憂鬱たち (文春文庫 か 56-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (196ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167837013

作品紹介・あらすじ

神田憂は、今日こそ精神科に行かなければと思いながら、さまざまな事態に阻まれてどうしてもたどり着けない。彼女の周りに出没する年上の男性カイズさんと若者ウツイくんはいったい何者なのか?エロティックな思考が暴走し、現実が歪みはじめる。グルーヴ感のある文体が冴えわたる官能的ブラックコメディ。

感想・レビュー・書評

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  • ダウナーでエレクトロニックなチルミュージックにのせて読む。なにか、BGMがあると、いい。
    最後はお酒を飲みながら、主人公の憂鬱を、全身に流し込ませて、細部までいきわたらせるみたいにして、読んだ。

    登場人物は、主人公の神田憂と、カイズさんというおじさんと、ウツイくんという若者。
    そして常に神田憂が考えていることは、セックス。
    ぶっ飛んでいる、何かが。流れている音楽と憂のイライラが、憂の妄想が、最高潮に達する。そのエクスタシーの部分。まるでゆったりと優しく入ってこられるかのような。もっともっとと、疼く。

    「官能的ブラックコメディ」
    理解する作品じゃなくて、感じる作品だろう。
    (P61)私は傷ついてばかりいて、同時に傷つけてばかりいる。傷ついた分傷つけることを日課とし、傷つけられるために生きているのか生きるために傷つけられているのか、傷つけるために生きているのか生きるために傷つけられているのかもう分からない。ただ一つ私が言えるのは、もう疲れたという事だ。

    金原さんの作品は、常に痛みによって成り立っている。痛みと、それに伴う強烈な生の感覚。官能的な表現と描写。性と生。
    彼女自身が、痛みと、性の快感によって生かされているような。
    物理的な痛みが多い印象の彼女の作品。本作品も痛みに溢れているけれど、その痛みが、心にフォーカスされている。
    主人公につきまとう憂鬱。引用部分を見てほしい。
    しかし、いくらそこに共感できても、なぜか主人公の行動と妄想は理解に苦しむ。
    永遠にたどり着けない精神科。読み手としては「いやいや行けよ」としか思えないのだけれど、行く先々にカイズさんとウツイくんが現れ、そして被害妄想と性的妄想が暴走するうち、精神科は遠のく。
    うーん。やはり、理解する作品ではなく、感じる作品である。

    日常にドラマを求め、日常に非日常を求めてしまう。
    でもなんかうまくいかなくてイライラする。
    そんな人たちに。
    そんな、憂鬱たちに。

    • たけさん
      naonaonao16gさん。おはようございます!

      最近、金原さんの作品を初めて読んだのですが、「痛みと、それに伴う強烈な生の感覚」を...
      naonaonao16gさん。おはようございます!

      最近、金原さんの作品を初めて読んだのですが、「痛みと、それに伴う強烈な生の感覚」を強く感じました。

      naonaonao16gさんのレビュー読んで、そこが魅力であることに改めて気付きました。

      「憂鬱たち」も読んでみたいと思います。ダウナーでエレクトロニックなチルミュージックにのせて。
      2021/01/17
    • naonaonao16gさん
      たけさん、コメントありがとうございます!

      コメントのタイミング、同じでしたね!(笑)

      芥川賞を受賞した「蛇にピアス」なんて特にそうですが...
      たけさん、コメントありがとうございます!

      コメントのタイミング、同じでしたね!(笑)

      芥川賞を受賞した「蛇にピアス」なんて特にそうですが、とにかく痛みの人、という印象です。

      あとは、「マザーズ」とかはまた違った金原さんを楽しめるかと思います。官能をより楽しみたい場合は「軽薄」とか。
      わたしも全て追ってないので、あくまで今まで読んだ作品からになりますが。
      よろしければ是非!
      2021/01/17
  • 大好きな作家だが、この作品に関しては理解が難しかった。連作?短篇集で、それぞれ登場人物は同じで、主人公神田憂をとりまく、ウツイとカイズの役回りがそれぞれ変わりシチュエーションが違う。今日こそは精神科へ行こうとしている神田憂がそこにいて、彼女の頭の中の妄想なのか、実体験なのか、読んでて、それこそ終始憂鬱だった。

  • 読み終わったら、憂鬱且つ愉快な気分になってた。文学ってすごいな。金原ひとみって、ひとに勧めて面白さを分かち合いたくなるタイプの本が1冊もないけれど、でも、好き。
    文庫帯の煽り文句が、「憂鬱は快感だ。憂鬱は始まりだ。憂鬱は永遠だ。憂鬱に終わりはない。それはとても、素敵なことだ。(本文より)」なんだけど、私だったら「神様の田んぼの真ん中で、私は憂鬱として鎮座する。(本文より)」を選ぶ。
    神様の庭とか神様のおもちゃ箱ではなく、神様の「田んぼ」ってところが、この話がシリアスでないことをよく表していると思う。鎮座って単語も、この並びだとなんとなくコミカルだし。ふっと苦笑いが漏れるような、「そりゃ大変ですねぇ」って思わず言いたくなるような。憂鬱と滑稽は相性がいいんだね。

  • 金原ひとみさんの作品はどれも安定して、不安定なイッちゃってる風(完全にイッちゃってるのではなく、イッちゃってる風ってとこがポイント)。

    今回の「憂鬱たち」も健やかにセックス、ドラッグ、バイオレンス!に加えて精神的にウニャウニャと云う、一時の村上龍をエンドレスで再生しているよう。

    精神科に毎回行こうとする主人公の葛藤やら無駄骨やらな日々を綴ってます。

    全然嫌いじゃないけど、朝イチの電車で読むには向いてないかと。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「イッちゃってる風ってとこがポイント」
      ふ~ん
      金原ひとみは読んだコトなくて、何を読もうか物色中。Lulu de Kwiatkowskiのイ...
      「イッちゃってる風ってとこがポイント」
      ふ~ん
      金原ひとみは読んだコトなくて、何を読もうか物色中。Lulu de Kwiatkowskiのイラストが気になる「憂鬱たち」が第一候補です。。。
      2012/11/05
  • 金原ひとみ初読。
    非常に良さそうなので続けて別作も読んでみたい。
    何らかの正当なものに対するカウンターとして「露悪的」であるのとは違う、
    素性として「なまくら」であることの愉楽性、とでもいうのか。

    憂鬱を飼う女性、神田憂が、精神科に通院しようとするたびに
    彼女を襲う困難を連作短編形式で描いた小説。

    皮膚科と耳鼻科をハシゴした先に、
    耳鼻科でメンタルカウンセリングを受ける話「ジビカ」。

    タクシー運転手の目的地の聴き間違いの結果、運ばれた秋葉原で、
    電マのバイブレーションを試しわける結果になる話「デンマ」。

    セックスレスについて、
    乗ったタクシーの運転手から解説を授かる話「マンボ」。

    その他、良篇多数。

  • 2016年5月4日読了。コメディ。おもしろかった。おもしろすぎて電車で読めなかった。同じ登場人物で設定の違う話、というのもグッときた。
    悪い部分がひとつも見つけられないので、ここは良いけどあれはこうしたほうが、と軽々しく感想も書けないし、この人の作品はどれもそうだけど特にこの短編集は短編集なのに全部同じ完璧なひとつの世界観が確立し実在しているように感じるので、分析とかする気にもなれず、余計な口出しも不要で、言及するとしたら「好き/嫌い」だけでいいような、完璧な独自性がある。
    私は好きです。

  • 憂鬱は絶対に自分を裏切らない。
    どの章も同じ登場人物3人が異なるシチュエーション、異なる職業、異なる出会い方をするのに、
    空気感はいつも同じという混乱。
    どんな場面でも憂に与えられる憂鬱だけは強烈で生きている証明になる。
    そんなことでしか確かめられない姿は滑稽かもしれないけれど、
    どことなく共感できる気もする。
    憂鬱からいつまでも逃れられないけれど、その代わりにいなくなってしまうこともない安心感さえある。

  • この人の選び取る単語とその組み立て方が好きだ。それだけでもう満足して読めてしまう。

  • 初めて読む作家さん。期待以上に面白かった。少し読み進んだ時に、筒井康隆に似てると感じたが、あとがきにも名前が出ていたので、間違いではなかったようだ。因みに、このあとがきは、何が何やらさっぱりわからなかった…w
    この方のお父様の翻訳された作品は、何冊も読んでいたのだけど、あまりの違いにびっくり。それでも、才能はしっかりと受け継いでおられるようだ。
    わたし的には、「デンマ」と「マンボ」が特に、面白かった。

  • でも恋というものはそういうものなのかもしれない。自分を燃やして燃やして、最終的に灰になって風に吹かれておしまい、みたいな


    グルーヴ感のある文体てなんだと思ったら舞城王太郎に近い感じ。好き。
    現代文学に疎いけれど、純文学でいったら誰よりも圧倒的に上手いのは舞城だと思う。文学的うまさは少し違うけれど、女の性欲全開なテーマなのにいい意味で女くささがなくて金原さんの本割と好きかもしれない。女くさいというのは林芙美子が書くみたいに、自分のどろどろしていやらしいところに無自覚だということ。自分が被害者だと主張していることに気づかないこと。自分は傷ついている、誰かの陰謀だ、どうしてこんな世界に生きねばならぬのか、なんて言葉にするとなんて陳腐。普段わたしたちがぼんやり考えていることを言葉にできる作家さんだと思う。本当に重いのは読めなさそうだけれど。蛇にピアス読んだことないけれど。
    生きていると恥ずかしいことばかりだ!

    落ち込んだ時は自分より落ち込んでいる人を見ると楽になる。それは下には下がいる、と安心するのではなく、そんなに過剰反応するなんて大袈裟な、と他人につっこみを入れていると自分だって大袈裟かも、と冷静になれるから。

    という落ち着き方を何年も前に教えてくれたのは、たった19歳の友人だからやっぱり彼は天才なんだと思う。忘れたくない思い出は歪んでいくものらしいけれど。

    同じ名前でも、憂でうい、と読ませる種村有菜先生の言語感覚が好き。

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著者プロフィール

1983年東京都生まれ。2004年にデビュー作『蛇にピアス』で芥川賞を受賞。著書に『AMEBIC』『マザーズ』『アンソーシャルディスタンス』『ミーツ・ザ・ワールド』『デクリネゾン』等。

「2023年 『腹を空かせた勇者ども』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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