その日まで 紅雲町珈琲屋こよみ (文春文庫 よ 31-3)

著者 :
  • 文藝春秋
3.49
  • (29)
  • (120)
  • (144)
  • (17)
  • (4)
本棚登録 : 995
感想 : 104
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167813031

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • '23年5月27日、Amazon Audibleで、聴き終えました。シリーズ二作目。

    僕には、前作よりも良かったです。一編一編は個別に結末があり、最後の章への繋がりにもなって…と、連作短編集によくある演出でしたが、一つ一つがとても優しさに溢れた、良いお話でした。

    どれも良かったですが、中でも第三章の「水無月、揺れる緑の」が、印象に残りました。当時の女学生達の幸せをささやかに願う草おばあちゃんに、心が温まりました。素敵な短編だと、思いました。

  • お草さんのシリーズ2冊目。
    連作短編で、次第に事件が絡み合っていきます。

    北関東の紅雲町。
    「小蔵屋」というコーヒーと和雑貨の店を出して10年になる杉浦草は、76歳で独身。若い頃に離婚し、地道に働き続けてきた。
    若いが頼りになる店員の久実と一緒に、コーヒーの試飲もさせる店をやっている。
    近くに安い雑貨店「つづら」が出来て、露骨な営業妨害をしてくるようになった。

    アパートの前で捨てられた人形を見つけたお草さん。
    その持ち主らしい子どもの荒れた様子に驚く。
    かって幼い我が子を失っているお草さんは、困っている子どもを放ってはおけない。
    けれど、これは虐待というのではなく…
    叔父の田村は30歳ぐらいの誠実そうな男で、理由を説明するのだった。
    久実は田村に好意を抱いたようで、店にもよく来るようになった子タケルを皆で可愛がるが‥?

    福祉作業所のたんぽぽで作っているキャンドルを売ってくれないかと頼まれるが、特徴のない品なのに高すぎると筋を通す。
    「つづら」では福祉に協力するために販売していると評判になり、しかも小蔵屋では断ったと広められる。
    ところが「つづら」では、おまけとして配っていた。
    別な販売方法を工夫する草。

    展覧会に出かけたお草さんは、久しぶりの知人に出会う。
    彫刻家の須之内ナオミは、まだ草が40歳の頃、呉服店の手伝いに通っていた頃の知り合いで、当時は高校生だった。
    ナオミがアメリカに行く前にあった出来事について意見を聞かれ、当時の知り合いに電話してみた所…?

    カレー屋を経営する香菜という女性と知り合い、不動産取り引きの問題を聞く。
    呉服のマルフジが高利貸しにも手を広げ、不動産屋と組んであくどい手を使った疑いが。
    マルフジの社長とは、かって縁談が起きた間柄だった。
    この件には、田村にも意外な関わりが‥?!

    表紙イラストのほのぼのしたイメージを期待しすぎると違うかも。
    日常の謎系ではありますが。
    和装で髪を髷にまとめているので、おばあさんという感じだけど、そうでなければまだ、おばさんでというか初老で通るかも?
    現役の働く女性で、健康だと、いまどき。
    とはいえ、長く生きているとこんな経験もする、という印象はありますね。

    40年も前なのにと自分でも思いつつ、幼い息子を失ったことを悲しむ草。
    普段は淡々と暮らしていても、時にはその思いがあふれ出すように。
    40年前に終わったことではなく、40年も続いた悲しみなのでしょう。
    力のこもった書きぶりです。

  • 前作の最後で幼馴染の由紀乃さんが遠くへ行ってしまい、どうなるのかと思っていたら、
    時が巻き戻っていた。

    四季折々の話が一つの方向に向かって流れ込むという展開は好きだが、
    彫刻家との縁はちょっと唐突かな。
    知り合った時も共通点なしの偶然だし、
    30年ぶりのこれまた偶然の再会で、
    面倒事を頼む方も頼む方だし、受ける方も受ける方だし。
    最後の話の親子の確執の決着も、ちょっと安っぽい。

    ところどころに心を刺すようなガラスの破片が埋め込まれている良さがあるのに、
    切れ味が今一つ鋭くなくて、傷口がじくじく痛むような感じがする。
    人の心の綾に痛みを感じさせられるところは、
    宮部みゆきにも似ているが、
    その痛さがスパッとしていて、
    ある意味気持ちがいいのとは大違い。

    自分の店にありきたりなものを置きたくないと納品を断った潔さがありながら、
    過去の自分を責め続け、囚われ続ける主人公のもがきが
    その根源なのだろうか。

    それとも、人とはそういう矛盾した存在であるということを、受け入れられない私の未熟さのせいか。

  • 今回も表紙につりあわないちょっとハードな内容。
    でもお草さんのキャラゆえか、読後はいつも悪くない。

  • 珈琲と雑貨のお店を営む、お草(そう)さんの周辺に起こる出来事がつづられています。
    子どもを亡くしたという辛い過去を持ち、迷いながらも一本背筋の通った生き方をするお草さんが好き。
    シリーズ2作目。

  • 今回は、どんな事件に立ち向かっていくのか…楽しみです。


    ※追記

    何か、中途半端なところで終わっている気がする。

    そして、お草さんの親友・由紀乃さんって、確か前作で、息子夫婦のところに行ったんじゃないの?と「?」が浮かびました。

  • 暖かくてほのぼのというだけでは無くて、草さんが抱えているものがあるために、少し加えられた苦味が良い感じ。
    周りで起きる様々な事件に対して草さんがとる姿勢や決着のつけ方が好きです。

  • 和食器とコーヒー豆を扱う小蔵屋を営む杉浦草ことお草さん。

    お店の近所で出会ったタケルという男の子との出会いときっかけに知り合った設計士の田沼という男。

    芸術家という夢を叶えた病魔に犯されるナオミから頼まれた昔のこと。

    評判の良くないつづらというお店の悪業の裏にあったもの。

    お草さんの昔の見合い相手の呉服店マルフジの藤原と田沼の意外な関係。

    ダイデン不動産とマルフジによって店も商売も取られ借金だけとなって泣く人たちの存在をお草さんは知ってしまい

    自らのお店も少なからず正体不明な影が忍び寄るなか
    お草さん直々にすべての元凶の藤原に会うまで。

    お草さん、お久しぶりです!
    すごい大冒険だったような。ドキドキした。

  • 紅雲町珈琲屋こよみ第2弾。
    新しい出会い、再会や別れ、商売敵に詐欺まがいの不動産売買など周りで起こったことに草さんは心を砕きます。高齢なのもあってか必要以上に距離を縮めない間を感じます。もちろん会話にも。
    人は幸せそうに見えても心のなかにどんな闇や悲しみが潜んでいるのかはわからない。草さんは自身の喪失は痛々しいし、その記憶ゆえに他人に心を寄せてしまうのでしょうか。
    「箪笥に入りきるお話」奥ゆかしくてよい言葉です。

  • お草さんシリーズ第2段。最早日常ものミステリーの枠を超えて、田舎町人間模様短編集という体をなしてきた。ミステリー要素もあるにはあるが、フーダニットはおまけの扱い。紅雲町をとりまく小悪人どもvsお草さん一派の行き詰る日常…これはこれでオモロいけどね。

    お草さんの生き方が相変わらず素晴らしい。彼女の凛とした生き方、処世の術を読むにつけ、どんなに困った事態になろうとも日常を丁寧に生きる事の大切さと、それによる強さを思い知らされる。

    きっちり掃除し、暖かい旬の手作りの料理を食べ、物を大切に使い、背筋を伸ばして生きることの大切さ。そうやって生きる人の強さ。

    やっぱ、このシリーズハードボイルドやわ。カッチョええわぁ

著者プロフィール

1964年、埼玉県生まれ。群馬県立女子大学文学部美学美術史学科卒業。2004年、「紅雲町のお草」で第43回オール讀物推理小説新人賞を受賞。著書に「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズ『誘う森』『蒼い翅』『キッズ・タクシー』がある。

「2018年 『Fの記憶 ―中谷君と私― 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

吉永南央の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
三浦 しをん
米澤 穂信
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×