小さいおうち (文春文庫 な 68-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167849016

作品紹介・あらすじ

直木賞受賞作品が文庫化!
小さいおうちは中島京子さんの小説です。2014年に山田洋次監督によって映画化もされている作品です。昭和初期の東京を舞台にした作品で当時の街や人々の暮らしなどが描かれています。女中のタキの視点で坂の上の小さい家で暮らす人たちを中心に物語は進んでいきます。戦争によって少しずつ時代に流されていく家族の物語です。

感想・レビュー・書評

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  • 山形の少女・タキは、昭和の戦前から戦争初期、東京で、女中として働いていた。それは、大好きで美しい奥様と、可愛い小さなおうちで、家事の腕前をふるう楽しい日常だった。
    そんな彼女が、女中を引退後、回想しながらノートに書き留めた物として描かれている。それを、時折、学生の甥が読むといった趣向。
    最近も、敗戦前後の小説を何冊か読みましたが、それらのような、抑圧的な生活を書くのではなく、女中として、知恵と工夫で奥様を支え切るということを、楽しんでいるかのように思う。
    この小説は、最終章で趣を変えます。
    奥様が、戦時でありながら、夫がありながら、恋をしてしまう。その、想い人へ宛てた手紙が、開封されないままタキの遺品から見つかります。
    タキが最初にお勤めした、小説家に教えられていた“かしこい女中”としての行動だったのか。また、タキは、奥様の友人にこの恋愛について相談したことがあります。その時の、“きれいな女は罪ね”と小説の抜粋から、意味慎重な会話がされます。タキさん同様、何を意味しているかわからず、数度読み返しました。ここに、タキさんが手紙を隠した本当の理由があるのか。正解は、作者のみ知るとのこと。

  • H30.10.18 読了。

    ・昭和初期の女中奉公していたタキさんと平井家の人々との日々の交流を描いた作品。銀座パーラーやカリーライス、昭和初期のモダンな東京が目に浮かぶような文章に引き込まれた。最後の結末にも驚かされた。
     そして、信念を内に秘めて生きているタキさんはかっこよく見えた。こういう小説、私は好きです。

    ・「戦争というのは、ハイカラな、最も大事な心に響くものからなくなっていくんだというイメージがあります。」(解説より)
    ・「戦前について調べ始めたら、明治以降に取り入れた西洋文化が成熟した時代だったんだとわかった。粋な時代だった。」(解説より)

  • 昭和の初期から戦争が本格化する時代にかけてが青春だったという一人の少女・布宮タキ。
    タキは昭和5年、家族の口減らしのためわずか13歳で故郷山形の農村から上京し
    女中として働くことになる。

    元々好奇心旺盛で田舎を離れて上京する事に期待さえあったタキは、持ち前の
    気転のきく賢さで女中としては重宝がられ、幾つか奉公先を変えながらも
    長年に渡り女中として仕える生涯を送った。

    やがて老境を迎えたタキは女中としての生涯のうち、決して忘れることのできない
    ある一軒の家族に仕えていた時のことを大学ノートに書き記すことを始める――。

    赤い瓦屋根のモダンな家。それは"小さいおうち"ではあったけれど、女中タキには
    女中部屋が与えられ、玩具会社の役員の旦那様と時子奥様、恭一ぼっちゃんの
    三人の家族に仕え、中でも時子には誠実に尽くすことを誇りにしていた.....。

    晩年のタキが回想録を書き記している現在の暮らしと、女中として仕えていた
    娘時代のタキの暮らしとが交互に描かれた戦時中の昭和から平成に至るまでの
    時代の移り変わりは、決して平坦ではなかったはずなのだけれど、タキの過ごした
    "小さいおうち"での暮らしには、優しく穏やかな愛おしさに包まれた温かなぬくもりが
    感じられます。

    赤い瓦屋根の"小さいおうち"での暮らしが生涯で一番忘れられない想い出であるタキ。
    だけどその赤い瓦屋根の"小さいおうち"が生涯の心に残る想い出であった人は
    実はもう一人ひっそりといたということが哀愁を漂わせる、しっとりと美しい物語です。

  • 平穏な日々の話だけでは終わらないのですが。百貨店が煌びやかで、憧れだった時代。元日の何日も前から準備されるおせち、伊勢エビのサラダ、シチュウ、カリーライスやお子様ランチ、随所にあらわれる料理の数々が話に彩りを与えてくれたため、爽やかな、幸せに包まれた読後感でした。感想を書くにあたり、私が食いしん坊であることも再確認できました。

  • 最終章『小さいおうち』の頁をめくって数行に目を通す。
    「この物語を読み続けてよかった」読書の悦び。
    読了。
    本を閉じて表紙をじっと見る。じーっと見る。
    「ああ」
    ため息とも感嘆ともつかない、こみ上げてくる何か。

    なんとなく、女優の故・高峰秀子さんのエッセイを思わせる「タキおばあちゃん」の手記から始まる導入。
    そして、尋常小学校を卒業して「女中」として東京に出た、昭和五年から始まる「タキちゃん」の物語。

    現代に生きる僕らが想像する「女中」よりも、どちらかというと「お手伝いさん」と呼んだ方がイメージにしっくりくる。

    赤い三角屋根の文化住宅、桃の缶詰を使ったムースババロア。
    鎌倉の大仏に、翡翠色のワンピースと麻の日傘。
    資生堂の花椿ビスケットと『みづゑ』の特集記事。
    明るく利発なタキちゃんと、元気でお洒落でユーモアもある時子奥様との日々は、銀の器にのったフルーツの盛り合わせのように総天然色できらきらと眩しい。
    「戦争に塗りつぶされた暗い時代」という単一のイメージで語られがちな昭和初期の東京における家庭や日常の風景を、女中・タキの目線から描き出す、とは巻末の言葉。

    そしてひそやかな愛の記憶、とは帯の文言。
    「頭のいい女中」の話。
    読み終わった僕の頭のなかでは、いろんなことがぐるぐる回る。

    再び表紙に目を落とす。
    秘密のノートとタキちゃんも『小さいおうち』の内と外、だったのかもしれない。

    • kwosaさん
      ayakoo80000さん

      読み終えたらぜひ感想を教えてください。
      レビュー楽しみにしています。
      ayakoo80000さん

      読み終えたらぜひ感想を教えてください。
      レビュー楽しみにしています。
      2013/01/09
    • MOTOさん
      こんにちわ。

      私は、この本は購入し、手元においてある本でしたので、
      ひじょ~にゆっくりじっくり時間をかけて読みました。
      なので、
      今、改め...
      こんにちわ。

      私は、この本は購入し、手元においてある本でしたので、
      ひじょ~にゆっくりじっくり時間をかけて読みました。
      なので、
      今、改めてkwosaさんのレビューを読んで、
      まだ、初々しいタキさんと奥さまのキラキラ眩しかった日々を、アルバムを眺めるような気持で、懐かしく振り返る事が出来ました。
      (書店で『みづゑ』を見かけると、なんとなく手にとってみたりなんかして。^^;)

      そして、読後、いろんな事が頭のなかをぐるぐる回る。kwosaさん同様、私もいろんな事を考えさせられました。

      ただ、人って本当に愛おしいものなんだなー。
      ・・・とは、改めてしみじみ感じましたよ♪
      2013/05/10
    • kwosaさん
      MOTOさん!

      コメントありがとうございます。

      直木賞を受賞した時には、何となく遠くから眺めている感じだったのですが、文春文庫の新聞広告...
      MOTOさん!

      コメントありがとうございます。

      直木賞を受賞した時には、何となく遠くから眺めている感じだったのですが、文春文庫の新聞広告を目にした時はすぐに書店に走りました。
      じっくり味わって読みたいという気持ちがありながらも、頁を繰る手が止まらず一気に読み終えてしまいました。
      せっかく手元にあるのですから、僕も時間をかけて再読してみようかな。

      >ただ、人って本当に愛おしいものなんだなー。
      ・・・とは、改めてしみじみ感じましたよ♪

      しみじみ感じますね。
      僕は男性なので特に「あの視点」には、ぐっと心にくるものがありました。
      2013/05/10
  • 中上流家庭に住み込みで働く女中(家政婦)の視点で、戦前から終戦にかけての時代の移り変わりを描いた作品。第143回(2010年上半期)直木賞受賞作。

    昭和5年、山形で尋常小学校を卒業したタキは、口減らしのため、東京の家で住み込み女中として働くことになった。働き者で機転が利き、料理上手なタキ。初めは小説家の家へ入ったが、平井家に移ると、嫁にも行かず「一生、この家を守ってまいります」と宣言するほどに、平井家に馴染んでいく。が、やがて戦争の影が…。そして時子と板倉の仲に心を痛めるタキ。

    当時の庶民は、限られた情報に踊らされて、事変病に戦争に対してかなり楽観的・従順だったんだろうなあ。そして気がついた頃にはもう泥沼。この辺りをタキの甥の息子(健史)に突っ込ませている辺り、上手いな。

    本作には、謎めいた部分がある。時子の親友の睦子が語った、睦子もタキも男女相愛以外の第三の路をゆくことになるかもしれない、という言葉。そして、健史が想像する、タキが時子の手紙を渡さなかった「全く違う理由」。同性への片想いの感情(同性愛)を匂わせるが、 何だかしっくり来ない。同性への強い憧れ、くらいかなあ?

  • 引き込まれた! 
    昭和10年〜戦後が舞台。
    戦争小説では決してなく、東京郊外に建った赤い屋根に白いポーチの洋館での物語。

    山形から女中奉公のために上京してきたタキ。
    美しい時子奥様へお仕えするタキの目線で起きた出来事を、回顧録として晩年綴る。

    ノートを読むのは甥の次男:健史。「頭の良い女中」と評されたタキ。その評価に値する仕事ぶりを、十二分に発揮した、と言うことか⁈

    物資が乏しくなるにつれ、創意工夫で乗り切る力、出会いと別れ。晩年の振り返った思い…。
    誰しも1つくらい、人生の終盤で省みる事があるのだろうか。

  • 記録

  • おばあちゃんのお話を聞いているような安らぎを得られる素敵な作品でした。映画化されていますね。ジブリ作品となってもいいのではないかと勝手に思ってしまいました。漂うノスタルジーがなんともいえず美しいです。
    女中奉公に出た少女の回想記。仕えた奥様への思慕、恋路を阻んだことへの悔恨の涙。

    太平洋戦争に突入する間際にも、当然ながらほのぼのとした日常がありました。当時の人々の暮らしというと、なんとなくモノクロの、貧しい様相ばかり思い浮かべるけれど、それはあくまでも一面にすぎないのですよね。一方、戦争に導く民衆の空気って、意外と明るいものなんだなと、薄ら寒くなりました。

  • 可愛い装幀の表紙に、
    可愛いタイトル。
    さえりさんの本棚にあった本が気になって、読んでみました♡ありがとうございます。

    昭和初期が舞台。
    女性目線で進むこの物語は、
    ハイカラで色彩あふれる当時の日本の姿が目に浮かぶよう。

    女性は家を守る風潮が強かった時代。
    男性の難しい世界のことはわからないけど、
    家のことならなーんでも知ってたし、なーんでも手作り。

    女性が創り出す、丁寧な暮らしに心奪われちゃう···
    布地から仕立て上げる着物や洋服。
    掃除はすべて手作業で家中ピカピカ。

    なんといっても食事のメニュー。
    質素ながらに手がこんでいる料理たち。
    当時はものすごく時間をかけてたんだろうなあ。
    レンチンないし。
    その手間を惜しまず、重ねる工夫が素晴らしい。

    それらが、戦争の気配が近づくにつれて、
    大切にしていたものが少しずつ奪われていく。

    切ないなあ···
    と思いきや、
    物語は意外な結末で、最後まで楽しめました。
    いい本を読んだなあ···
    (⁠ノ⁠◕⁠ヮ⁠◕⁠)⁠ノ⁠*⁠.⁠✧

    母の日のプレゼントで、母親にお花と一緒にこの本もあげることにしました♡
    母親は、自分の家が大好きな人なので、
    共感できるかもです♪

    • さえりさん
      こんにちは!
      いつも感想・本棚登録参考にさせていただいてます♪

      私の本棚にあったのが気になり、という
      嬉しいコメントを見るのが初めてなので...
      こんにちは!
      いつも感想・本棚登録参考にさせていただいてます♪

      私の本棚にあったのが気になり、という
      嬉しいコメントを見るのが初めてなので感動して思わずブクログ初コメです♪( ´▽`)

      母の日にプレゼント、なんて素敵なのでしょう!
      読了後はいい本を読んだなぁとお母様も喜ばれる事間違いなしですね♪( ´θ`)
      2023/05/03
    • みーママさん
      初コメありがとうございます〜♡
      母親も気に入ってくれると思います!

      それと、映像の作品も観てみようと思います♪
      初コメありがとうございます〜♡
      母親も気に入ってくれると思います!

      それと、映像の作品も観てみようと思います♪
      2023/05/03
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著者プロフィール

1964 年東京都杉並生まれ。小説家、エッセイスト。出版社勤務、フリーライターを経て、2003 年『FUTON』でデビュー。2010 年『小さいおうち』で第143 回直木三十五賞受賞。同作品は山田洋次監督により映画化。『かたづの!』で第3 回河合隼雄物語賞・第4 回歴史時代作家クラブ作品賞・第28 回柴田錬三郎賞を、『長いお別れ』で第10 回中央公論文芸賞・第5 回日本医療小説大賞を、『夢見る帝国図書館』で第30 回紫式部文学賞を受賞。

「2022年 『手塚マンガで学ぶ 憲法・環境・共生 全3巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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