死命 (文春文庫 や 61-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (525ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167902186

感想・レビュー・書評

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  •  胃がんにより余命わずかと知った榊信一は、残りの人生を自身の殺人衝動に正直に生きることを決意し女性たちを絞殺していく。
    その事件の捜査を担当することになる蒼井だが、彼も胃がんの再発が発見され、余命わずかの二人が事件を通して交差する。

     単に連続殺人を捜査するというだけの話ではなく、余命わずかの中、娘と息子を持つ蒼井はどう生きるか、殺人を犯しながらも自分を大切に思ってくれる女性のいる榊はどう生きるか、
    というそれぞれの生き方と選択という点に迫ってる点が単なるサスペンス小説とこの小説が違っている点だと思います。

     自分自身はまだ親も元気で死に対する実感はなかなかわかないのですが、この小説に出てくる蒼井親子の話は読んでいて非常に切なくなりました。

     個人的な読みどころは蒼井と榊の最後の対決の場面でしょうか。余命わずかなため罰を恐れず罪の意識を見せない榊を蒼井はどう罰するのか。

     薬丸さんは現代の社会における犯罪の罪と罰というものを真摯に描き切っている作家さんだと思います。今回の作品も描きたかったのは、死を間近にした人の生き方だけでなく、
    罰を恐れない者を罰することはできるのか、という問いだったと個人的には思うのです。

     最後の二人の対話の場面の蒼井の言葉、榊の叫びはこれまでの話の流れからするととても自然というか、そうすることでしか罰は与えられないよな、と納得のいくものだったのですが、
    それだけにその場面のページ数が少なかったのがちょっと物足りなく思いました。

     ただサスペンスとしてはオーソドックスな話でも、こうして「罪と罰」という薬丸さんが他の作品でも問い続けているテーマをしっかりと結び付けられていて、
    薬丸ファンである自分としては「やっぱり薬丸さんの作品なんだな」と感銘を受けました。

     これからも薬丸さんが問い続けるテーマを読者である自分自身も一緒に考えていけたらな、と改めて思いました。

  • 久しぶりに薬丸岳さん読んだ。さすが!おもしろ(連続猟奇殺人なんで、面白いっていうのなんか違うんだけど)すぎて、一気読み。仕事が手につかず困った。
    ネタバレなので、まだ読んでいない人はこの先読まないでくださいね↓

    主人公は、過去にトラウマを持つ青年「榊」と、その恋人「澄乃」。そして榊を追うことになる熱血刑事「蒼井」と、部下の新米刑事「矢部」。
    榊と澄乃は過去に新潟の田舎で出会った。榊はヒドい虐待を受けて育った。澄乃もそれを知っていたが、どうすることもできず、榊を見捨ててしまった、という想いをもっている。そのせいか、榊は肝心な部分の記憶がない。東京で再会した二人は、今度こそ二人で寄り添って生きたいと思うが、澄乃は榊の記憶が戻ることをおそれる。榊は自分がどうしてそんな衝動を抱えるかもわからないまま、女性(特に性行中や、淫靡な雰囲気を出してくる女性)に対して異常な殺意を抱いてしまう。愛しているはずの澄乃に対しても、突然殺意を抱いてしまう。澄乃は榊をおそれる。
    そして、自分が末期の癌だと知ったそのとき、榊は自分の欲求を抑えられなくなる。最初は衝動的に、徐々に計画的に連続殺人を犯していく。
    同時進行で描かれるのは刑事の蒼井のストーリー。蒼井は妻を亡くし、子どもたちにも見限られ、仕事にだけ情熱を燃やす。こちらも末期の癌だ。最期まで命を燃やして犯人を追い詰める。そこまでする理由は、亡き妻が、救えなかった殺人被害者に対して自責の念を抱えていたからだ。妻との約束を果たすため、最後まで力を振り絞る。
    榊と、自分の夢を追っている娘とのやりとり、それをそばで見ていた部下の矢部が、実家のパン屋に行って父親と会話を交わす場面とかが、ほんの少ししか描かれていないけどスパイスが効いていて泣けた…。矢部の父親は数行分しか出てこないのに、その姿が目に浮かぶようで心が震えた。
    蒼井刑事の執念はすごいけど…子ども二人を残して死ぬんだから、そんなわやくちゃしないで、もうちょっと自分が死んだあとの保険の手続きとか(!)子どもが困らないように現実的になんかしてよね、とか小説の本筋と関係ないことをもやもやと考えながら読んでしまった(笑)。

  • 余命わずかと知って己の欲望を解放した者と、
    己の使命と向き合う事で恐怖と戦う者
    ふたりの運命が交錯し、最後を迎えるとき
    どちらがどれだけしあわせだったのか?
    どちらの勝利といえるのか?

    死を迎えるラストは最初から見えているのに
    最後までふたりの生き様を知らずにいられなくなってあっとゆうまに一気読みだ。
    山口澄乃のやりきれない最後も衝撃だった。
    病魔に蝕まれて苦しみながらも欲望に抗えない
    犯人と、犯人逮捕に突き動かされる刑事の執念。

    色んな角度から楽しめる人間のミステリー作品。

  • 分厚い上に、行がページのギチギチに詰められているという、重厚長大な作品だった。内容もさることながら、読書という行為そのものが好きな人間としては、これを一冊にまとめてくれた編集者さんにも感謝したい。
    組織捜査に馴染まないローンウルフ系刑事の蒼井が、進行性の胃癌に犯されながらも、連続女性殺害事件の被疑者を追う。だが実は、その被疑者も同じ病魔に襲われていた。死が迫るからこそ、抑えきれない殺人衝動を解放した被疑者と、死を恐れるがために、死ぬまでに逮捕する使命を燃やす刑事。最後には、死そのものが怖いわけではなく、愛した人や場所を含む「自分の人生という鏡」を見せられることが怖いのだと気づく。愛するものがあるからこそ、怖い。だからこそ蒼井は最後に、被疑者の愛した人の最後の言葉を伝えるーー。
    ただのミステリーじゃなく、人生の哲学が込められた内容だった!
    ナイス、重厚長大。

  • 残された命について、いろんな意味で考えさせられました。
    面白かったです!一気読みでした✨

  • 余命わずかな殺人犯と刑事
    二人が同じようなタイミングで余命宣告とは・・・
    物語は読みごたえがありました
    犯人視点や刑事視点で展開されそれぞれの思いなども
    知ることができより物語に入っていけた感じです

    末期胃がんはしんどそうですね

  • 読み易いし、最後までページをめくる手が止まらなかった。
    主人公2人は、最後に死が訪れる設定で話が進む。死がわかった時の2人の行動を考える…死ぬとわかった時の2人の思考は、人によって思う所は違うのだろうなー。
    殺人鬼は欲望によって人を巻き込んで行くのは許す余地はない。それを追う刑事は正義を掲げて家族を犠牲にしてく…そして2人ともかけがえの無いものに気付いたき、死が目の前に迫ったときに差が出始めてくる。真っ直ぐに真摯に生きていけば報われる時があると信じたい。中々面白い本でした。

  • 犯行シーンは読むのをやめようかと思ってしまったけど、それにも慣れて一気読み。
    犯人や刑事の目線で書かれていてテンポがいい。
    結局は蒼井さんの刑事の勘が当たったことになり、ほんとはそんな糸口では頼りない。
    でもそれを差し引いても十分におもしろく、目が離せない。
    矢部くんの成長した姿をまた見たい。

  • 余命少ない2人の危機迫るやり取りが気になり、あっという間に読み終えました。話のテンポもよく、面白かったです。
    また、榊の記憶が少しずつ蘇り、このを起こすきっかけとなった過去の忌まわしい記憶が明らかになっていく様もうまいなと思いました。

  • サスペンスが好きというのもあり凄く面白かったと思う。
    あまり小説を読んだことがないのですが、人生でこんなにも早く読み切った本は初めてです。

    頭の中で、まるで映画を見てるように画が浮かんできて、読んでるのか見てるのかわからなくなるぐらい今作にどっぷり浸かってしまった。

    "そこに着いたらまっさきにおまえを捜しにいくよ"
    こんな53歳になれるように、これからの21年頑張るかな!

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著者プロフィール

1969年兵庫県生まれ。2005年『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2016年、『Aではない君と』で第37回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に刑事・夏目信人シリーズ『刑事のまなざし』『その鏡は嘘をつく』『刑事の約束』、『悪党』『友罪』『神の子』『ラスト・ナイト』など。

「2023年 『最後の祈り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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