新装版 蚤と爆弾 (文春文庫)

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著者 : 吉村昭
  • 文藝春秋 (2015年4月10日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167903480

新装版 蚤と爆弾 (文春文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 731部隊。
    科学と言う名の残酷さ。
    これだけの事をしながら、戦後まで生き延び命を全うするとは。
    運命と言う名の皮肉。

  • 淡々とした筆致で、日本史の暗部を描いたノンフィクションに近い小説。

    細菌兵器。

    命を大切にするという常識的な道徳・倫理感よりも、資源のない日本のために、細菌兵器という科学技術開発に、心血を注いだ天才的な医学者の戦争参加。

    日本的な、あまりに日本的な組織の動き方に慄然とした。

    細菌兵器の開発から人体実験、そして、敗戦近くになると、証拠隠滅。


    関東軍防疫給水部の創設から解散、そして、戦後の関係者の様子までを見事に描いている。

    関係する資料などは、関東軍などにより、「徹底的に」破壊・消滅したため、「証拠」はほとんどないが、吉村氏の入念な取材により、ここまで細部まで描くことができたのだろう。


    今の若い人のほとんどは、この歴史を知らないのではないだろうか。

    読み継がれるべき作品だと思う。

  • 最大の特徴は石井四郎の実名を用いてない事。個人の罪を追求するのではなく、戦時下という特異な環境の中、人間はどこまで人間性を失えるのかという点がテーマになったがゆえだが、その深すぎる罪を考えると、(裁かれるは彼のみでないとはいえ)匿名は却って、この問題への著者の曖昧なスタンスのようで、もやもや感が残った。ただ読み易い分、731部隊の概要や細菌戦とは何か等、あらましを知るには適しているし、異常な実態の描写には良くも悪くも読む手が止まらない。

  • 第二次世界大戦時、細菌兵器を開発していた関東軍防疫給水部の研究と、その研究者の人間像を描いた歴史記録文学。

     軍医の名前や部隊の名称は変えられているみたいです。しかし書かれている実験や研究活動の様子は以前読んだノンフィクションに勝るとも劣らぬ詳細さ。
    そして、事実だけを冷徹に感情を挟まずに書く文体も吉村さんらしいです。

     そうした感情を挟まない文体だからこそ余計に強く浮かび上がるのは、実験の異常さと残酷さです。

     ペスト菌に汚染された大量の蚤の生産のため、体が干からびるまで吸血されるネズミ、より運動能力の高い蚤だけを選別するための作業、
    そしてその残酷さや異常さは人間にも向かいます。凍傷の治療研究のため人為的に凍傷にさせられ、ペストに感染させられる捕虜たち、
    また軍部は捕虜を”丸太”と呼ぶことからも、捕虜を人間として見ていないことが分かります。
    そうした描写の数々は普通の小説以上の凄味にあふれています。

     そしてこの部隊の率いる曾祢二郎の人間性もしっかりと描かれています。
     自らの待遇や軍の派閥主義に嫌気が差し、先駆者のいない細菌兵器に活路を見出す姿や、すでに死刑が決まっている捕虜の実験だから、と言う理由で自らの実験を正当化し、
    研究者としての好奇心を満足させ、ますます狂気の実験にのめりこんでいく様子がとてもリアルに感じられました。

     戦後、戦争犯罪人として次々と軍部の人間が逮捕され、関東軍防疫給水部の隊員たちの多くも人体実験に罪の意識を抱くようになります。
    そんな中曾祢に関してはそうした罪悪感を抱いている様子が描かれないまま生涯を終えたように読んでいて感じました。そこにあるのは、自分は戦争犯罪人だ、という罪悪感以上に実験による研究者としての満足と誇りがあったのかもしれません。

     そして彼の罪を裁かず、研究資料の提供を求めたアメリカの振る舞いから、科学の発展は時にその裏にある罪や犠牲を飲み込んでしまうのかもしれないと思いました。

     戦後、罪の意識を感じた隊員たちと曾祢の差と言うものは狂気の正義とそれによる成果を、戦後の正常な世界でも信じることができたのか、という違いだったのか、と思います。

  • うーん、切ないなあ。
    主人公・関東軍防疫給水部(通称・満洲第731部隊、だ)部長、曽根二郎のモデルは石井四郎。森村誠一の「悪魔の餌食」のヒト。
    後はとにかく、不気味なくらいに固有名詞が出てこない。それでもって、なんだか戦時の特定の一事象性をまぬがれて、ヒトの根性の意地汚さみたいなものの普遍性が浮き彫りな感じになってるのが、妙に薄ら寒い。

  • さすが吉村氏。
    北満州、ハルピン南方のその秘密の建物の内部では、おびただしい鼠や蚤が飼育され、ペスト菌やチフス菌、コレラ菌といった強烈な伝染病の細菌が培養されていた。俘虜を使い、人体実験もなされた大戦末期―関東軍による細菌兵器開発の陰に匿された戦慄すべき事実と、その開発者の人間像を描く異色長篇小説。

  • これまで吉村昭の小説の中に731部隊に関するものがあることを知らずにいた。この小説が世に出たのは昭和45年頃で「細菌」というタイトルだった。
    私が読んだのは4版目で今年の4月に出されたものである。私が最初に731部隊を知ったのは、森村誠一の「悪魔の飽食」(昭和58年)からだったが、その14年前に出ていたことになる。まだ敗戦の記憶が浅い頃である。文中に出てくる個人名の登場人物が少ないことからも分かるが、当時、かなり際どい題材だったに違いない。あらためて、吉村昭の記録文学の凄みを感じる。

  • 731部隊を扱ったものとしては『悪魔の飽食』などよりよほど真実を暴いているのでは。
    これは特異な異常者たちのドキュメンタリーではなく、私たちにも起こり得る戦争の真実を描いた物語。
    ヒューマニズムの視点から声高に糾弾するようなものではなく、淡々とした筆致で曾根(石井四郎)側の視点から描いている。これが新鮮であり恐ろしくもある。物語に引き込まれ、つい曾根と同じ目線になっている自分に気付きゾッとした。
    風船爆弾は和紙と蒟蒻のりで作られていた。戦争末期の物資不足ゆえかと勝手に想像していたが、研究の結果決定した最適な素材なのだとか。
    作業には経師屋が多数動員…なんとも日本的な爆弾…。

  • 淡々と事実が綴られているためにむしろ怖い。

  • 重い。読んで楽しい話ではないが、この時期にこそ読むべき本だと思う。

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新装版 蚤と爆弾 (文春文庫)の作品紹介

戦争の本質を直視し、曇りなき冷徹さで描かれた傑作大戦末期、関東軍による細菌兵器開発の陰に匿された、戦慄すべき事実とその開発者の人間像を描き、戦争の本質に迫った異色長篇小説。

新装版 蚤と爆弾 (文春文庫)のKindle版

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