さよならの手口 (文春文庫 わ 10-3)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (431ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167902209

感想・レビュー・書評

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  • シリーズものの第一作でもなければ最新作でもなかった。
    でも面白かったわ~。

    四十代の元探偵事務所の調査員で、今は古本屋のバイト店員・葉村晶。
    彼女がめっぽうハードボイルド。

    全身打撲、肋骨二本にひび、おでこに大きなこぶ、そして肺がカビの胞子まみれ。
    これが、導入部の、本筋ではない事件での負傷。
    その後も、たった数日の間に何度病院に担ぎ込まれることか。

    しかし彼女はめげない。
    やらなきゃならないことは、身体を張ってでもやる。
    頭の回転は速い。
    そしてなんだかんだ言ってお人よし。
    ああ、好きだわ、こんな生きるのが不器用な人。

    二十年前に行方不明になった娘の生死は?
    彼女の父親は?
    失踪した探偵は?
    最後までゆるむことなく張りめぐらされた謎と罠。

    ミステリ専門の古本屋さんでバイトもしているものだから、懐かしい書名がたくさん出て来て嬉しい。
    そして店長のキャラクター!
    あくまでマイペースに自己主張を押しとおす。
    そばにいれば迷惑な人だが、傍で見ている分には実に愉快。
    ストーリーの後味の悪さを、彼のキャラクターが随分中和してくれる。

    これも、シリーズを追いかけることになりそう。

  • 久々の葉村晶シリーズがいきなり文庫って! これはあまりに贅沢すぎますよっ! ファンとしては超大満足の一冊です。
    探偵を休業し、事件とは無縁、のはずに思えてもさすがは葉村晶(笑)。どんどん事件に巻き込まれ、次々に降りかかる信じられないほどの不幸……悪いけど笑っちゃいます。どれだけついてないの……。
    しかし。どれだけ打ちのめされても決してめげることなく真相を追い求める彼女の姿勢はやはりカッコいい!のひとことに尽きるのです。真実がどれだけ残酷でも、誰かの望む結末でなくとも、依頼を全うするのが探偵。素晴らしい。
    さて、このまま完全復活してほしいところです。富山さんのキャラも素晴らしいので(ひどいよねえ、この人)。一緒に古書店探偵やっちゃいましょうよ。

  • 葉村晶シリーズ。
    相変わらずケガがつきなくてハラハラ。
    謎、事件がどんどん出てきて複雑。
    後半は一気読みでした。
    最初は確か20代だった葉村さん、いつのまにか年上になってる〜

  • 再読。
    当時、文春のミステリ年間ランキングで上位に入ったのを見て、おもしろそうだったので読んでみたんだった。
    それから若竹作品を遡って読んだ。
    今回久々に読んだが、岩郷元刑事の失踪原因以外はほぼ忘れていたので、楽しく読めた。

  • 「人探しを頼まれる」という探偵ものミステリにありがちな導入からは、予想だにしない結末が待っていた!

    今作だけで、葉村晶は何度も病院に入院したり、大怪我したり。40でこれはつらい。しかも、何度も頭打ってるし。
    ここまでくると、葉村晶が今後穏やかに過ごせることを願うばかりです。読者としては葉村晶シリーズに続いてもらいたいものの、かわいそうすぎて。
    でも、一番かわいそうだったのは、怪我した時よりも、気が合うと思っていた舞美と、晶が病室で言い争いをしたとき。
    いつも心の中で毒づいたりツッコミ入れたりしてる晶が、舞美に感情的になって言い返して、そのあと泣いた時。不死身の葉村晶の哀しみを感じた。

    事件は、二重、三重に仕掛けられていて。
    母親が娘を殺したつもりになっていて、でも実は娘は死んでおらず、母のマネージャーが娘を逃して匿っていた…というところは、白雪姫を思い出させた。
    マネージャーの妹が殺された事件についても、結局はっきりと解決しないまま…。もしかしたら、マネージャーが実の妹を?という疑問も生まれた。

    最後の岩郷のおばあさんの涙には、もらい泣きしてしまった。
    ノンストップで葉村晶と共に事件を追ってきた(つもりになってる)私にとって、岩郷のおばあさんの涙は、ふっと力と圧が抜ける瞬間だった。

    タイトル「さよならの手口」は、警察官に別れを告げる方法はない、という、本の一節からきているようだ。
    何か後ろ暗いことがある限り、警察官とは別れられない、ということだろう。
    晶は舞美に対して、警察官と別れることはできないぞ!と忠告したあと、警察を使って脅かしてしまったことを後悔する。
    晶は良い人だと思った。
    舞美がどう受け取るかということも気がかりだったのかもしれないが、晶の中には彼女なりの筋があって、自らそれに反してしまうことを後悔したのではないかな、と私は思った。

  • 葉村晶シリーズ。
    とても贅沢なミステリーでした。
    久々に、読み終わっちゃうのがもったいないと思える本でした。
    葉村晶、好きだなぁ。まだまだ、探偵を続けてほしい。

  • 探偵としての腕は良いが、どこかツイていない女探偵、葉村晶。
    現在は骨休めのつもりでミステリ専門書店のバイト店員をしている。
    ひょんな出来事をきっかけに、元スター女優から二十年前に失踪した一人娘を探して欲しいと頼まれ調査を始めるが……。

    話が二転三転し色々な事件も絡んでくるが、テンポ良くスッキリ物語も進み、読み手を飽きさせない。
    何より葉村晶のキャラにとても好感が持てる。
    明らかになる様々な真実に落ち込み自棄になりそうになるが、やはり探偵の仕事が好きだと気付く葉村。
    また葉村のミステリが読みたい。

  • 探偵葉村晶シリーズ。
    最近読んでないなと思ったら13年ぶりのシリーズ新作らしい。
    久しぶりに長編の探偵物読みました。
    不幸というか不運というか、行くとこ行くとこで
    事件に巻き込まれていきます。
    で、体ぼろぼろになりながら、必死に捜査して
    事件を解決に導く様は最近のお手軽ミステリにはない
    泥臭さがあって好きです。
    昔読んだスー・クラフトンの「キンジーミルホーンシリーズ」を思い出します。

  • 十数年ぶりに葉村晶が登場し、ちゃんと年を取って40代になっていることに感動した。しかも、不運はパワーアップ。
    冒頭、事件に遭遇してケガを負うのも、事件をきっかけに依頼を受けるのも前回同様のお約束。
    調査が進めば進むほど謎が増えていき、収拾できるのかと思わせるが、見事に収束。本筋ではない事件が残り、これも解決するが、後味の悪さも楽しみの一つ。
    最後の1ページは笑えるし、ラストの一行は震えるほど気が利いている。

    葉村晶が福家警部補シリーズを買うなんて!!
    葉村晶が傑作と評する「キルトとお茶と殺人と」は読まなければ。

  • 前作から10余年。
    勤務先の廃業とともに探偵を休業中の葉村晶はミステリ専門書店でバイトをしていた。
    ある日、古書を回収しに行った家の床板を踏み抜き、床下に埋められていた白骨死体に頭突き。
    肋骨を2本折り入院するが、同室になった元女優の老女から20年前に行方不明になった娘を探してほしいと依頼を受ける。
    これが、受難の女探偵・葉村晶のさらなる不運の始まりだった。

    メインの謎となるのは、元スター女優の20年前に失踪した娘探しですが、同時にいくつもの派生した謎や別のトラブルが発生し絡み合っていくという複雑な様相を呈しています。
    失踪当時、女優の娘を調査中に突然失踪した探偵の行方は?
    他にもこの親子の近辺の人物が何人も行方不明になっているが、その真相とは。
    また、偶然知り合った舞美という女性は何が目的で葉村に近づいたのか?
    それらの謎が有機的にメインの謎と結びついたり結びつかなかったり、盛りだくさんでおなかがいっぱいになりました。

    雪崩のように事件が発生し、伏線を取りこぼすことなく続々と破綻無く回収していく様子は日本版フロスト警部のミステリを読んでいるようで至極満足でした。

    事件が起こった時に一人の人間の心の水面が波立ち、それが言動となってあらわれ周囲にどう波及していくのか、露わにしてみせる巧みな心理描写には唸らずにはいられません。

    悪意や残酷さを鷲づかみにしてナマの人間の本質を見せてくれる作者の凄腕にぶんぶん振り回されながらも、葉村の筋を通す頑固一徹な清廉さにほっとします。

    正義というとちょっと面映いのですが、物事に対して葉村は必ず自分の内面の正義と照らし合わせてから行動を起こすような一面がある気がします。

    人間って普通、筋が通らないことでも自分の利益になることなら真実も捻じ曲げ、ずる賢く欺瞞に満ちたことを平気ですると思うのですが、葉村は賢いがゆえにそのごまかしに自分で気づいてしまうようなところがあるんですよね。

    そんな彼女だから、不運を呼び寄せてしまうのですが、後悔なく生きているであろう彼女が悪意に敢然と立ち向かっていく姿がすごく好きです。
    自分にはできないから憧れているのかもしれません…。

    ウィットに富んだ台詞回しもいつもながら楽しいし、100点満点の作品です!!

著者プロフィール

東京都生まれ。立教大学文学部史学科卒。1991年、『ぼくのミステリな日常』でデビュー。2013年、「暗い越流」で第66回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。その他の著書に『心のなかの冷たい何か』『ヴィラ・マグノリアの殺人』『みんなのふこう 葉崎は今夜も眠れない』などがある。コージーミステリーの第一人者として、その作品は高く評価されている。上質な作品を創出する作家だけに、いままで作品は少ないが、受賞以降、もっと執筆を増やすと宣言。若竹作品の魅力にはまった読者の期待に応えられる実力派作家。今後ブレイクを期待出来るミステリ作家のひとり。

「2014年 『製造迷夢 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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