ペテロの葬列 下 (文春文庫 み 17-11)

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  • 文藝春秋
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  • / ISBN・EAN: 9784167905859

感想・レビュー・書評

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  • 『ペテロの葬列 下』―謎を紐解く杉村三郎、人間の深淵を覗く

    杉村三郎シリーズ第3弾『ペテロの葬列 下』を読み終えた後、心がずっしりと重くなりました。バスジャック事件から始まった物語は、単なる事件の解決を遥かに超え、人間の欲深さや善意と悪意の間で揺れ動く心理を深く掘り下げていきます。事件の被害者たちに届いた「慰謝料」の謎を追う中で、杉村三郎はかつて膨大な被害者を生んだある事件に行き着きます。この連鎖は、ただの事件以上のものへと私たちを導いてくれるのです。

    杉村三郎の人柄の良さと行動力が、さまざまな人々を引き寄せるとともに、彼が巻き込まれる事件の深淵にも光を当てています。不運な状況から始まった今回の事件を通して、人の心の複雑さ、そして人生における「最適解」とは何かについて、深く考えさせられました。物語の人物の立場に立ったら、自分ならどう行動するだろうと想像することが、この物語を読む魅力の一つです。

    終盤には予想外の展開が待ち受けており、その苦しみや葛藤は、読む者の心を強く揺さぶります。しかし、それでもなお、杉村三郎が次にどのような活躍を見せてくれるのか、期待せずにはいられません。『ペテロの葬列 下』は、杉村三郎シリーズがただのミステリーで終わらない理由を、改めて教えてくれる作品です。人間の心の深淵を覗きながら、私たち自身の人生についても考えさせられる、そんな一冊になっています。

  • 予想外の結末に、ただただ驚いている‼︎
    解説も読まず、レビューを書き始めたくらい。

    上巻の前半に発生したバスジャックの余波は、どんどん広がった。犯人の目的と人物像のなぞ。人質たちの人生、罪を償うということ、人生の再スタートとは。本書が扱っている社会問題は、マルチ商法、詐欺、自己啓発セミナーの洗脳スキル。

    加害者も被害者だったりと、根深い。

    話にどんどん引き込まれ、伏線の回収に感心してたら…。シリーズ③の本書は人の本性、信条を問う。そして、表題の所以も頭から吹っ飛んだ驚愕の結末だった!

  • 杉村三郎シリーズの第三弾。出だしのバスジャックの犯人であるおじいさんの会話や行動からとても引き込まれました。そして、このおじいさんが何者なのか?なぜバスジャックをしたのか?という話を軸に、他の事件も織り交ぜながら、物語は進んでいきます。最後には、杉村三郎にとって、人生の岐路となるべき事件も起きて、予期せぬ方向で話は次作に続いていきます。かなりの長編なのですが、最初の事件でぐっと引き込まれ、最後であっと驚く、話の展開のうまさに感心しました。作家ってすごいですね〜。登場人物も多彩で、ドラマで杉村三郎を演じていた小泉孝太郎が大好きなので、彼は別として、全てがシュッとしている橋本さん、好きだなぁ♡
    そして、井手は大嫌い(笑)これから、杉村三郎は、どうなっていくのか?とても気になりますが、とりあえず3作読んだので、違うタイプの本もちょっとつまみ食いして、第4作を読もうと思います。それにしても、宮部みゆきさんって、推理小説、時代小説、現代小説、といろんなジャンルの作品を量産していて、ほんとにすごい作家ですね☆

  • Audible読了
    私は宮部みゆき作品がどうしようもなく好きでたまらない。だから、読み終わった直後の火照った状態でおかしなことを口走ると思う。氏の作品は読むほどに奥深い谷底に落ちてゆく気さえする。たぶん信者か推しだかのへりに、指2本だけで掴まっているくらいだと思う。まさにペテロの心境だ。いやペテロ知らんが。

    いや、そもそも作家って、なんでみんなキリストの弟子の話が好きなんだ。大して敬虔でもない仏教徒からしたら、いちいちググったりして迷惑でしかない。一部始終を読み終わって、分かったような気になるのも不思議。誰かブッダとかムハマドとか引き合いに出してみて。それも困るか。

    私の中の宮部みゆき像は、棟方志功のようにペンを走らせている姿だ。それほどに静謐と灼熱がほとばしっている。目をつぶっても太陽のように残像が残る。

    もうレビューの体でもなんでもなく、氏の作品全体に私なりの確信がよぎった。
    「罪」を描写しているんじゃないか。
    罪悪感といった方がいいかもしれない。疑問形で抱いてるような、アリを踏み潰した時くらいの、印刷ミスした紙を捨てるくらいの、チクッとする痛くも痒くもない安心できる罪。誰かを傷つけているかもしれない、という蓋しても消えない大きな罪。燃えるような筆先でそれを物語にする。
    罪に向き合って人間を描き出している。そう思う。そんで読んだ後は、また淡々とした生活に戻される。やめて、ほんと。

    さてシリーズの主人公である杉村三郎の時間は、とても創作とは思えないほどリアルに進む。取り巻く人物たちの時間も等しく進む。現実的に悩んでいる。出口に向かって都合よく進んだりしない。途中から読んでも分かります、みたいな親切もない。追っていないと見落とすものばかりが用意されている。

    ──入口は被害者。出口は加害者。

    私もダメージを誰かに転嫁している。たぶんそれは事実だし、みんなそうじゃない。それを跳ね返せることを老成と呼ぶのかもしれない。
    加害者でも被害者でもない人生を選ぶなら、キリストやブッダになれというのか。むりだ。最後に葬列に加わった人物、ペテロ。それが杉村くんの正体で、私の正体だ。
    私は他人の「価値観」を受け入れることが壊滅的にヘタクソで、そんなあなたは葛藤を抱えて死にますよ、と諭されているようだ。そんなコナンくんに指差されたような状態で、のほほんとした生活に帰っていかなくてはならないのだからたまらない。コナン成仏して。
    私がブッダなら、寝そべって妻と子どもに諭すだろう。宮部みゆきを読んで葛藤しなさいと。
    これは罪の転嫁であり、それは罪の肯定だ。
    なんか目覚めよ的。。。

    悩むことは、イコール命。それは同時に悩むこととの向き合い方も教えてくれているのだと思う。それが、こんなにも息苦しい宮部作品の真骨頂ではないか。

    ──人と人をつなぐのが縁だ。縁は生き物だ。

    これまたなんとまぁ、うまいこと言うの。私の中で美しかった言葉がひとつゲシュタルト崩壊を起こした。
    朗読が素晴らしい井上悟さんにも、送り出した全ての人たちにもご縁があった。
    しかしこの読書体験もいつか意味が変わるかもしれない。宮部みゆきを焚書する日がくるかもしれない。
    今はみなさんの感想を読んで、たっぷり余韻に浸りたい。


    きっとこれ、夜書いた手紙みたいに朝消したくなるだろうな。

  • 杉村三郎シリーズって事で買った一冊。

    バスジャックの真相を調べて行く話しだった.

    ねずみ講みたいな詐欺だと被害者が加害者になりより一層悲惨な結果が待ってるからタチが悪い。

    詐欺は今の世の中に当たり前のようにある。
    注意してても引っかかる人もいる。
    うまい話はないと思っていいと感じた。

    この小説はバスジャックの真相が詐欺行為の贖罪みたいな感じで一連の事件は解決したが、その話より主人公のその後の方がインパクトがあり、バスジャックから詐欺の話が霞んでしまった感じがした。

    なんとなく主人公がかわいそうな気もするが、多分主人公も気にしていた事が解消されたようなので結果良かったのかもしれない

    この杉村三郎シリーズはまだ続いている。
    私生活がガラリと変わった主人公がこれからどう活躍するか楽しみになった小説でした。

  • 若干ネタバレ喰らっていたので、ところどころの伏線は「あ~なるほどね」と読めたけど、実際ネタバレ喰らっていなかったら自分は気づかなかったかもしれない。
    にしても、ラストシーンのクライマックスは読ませたね。
    自分は読んでて正直めちゃくちゃ辛い展開だったけど、物語としてはすごくよく出来ている。
    詐欺という巨悪が巡り巡って最終的に毒はそんなものと無縁の主人公のもとにも伝染しているんだけれど、これはある種必然的なもので遅かれ早かれ来るものなんだと思う。ただきっかけがこういった事件であっただけで。
    ただやっぱラストシーンはグサッと来るなあ。
    読みながら女は恐ろしいなと思った。自分で全部抱え込んで最後こんな風に言い寄って、自分が悪かったなんて言ってくるの無理すぎる。セリフの節々の(特に「何度も寝ました。楽しかった。」のとこ)ところから「マジでこういう女の人とは一緒になったらダメだ。自分が壊れちゃう」って心の底から思った。
    どうしても主人公に肩入れしちゃう。女の人はヒロインの菜穂子に共感するんかな、正直自分は一ミリも共感できんのやけど……
    いや、自分と連れ添ってくれるパートナーが自分以外のことで生き生きとしていたら、それは悲しいし嫉妬するのかもしれんし、それとなく「寂しいよ」ってことを相手ににおわせてあげてたけどさ。
    それでも浮気するのってどうなんやろ……
    いや、恐ろしいわ。自分が同じ立場になったことないからわからんけど、どうすればいいんやろね。どうしようもないじゃんね。
    言葉にして相手に対して「君のおかげで今がある。本当に感謝してるし、今が幸せだよ」とか言ったとして、結局行動、言動にそれが表れてなかったらどうしようもないんでしょ。相手にとって。
    自分が楽しい、と思うこと、今幸せなことに向かってしまうのはもうどうしようもないことだと思うけど、結局しがらみになってしまうんなら別れるしかないよなあ。
    結婚という段になってしがらみが強制的にできてしまったものだから、それによって束縛される相手の顔が愛想笑いになっていくのはそりゃ辛いよね。
    もう結婚とかそういう家庭とかいうの怖いよ。
    まあある種「家族」というコミュニティを自分と相手で形成するわけだから、そのなかでしがらみができるのは当然だし、お互いは赤の他人なんだからどれだけそのコミュニティを大切にできるかってことよな。
    でも相手を大事にするのと、ほぼ相手しかいないとはいえコミュニティを大事にするのとではまた変わってくるんだと思う。
    相手だけを大事にしたいんだったらそれは別に家族という体裁をとる必要はないわけで。「家族」ってコミュニティはいつでも抜けられるわけではなくて、今後ずっと一生もんでかかわっていかなきゃいけないものだから、自分だけじゃなくて、それこそ相手の感情に逆らってでも「家族」っていうコミュニティのための最大利益のためにお互いが身をすり減らさなきゃいけない部分もあるとおもう。
    今回のお話はその「家族」っていうコミュニティを形成する上でかなり厄介なしがらみが降りかかった故にこういった結末になってしまったけれど、多かれ少なかれこういったしがらみに相手ががんじがらめになっていて、それを見ている「自分がつらい」って現象につながることは全然あると思ってる。
    まあそれが浮気してもいいって論理には自分の中で100%ちゃんちゃらおかしくて、「はああ???」としかならんけど。
    環境面でどうしようもないしがらみは別として、お互いが擦り減らないように「家族」ってコミュニティでどう生きていくかをそれこそ、唯一のメンバーである相手にきちんと話してコミュニケーションとって歩み寄っていくことが大事なのかな、という超月並みな感想です。

  • いろいろな事件が杉村三郎の中で複雑に交差して、スピーディーに展開していくので下巻は常にドキドキして見れた!
    毒は相変わらず杉村三郎の周囲で実体化して伝染し、その中で大きな悪があらわになっていく。特に最近現実でも話題になるネットでの誹謗中傷はまさに毒の伝染だと感じだ。

    次回作は、離婚して気持ちがスッキリした杉村三郎が、本格的に探偵業を開業してくれることに期待!

    ちなみに、菜穂子が浮気した理由にはイラッとしました。彼女は間違いなく貧乏神だな!

  • 【ネタバレあり】
    本作はミステリーであるが、この感想文で、本作のストーリーに触れます。
    これから本作を読まれようとしている方は、この感想文はご覧にならない方が良いです。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    宮部みゆきによる、杉村三郎シリーズ、「誰か Somebody」「名もなき毒」に続く3作目。文庫本では上下2巻となる長編。好き嫌いはあると思うが、私はとても面白く読んだ。

    主人公の杉村三郎が巻き込まれたバスジャック事件の犯人である老人にまつわる謎(なぜ、そのような事件を起こしたのか。その後、バスジャックに巻き込まれた人たちに”慰謝料"が届くように手配をしておいたのは何故か)、バスジャック人質たち、および、それに関連する人たちの事件後の出来事・葛藤、バスジャックに巻き込まれるきっかけともなった、杉村三郎の取材先の森氏に関する事件・物語、その元部下であった井出氏に関する事件・物語、杉村三郎の昔の知り合いの私立探偵、北見を訪ねてきた足立とその関係者に関する事件・物語がミステリーとしての本作の骨格となる出来事であり、事件である。
    これらの物語も十分に面白かったのであるが、私が最も衝撃を受けたのは、最後の最後に出てくる、杉村三郎・菜穂子夫婦に関してのストーリーだった。このストーリーに関しての伏線は、ほとんど物語中に出てこない。私が伏線を見落としていたのかもしれないが、私にとっては、「突然」という形で物語が示される。この杉村三郎シリーズは、あと何作か続く。その内容を私は知らないが、杉村三郎が、現在とは別の立場・関係性の中で活動をしていく物語を宮部みゆきは書きたくなったのだろう。そのためのエピソードになっている。

  • 宮部みゆきのペテロの葬列を読みました。

    杉村三郎シリーズの3作目で、今回は杉村三郎がバスジャックに遭遇してしまいます。
    バスジャックをした犯人は弁舌のたつ教師のような老人だったのですが、杉村三郎はそれが誰なのか、なぜこのような事件を起こしたのかを調査していくのでした。

    今回の事件については犯人の動機と犯行内容に必然性・納得性があまり感じられなかったのは残念でした。

    杉村三郎は最終的には謎を解決していきますが、解決途中での対応が結果的に後手に回ってしまうように描かれているのは作者の意図なんでしょうね。

  • 再読だけど…うん面白かった(^ ^)

    私も研修、詐欺、まさにそんな時代に就職したなぁ。

    宮部さん離婚する設定は最初から決めてたのかな?
    次のステージに立つには離婚は納得。

    成長する為に浮気って…
    当て馬君ちょっと可哀想ね(u_u)

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著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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