水底フェスタ (文春文庫 つ 18-2)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (397ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167901578

作品紹介・あらすじ

彼女は復讐のために村に帰って来た――過疎の村に帰郷した女優・由貴美。彼女との恋に溺れた少年・広海は彼女の企みに引きずり込まれる。待ち受ける破滅を予感しながら…。

感想・レビュー・書評

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  • あなたが、次にどの本を読もうかな?と考える時に、他の方の意見を参考にすることはあるでしょうか?もし、その時に、『感動に打ち震えました!』とか、『ハラハラドキドキしましたが最後にハッピーエンドで良かったです!』といった感想なら前向きにその本を手にしたくなるかもしれません。でも、『最初から最後まで沈鬱で、ただひたすらに重苦しく救いのないストーリーでした、鬱。』、と書かれた感想を見て、あなたはそれでもその本を手にしようと思うでしょうか。自分の楽しい時間を、読む本によって辛く憂鬱な気分に一気に落としてくれる本、何が楽しくてあなたはその本を手にしようとするのでしょうか。この本は問いかけます。あなたの楽しく幸せな時間の空気を一気に変え、間違いなく重苦しくしてあげますがそれでもいいですか?と。

    『広海がフェスを好きなのは、自然の中であること、そこに漂う非日常の祭りの感覚が好きなのだ。ただ遠くの野外まで音楽を聴きに行くということ以上のすごし方がそこにある。』、リゾート開発に失敗し、廃れゆく一方だった睦ッ代村。起死回生の一手として、ロックフェスティバルを誘致し、『ムツシロ・ロックフェスティバル』と村の名前を冠することにも成功した山村、睦ッ代村。この作品はそんな村の村長の息子である広海を主人公に描かれます。『この村のロックフェスに非日常を求め、自分へのご褒美のような気持ちでやってくる人間は、きっとたくさんいる』という通り、毎年夏の三日間に12万人もの人を集める一大イベント。知名度を上げた村は一気に生気を取り戻し、さらに村はそれを箱物投資ではなく、税額を下げて周囲の町や村から転入者を増やすという作戦で市町村合併の波にも揉まれず、周囲から羨望の眼差しで見られる未来ある村へと変貌していきます。

    『田舎に満足するというのは、思考の停滞を受け入れることだ。』強烈な一言です。あまりに極論に思いますが、そういう考え方をする人もいるのでしょう。村を後にし、東京で女優として活躍する由貴美もその一人。ところがそんな由貴美がこっそり自宅に戻っているという噂が広まります。少し前まで一人で住んでいた母親が亡くなった自宅に一人ひっそり暮らしているという噂。そのことが何故かとても気になりだし、彼女と関わりを持ち始める広海。ついに由貴美の家に上がることになり、『「襲わないの?」、閃光のような白い光が破裂するのを、実際に、目の奥で感じた。』と、二人の間が物理的に、精神的に重なり合う時間へと急展開していきます。そんな中、由貴美が広海に『私は、この村に復讐するために帰ってきたの』と語ったことから、物語は不穏な重々しい空気に包まれていきます。

    この重苦しさに救いはありません。どんよりと曇った息苦しい空気が入れ替わることはありません。400ページという読書の先に待っているのは、内に内にと篭る沈鬱な不快感。嗚呼。

    ただどうなのかなぁとは思います。少し前のこの国であればこのような村もあったのかもしれませんが、今は少子高齢化で過疎化、限界集落が加速度的に進んでしまっている状況から、このような汚い大人たちの闇に蠢く行動が支配するような村の寿命自体もう風前の灯ではないかとも思います。でも一方で、そう考えれば考えるほどに最後の広海の歩み自体何だか救いが余計にないような気もして、さらに気分が滅入りそうです。

    この作品あたりから始まる辻村さんのこの沈鬱系統の作品群、ほぼ同時期の「鍵のない夢を見る」「盲目的な恋と友情」あたりもそうですが、かつての作品群とはすっかり趣きが変わってしまってどうも苦手です。ただ、ここまで他人の気持ちを不快に憂鬱にさせるというのは、それはそれで凄いことだとも思います。登場人物の心の内を複数の人との関係性を描く中でどんどん深くえぐってゆくところなどは、「冷たい校舎の時は止まる」の頃から変わらないと思いますのでこの辺りはとても読み応えがあります。なのでもちろん魅力的には感じるのですが、それにしても暗い、重い、救われない、光の見えない、光の届かない書名どおりの閉塞感に、ある意味強く印象に残る作品となりました。

    最初から最後まで沈鬱で、ただひたすらに重苦しく救いのないストーリーでした、鬱。嗚呼。

  • ダム湖は翡翠色に淀み、水面しか見えない。
    集落が一つ丸ごと沈んでいるくらい深く、落ちたら藻に呑み込まれると、言い伝えがある。

    陸ツ代村の町おこし事業として作られたダムだが、10年前から開催されているロックフェスで村は潤っている。

    主人公の湧谷広海:高校2年男子。
    閉鎖的な村のルールを少しずつ知ることに。

    淀んだダム湖に支配されているような話だった。
    重い暗い…それなのにそのダム湖に吸い込まれるように、話の展開が気になり、グイグイ読んだ。
    村出身の芸能人:織場由貴美の復讐に、駆り出された広海。二人は純愛だと信じる、絶対!

  • 地方の閉塞感を描いた辻村作品の中でも息苦しさ、後味の悪さはトップクラス。理不尽で救い難い展開が続き、ラストの“光”も微か。どうにもやり切れない気持ちになる。日常的に平然と“異物排除”が行われるムラ社会、怖いです。

  • ロックフェスタで有名な小さい村に住む男子高校生「広海」が、歳上でモデルの女性に恋する恋愛物語!
    …という爽やかさは無く、いっそホラーに近い物語。
    村社会で生きる人間たちは、ドロドロのズブズブな
    沼さながらの伝統や慣習に頭まで浸かっている。
    読みながら沼底に引き摺り込まれるような感覚を
    覚える、重く仄暗い話。広海くん、頑張れ苦笑

    現代社会にも、この村の要素を含むような地方都市又はコミュニティが存在しているんでしょうね…。
    「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」や「太陽の坐る場所」
    に続く、「ザ・閉塞的な地方都市シリーズ」
    (勝手に命名しました)でしたが、今回は男子高校生が主人公だったこともあってか、性描写や信頼していた大人の見え方が変わる描写など、新たな仕掛けも見受けられました。

  • どこかの自治体の首長も大変な目にあっている、と想像がふくらみました。

  • 小説の裏面の説明文、フェス×恋愛小説に勝手に想像膨らませて読んだら(自分が悪いです)かなり昼ドラでした。

    設定自体は悪くないと思いますし、この作品の言いたいことは何となく理解出来たつもりなのですが登場人物が皆揃いも揃って幼稚でろくな人が居ません。…それでも機能して回ってしまうことこそが「ムラ」の閉塞感なのでしょうか。

    広海も由貴美も間違いの連続。
    広海は湖に落ちるシーンで、「次があるなら、広海は絶対に由貴美を守る。滑稽であっても、二度と間違えない。」と祈っているが、ひとまず広海は由貴美どうこうではなく、1人で立派な大人になることを目指して欲しいです。

  • 文体は若干難しめだったが、途中からストーリーは入り込めた
    謎が謎なまま終わってしまったが、これで良いのだと思う
    面白い

  • 田舎の閉塞感、何とも言えない吸引力、隠蔽も本当にありそう。

  • 世の中とズレた田舎の論理。
    全てを内輪で片付けようとする怖さ。
    切ない気持ちの移ろい。

  • 母親と広海と由貴美の共通点のくだりで、母親と由貴美の父親が……??と勘ぐってしまったけど、実際はどうなんだろう このもやもやさせられる終わり方、嫌いじゃないけどもやもやする

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著者プロフィール

1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、18年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞。『ふちなしのかがみ』『きのうの影ふみ』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『本日は大安なり』『オーダーメイド殺人クラブ』『噛みあわない会話と、ある過去について』『傲慢と善良』『琥珀の夏』『闇祓』『レジェンドアニメ!』など著書多数。

「2023年 『この夏の星を見る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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