうきっかけになっている。それにしても、14歳の息子に彼の母親の殺害を手伝わせるというシチュエーションは、一体そういうこともあるのかなという気がした。
    だが作品のリアリティは、モノローグの巧緻さによってぐっと重くなる。
    私はなぜか若い頃から、自分が(殺人か何かは知らないが)取り返しのつかない何かを既にやってしまっており、誰かにそれを暴かれ、糺弾されることに怯えながら逃げまどう・・・という夢を頻繁に見る。この小説はその気分をぴったりと表出していて、とても親近感を感じた。
    このメランコリー親和型ふうの感情は、ラスコーリニコフ的なものでもあるが、この小説は堂々と描ききっている。
    結局は罪悪感を象徴する「ネズミ」が親子をほろぼすのだが、近年のキング作品がそうであるように、若干ラストは弱いかもしれない。意外さを求める向きにとっては。

    もう一方の短い「公正な取引」は、後半のサクセス・ストーリーをアイロニーとして読まないと妙なことになってしまう。

  • 2013年5月4日読了。2013年1月刊のS・キングの最新作、上下分冊の上巻で2編の中短編を収録。私が高校生の頃から20年近く読み続けているキングもすでに65歳、往年のような圧倒的筆量・ボリュームの大長編よりも、このくらいの分量の中篇を密度濃く仕上げてくれるとファンとしてはうれしいし、読み応えがある。1992年・大恐慌の予兆漂う時代に農場を手放さないため、息子と協力して妻を殺害した男の転落の人生を描く表題作と、悪魔と取引した男とその親友の人生を描く「公正な取引」を収録。後書きには「超自然的要素を廃し、人間の闇をテーマとした作品集」とあるが、個人的には「時代・過ぎていく時間」もテーマなのだと感じた。「今」必要なパンのためにした選択が未来を歪める、という話は納得できるが、「未来のために種を蒔いた」としても、それで未来が救われるとも限らない
    ・むしろ現在も未来も暗黒に塗りつぶされるかもしれない・・・。神ならぬ身で行う「選択」とは、ことほどさように重いものだ。後編「ビッグ・ドライバー」も既刊のよう、近いうちに読むことにしたい。

  • 「Full Dark, No Stars」という4作入りの作品集からの、中編と短編2編。中編(普通で言ったら長編)の「1922」は因果応報の寓話。キングのお話は、ばらまいたものはすべて刈り取る。刈り取って、丸く収める。しあわせに収まるときもあるし、不幸に収まるときもある。いずれにせよ収まるから、安心して読める。大衆小説はそうじゃないとね。

  • そうなんだ、キングの小説を読みながら覗き込んでいるのは、自分の中の邪悪なんだよね。

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著者プロフィール

1947年メイン州生まれ。高校教師、ボイラーマンといった仕事のかたわら、執筆を続ける。74年に「キャリー」でデビューし、好評を博した。その後、『呪われた町』『デッド・ゾーン』など、次々とベストセラーを叩き出し、「モダン・ホラーの帝王」と呼ばれる。代表作に『シャイニング』『IT』『グリーン・マイル』など。「ダーク・タワー」シリーズは、これまでのキング作品の登場人物が縦断して出てきたりと、著者の集大成といえる大作である。全米図書賞特別功労賞、O・ヘンリ賞、世界幻想文学大賞、ブラム・ストーカー賞など受賞多数。

「2017年 『ダークタワー VII 暗黒の塔 下 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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