- Amazon.co.jp ・本 (459ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167839024
感想・レビュー・書評
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息つく暇もないほど一気に読んでしまいました。
序章といいつつ、後半はだいぶ恐ろしくなってきたと感じていた上巻が
嵐の前の静けさでしかなかったことを改めて知ります。
生徒達の必死の行動も極限状態では無力にほど近く、
様々な工夫が、いとも簡単に破られどんどん減っていく有様は
敵さえ違うものの、高見広春「バトル・ロワイアル」を思い出しました。
こんな大量殺人をあっさりやってのける蓮実聖司は、
どう考えても極悪非道のサイコパスであることは間違いないのに
どこか憎めないのがまた恐ろしい。
なんでもできてしまうほどのキレ者なのに、
殺人を躊躇してしまった自分の気持ちには気づけないような
不器用さがそうさせてるのでしょうか…。
それまでと一転、事件翌日からは一切の蓮実の心理描写がないところがにくいです。
彼らを前に、サイコパスは一体何を考えていたんだろう。
ゲームオーバーかと思いきや、次のゲームスタートの合図のようでとても怖い。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
読めば読むほど後半のスピード感が心地よい。
恐ろしさを感じながらも、ページを捲る手が止まらなかった。
残酷な描写が苦手な人にはおすすめできないが、耐性がある人には是非このスピード感を味わってもらいたい。 -
高校の英語教師である蓮実聖司は、多くの生徒から慕われる人気教師。しかし、彼の周りでは次々と事件が起きて…。
このミス1位、山風賞受賞ということで、期待を持ってずいぶん前に購入。上下巻で結構ボリュームのある本なので読むのを躊躇い長い間積読本になっていたが、ようやく読了。貴志祐介氏は寡作家だが、一つ一つの作品に一球入魂!という感じでハイレベルだと思う。「黒い家」や「クリムゾンの迷宮」など、ゾクゾクしながら読んだ記憶がある。本作もその類に漏れず、ページをめくる手が止まらない。特に後半の文化祭準備編のハスミン劇場たるや、息つく暇も無い。ただ、読後感は後味悪し。好き嫌いの分かれる作品だろう。登場人物が多いので、なるべく間髪入れずに読むのがオススメ。
週刊文春ミステリーベスト10 1位
このミステリーがすごい! 1位
本屋大賞 7位
ミステリが読みたい! 2位
山田風太郎賞受賞(2010年) -
おもしろかったー!
クリムゾンの迷宮も好きだったけど、この人の作品はハラハラ読めていい!
新世界は世界観が入れず断念したけども。
面白く読めてた中でツッコミ所はやはり満載で。
それもいいや!と思えるスピード感とエンタメのワクワクが。
気になったのは、蓼沼がバカすぎてもうね。
せっかく外にいたのに、助け呼びなさいよ。
誰かが言ってたように『むしろ助けを呼びに行ってほしいんだけど。あいつの性格なら、自分で犯人をやっつけようとしそう。』って。
あと、警察。
無能すぎだよね。
そんなツッコミところはあるけど、面白いです。
誰が生き残るのか?
最後までそれが気になって、けど終わらないで〜って気持ちで読み進めた。
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ブレイクダンスで人を殺した小説はこれが世界初ではないか?
大層わたしは驚いた。ほかにもまじめにやってるのかギャグなのかわからないシーンが結構あったので、映画でどのように映像化されているのか気になるところ。※映画は未視聴。
生徒たちは蓮実によって次々と殺されていく。
ほとんどの生徒は「死体を隠すなら死体の山の中」理論で巻き添えを食った形で、蓮実のサイコパスぶりがいっそ痛快である。
でも蓮実よ、ここまで慎重だったのに、2人をとり逃したのはあまりにもつめが甘いだろう。
アメリカに蓮実よりももっとずっとヤバイやつがいたり、自分でも気付かないくらい気に入ってしまった女の子をひと思いに殺せなかったり、そういう完璧じゃなくて意外と人間くさいところが憎めないんだけれど。……なんて思わせてしまうところにも、蓮実のサイコパスとしての能力の高さがあるのかもしれない。
ところで読み終わった後3日くらい、夢に蓮実が出てきて魘されました。
ハスミンこわいよハスミン… -
他者に共感できない、気に入らない人を当たり前のように殺す(さも無視したりいじめたりするかのような程度に)人間が描かれる世界、があまりにも恐ろしくて、作者の鬼才っぷりを感じた。
せっかく殺すなら、全員『卒業』させてあげないといけない---
信じられない神経でありつつも、世の中のサイコパス、サイコはこういう感覚なのかもしれないと思うと納得できる部分もあった。 -
こ、怖い…だけれども目が離せない。この怖さがクセになる。
下巻は一気読み必至です。
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※上下巻あわせての感想です。
いつか読もう読もうと思いつつ、今更初読。
身もふたもなく言うと、サイコパスの教師・蓮実が学校という「王国」で好き勝手する話。
上巻序盤での蓮実の明るさと、だんだんと明らかになっていく冷血な本性の対比がぞくぞくします。
また、下巻に入ると上巻とは打って変わって蓮実が殺戮の限りを尽くすパニックホラーのような展開になっており、これも上巻日常生活・静に対して非日常・動という感じで上下巻での落差、対比も面白いのではないかと思います。 -
蓮実は、インスタントコーヒーを淹れると、応接用の椅子に座って目を閉じた。映画のようなイメージを脳裏に描きながら計画を細部まで再検討してみる。
たぶん、やれる。‥‥‥いや、やれるはずだ。
同じことを成功させた人間は、未だかっていないだろう。だが、外部からの侵入者とは違い、校舎の中のことは知悉しているし、マスターキーも使える。最後までやり抜くのに必要な頭脳と体力、精神力も備えている。
それでも、さすがに躊躇があった。これまで一度として犯行に億したことはないが、今度ばかりは、やりすぎではないかという気もする。
‥‥‥しかし、他に代案がない以上は、やるよりない。(191p)
先ず検討したかったのは、蓮実は本当に「完全犯罪」を最初から目論んでいたのか、ということだった。目論んでいた。しかし、躊躇は一瞬したみたいだ。
私は映画の感想で「動機も方法も確かに完全犯罪に向かっていた。しかし、どうしてもクラス全員殺すのは、綻びが起きない方がおかしいのではないか。」と書いた。確率からすれば失敗する可能性は10%以上(←蓮実主観を想像)あっただろう。それでも実行してしまうこと自体、精神構造が理解できなかったのであるが、蓮実が自分の犯罪をスポーツに例えていた。普通では危険極まりない直滑降などのスキーをあえて行うスポーツがあるという。スピードと思い切りの良さが、彼の成功を保証しているらしい。この記述で「なるほどね」と思ったのである。
自分には理解不能な精神構造を小説という形で追体験するのは、確かに小説や映画の役割であり、エンタメの使命だろう。AKBメンバーに秋元康がこの映画の試写会を強制させたのは、「アイドルとは疑似恋愛の対象である」という信条を持つ彼としては当然だったのかもしれない。メンバーの中でも一際知的で感受性が強い大島優子が「この映画嫌いです」と大泣きしたのは、この作品の本質を1番理解した証左だろうと思う。優子は、センターとしてこの映画の中の蓮実の役割を担わざるを得ない。もちろん、蓮実と正反対に「共感能力」が強い彼女はまるで自分がAKBメンバーを殺したかのような錯覚を覚えたかもしれない。また、後で秋元康の意図も察知しただろう。後でひつこい様に「この映画嫌いです」とブログに書いたのは、「人生をエンタメに徹せよ」という秋元康のメッセージに関して若者らしい「反発」だったのかもしれない。
というような、ある事ないことをつらつら思わせてくれるこの小説はやはり見事なエンタメ小説でした。
2012年11月29日読了