勝手にふるえてろ (文春文庫)

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著者 : 綿矢りさ
  • 文藝春秋 (2012年8月3日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167840013

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勝手にふるえてろ (文春文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 「勝手にふるえてろ」と「仲良くしようか」の初出時のレビューを加筆修正。

    1.「勝手にふるえてろ」

    なんとインパクトのあるタイトルだろう。 
    書き出しフェチでもありタイトル名人でもある、綿谷りさ節。
    思わず手に取りたくなるね、書店でこれ見たら。ジャケ買いですよ。
    期待と興奮に胸躍らせながらページをめくると、
    「とどきますか、とどきません。光りかがやく手に入らないものばかり見つめているせいで、すでに手に入れたものたちは足元に転がるたくさんの屍になってライトさえ当たらず、私に踏まれてかかとの形にへこんでいるのです。」の書き出し。
    「綿矢節キタ───!」と叫びたいですが、この表現って古くない? もう死語じゃないの?
    2012年の『文學界』新年号に彼女と金原ひとみの対談があって、その中で金原さんが綿矢りさ新作の文中表現に関して『綿矢さんキタ───!』とおっしゃってるので、使ってみたけれど。
    それこそ言葉の絶滅危惧種のような……。金原さん、時代に乗り後れていない、大丈夫?
    ま、それはそれとして、すぐに「私には彼氏が二人いて」という文章に出会えば、二人を弄ぶ恋愛ものか? と勘ぐりたくもなるが、そこはさすが綿矢くん。
    料理の仕方が常人とは異なる。その二人の名前をすぐに出さずに、イチとニという呼び名で分類分け、というか括り方で強引に話を進めるのも彼女ならでは。
    「蹴りたい背中」を思いのままに弾けた文章にするとこんなカタチになるんだろうか。
    書きたいように書いた、という感ありありで面白かった。
    日本中の小説家が束になっても敵わない、綿矢りさにしか書けない恋愛小説です。
    ぼくは思うのだが、彼女の文章の素晴らしさはこういったシチュエーションでこそ最大限に引き出されるのではなかろうか。
    だから無理に普通の恋愛小説風なストーリーとかにしなくてもいい。
    30代になったら、30代の物語を書かなきゃいけないのか? 50代になって高校生青春物語を書いてはいけないのか? そんなことはあるまい。 
    一般的にそうなりがちなのは、単に作家自身が書けなくなるからだ。
    サザエさんがテレビの中で永遠に年を取らないのと同様、作家だって、何歳になっても同じようなシチュエーションで、でも違う物語を書き続ける。
    そういう人がいても一向に構わないと思うのだ。
    逆に言えば、そういう作家こそ稀有であり、貴重な存在なのだから。
    ぼくはこれを読んで、高橋源一郎が「綿矢さんは将来田辺聖子みたいな作家になるのではないか」と思った理由が少し分かった気がする。
    彼の慧眼に感服。

    ちなみに、この作品は書き出しだけではなく、最終ページの表現も別の意味でよかった。

    付録:思わず吹き出しそうになった、「勝手にふるえてろ」名文集
    (あまり長く引用すると、読んだ時の面白さが半減するので、さわりだけとか伏字にしました)
    問題1:下の〇を文字で埋めなさい。
    (って、この本を読んでないのに、これを埋められる人は誰もおるまい)
    :両脇の個室からユニゾンで鳴り響く〇〇の〇〇〇
    :先生、(中略)だから自分のてがらにしないで
    :で、隠された私のコインはどこへいったの?
    :で、この鳩は私が育てなきゃならないの?
    :じゃあ家族になってあげてよ。合掌。
    :ほとんど修行だった
    :自分の〇〇を探して毎夜、上野公園の不忍池の辺りを這いずりまわる人生になるだろう。
    :たくさんお酒をのんだら〇〇〇〇が〇〇〇なるからイヤ! と首を横にふって ──
    :君の〇のふせんもぼくが取ってあげるよ、ってか。正気か。(これが一番笑えた)
    :だとしたらニは私を絶滅から救う保護観察員なのだろうか。
    :だるまさんがころんだで鬼になって(中略)心境だった。
    註:ここに列記したのはごく一部です。

    付録その2
    「視野見」という表現について
    この表現はあまりにも的確すぎて、実際に辞書にあるのではないかと、思わず手元の電子辞書を開いてしまったほどだ。
    広辞苑の第七版には是非入れてほしい表現。例えば次のように。

    「視野見」(しやみ):別のものを見る振りをして、本当に見たいものを視界の隅で見ること。日本の作家、綿矢りさのあみ出した技で、目の血管が切れそうになるほど複雑な作業。


    2.「仲良くしようか」

    ──ぜいたくとは何か。私にとってそれは、美しい男、よく磨かれた寝そべりやすい床、太陽を水面が反射するまぶしいほどの川岸。宝物とは何か。私にとってそれは、いつも褒められる長いまつ毛、清廉な佇まいで飲み口の薄いアンティークの紅茶茶碗、すっと触った指がありもしないささくれを想像して鳥肌を立てるほどになめらかで黒ずんだ艶を帯びた木製の肘掛け椅子。

    もう、この書き出しを読んだだけで心が魅きこまれていく。
    流れるような美しい言葉選び。巧みな比喩。
    詩を朗読しているみたいな文章。いつもそう感じる。
    苔むした石の上をさらさらとすべるゆるい小さな滝のように、聞こえるか聞こえないかほどの微妙で繊細なバランスをとりながら、ひとつひとつの言葉が綺麗に流れ落ちていく。
    どうして綿矢りさは、こんな文章が書けるのでしょうね。
    私には、到底こんな綺麗な文章を書くことができないが、でも心の奥底まで存分に染み渡ってくる。

    自意識、混沌、葛藤。
    綿矢さんの描く女性は、実像というよりも意識が塊となって人間の形をしているように思える。
    意識という粘土で作り上げられた人間像。
    いったいそれは柔らかいのか固いのか。
    まだ、こねくり創られたばかりで、少しでも触れるとぐにゃりと形を変えてしまうのか。
    それとも時間を経たことで焼き物のようになり、木槌で叩けばパリンと割れてしまうほど固まってしまっているのか。
    いや、最初はまだ形の定まっていないものが、どんどん世界の深みに入っていくことで次第に固形化し、最後には破裂するような音を立てて自らを粉々に壊していく。自己崩壊の世界。
    何度も何度も、作っては壊し、作っては壊しの繰り返し。
    その壊れるときの弾けっぷりが、爽快でもあり、笑いを誘い、哀しくもある。
    おそらく彼女はこれからもこのような小説を書き続けるのだろう。
    それは読者にとっては耳に心地よい音楽に浸っているようなものだ。
    言葉の響きは音の響きとなり、それらが体中に染み渡り、心地良さを演出する。
    モーツアルトかシューベルトか、或いはヴィヴァルディか。
    第一楽章、第二楽章とゆるやかに進行しながら、第三楽章で一変し、第四楽章では見事な結末を迎える。
    彼女の場合、最終楽章はとても短く、最後の数ページ、或いは最後の数行、最後の一言ということさえある。
    いや、作品の結末後の読み手に想像させる次の一言でもあったりするのだ。
    「仲良くしようか」と。

    綿矢りさ、着実に進化の真っ最中。
    面白い作品です。是非お読みください。

  • 中2で一目惚れしたイチ彼を、三回しか喋ったこともないのに想い続けてきたヨシカ。誰とも付き合うことなく、処女もこじらせて26歳になった彼女に惚れた暑苦しい二彼。

    結婚するなら1番好きな人と…と思い詰めて、同窓会をセッティングしてまでイチに再会するも、イチ彼には名前すら思い出してもらえないヨシカ。

    ここまでぶっ飛んではいないけど、ヨシカの気持ちが分かってしまう私も立派な中2病…。

    二彼に対する残酷さとか狡さとか、生々しいけどうまいな~。「インストール」のときより綿矢さん自身年齢を重ねてふっきれたのかな。

    でもまだヨシカは26歳で、まだまだ余裕あるじゃない。二彼もいい人そうだし。

    幸せにしてくれそうな人≠一緒にいれるだけで幸せな人。だからややこしい。

    イチ彼にそこまで惹かれる理由がよく分からないけど、それも恋の不思議ってやつだろう。二彼にいたっては「前世はおでんの具か」とまで脳内で切り捨ててるし(笑)

    巻末の辛酸なめ子さんの解説もツボった。こんな可愛いうさちゃんの表紙でこの内容。素敵です。

  • 自分が好きになる人と自分を好きになってくれる人が違うというよくあるシチュエーション。
    この物語の主人公には中学生の頃から一途に片想いをしている相手がいる。
    相手に気付かれないようにずっと視野見する日々。
    何度もリピートして思い出す彼との数少ない接点。
    読んでいてなんとなく気が滅入る。
    本人にとっては初めての大切な恋心なのに、それはひどくありがちで、チープで、粘着質に見えてしまう。
    その残酷さに鬱々とする。

    主人公に迫ってくる同僚の男性も、主人公があれこれ相談する同僚の女性も、記号的な存在に思える。
    あらかじめ用意されている役にキャスティングされた役者さんのような。
    この人じゃなくてもいいけど、男には告白されたいし、恋バナ出来る友達も欲しいという欲求を満たすためだけの存在のような。
    そういう役どころを当てはめているから、彼らにそっぽ向かれることが許せないわけですね。

    食中毒が私の身体で進行している時に読んだからかもしれないけど、読み終わってとてもぐったりしてしまった。
    主人公がこの後幸せになれたかどうかについても、あまり良いイメージが浮かんでこない。
    私はこの物語と幸せな出会いが出来なかった。
    残念…

  • 想いを告げられなかった片思いの相手ほど、数年経っても心に引っ掛かり、思い出とともに美化され、気付けば記憶の中で”完璧な人”に変貌してたりします。

    中学時代に片思いをした相手が忘れられず、それ以降OLになった現在まで恋愛経験ナシの主人公・ヨシカ。
    中学卒業以降一度も会うことなくヨシカの脳内で「理想の王子様」として君臨する”イチ”、全然タイプじゃないけれどヨシカのことを好きと言ってくれる”ニ”。この2人の狭間で揺れ動く決心のつかない主人公は、片思いと妄想を拗らせ過ぎて痛いです。
    恋愛らしい恋愛をしたことなく結婚の予定なし。初めての相手は心から好きになった人と、と守りつづけた貞操。やりがいもない仕事をする日々。26歳。とにかく痛い。でもその痛さ、同世代女性には痛いほど分かる人も多いはず。

    綿谷さん独特のさばけた文体は軽快で一気読み。この小説の漫画版も見てみたいなぁ、作画・安野モヨコ辺りで。

  • なんか、綿矢りささんって、すごい才能なのかも、と思った。
    文章にもストーリーにもすごくオリジナリティを感じるというか。恋愛ものといえばそうなんだけど、いかにもありそうな、読んだことあるような、よくきくような、っていう感じがまったくない。恋愛もの、なんて言っちゃいけないような気もする。確かに、恋愛の話だし、すごく笑えるし、細部もリアルでおもしろいんだけど、単なるラブコメディ扱いしちゃいけないような。笑いながらさくさく読めるんだけど、本当はさくさくなんて読んじゃいけないんじゃないか、と。じっくり詩を読むみたいに読むべきなのかも、とか。

    でも、なんというか、読み手を集中させるというか、ほっと息をつかせないようなところがある気がして、読むのにけっこう力いるというか疲れるというか。わたしは基本、たらたらした小説が好きなので。

    もう一篇の「仲良くしようか」も、よく理解はできないながら、すごいのかも、とやっぱり思った。ご自身のことを投影してるのかな。

    結局、二篇とも、おもしろかったのだけれど、ちゃんと理解できてないような気がしていて。だから文庫解説では解説をしてもらいたかったなー、と勝手ながら思った。
    綿矢りささんのことをもっとよく知りたい。

  • 理想の彼に憧れて、現実の彼には興味なし。
    あるある!と思ってしまった。イチに惹かれるのは分かるけど、こういうフワフワした人を追いかけても絶対報われないのに。だからと言ってタイプでもないし欠点ばかり自動的に探してしまうニのことを好きになれるかと言うと・・・。

    そこまではなんか分かるんだけど、ヨシカの大胆な行動には驚く。平気で人の名を騙って同窓会を開いてイチに近付いたり、平気で妊娠したとウソをつく。ヨシカの虚言癖が怖かった。
    でも結局、自分の名前さえも覚えていなかったイチへの熱が冷めて、それでタイトルが「勝手にふるえてろ」なんだと分かった。

    絶滅動物の話はロマンを感じて興味深かった。調べたら面白そう。人間(ホモサピエンス)は運良く絶滅しなかったからここまで進化してきたのだろうけど、絶滅するしないって紙一重。人間のせいで絶滅した動物の事を思うと、人間って弱いくせに罪深い生き物だなと思う。

    イチへの想いがなくなって、ニにも愛想を尽かされてからヨシカは自分を見つめ直した。
    心を開いて本心をぶつけて、自分の思いを伝えることって大事なんだ。素直ってこういうことなのかも。

    その後の短編「仲良くしようか」は、よくわからなかったけど川上未映子のエッセーを色々くっつけたみたいな、見た夢をそのまま記録したような、混沌とした印象。こちらの解説もほしい。
    3.5点ぐらい。

    20170604

  • 綿矢さん作品を読むのは4作目です!綿矢さん、やっぱり面白いです♪ちょっと毒のある女性を書くのがとても上手いです!主人公のヨシカは26歳。彼氏いない歴26年のOL。中学時代の初恋の人「イチ」と同じ会社の人「ニ」との間で心が揺れ動きます。初めてモテを味合わせてくれる「ニ」とデートの時の心の中も笑ってしまいます!ラストも可愛くて良かったです♪文章のリズム感もよく、一気に読んでしまいます!綿矢さん、やっぱり面白くていいです〜♪女性の方が楽しめる作品だと思います!すっかり綿矢さんファンになりました★

  • かわいらしいウサギの表紙が、ウサギ好きとしては放っておけず、おもわず手に取ってしまった本作。綿矢りささんの作品って、「インストール」を読んで以来。何年ぶりだろう。

    でも、手にとった本当の理由は別。実はあらすじを見て、これは読まなきゃいけないんじゃないかと思わされたんです。おそらく私はこれを読んで痛い思いをするだろうけど、読んどいた方がいい、きっと。そう思ったから。

    結果的に、ヨシカの言動を追っていく私が常に感じていたのは、言い知れぬ恐怖。ヨシカにそれを感じていたんじゃなくて、ヨシカから透けて見える私自身を感じ、そこに恐怖心を抱きました。あんなに行動力はないけど、もしかして私も、周りから見たらこんな感じ?それは絶対に嫌だ。でも、絶対違うとも言い切れない。私がこんなふうなんだとしたら……怖い。

    あらすじに“妄想力爆発のキュートな恋愛小説”って書いてありましたけど、全然キュートじゃないです。身につまされる感じがどこまでも恐ろしい。そんな女性像を書きあげてしまう綿矢さん、すごい作家さんです。

    「愛する」ことと、「愛される」こと。どちらが幸せなのか、なんて、安易に決められるものじゃない。結局は、自分自身が何を考え、何を選ぶか。選んだ先の未来で、その愛を受け止めて真っ直ぐに生きる。幸せかどうかは、そのときに判断するしかない。

    ヨシカはやがて、愛の受け止め方を知る。私もそんなふうに生きたいなと思ったりするけど、そのスタートラインにすら立ててない気もするし。なんだか、自分の身の振りを考えて、ヘコむ寸前まで行きかけてしまいました。でも、当初の思い通り、今、読んでおいて良かったなって思います。ヨシカも新たな未来、新たな自分をつかんだんだから、私もそうできるようにがんばらなきゃ。

  • 中学時代の片想いの相手を胸に秘めつつ、いまだ恋愛経験ナシの26歳OL、ヨシカ。
    現実と理想に振り回されて、妄想炸裂。
    綿矢さんの書きっぷりが気持ちいいです。
    何だかんだでとりあえずハッピーエンド。
    やはり男の人の方が、受け皿が広い。

    今いっしょにいる人に感謝しようと思う。

  • 26歳、男性経験のないヨシカは、3回しか話したことがない見つめるだけの中学時代の同級生イチと、職場で知り合った自分を一生懸命思ってくれている体育会系の彼ニとの間で、脳内二股恋愛中。
    片思いの彼への想いと、好きではない現実の彼への気持ちの中で揺れる乙女心。

    面白かった~。
    ヨシカの強がっている感じ、ひねくれている感じが、とにかく可愛い。
    かなり面倒くさい女子だけど、こういう気持ちって、みんな持っていて、気付いて欲しい、分かって欲しいんだと思う。
    イチへの想い、気持ちと、二に対する気持ちの落差に、思わずププッと笑いがこぼれた。
    随所に見える様々な例えも、言い得て妙、上手い!という感じ。

    最後、二の霧島くんの胸に飛び込んだヨシカ、
    うん、やっぱり可愛い。

    この先はどうなるかわからないけれど(苦笑)、取りあえずのハッピーエンドが良かったです。

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