岸辺の旅 (文春文庫)

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著者 : 湯本香樹実
  • 文藝春秋 (2012年8月3日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167838119

岸辺の旅 (文春文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 夫が失踪して3年あまりの時間は何も書かれていない。「どうして、一体何があったの?」という妻の答えのみつからない苦しみがベースに、この物語は突如現れた夫(しかもすでに死者だという)との二人の旅路を、水の流れる方向へ身を委ねるが如く、やがて本当の永久の別れるその時が来るまでを、淡々と刻々と、時を刻み妻と夫の心を刻みながら、進んでいくストーリーです。

    本の帯には「身を引き裂かれたのち、現在を生きる者がみずから魂の再生をなす物語。理不尽な痛みや過去…死さえも受け入れる強さをひとが獲得していくひとつの過程がここにある」と書かれてあります。
    でも、自分が実感してない痛みはどんなに主人公の心情に寄り添おうとしても、読めば読むほどに混沌とした気持ちになるのです。少なくても私は再生できるところまでは行きつかなかった。まだ切なくて悲しくて、残されたわが身を呪うことは出来ても。。
    愛する人の喪失は想像もしたくないけれど、必ず誰の身にも起きること。
    その時が来たら、再びこの本をもう一度、間違いなく手にするでしょう。それまでは、分からないままこの本に抱かれています。

  •  丸い白玉→満月→魚の目→滝の奥の洞窟
     連想ゲームのように、読んでいて心に引っかかってくる物が、小説に滑り込んできている。
     仏教の輪廻と、夫とともに流れ者のように旅する瑞希の姿には、流転という雰囲気が漂ってきていて、ゾクッとするほど、生きる者と死者との境界線が見えなくなっていた。
     ただ夫の失踪後、知らなかった夫の姿を知るために、死を実感したいがために、夫の浮気相手と会うという行為には、首を振りたくなった。
     これって愛情?? 知って欲しくない面も知り得てよいのだろか?? 
     だとしたら愛も残酷ですね。

  • ある夜しらたまを作る瑞樹のもとに三年間行方不明だった夫、優介がふいに帰ってくる。
    そして翌朝、2人は優介が帰ってきた道を辿り始める。
    永遠に最期の地に着かなければいいのにと願うように読んだ。

    瑞樹と優介は近づいているようでゆっくりと離れていたのだろうか。
    自分以外の誰かと生きるということは、なんて怖いことなんだろう。
    その人を失う瞬間を思うと怖ろしくて、笑ってなんていられないのでは‥?

    優介には瑞樹が知らない顔がいくつもあった。
    もちろんそんなのは当然のことだ。誰かのことを全て知るなんてあり得ない。
    それでも瑞樹のように二人の間の距離を大切に出来たらいいなと思う。
    相手が自分から離れていくこともあるかもしれないけど、それを怖れて無闇に距離を縮めようとすることはきっと何にもならない。

    ゆっくりと語られる二人の旅はどのくらいの長さだったのか。
    時間はあっという間に流れてしまったのではないかと想像する。
    日々をどんなに大切にしていても、振り返れば過ぎ去った時間はいつも一瞬のような短さだ。
    寂しくないなんて嘘。後悔しないなんて無理。
    でも、楽しかった、大好きだったと思いたい。
    なんて幸せな時間だったのだろうと感謝したい。
    そう思う。

  • ファンタジーであり不条理であり寓話でありロードムービーでありコメディでありハートウォーミングものでありホラーでもある。

    浅野忠信はもとから魂の抜けているような顔。なのにチャーミングという。
    ばっちりの演技。(空も風も痛いという凄まじい台詞は、そこらへんの役者には言えないだろう。)
    深津絵里は静かに悲しみを持続しているような顔。
    だからこそ笑顔や笑い声が嬉しい。
    怒った手つきで白玉団子を作るとか、いい。
    なにやかやと手仕事をする所作も素敵だ。
    蒼井優の自信たっぷりのしたたか悪女。
    ほか、小松政夫をはじめとして「いいツラ構え」のおっさんたち。

    旅は4つに分割できると思うが、「自分の死に気づかない人」と生者のそれぞれの在り方を見届けることで、自分たち夫婦の在り方も決着をつけようと決意する。
    死者の未練、生者の執着、それぞれがお互いを引き止めたり引っ張ったりする。

    この均衡不均衡は、生者死者だけでなく夫婦の関係性でもあるのだ。
    死後でも「愛の確認」をしなければならないとは。(恨みの幽霊は存在しない。)
    そして普段の生活では自分に見せてくれなかった「別の顔」を見て、理解を深めていく。

    生死の境界や通り道は、黒ではなく白や霧や湯気のイメージ。

    全編仰々しいとともに美しく幸福なオーケストラ。
    これも清節と思えてしまえるくらいには盲目的信者である。
    しかし、ここまで不穏なのに幸せな感動に浸れるのは、もう清でしかありえないのではないか。

    #####

    と、映画版で書いた。

    抒情的な怖さを醸し出す設定や小道具や人物や背景やは清の工夫なのだろうとてっきり思っていたが、
    実は原作をかなり忠実になぞっていた。
    ということは「湯本香樹実の黒沢清性」。変な表現だが。
    「死者は断絶している、生者が断絶しているように。死者は繋がっている、生者と。生者が死者と繋がっているように」
    という台詞なんて、「回路」に出てきてもおかしくない。
    死者が自分の死に気づいていなかったり、生者に交じっていたりするところも。

    むしろ映画のほうが、ピアノ勝手に触らないで! や、今度結婚するんです、ふふふ不敵な笑み、や、殴り合い、などなど、エモーショナルな場面が多くなっているほど。
    つまり原作は相当に淡々としている。それでいての叙情だから、良作なのだ。

    また小説で気づいたのは、決して夫婦の話に限定していない、むしろ親と子という軸が盛り込まれた作品なのだということ。

    あとは全編を通じて水の気配。これは小説ならではの巧みな技巧だ。

  • きみが三年の間どうしていたか、話してくれないか… 長い間失踪していた夫・優介がある夜ふいに帰ってくる。ただしその身は遠い水底で蟹に喰われたという。彼岸と此岸をたゆたいながら、瑞希は優介とともに死後の軌跡をさかのぼる旅に出る。永久に失われたものへの愛のつよさに心震える、魂の再生の物語。

  • 蟹に食われたという夫が3年ぶりに帰宅。その帰ってきた道のりを逆にたどる旅。その旅で色々な人と出会い、知らない夫の一面を知ることになる。風景と会話が見事に溶け合っている。波の音、月の満ち欠け、この心地良いリズムは不可思議な設定に違和感を感じさせない。何回か読みたくなる魅力をもっている作品です。
    カンヌ映画祭で黒沢清氏が監督賞を受賞。
    電線が風に揺れているみたいな音「ひょーん、ひょおぉーん」という表現が繰り返しでてくる。映画では場面転換で使われると予想。どんな音が鳴るのか?楽しみです。

  • 彼岸と此岸、死者と生者、死ぬことと食べること。
    それぞれ相反することではなくて、曖昧な境界線を挟んでつながっているのだと思う。
    死んだ人のいない家はない。つまり、誰かを失ったことのない人はいない。それでもそこにあった時間は、記憶は、失われることはなくて、私たちはふたりぶんの荷物を持って、波の寄せる岸辺の旅を続ける。

  • 読み終えてからしばらく経っても、この本のことを思い出すと、静かに沈み込むような気分が蘇ってきます。そういう小説はそんなにあるものではない、まさにこの表紙の写真のような空気感の物語です。

    暗いお話は得意ではないのですが、随所にぞくりとするような表現があったりするので、またこの文章に触れたい、と思ってしまう。

  • とても綺麗な表現をするなぁという印象。

    映画も見たけど、小説の方が好きです。

  • 読み終わってすぐには感想がすぐに見つからなかった。
    なんと表現すればいいのか収まりつかなかったからだ。
    3年間失踪していた夫が帰ってきて、いなかった間どうしていたかを話して欲しいと言った。
    お互いにいなかった間は分からない。そうしたら夫が過ごしていた場所に連れられた。
    死者の世界と生者の世界が交わって、行き来し、何かを共有する。
    何か切ない。多分、歳月が過ぎればもっとわかることがあるかもしれない。

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岸辺の旅 (文春文庫)の作品紹介

きみが三年の間どうしていたか、話してくれないか-長い間失踪していた夫・優介がある夜ふいに帰ってくる。ただしその身は遠い水底で蟹に喰われたという。彼岸と此岸をたゆたいながら、瑞希は優介とともに死後の軌跡をさかのぼる旅に出る。永久に失われたものへの愛のつよさに心震える、魂の再生の物語。

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