太陽の坐る場所 (文春文庫 つ 18-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • / ISBN・EAN: 9784167817015

作品紹介・あらすじ

太陽の坐る場所は、辻村深月による日本の小説で、隔月刊小説誌別冊文藝春秋に連載されていました。水川あさみ主演で2014年には映画化もされました。高校卒業して10年後のクラス会に、女優になったクラスメートを呼ぼうと連絡を取ろうとします。キョウコという2人の同じ名前を持つ女性。そして高校時代の苦い思い出と登場人物の思いが交錯します。

感想・レビュー・書評

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  • 辻村深月さんの作品には、いつも圧倒される。
    この作品も、そう。
    悪意と憎悪と嫉妬と羨望と。
    それがごうごうと渦巻いている。とてもリアルに。とても生々しく。
    高校時代の教室で。あるいは、10年後の同窓会の場で。
    それだけでも充分心を持っていかれる。でも、さすがは辻村さん。これだけでは終わらない。彼女が仕掛けていたトリック。最初から、綿密に。何故それに今まで気づかなかった!慌てて戻るこれまでの同級生たちの言葉の数々。これまで読んでくる中で感じた違和感は、あって当然だったのだ!ぺらぺら、ぺらぺらと戻っていくと、いつの間にか深夜になっていた。夏至。空は、いくぶん明るい。もうすぐ、太陽が世界を照らす。太陽はいつだって、そこに坐っている。

    それぞれの同級生から語られる教室での出来事、その時の立ち位置。そして、今の自分。
    自分にとって象徴的な出来事だったとしても、相手からしたらなんてことない出来事って、ある。
    そんな時、それぞれの視点で別々に描かれると、その出来事は、全く違った様相を呈してくる。
    「うまくやれた」、そんな風に思っていた彼女。彼女にとっては大したことのない出来事だった。だから、彼女の章では表には出てこない。しかし、別の章で明かされる彼女の悪意、棘。彼女の「うまくやれた」悪意に満ちた行動が、この物語の鍵を握っている。物語が別の視点で描かれた時、それが如実に現れる。太陽は、人間の悪意が行動化することを、歓迎しない。それを、見逃さない。

    毎年毎年、高校の同窓会を開催する島津。
    なぜ彼がそんなに同窓会にこだわるのか。
    同じく、高校の頃の同級生のことを思い出した。
    彼女は同窓会ばかり開催し、その時に選抜されたメンバーが集まる。そう、「選抜」なのだ。
    わたしに「来れない?」と連絡が来るのは、選抜されたメンバーが何人かキャンセルした時だ。
    それがあまりにも露骨だから、気づいてしまう。
    友人に聞くと、案の定その友人はすでに誘われ済みで行けなくなっていたり。
    いつもそうして、友達を選抜する彼女から声をかけられた結婚式。
    彼女を切るならここだ、と思った。
    あまりにも日程が迫ったタイミングだった。だから、気付いてしまったのだ。誰かが「欠席」するのだと。
    こいつは、結婚式ですらそんなことをしてるのか、結婚式ですらわたしは二番煎じなのか、込み上がる怒りと呆れ。
    「同窓会みたいになって楽しいと思うから」
    そう言ってしつこく誘ってきた。
    断ったら出席者を羅列して、「この人たちが来るんだよ!だから来なよ!」という誘い方をしてきた。
    気持ちは分かる。だけど、失礼にも程がある。彼女が声をかけるのはわたしじゃない。
    そして、なぜ同窓会が楽しいと決めつけてくるのか。
    たぶん。
    彼女は高校時代がピークだったんだろう
    大学へ行っても、留学を経験しても、ずっと高校時代のメンバーとつるむ彼女はやはり異常だ。
    高校時代の友人と繋がり続ける彼女を、羨ましいと思った時期もあった。
    だけど、大学へ行っても、社会人になっても、高校の時のように中心になることができなかったんだろう。
    だから、高校の頃の友人を「選抜」して、毎回毎回同じ話題でバカみたいに盛り上がるのだろう。
    高校の頃にバカみたいに盛り上がる話なんて、大概そこにはいないクラスメイトの愚痴や先生の悪口だ。
    もう、そんなことを言って爆笑できるほど子どもじゃなくなった。
    他のことで忙しくなったし、社会はもっとやばい奴であふれてる。
    いつまでもそこに留まる友人を、ダサいなと、そんなふうに思うようになっていった。
    こんな風にここでダサいって言ってるわたしも相当ダサいけど。
    この作品の言葉を借りるなら。
    P368「私が言いたいのは、あなたには新しい場所に新しい価値がきちんとあるように見えたってこと。一体どうして、こんな場所に必死になるの」
    新天地でうまくやっていけているのなら、わざわざ高校時代の同級生なんかに固執しない。そこに固執するのは、やはり新しい場所でうまくやってゆけないからなんだろう。

    ハライチ岩井の同窓会の記事を思い出す。
    https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00087/112200002/

    この手の作品を読む時。自分のメンタルがそんなに良くない時が多い。今の自分はここまで酷くないな、とか登場人物と比較してしまう。
    こんな読書、いい加減やめたい。
    やってることが、同窓会でマウントとる奴と一緒である。

  • 高校卒業から十年、毎年開かれるクラス会。
    クラス会への参加は、年々少なくなりつつある。
    一人のクラスメイトが、女優「キョウコ」として活躍し始めたことで、クラス会の主旨が変わり始める。
    物語の主体が、クラスカーストで言えば、上位であった少女達であるところが緊張感があります。
    彼女達は、クラスの中心であるため、羨望と嫉妬が渦巻くグループに坐る。そこには、悪意さえある。そして、高校時代の遺恨を未だ残したまま今に至る。「キョウコ」にコンタクトをとったクラスメイト達が、クラス会から退き始める。彼女と会った事で、過去の呪縛に見切りをつけたのだろうと思う。
    遺恨が残るのは、現在地に満足できていないから。
    望む未来では無かったんでしょう。
    私は、さてさてさんと同じで、クラス会なるものに参加した事がないので、世の中のそれなりの女性達の思惑がわからないかもしれませんが、想いとしては現実に近いかもしれない。
    登場人物がそれほど多くないのに、音が同じ名前を使う事で彼女らの心象と存在の交錯を狙ってくるので、嫉妬や悪意の重なりがなかなか解けない。
    女性に厳しい一作。

    • さてさてさん
      おびのりさん、どうして私がクラス会に参加したことがないのをご存じなの?と思いました。私がレビューに書いていたのですね。自身のレビューはほぼ読...
      おびのりさん、どうして私がクラス会に参加したことがないのをご存じなの?と思いました。私がレビューに書いていたのですね。自身のレビューはほぼ読み返したことがないのでなんだかとても新鮮です(笑)。私、恩田陸さん、辻村深月さんのお二人の作品の読書から入ったので初期の読書はこのお二人の作品ばかり。レビューも今の私とは別人のように短い(笑)のでなんだか不思議な気分です。この作品もそうですが恩田さん、辻村さんについては一通り読み返したいという思いがとても強いです。拙いレビューを気にかけてくださりありがとうございました!
      2023/05/11
    • おびのりさん
      さてさてさん、こんばんは。
      私と同じだ!って嬉しくなったので、ついつい書いてしまいました。
      私は、最初の頃から比べたら、これでもレビュー長く...
      さてさてさん、こんばんは。
      私と同じだ!って嬉しくなったので、ついつい書いてしまいました。
      私は、最初の頃から比べたら、これでもレビュー長くなりました。^_^
      レビュー書いても、読んだ本忘れてしまい困ったものです。どうぞよろしくm(_ _)m
      2023/05/11
  • F県立藤見高校旧3年2組出身で、いまや人気女優となったキョウコ。
    島津たちは、なんとかして彼女をクラス会に参加させようと画策するが……。

    回想にある、高校生のヒエラルキーと、さまざまなトラブル。
    そして、地元組と上京組、独身組と既婚組といった、現在の対立。

    同窓会から始まり、だんだんと個人個人が浮かび上がってくる。

    響子の女王ぶりと、転落。
    彼女の想い人という記号でしかなかった清瀬が、だんだんと実体を伴っていく。

    同級生たちの身勝手さや、ドロドロした感情が渦巻く話だが、不思議と引き込まれる。

  • 「女は怖い」の一言に尽きる話。冒頭から違和感たっぷりだが、語り手が替わる度に景色が裏返り、違和感の正体も少しずつ明らかになっていく展開にハマった。天岩戸神話に即したラストは爽やか。辻村さんのねちっこい女性心理の描写には、いつも唸らされる。再読必至。

  • ★3.5

    東京から二時間のF県立藤見高校。
    高校卒業から十年クラス会での話題は、人気女優になったキョウコのこと。
    クラス会に欠席を続ける彼女の事を呼び出そうと、
    それぞれの思惑を胸に画策するーー。


    高校のクラス会は卒業以来ほぼ一年に一回開かれている。
    高校を卒業して10年、28歳になった彼や彼女達は、
    高校時代のほろ苦い思い出やキョウコとの関わりを思い出していた。
    東京の小さな印刷会社に勤める美人ОL聡美。劇団に所属している。
    映画の配給会社に勤めてる紗江子。
    小学時代には孤立していたが、貴恵と親友になる…。
    アパレルメーカーのバイト由希。見栄っ張りで計算高い。
    クラス会の幹事をずっと続けてる、地元の地方銀行の東京支店勤務の島津。
    地元の美人アナウンサー響子。

    学年の女王・キョウコを巡り何かトラブルがあり、負の思い出が残っている…。
    それが、何なのか5人の視点を通して、その内容が徐々に明かされていきます。
    最初は、どうして有名女優になったキョウコを同窓会に出席してもらおうと、
    画策するんだろう…。
    東京就職組が地元就職組をどうしてそんなに見下してるんだろう…。
    何だか、モヤモヤしながら読み進めていった。
    でも、5人の男女の高校時代の思い出や今置かれている現状を
    読んでいる内に、ドンドン引き込まれて行った。
    思春期の特に女の子の心理がとても繊細に描かれている。
    やっぱり、人間の奥底にある感情を描くのが本当に上手い。
    様々な醜い感情。女性の劣等感・虚栄心・嫉妬・見栄・駆け引き…。
    女性同士ってここまで、悪意に満ちていたっけ…?
    読んでるのが苦しい程、炙り出していた。
    でも、誰しもが少しは心の片隅に持っているであろう、感じた事のある
    感情や思い出が、心にチクチク入り込んで来る。
    苦しかったなぁ…。切なかったなぁ…。
    でも、紗江子と貴恵の友情にはホロリときました。

    伏線の張り方も毎度の事ながら丁寧です。
    種明かしをされた時、違和感の正体はそうだったんだって驚いた!

    ここまで、高校時代の思い出に囚われているのか…とも思いましたが、
    それぞれが、その囚われていたものから解放されて行った姿が、
    良かったなぁ。
    希望が感じられるラストで良かった。

  • 人はそれぞれの人生を生きている。
    それでも、人が関わりあう限り生まれてくるものがある。
    嫉妬、憎悪、対比、劣等感。
    素敵な関わり方ができるはずなのに、それらの感情があるから、綺麗には生きられない。
    ぐちゃぐちゃした人間関係って嫌だなと思いました。

  • 高校卒業して10年間に度々開かれているクラス会。クラスの中に、女優として有名になった”キョウコ” がいる。キョウコに、ぜひクラス会に参加してほしい。そんな思惑を巡り、5人の視点で、高校時代の思い出と今の自分が語られる。

    人は自分の物語りの中で生きている。
    読んでいて苦しかった。
    囚われの扉の鍵は開いているというのに。自分の太陽が坐っている場所に向かってほしい。

    【時間は何よりの薬】これは母から教えてもらった。そして、最近【テイカー】を知った…自分の利益のために人から奪おうとする人。2つの言葉が頭に浮かんだ。

  • 幼馴染は、相手のスタート地点を知っているからこそ、比較して羨んだり蔑んだりしてしまうものだと思う。それぞれの登場人物を語り手にすれば、とにかく皆弱い人だとわかるけど、なんとなく"自分以外"が束になってるから脅威だし、みなが強がってしまうことで有りもしない幻が生み出されてしまうものだと感じた。

    比べる価値観が自ずと幾つかに収束してしまう20代後半。辻村さんが何をきっかけにこの物語を組み立てたかは分からないけど、私は一番最初の同窓会の一幕が、非常にリアルに泥臭くて、好きでした。

  • 人には善い面と悪い面がある。その悪い面を見せられ続けているような感覚になる。でも、最後は救われ、善い面を見せてもらえる…そんな感じに思えた。

  • ネタバレ無しで読みたかった。ブクログの作品紹介はぜったいに許さない。次からはAmazonページに飛んであらすじ読むようにする。メモ。

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著者プロフィール

1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、18年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞。『ふちなしのかがみ』『きのうの影ふみ』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『本日は大安なり』『オーダーメイド殺人クラブ』『噛みあわない会話と、ある過去について』『傲慢と善良』『琥珀の夏』『闇祓』『レジェンドアニメ!』など著書多数。

「2023年 『この夏の星を見る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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