氷平線 (文春文庫 さ 56-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167836016

作品紹介・あらすじ

真っ白に海が凍るオホーツク沿岸の町で、静かに再会した男と女の凄烈な愛を描いた表題作、酪農の地を継ぐ者たちの悲しみと希望を牧草匂う交歓の裏に映し出した、オール讀物新人賞受賞作「雪虫」ほか、珠玉の全六編を収録。北の大地に生きる人々の哀歓を圧倒的な迫力で描き出した、著者渾身のデビュー作品集。

感想・レビュー・書評

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  • 今回は特に渋いなあ。。。
    と思ったら、桜木紫乃さんのまさかのデビュー作
    卓越された描写力と人物造形力は既に健在
    収録されているのは六編だが、
    長編小説を読み終えた様な深い読後感がある

    オホーツク沿岸の冷たい大地とは対象的に、北の大地に人生をささげてきた家族や男女の関係が生々しい
    狭い社会の中でのままならない日常、行き場のない心はさまよい、温めてくれる他人を求める
    しかし、どの話にも出てくる女は逞しくブレない生き様だ

    良かったのは『霧繭』と『氷平線』
    『霧繭』は和裁師の女の話
    『氷平線』とは”水平線”ならぬ”氷水線”
    水平線のように広がる氷の大地のことであり、凍てついた海と空の境をなす線をいう
    あの頃を思い出し友江を手に入れたいと思う誠一郎
    誠一郎を思いながらも将来を見てしまう友江
    交わることのない二人の想いがどこまでも続く氷平線に溶けていく
    最後は衝撃が待っている

    雪虫、海霧、氷平線、出面取り等、北海道ならではの言葉に、より凍てつく大地の描写がリアルになった

    • hibuさん
      こんにちは!
      この作品を読み終えた時、何故か自分が大人になった気がしたんですよね。なんか共感できる歳になってもうた的な…。
      もちろん私の人生...
      こんにちは!
      この作品を読み終えた時、何故か自分が大人になった気がしたんですよね。なんか共感できる歳になってもうた的な…。
      もちろん私の人生はこの本のように重厚なものではなく、薄っぺらいものですが…笑笑
      2024/02/10
    • ハッピーアワーをキメたK村さん
      hibuさん、こんにちは

      それですよ、大人の世界なんです
      子供にゃあ、わからんだろうなあ
      って言いながらも、どう言うことなのか理解出来ずに...
      hibuさん、こんにちは

      それですよ、大人の世界なんです
      子供にゃあ、わからんだろうなあ
      って言いながらも、どう言うことなのか理解出来ずにスルーしたりした部分もありましたけどね
      (´ε`●) ブハッ!!
      ☆5か4か悩みました
      2024/02/10
  • あなたは「氷平線」というものを見たことがあるでしょうか?

    当たり前でしょ、海に行けばいつでも見れるよ!と思ったあなた、もう一度「 」の中をよーく見てみてください。これは”水平線”ではありません。「氷平線」と最初の一文字が『氷』という字になっているのがポイントです。えっ!それって何?なんて読むの?はい、そうですよね。これは「氷平線(ひょうへいせん)」と読むようです。そう、それは、”水平線のように広がる氷の大地”を指す言葉。”凍てついた海と空の境をなす”というそんな線が冬のオホーツクの海で見ることができるのだそうです。一面凍ったオホーツクの海。『息をしていると、胸が凍りそう』という『気温はおそらくマイナス十五度を超えている』極寒の中に広がる圧倒的なその光景。『沖の氷に押され、入り江の氷が鳴いた』という静けさの中に冷たい音が響きわたる凍った世界。『月に照らされた海はひしめきあう氷によって雪原になっている』という目の前の神秘的なまでのその光景。そんな大自然が作り出す光景を前にした時、人はそこに何を思うのでしょうか。人はそこに何を見るのでしょうか?そして、人はそこで何ができるというのでしょうか?

    そんな北海道の大自然とそこで生きる人々の暮らしを全編に渡ってリアルに描写するこの作品。桜木紫乃さんの魅力を満喫できる絶品のデビュー作です。

    『空がすっきりと晴れ上がっていた。今年最後の牧草を刈り入れて、集落の空気も凪いでいる』という十月の十勝平野。『牛舎の二階に隙間なく詰め込まれたサイレージ』に『畳一枚分空けておいたスペースに寝ころ』ぶのは主人公の達郎。『すぐそばに、あずき色の作業着が脱ぎ捨てられている』というその向こうに『交わりの後始末をしている』、『腰から下がむき出しになった四季子』。『達郎の視線に気づいた四季子が、首だけで振り向いた』のを見て『化粧気のない顔だ。農作業に化粧は必要ない』と思う達郎。『地元の高校を卒業してすぐに集落を離れた』二人の関係は『札幌で働いているあいだもずっと続いていた』という過去を振り返る達郎。『田舎に帰ることになった』と『二十四になる年の春』に呟いた四季子。『弟が、高校を卒業した直後、交通事故であっけなく死んだ』というその理由。『世の中は好景気でうかれていた。不動産会社に勤め始めたばかりの達郎も、うかれていた』というその時代。しかし『もらいっ子だから仕方ないのよ』と言う養女だった四季子。そんな『四季子が十勝に帰ってから二年経ち、達郎も実家に戻った』というその後。『バブルがはじけ、独立後わずか一年で一文無しになった』というその理由。『儲かっていた頃は、親などこの村ごと捨ててもいいと思っていた』。そんな親に養ってもらって十年、三十六になった達郎。そんな達郎が帰ってくるまでの間に『京都から農業実習に来ていた、ふたつ上の男を婿養子』にして男の子を産んだ四季子。『産まれたのが男で良かった』と言う四季子。それは『死んだ弟の代わりになる男の子を産むのが育ての親への恩返し』というその理由。『そう笑ってもいられない。達郎がこのまま嫁も取らずにいれば、いずれ牧場は人手に渡る』という『後継者問題』。『つかの間の逢瀬』を終え、家に戻ると見慣れない車を目にした達郎。居間に入ると『こちらが息子さんですか』と言う見知らぬ男に『土地転がしをしていた頃に見かけた人間の気配を感じ取った』達郎。その男の質問に頷く父と台所で『何やら忙しく手を動かす』母を見て『客人はどうやら母の望まぬ人物らしい』と感じる達郎。『ちゃぶ台の下から茶封筒を出し』た父。『受け取った男は封筒の中を確認する』という様を見て『厚みは百万』と思う達郎。『それじゃあ』と去る男を見送り居間に戻った三人。『嫌ですよ、私は』と口を開いた母は『父さんが嫁を買うって言うんだ。あの男は女衒なんだよ、汚い汚い』と続ける母。『俺、そんな話ひとことも聞いてないぞ』と言う達郎の横で興奮収まらぬ母。『うるさい』と怒鳴る父は『あと少しで嫁が来る。孫を見届けたら引退するんだ』と続けます。『三百万だとさ』と言う母に『三百万で、どこから女を買うって』と訊く達郎に『フィリピンだって』と答える母。『重苦しい沈黙にいたたまれなくなった』達郎…そして、と展開する〈雪虫〉というこの短編。十勝平野の美しい情景描写を背景に終始重苦しい空気感に包まれた物語は、まるで長編を読んだ後のようなどっしりとした読後感が襲ってくる傑作だと思いました。

    2007年に刊行された桜木さんのデビュー作として六つの短編が収録されたこの作品。桜木さんの他の作品同様に舞台はすべて北海道というのが特徴です。というよりデビュー作でもあるこの作品が、北海道を舞台にして小説を書かれていく桜木さんの原点になっているとも言えるのだと思います。そんなこの作品の魅力をふたつの側面から見ていきたいと思います。

    一つ目は『道内のどこの地方都市もそうであるように、かつての繁栄が、ずらりと並ぶ閉じたシャッターから漂ってくる』という人口減少に悩む地方都市に暮らす人々のリアルな生活風景がじっくりと描かれていくところだと思います。六つの短編では一編目〈雪虫〉と三編目〈夏の稜線〉において、『農作業に化粧は必要ない』と、農家の暮らしが描かれていきます。しかし同じ農家を舞台に描かれても〈雪虫〉では、農家に生まれ都会に一度出たものの『バブルがはじけ、独立後わずか一年で一文無し』になって帰郷した達郎のそれからの人生。〈夏の稜線〉では『就職でつまずい』て『農業研修の実習先である久保家へ嫁いだ』京子のそれからの人生が描かれていきます。北海道での農家の暮らしというと、どのようなイメージをもたれるでしょうか?広大な大地の中でのゆったりとした暮らし、漠然とそんなイメージが私には浮かびます。実際、『牧草を刈り入れて、集落の空気も凪いでいる』、『秋を渡る風は、収穫を終えた十勝平野に鮮やかな色を連れてくる』といった環境の中、かつての同級生と逢瀬を重ねる達郎の生活。そして、『四季のある暮らし、空の高さ、人の温かさや新しい恋を楽しめた』という京子の幸せを感じる描写を見ると、そこから特に暗い感情が沸き起こることはありません。もちろん、四季子という人妻と逢瀬する達郎という部分にひっかかりは感じますが、それさえ広大な大地を前にすると霞んでしまいそうです。しかし、そんな物語は、いずれも『後継者問題は、老いた親にとっては寝ても覚めても頭を離れぬ切実な問題』という点において、そんな明るい雰囲気を一気に沈んだ空気に変えていきます。上記したとおり〈雪虫〉では、『三百万』で『フィリピン』から嫁を買うという衝撃的なストーリーが描かれていきます。『農家の嫁不足につけこむ商売が本当に存在するとは。達郎は、そんなものはドラマや映画の中のことだと思っていた』というまさかの展開。しかし『平穏な暮らしに嫁や孫という欲が出たとしても、父や母を責めることはできない』と現実を見据える達郎の内面描写は読んでいて非常に複雑なものを感じました。一方の〈夏の稜線〉も『うちは本家だからね。長男を産まない嫁をもらったなんて、死んだ父さんに申し訳が立たない』と女の子を出産して一変した姑の厳しい京子への当たりに胸を締め付けられます。一概に誰も責めることができない『後継者問題は、老いた親にとっては寝ても覚めても頭を離れぬ切実な問題』という点に焦点が当たるこれら両作品。背景として描かれる北海道の美しく澄んだ自然の描写が、そんな鬱屈とした人間関係を穢れとして浮かび上がらせていくかのようにも感じるこれらの作品。いずれも北海道を舞台としたからこそ生まれる独特な空気感にすっかり心を囚われてしまった好編でした。

    そして二つ目は、上記した北海道の美しい自然の描写と、神秘的とさえ感じる濡れ場のシーンの数々です。それが極まったのが表題作の〈氷平線〉です。『ひとつ、ふたつ。入り江に氷塊が入ってくる』という流氷の訪れを感じる『冬に閉ざされ』たオホーツクの海。『くぼみにある集落には、大小合わせて五十世帯ほどが暮らしていた。住人のほとんどは漁師かその家族だ』という小さな漁村。『中学を卒業してすぐ漁師になるか、定員割れの僻地高校へ進学するか』という二者択一を迫られる集落の男たちの人生。そんな集落の前に広がるオホーツクの海の様子が『窓の外から氷のぶつかる音が聞こえてくる… このまま接岸すれば明け方には今より十度は下がる。そうなると海は一面氷原となって、海沿いの街一帯を巨大な冷凍庫に変えてしまう』という着氷を前にした夜の情景描写に読者も思わず身震いしそうなほどです。『氷も、近年は接岸しない年が多くなっていた』という環境の変化を説明しつつも『沖の氷に押され、入り江の氷が鳴いた』というような美しい表現を交えながら、着氷の瞬間へと描き進める桜木さん。『天頂に、満月には二日三日足りない楕円の月が輝いていた。月に照らされた海はひしめきあう氷によって雪原になっている』と、その光景へと至る物語は、そこに濡れ場を重ねていきます。『果てのない欲望が誠一郎を突き動かしていた』というその心の内。『背骨を貫く快感は、頂上の見えぬ山を上っているようだった。誠一郎はどこまでも続く急な坂道を、全力で走っていた。途中、何度か爆ぜた』というその描写。『しかし終わりにはならなかった。まだ足りない。まだまだ足りない。じき友江の脚は力を失い、誠一郎の両腕に抱えられたままゆらゆらと揺れ始めた』というなんとも言えないそのシーンの冷たくも熱い描写が、広大なオホーツクの海を埋め尽くす流氷が作り出す寒々しい雪原の光景と対称を成していきます。そして、『ふたりの背を照らしながら、楕円の月が輝いている。雪原に、二つの長い影が伸びた』と雪原へと立つ二人。『月の光が遠い沖にある氷平線を浮かび上がらせる』というその圧倒的な大自然の光景を前に佇む二人を見事に描き出す圧巻の描写とその結末に、なんて切ないんだろう。なんて哀しいんだろう。そして、なんて美しいんだろう、と、ふーっとため息がもれました。

    北海道の圧倒的な大自然の中に生きる人々の力強い日常を見事なまでに描写したこの作品。それは、『こうして脈々と受け継がれてゆく平穏は、人ではなく集落自体の生命力かもしれない』という北国の大地の恵みを受け、北国の大地に生活の糧を求め、そして、北国の大地に人生を捧げてきた人々の生き様を見やるものでした。

    これが、まさかのデビュー作!という桜木紫乃さんの研ぎ澄まされた文章表現の妙を垣間見ることのできたこの作品。まるで長編小説を読み終えたかのようにも感じるその読後に、深い余韻がいつまでも残り続けるのを感じた絶品でした。

  • うん、悪くない。良かった。

    いつか読もうと思ってた作者であり、そのデビュー作を図書館で見かけたので借りてみました。

    北の大地を舞台に、普通に生きる、普通の人々の、男女の、普通の哀しみ、営み。

    そんな感じの六篇の短編集。

    どうにもやるせない人間たちの姿が描かれています。

    話はわりとふんわり終わりますね。
    起承だったり、起承転だったりで、最後まで書ききらず、終わっている印象。
    それが味になってるのかな?
    表題作の「氷平線」だけが”結”までいってる。

    全然悪くないんだけど、ずっとこのパターンの作風なんだろうか。

    もっと読みたい気持ちもあり、飽きてしまいそうな気持もあり、って感じかなぁ。


    伊与原新さんの「月まで三キロ」にも似てるかなーと思ったけど、向いてる方向性が真逆とまでは言わないけど、けっこうな明暗の違いがあるな。

    • aoi-soraさん
      土瓶さんと桜木紫乃さんって、あんまり結びつかなかったけど、高評価(?)ですね!
      いつも、みんみんさん・おびさんのレビューで気になっている作家...
      土瓶さんと桜木紫乃さんって、あんまり結びつかなかったけど、高評価(?)ですね!
      いつも、みんみんさん・おびさんのレビューで気になっている作家さんなので、いつか読んでみたい^⁠_⁠^
      2024/03/05
    • 土瓶さん
      あおいさん。
      たしかに結びつかんよねー(笑)
      余韻がいいんですね、これ。
      わざと書かずに想像させる、みたいな。

      高評価、ではない...
      あおいさん。
      たしかに結びつかんよねー(笑)
      余韻がいいんですね、これ。
      わざと書かずに想像させる、みたいな。

      高評価、ではないっす。★3なので。普通?
      2024/03/05
    • みんみんさん
      昭和感満喫のエロです♪
      ラブホテルとかストリップとか笑笑
      昭和感満喫のエロです♪
      ラブホテルとかストリップとか笑笑
      2024/03/06
  • *雪虫…十勝平野・酪農家
      (幼馴染み.フィリピン人の嫁)
    *霧繭…釧路・和裁士
    (得意先の女将.営業部長の男)
    *夏の稜線…十勝・酪農家嫁
        (東京人嫁の姑と夫)
    *海に帰る…釧路・理髪店
         (キャバレー勤めの女)
    *水の棺…オホーツク海の町・歯科医
           (歯科医院長)
    *氷平線…オホーツク海沿岸・漁師町
      (両親と息子.不遇な女性)

    6編のお話の舞台は何れも北海道。
    桜木紫乃さんの風景描写はそこに住む人々の目を通しているような現実感がある。
    そして女性達の、諦めから生まれたのかも知れない底知れぬ強さをいつも感じる。

  • 北海道、雪と氷に閉ざされた薄暗い中で繰り広げられる男女のドラマを6編収録。恋愛モノと言えばそうなのだが、心ときめく話は無い。恋愛と言うより、性愛である。しかしエロくはない。純文学のような読後感。

  • 凍てつく北海道を舞台にした6話の短編。
    どれも陰鬱としてラブストーリーなんてお気楽には言えないけれど、これは間違いなく愛の物語。
    雲一つない空であっても、そこには黒く立ち込める雪雲しか見えない。そんな中で必死に生きて行こうとする主人公たちの諦めや足掻き、再出発が決して美しくはない人間くさいドラマで描かれている。
    男性作家の場合…どうしても男性にとって理想の女性、こうあって欲しいという視点が否めない…男性作家さんごめんない。反して女性ならではの傷付く言葉や扱い、惨めさが現実味を帯びて胸を付く。
    風土や環境はどうしたって変えられない。郷に入れば郷に従えと言うように従えないものは生きづらい。都会では気にならないことも話題のない田舎ではたちまち〝噂〟となる。
    果てしない土地と海にある世間が小さく狭い町の中でおこる男と女の愛にまつわる葛藤。

    以下、本文よりですが、ネタバレにはなっていないと思います。気になる方は読まれないでください。

    文中より…
    雪虫
    好きとか嫌いじゃないんだよ。あんたの気持ちは執着なの。

    霧繭
    いい女ってのは一生かかっても主役にはなれないのよ。主役はいつだって愚かな女なの。覚えておいてね。

    夏の稜線
    「男を産むまで頑張ってもらわなくちゃ」
    陣痛の痛みから開放されたとたんタキが言った。優しいおばさんは姑になり、温厚な夫は良い息子へと変わった。

    海に帰る
    こんなけりのつけかたしか思い浮かばない女の不器用さを憎んだ。

    水の棺
    視線が一瞬泳いだ。わずかにほっとした表情のあと、それを打ち消すようにうろたえ、目を逸らす。

    氷平線
    友江の話が少しも本当っぽく聞こえないのが、嘘をついていないせいだとは、十八の誠一郎にはまだわからなかった。

    2021.6.1
    今年の11冊目

  • エッセイを読んでから、まずはデビュー作へ。
    男と女の関係を描いた文学を、これまであまり読んでこなかった。それよりも物語の題材の面白さが優っていた。
    桜木さんの小説を読んで、小説に男女の関係を盛り込むことは、人が生きている部分の、全部を描いていただけなのでは・・・と思った。その描写はリアルであるが、ときには幻想的だ。それぞれの人が生きていく哀しみが透けて見えた。
    北海道に暮らすようになったからだろうか、気候も、時間に移ろう景色の様子も、海霧や流氷のことも、ここに出てくる人たちも、リアルに迫ってくる。その分、入り込んでしまう。他の土地に暮らしていたら、また違う印象を持つのだろうか。私が読んだ北海道を舞台にした小説は、どこかもの悲しいものが多い。
    ご近所さんからは、自慢話、苦労話、面白い話をたくさん聞いてきた。もちろん言えないことは聞いていないが、他言できない秘密や、事実はたくさんあっただろう。桜木さんに、傍で耳打ちされているような気がしてきた。

  • 桜木紫乃さんのデビュー作も含む6つの短編集。
    桜木さんの作品を読むのは5冊目。
    初期の作品でも、人間が匂い立ってくるような作風が、すごく良い。
    必ずしも明るい話ではなく、表題作「氷平線」の結末には茫然とさせられたけど、すごい小説集を読んでしまったという感想しか出てこない。

  • どの話も静寂と暗さとどうしようもないしがらみ?みたいなものが漂っていて、決して幸せにはなれなくて…。でも読み応えがあって個人的には好みでした。

  • 桜木さんの生み出す言葉は、空気を伴っている。道東の空気が立ちのぼる。

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著者プロフィール

一九六五年釧路市生まれ。
裁判所職員を経て、二〇〇二年『雪虫』で第82回オール読物新人賞受賞。
著書に『風葬』(文藝春秋)、『氷平原』(文藝春秋)、『凍原』(小学館)、『恋肌』(角川書店)がある。

「2010年 『北の作家 書下ろしアンソロジーvol.2 utage・宴』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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