悲しみのイレーヌ (文春文庫 ル 6-3)

著者 :
制作 : ピエール・ルメートル 
  • 文藝春秋
3.81
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本棚登録 : 3565
感想 : 450
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  • Amazon.co.jp ・本 (472ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167904807

作品紹介・あらすじ

『その女アレックス』の刑事たちのデビュー作連続殺人の捜査に駆り出されたヴェルーヴェン警部。事件は異様な見立て殺人だと判明する…掟破りの大逆転が待つ鬼才のデビュー作。

感想・レビュー・書評

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  • サイコキラーと刑事の熾烈な戦い! あなたはきっと衝撃的な真相と結末に襲われる #悲しみのイレーヌ

    ■レビュー
    悪夢のような、息苦しく抜け出せない感覚… なんとも、もがき苦しめられる作品です。

    次々と事件が発覚するが、大した実績が上げられずに捜査が迷宮入りしていきます。警察官たちの焦りが手に取るように読者に伝わくる。

    事細かくやたら丁寧に綴られる事件描写が凄まじい。
    なかり陰惨な殺人事件のため、読んでいてなかなか辛いんです。しかしこの昔ながらの殺戮表現で綴られるミステリーは、昨今の日本の小説では味わえない魅力がありますね。

    そして本書は陰気な雰囲気がいい意味で素敵。
    事件自体もそうですが、街の情景、警察内部の争い、事件の関係者などなど。全編通して雨でも降ってるんじゃないかと思えるほどの息苦しさ、蒸し暑さが文章からにじみ出ています。

    なんといっても本書の魅力は、ミステリーの真相部分。
    終盤の強烈な展開から怒涛の終焉までは、まさに読まずにはいられない熱中の読書タイムでした。こんなの読んだことねぇよっ

    次回作アレックスでは、いったいどんな仕掛けをしてくれるのか楽しみです。

    ■推しポイント
    この本は悪意と憎悪が読者に襲い掛かってきます。

    私もかつて人を憎んでしまったことがありました。
    しかし家族を持つことによって、いかに愛を育むか守るかを大切に、どんなことがあっても前向きに生きようと心に誓ったものです。

    彼の気持ちを思うと、ただただやるせないです。

  • 頭の中がふにゃふにゃになりました

    この大掛かりな仕掛けには参りました
    全体の8割を占める第一章と残りの第二章が仕掛けのヒントでしょう
    第一章と第二章は全然違うのです
    そして最後までスッキリさせてくれません
    全然整理してくれません
    この不親切さはシリーズ2作目の『その女アレックス』も同じでした
    そうピエール・ルメールはとても不親切な作家だと思うのです
    もちろんその不親切さは面白さにも繋がっているのですが

    よし、次は『傷だらけのカミーユ』だ
    カミーユが本当はどんな奴なのかあばいてやるぞ!

  • とてもおどろおどろしい描写の殺人事件からスタート、最後まで読み切れるか不安になりつつ読破しました!
    過去の事件とも繋がる痕跡があり、カミーユ警部が事件を調べていくと...なんと小説に書かれている内容と同じ状況で殺人が行われている⁉︎
    他の事件でも小説と同じ内容のものが見つかり、連続殺人として捜査が進みます。

    いやぁ、人が沢山殺されて酷い殺害方法いっぱい(°_°)
    そして、ビックリする展開が待ってます。
    次に読む予定のアレックスもこの感じなのかしら

    読後はドヨーンのお話でした


  • 若い女性2人が惨殺される、猟奇殺人事件が発生した。それも、猟奇殺人を扱ったある推理小説と寸分たがわぬ殺し方、死体の処理の仕方で。身長145センチの敏腕警部カミーユ・ヴィルーヴェンは、事件の手がかり求めて捜査の手を伸ばすが、何故か捜査情報が逐一マスコミにリークされてしまう。そして身重の愛妻、イレーヌが犯人の最終ターゲットとなり…。

    残虐の限りを尽くす猟奇的殺人。追い詰められていく捜査陣。そして全く救いのない悲惨なラスト。なんて作品なんだ! 「ルメートルのミステリー作家としての特質はこの死を玩弄する遊戯性にあるのかもしれない。ルメートルの作品内で行われるどんでん返しは、単なるサプライズ用ではなく、読者が共有している倫理観を転覆させて動揺を誘うために行われるものだ。」(解説)。まさにその通りだな。ムカムカする読後感の残る作品だった。

  • これすごいですね!
    面白かったです!
    出だしの殺人事件、殺害状況の異様さから凄い。

    『その女アレックス』から先に読んでしまったので結末はわかっていましたが…。 




    イレーヌの番はいつなのとハラハラしっぱなし。
    遂にそのときか、と読んでました。

  • フランスノアールの傑作 悲しみのイレーヌを読んだ。
    前半はマルティンベックシリーズの「ロゼアンナ」やエルロイの「ブラックダリア」が出てきて懐かしく楽しんでいたが、物足りないものがあり「その女アレックス」より劣るかなと感じていた。しかし後半の疾走感に一気に盛り上がり読了。読後感はイヤミスそのものだったが、満足度は高かった。

  • 異様な手口で惨殺された二人の女。カミーユ警部は部下たちと捜査を開始するが、やがて第二の事件が…
    『その女アレックス』のカミーユ警部のデビュー作。
    清々しいほどに騙された!怪しい所に何枚も付箋貼ってたのは何?笑。面白いけどグロ注意です。

  • トリックの大胆さに驚かされた。

    ストーリーは、共通点の無い複数の猟奇的殺人の謎に迫っていくのだが、あまりに凄惨な殺人現場の叙述に高い緊張感と没入感とともに引き込まれる。

    例に漏れず、私も二作目「その女アレックス」を先に読んでいたので、オチの一つは分かっていたわけだが、それでも犯人はなぜ凄惨な殺人事件を引き起こすのか、読み解く部分は色々残っていた。

    そんな中突如、からくりが分かるのだが、分かった途端、頭はフラッシュバックの連続、パチパチと音を立てるような錯覚に襲われてしまった。

    このトリックは他ではなかなか味わえないので、読む価値はあるだろう。

    しかし、作品としての評価は、2つに分かれる。

    トリックが分かっても、登場人物や設定を読みつなぐことができれば高評価。そうでなければ、評価できない、そんな小説だ。

    残念ながら、私は後者だったが、ピエール・ルメートルはトリックになかなか凝った著者なので、三作目「傷だらけのカミーユ」に是非期待したい。

  • 傲岸不遜。醜悪。
    アレックスは未読且つ積読。
    しかし、この読了間もない気分で、その女アレックスに手が伸び悩む……。少し挟むか。

  • やっっと読み終わった!
    長くかかりました。

    まず、タイトルでイレーヌに不吉なことが…ってなるし。
    一章のカミーユさん優しいし、何が不満なの?
    イレーヌわがままか!ってなったし。
    どうしても、最悪の結末は考えたくなくて離婚しちゃうのかなーとかそのくらいで済むと良いなという、軽い考えをもちながら読み進めたし。
    第一章、いつまで続くんだろ?って思ってたし。

    そしたら、第二章始まったら。
    なんかおかしい。
    噛み合わない。
    あ、そういうことだったのか!!
    第二章のあの短さでひっくり返してくるの、すごい。
    しかし、結末はやっぱり最悪だった。
    これグロさ耐えられたから、次作もいけるよね?

  • 『その女アレックス』の著者、ピエール・ルメートルのデビュー作。殺人現場の描写は、非常に凄惨で誉田 哲也さんの比ではありません❗

    ルメートルの腕前なのか?訳者の橘 明美さんのお陰なのか、『その女アレックス』同様に、テンポ良く息つく暇もない位、その世界へ読者を惹き込ませます♫これがデビュー作とは、とても恐れ入ります❗

    ただ残念なのはタイトルで、もう少ししっくりくるものがあったような気がします。また個人的には、終り方も少し残念で、『その女アレックス』の方が数倍も面白かったように感じました❗

  • 「悲しみのイレーヌ」
    悲しい衝撃的な事件簿。


    カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ第1弾。日本では第2弾「その女アレックス(以降、アレックス)」が先に刊行された。そちらを先に読了し、本書を読む場合は、良くも悪くも多少衝撃度が抑えられる。色々とネタバレしてしまっているし、残酷な描写にも免疫がつく。その為、アレックスをまだ手にとっていない場合は、まずはこちらから読んだ方が良い。シリーズものはやはり頭から読んでいかないと!ということですね。


    私は先にアレックスを読了してしまっていたものの、だからと言って本書がつまらなかった訳ではなかった。寧ろ、完成度はアレックスより高いのではないかと感じたくらい。


    キャラも立っているし(これはアレックスも同様)、一人一人の個性が地道で丁寧な捜査に生かされている。猟奇的殺人事件であり、残酷非道さが目につく中、イレーヌとカミーユの生活模様は、カミーユ班のメンバー間の関係性に並んで微笑ましい光景であった。だからこそ後のインパクトは大きい。


    また、話に出たカミーユ班は、ルイ、アルマン、マレヴァルで構成されている。カミーユのボスはル・グエン警視。メンバーとボス共に個性的であり、カミーユは皆を何だかんだ気にかけている。品性高いカミーユでは無く、癖が強いカミーユだからこそ班を纏められている(この癖が強いイメージは、アレックスよりも強く描写されていると感じる)。


    肝心の事件であるが、娼婦が連続で殺害される残酷なもの。被害者の関連性が見えない中、ある証拠品が過去の事件に残されていたことから、カミーユ班は糸口を辿っていくが、これが地道で泥臭い。この地道な捜査に波紋を起こすのがビュイッソンである。この鋭いがうざったい新聞記者が、一度ならず何度もカミーユ班の捜査を邪魔するのだ。新聞記者の登場は、警察小説では当たり前に近いが、ここまでうざったいのはなかなか。何度も、おい、ビュイッソン!!と一人で叫んでしまった。


    犯人は、動機に加え、カミーユの作戦に飛びつく等、サイコパスの中では、快楽殺人にしか興味がない突発的なタイプに分類されるのだろうか。この事件は残酷さだけではなく、結末を含めてカミーユ班のター二ングポイントとなっている。本書を読んで、改めてアレックスに目を通すと、カミーユの変わりぶりにより一層悲しみを覚えてしまう。


    因みに「悲しみのイレーヌ」の原題は「Travail Soigne」とのこと。「入念な仕事」等の意味になる。日本語訳では読者が想像しやすい様に、分かりやすいタイトルにしたのだろうか(これだと確かに想像し易いけど、結末のイメージまでもつきやすいのが難点と思う)。カミーユ班のスコットランドまでに飛び、専門家に意見を請い、上司に黙って捜査する等を踏まえると「入念な仕事」の方が近いのではないか。


    これからもカミーユを追いかけていきたい。この偏屈で人間味のある刑事を。

  • "過去に発表されている傑作ミステリー小説へのオマージュと、「その女アレックス」で登場していた刑事たちの活躍が楽しめるミステリー小説。
    以下の小説を読み直したくなること間違いなし。未読の人は読みたくなる。
    ・「アメリカン・サイコ」ブレッド・イーストン著
    ・「ブラック・ダリア」ジェイムズ・エルロイ著
    ・「夜を深く葬れ」ウィリアム・マッキルヴァリー著
    ・「夜の終わり」ジョン・D・マクドナルド著
    ・「ロセアンナ」マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー"

  • おそらく本作を読んだ人の90%は、『その女アレックス』でピエール・ルメートルを知り、そちらを先に読んでから本作に手を出したはず。本作はカミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズの1作目、『その女~』が2作目であるにもかかわらず、日本での刊行年がそもそも入れ替わっているのですから。そんなわけで、ネタバレしてもネタバレにはならないはず。

    会った相手がどこを見ていいか困るほどの小男、身長145cmの警部カミーユ。けれども美しいイレーヌと運命の出会いがあり、結婚。イレーヌは妊娠中で、夫婦は新しい命の誕生を心待ちにしている。そんな折り起こった猟奇殺人事件。しかも過去の未解決事件のうちのいくつかが、同じ犯人によるものだと判明する。キレもののカミーユは、新聞広告を通じて犯人を挑発、犯人もそれに応えるのだが……。

    犯人の手口は一貫性がないように思われていましたが、実は名作ミステリーに出てくる殺人の手法を事細かに再現したもの。ジェイムズ・エルロイの『ブラック・ダリア』、ブレット・イーストン・ エリスの『アメリカン・サイコ』など、取り上げられるミステリーに心が躍ります。とても面白い。

    しかし、この絶望的なオチ。『その女アレックス』を読んだ人が知っているように、イレーヌは母子もろとも被害者となります。凄絶なラストシーンに、カミーユが駆けつけてイレーヌもお腹の子どもも助かったという展開を望むのは普通すぎるのでしょうか。普通すぎてもいいからそうあってほしかった。

    期せずして日本での刊行年が前後した本作と『その女~』ですが、個人的にはそれでよかったのかもしれないと思えます。絶望のどん底に突き落とされたカミーユが、次作の『その女~』で復活することがわかっているからこのオチにも耐えられる。カミーユとイレーヌのなれそめも本作で知ることができ、これでもう一度『その女~』を読んだら、そこここで泣いてしまうかもしれません。

  • 猟奇殺人犯を追う刑事の物語。めちゃくちゃおすすめ、めちゃくちゃ面白い。ただこのタイトルはちょっと、、、
    映像を頭の中に想像させるのがとても上手い文章なので、登場人物の表情や仕草がはっきりと頭の中で再生される。幸か不幸か、事件の描写がかなりグロく、小腸がこぼれ落ちてる所なんて見たことないのにそれもはっきりと想像できちゃう。
    小説は、残酷な描写が多々ある刑事パートと主人公の家族に焦点を当てたとても暖かいパートが交互に展開されていく。(残酷な描写もうまいが暖かいパートもものすごくリアリティがあって泣ける。)
    これ以上は言えない、できるだけ前情報を仕入れない状態で読んでほしい。映画セブンを見てる感じになった。

  • ヴェルーヴェン警部シリーズの第1作です。
    原題は「丁寧な仕事」。確かにこれだとインパクト弱いけどさ、邦題だとなんというか、イレーヌに悲しいことが起こることが予言されているわけで、なんか興を殺がれましたね、若干ですが。

    で、文句なしの傑作だと思います。
    こんなの、読んだことないです。一気読み確実です。
    第一部と第二部のバランスがおかしいなぁ、とは思ってたんですが、そういうことだったとは。

    第2作の「その女、アレックス」で一躍有名になったルメートル氏ですが、私は断然本作の方が好きです。
    もう「はい?!」と言うしかない、持っていかれた感。
    やられた感、足元すくわれた感がハンパないです。
    その果てに、救いようのない結末が待っているという。

    打ちのめされるかんじです。
    でも、面白かったです。

    • ゆきやままさん
      私もアレックス以上の衝撃を受けました!
      私もアレックス以上の衝撃を受けました!
      2018/11/10
  • これは凄い作品だ。2作目の『その女アレックス』も凄かったが、『悲しみ~』は警察小説と言うよりは、本気ミステリである。しかもエンタメ要素ぶち込んだ系ミステリではなく、マジかよ…と言うミステリ。警察小説の様相の振りしたミステリである。凄いわー。チーム男子好きな人は読んでくれ、読めば解る。ヴェルーヴェン班の面々のやり取りがあうんの「チームワーク」で、滾るんだよ…資産家の息子で生活一切に困ってないのに刑事やってるハンサムで金持ちなルイが、真摯に警察の仕事してて博識で、あくまでも班員の一人、として描かれてるのがいい。
    ネタバレになるので書けないが、どこからが「小説」でどこからが「本編」なのか、今一度読み直してみないといけない。
    『その女アレックス』先に読んじゃったが、ヴェルーヴェン班もの第一弾のこのタイトルが深い悲劇に満ちているのは解っているのだが、読み進むのが止まらない。『ブラックダリア』『ロセアンナ』読んだ事ある人は絶対ハマる(ネタバレになるのでこれ以上言えない)。

  • 虚構と現実がうまく混ざりあっている技巧的な作品だ。前半はやや退屈だが二部以降で怒濤の展開となり面白かった。
    ただ技巧的過ぎるからだろうか、少々ご都合主義的なところが散見される気がする。上手いだけに盛り上げるためだけに用意されたようなタイミングのよさや詩的な表現、神秘的な情景がやはりこれはフィクションなのだと思い知らされる。スピード感が高まるのと同時にどこか冷めていく終盤。☆4はそれ故か。人間描写が薄いのもそれを後押ししているか。これがこの物語の「作者」の限界かもしれない。最後は「作品」に寄りすぎた感が否めない。

  • 「その女アレックス」で賞を総なめにして注目を集めた作家。
    カミーユ・ヴェルーヴェン警部のシリーズ、こちらが1作目になります。

    のっけから怖い事件が起こり、筆力で圧倒する勢い。
    よくある?連続殺人物、というには仕掛けも大胆なので、油断できません。

    捜査陣は個性的で、高名な画家を母に持つ超小柄な警部。
    巨漢の上司。
    富豪の出で何を思ったか警官になったハンサムな部下。
    対照的にしみったれた部下、など‥
    さすがフランスという、しゃれのめした雰囲気が漂います。

    外見にコンプレックスを抱き、ほとんど女性には相手にされないできた警部補が運命の女性に出会う。
    このくだりは、ほほえましく、感動的。
    それだけに‥とんでもない展開が衝撃なんですが。

    新聞記者や犯罪小説の専門家、古書店主なども登場して薀蓄をかたむけ、ミステリマニアの心をそそる部分も。
    しかし‥
    ★五つはちょっとつけられない読後感。
    一般の人向けには★三つ。
    ミステリを大量に読む人なら、はずせませんけどね(笑)

  •  何とあの大逆転作家にしてフレンチ・ミステリの新星、ルメートルの本作はデビュー作にして、カミーユ・ヴェルーヴェンの初登場作である。ヴェルーヴェンは、『その女アレックス』に登場して、おそらく記憶に留められたであろうキャラクターである。何と身長が145㎝しかないという身体的特徴が際立っていながら、非常にやり手の殺人課警部である。

     四作目に当たる『その女アレックス』に続いて、二作目の『死のドレスを花婿に』が文庫邦訳(単行本では既に邦訳済み)され、立て続けに本書と、ミステリーではないが『天国でまた会おう』が昨2015年に邦訳されている。注目度抜群の作家が日本への進撃を開始したと言っていい。

     それにしてもこれまでの二作で、あまりの逆転劇ぶりに驚き呆れた読者も、まさかデビュー作でしかも邦訳第三弾で、同レベルで超のつく逆転劇をやってくれることはないだろう、そんな姿勢で臨んだ本書だが、二度あることは三度ある、この作家はやはり凄かった。いつも読者としては手玉に取られる感を否めないのだが、まさに本書の読者は、作家のもはやあやつり人形と化すだろう、としか言いようがない。

     映画『シックス・センス』などで行われる衝撃のラストに出くわした観客は、もう一度最初からこの映画を観たくなる。ぼくの場合、その仕掛けを解説してくれるメイキング映像までたっぷりと見て、その仕掛けの深さ、凝りように、呆れ返り、匙を投げたものだった。それと同様の驚きが、本書にもしっかりとたっぷりと仕掛けられているのだ。

     仕掛けを警戒しながら読み進んでいるのに。あらゆる想定をしつつ読み進んできたのに。それでも騙される、これはもう快感としか言いようがないのである。やはりページを戻して、どこがどうだったのか確認したくなる。何が真で、何が虚なのか、見極めにくいところをチェックにかかる。

     イリュージョンのような大仕掛け小説。ヴェルーヴェン警部とその部下たちの個性にユーモラスに笑わせられながら、彼らに残虐な挑戦を仕掛ける犯人の素顔に迫る緊迫感。小説家を名乗るシリアル・キラーの断章が挿入されつつ、物語はジェットコースターのように大瀑布のような逆転の断面に滑り込んでゆく。やはり、これぞ快感、としか言いようがないのだ。

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著者プロフィール

橘 明美(たちばな・あけみ)
英語・フランス語翻訳家。お茶の水女子大学卒。訳書にスティーブン・ピンカ―『人はどこまで合理的か』(草思社)、デヴィッド・スタックラー&サンジェイ・バス『経済政策で人は死ぬか?』(草思社、共訳)、ジェイミー・A・デイヴィス『人体はこうしてつくられる』(紀伊國屋書店)ほか。

「2023年 『文庫 21世紀の啓蒙 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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