新装版 回天の門 (下) (文春文庫) (文春文庫 ふ 1-62)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167905767

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  • 下巻では、横浜の異人居留地焼き討ちの先に倒幕を見据えた「虎尾の会」の密謀(但し事前に発覚して潰滅)、薩摩藩の挙兵上京を当て込んで各地を遊説し、京に尊皇の志士を集めたことから起こった悲劇・寺田屋事件、幕末に献策して結成された浪士組を煽動し、朝廷から勅諚を得て攘夷の実行部隊と変えた大博打など、稀代の煽動家、清川八郎の八面六臂の活躍が描かれている。どれも失敗に終わったが、後の幕末の倒幕活動に先鞭をつけた活動だった。

    それにしても、八郎の才が勝ちすぎ、家族、友人の迷惑・不幸を顧みないところはいただけないなあ。著者は、「人に優れた先見の明と、状況の鋭い読み。その上に立ってすばやく行動を組み立てる能力、そこに人を引っぱって行く雄弁と胆力。これらは本来一党をまとめる頭領の条件なのだが、何の背景も持たない孤士の八郎がそういう熱弁を展開すると、弁舌に覇気があって巧みであるほど、どことなくある種の煽動家に似てくる。そのあたりが八郎の悲劇だった。」、「だが八郎は、何の背景も持たない孤士だった。正論だけ吐いていても人がついて来ないのだ。人を動かすためには、可能なかぎり論旨を派手に飾り、重味もつけ加える必要があった。そこを安積が理解せず、いたずらに策を弄するとみるなら、それも仕方がないことだと八郎は思っていた。」と書いているが…。

    という訳で、清川八郎に対する策士、煽動家という印象は変わらなかったが、本書から、清川八郎が幕末動乱期の前半に大きな役割を演じた傑物であったことは、十分理解できた。

  • 上巻に続き、いよいよ主な舞台を江戸から京都、そして九州へと、全国を股にかけての清河八郎の討幕の動きに拍車がかかる。 八郎の信ずるモノがあまりに強いため、一見唯我独尊的な考えや行動が誤解を生むケースも出てくる。 幕末の動乱期に、己を信じて一歩も二歩も先へ行動する強い意志が、多くの同志から賛同を得るのと同様、意に反する者をも作ってしまうと云う現実は、人間社会の世の縮図を反映しているなと思った。 それにしてもこの時代の大志を抱いた志士たちは、若くして駆け足で生きたんだなと再認識した。

  • 【維新回天の夢を一途に追って生きた男の生涯】山師、策士と呼ばれ今も誤解のなかにある清河八郎は、官途へ一片の野心ももたない草莽の志士だった。清冽な男の33年の生涯を描く。

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著者プロフィール

1927-1997。山形県生まれ。山形師範学校卒業後、教員となる。結核を発病、闘病生活の後、業界紙記者を経て、71年『溟い海』で「オール讀物新人賞」を受賞し、73年『暗殺の年輪』で「直木賞」を受賞する。時代小説作家として幅広く活躍し、今なお多くの読者を集める。主な著書に、『用心棒日月抄』シリーズ、『密謀』『白き瓶』『市塵』等がある。

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