スナックちどり (文春文庫 よ 20-8)

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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167906061

作品紹介・あらすじ

淋しさを包みあう、ふたりの女の旅。
離婚し、仕事をやめた「私」と身寄りをすべてなくしたばかりのいとこのちどり。傷付いた女二人がたどりついたのはイギリス西端の小さな田舎町だった。

感想・レビュー・書評

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  • いまの自分の生活が、まるで借金を抱えている人みたいに、今だけは借金のことを忘れていようってむりに見ないようにして楽しいと思うような、そんな日々の積み重ねに思えてきた。
    じゅわぁ~っと心があたたまりつつ重くなる、きれいごととごまかしで生きてても人を幸せにできないな、そんな感想を持った。すごく好きな小説!1年に1回は読みたいステキな本!だけど、4月はいろいろ鬱な月だからいろんなことを痛感させられて今のままではだめだ、と思う。自分に自信のある生活をコツコツ地味に地道に積み重ねていきたい。

  • この物語は筆者自身がお父様の死という重い出来事から、立ち直っていく心境を「私」と「ちどり」という2人の主人公の女性に投影したとあとがきに書いてあるように、喪失と再生というのは、中年以降の人生の大きなテーマであるように思う。
    年を重ねるにつれて、いつかは来るであろう、大切な人との別れ。そうなった時にどれほどの喪失感や悲しみ、苦しみが自分に襲ってくるのか、今は想像もできないけど、常にそういう覚悟だけはしておこう。自分に起きるすべてのことをこれも運命とありのままに受け入れ、最後は「それでいいのだ」と思える人生でありたい。

    お互いの孤独や淋しさを癒しあい、「ちどりはすごいね」「さっちゃんこそ私の憧れの存在だよ」と認めあえるこの2人の主人公の関係は永遠に続くんだろうなと思えた。

    物語の中でセントマイケルズマウントのクリームティーやホテルのイケメンシェフの作るスタイリッシュな盛り付けの朝食やイギリス人とタイ人の夫婦が営むタイ料理屋など、要所要所で食べ物や食べるシーンが効果的に使われててよかった。

  • これぞ吉本ばななの世界観で、読了後の満足感というか、温かみがとても良かった。世界のドラマティックな部分だけを抜き出したような話ではなく、割りとなんでもないような日々の中で、少しのきっかけで人が過去を振り返ったり気持ちと向き合ったりして、それが例えポジティブなものじゃなくても、最後には前向きにというか、まあいいじゃないか生きていくんだしさ、って思える感じが本当に好き。何が起きているわけではないのにどんどん読み進められちゃうのも不思議。テンポと言葉の並びの良さ?一生吉本ばななの世界で生きていたい。

  • 感想
    別れは辛い。どうしても離れたくない相手がいなくなる。しかし人生は続いてしまう。前に進めない夜もやってくる。1人で乗り越えられなくても。

  •  大切な人との死別、離婚とそれぞれ大きな別れを経験した主人公と従姉妹の旅先での話。

     主人公が元夫のことを、薄っぺらくてかわいそうな人と表しているのが、とても辛く感じた。育ちがそうさせた部分が大きいと思うからである。でも大人だから、変わっていかなくちゃいけないと言われればそれももっともである。

     自分が人に優しくするとき、その理由はいったい何だろうか?愛されたいがために優しさを振りまいてはいないだろうか?ちゃんと考えようと思う。

     後半の展開に驚きはしたが、全体的に穏やかな流れで、とても好みの本。

  • 久しぶりのよしもとばななさん

    不安定なときが多いけど、
    そんなときによしもとばななさんを求めてた。
    求めたら、やっぱり好きな世界があった。

    それに今日の5月11日は、先輩のお誕生日で、
    だいすきですよ!
    って連絡したら、
    だいすきですよ!と返ってきて、
    そしたらとってもしあわせな気分になった。

    こんゆうことがないとね、生き延びれないよ

    舞台はイギリスの西端 ペンザンス
    読んでると、モンサンミッシェルの近くなのかなぁ?
    いとこ同士のちどりとさっちゃん
    ちどりは、早くに両親を亡くし、祖父母と生きてきた。
    そんな祖父母も亡くなった。
    さっちゃんは、40近くで、職場で出会った、
    おかまと子どもと男らしさが素直に共存した変わった彼と結婚したけど、
    離婚し、バリバリ働いてたけど、仕事も辞めた。
    それぞれの孤独を持ったふたり、
    しょんぼり同士が、
    故郷ではない場所で、ひらいていく

    さっちゃんが
    いとこと大人になってから再びうちとけるというのは幸せなことだった。
    って言ってた。
    わたしはこの時、従姉妹の洋子ちゃんを思い浮かべた。
    洋子ちゃんとは全く仲良くないし、
    いつ会ったかなぁ?ってくらい。
    同じ東京に住んでるし、せっかくの従姉妹だし、
    洋子ちゃん心も体も元気でいるのかなぁー?って、思い出し、想い、会いたくなる。

    さっちゃんが、色んな大切なものを失ったちどりを思って、
    素直な気持ちになれるシーン
    わたしには全然ないや。
    いけないなぁー。いけないなって思った。
    自分のことばかりだけでは、
    本当に自分に必要なことは回ってこない気がして、
    回ってきても、きっと、いっぱい見逃してる。

    ウィリアム・モリス
    この前美術館で並んでいるときに、
    まるで独り言のようなふりして、
    人に話しかけてるおばさんに引っかかったよ。
    そのときの会話にウィリアム・モリスが出てきたから、
    びっくりした。
    この時も、知らない人と話せて特別だったことが、
    もっと特別に感じれた。


    どんなきらびやかな飾りよりも、
    人々が出す輝きのほうが大きいものだ、
    今の時代は何千万円もかけたイルミネーションが街を飾っても、
    人々に活気がない。
    町が勢いを増していく時代の雰囲気を含めて、
    もう全て終わってしまったことのように感じられた。
    と、よしもとばななさんの、現代社会へのこのことばの表現にとても惹かれた。

    憧れの東京。
    いざ生活。でもなかなか時間とお金の余裕がなかったりで、
    うまくやりくりできなかった。
    東京から離れようと思ったとき、
    東京ってやっぱ凄い!求めてるものが、
    こーんなにあって、すぐ行ける。
    でも中には、似たような物がどこへ行ってもどんどんできていき、
    時代は変化する!とにかく新しい物!新しい物!へと、
    消費な世の中になってる気がして、
    新しい物もいいけど、
    昔からあるものや、自然は……どうなるの?とも感じるよ。

    ちどりが、
    ねえ、生きてたら楽しいこともあるね、
    うっすら鬱状態で、どうしても懐かしいさばかり先にたって新しい店に意欲がわかなかなった
    って
    わたしもまだまだ過去にしがみついてしまうときがあり、 駄目な状態に陥ってしまうけど、
    元気なときは、それが思い出として、
    まぁいいか。と赦せたりするのになぁ。

    よしもとばななさんの本には、
    好きな世界が不思議なくらいつまってる。
    久しぶり、こんなに関係ないことも書きたくなった。

    あー今日も生きてます。
    みんなもわたしも。

  • 海外で過ごす非日常も、人生の中では日常の一部になるんだろうな。
    当たり前の日々を積み重ねることが、一番の幸せだって、最近ホントに思う。

  •  ペンザンス行ってみたい。それから、クロテッドクリームという濃厚なクリームとジャムをスコーンにこれでもかと塗って、紅茶といっしょに食べるものークリームティーしたい。

  • 「彼と暮らしていた今よりも少し若き熱い日々を思い出すたび、やはり目の前が暗くなった。あの日に戻れないなら、もう私の人生にはなんにもない、そんな気持ちがしょっちゅうこみあげてきた。楽しさだけを基準にするなら、話し上手で勘がよく、人の気持ちをさっと察して的確なことを言える彼との暮らしはやっぱり楽しかったのだ」

    「誰かの生きがいを生きるという重み」

    「自分自身のことを愛してない人といると、それだけでとてもつらいしら苦しいんだ」

    「先の約束をひとつする度に、未来に小さな光がひとつ灯った。それを実感できるくらい弱っていた。このところずっと今日を泳ぐのでせいいっぱい、明日は溺れるかも、そんな感じだったことをこの町に来て私は悟った」

    「目から涙がぽろりと出てきた。ほんとうは心許してほしかった。もっと無言の時間をもてるくらいに。そして、静かに過ごしたかった。特別な言葉がなくても、相手をほめ殺しにしなくて も、派手に料理を作って並べなくても、特に面白いニュースがなくても、人と人はそっと地味な光が内側から照らすような寄り添い方ができるんだよ、ということをわかってほしかった。」

    「人をほんとうにほんとうに愛するって、それはそれはたくさん時間かかるんじゃない?」
    ちどりは言った。
    「そうだね・・・・・時間をかけてもよかったのかもしれないのにね。 なんで離婚に至ったんだろう?自分のつごうを差し置いてまで愛せる気が全くしなかったからなんだろうと思う。毎日が楽しくて、それを重ねていったら愛になりましたって、そういうものでは決してなかった。まるで借金を抱えている人みたいに、今だけは借金のことを忘れていようってむりに見ないようにして楽しいと思うような、そんな日々の積み重ねだった。入院している人が一時帰宅して、病院のことは今だけ忘れようって思うような切実でありがたい忘れかたではなく、明日の朝仕事上の重要なミーティングがあるけど、すごくいやな人がいて気が重い、だから飲んじゃえ、みたいな甘えた逃げの時間だった」

    「でもね、ほんとうにほんとうに愛してたら、いや、愛せそうな予感がしたら、どんなに自分と価値観が違ったって続けたと思うよ。」

    「クマさんともしも寝たら、脱いだシャツもハンカチも、みんなクマさんの奥さんが毎日の中でもはや義務感さえなく、普通のリズムで取り揃えたものなんだよね。クマさんのカバンも、靴下も、みんなふたりの家、子どもたちを育てた家からやってきたものなんだよね。不倫っていうのは、要するにとことんそういうものなんだよ。一見楽しく見える。ホテルはそうじもしなくていいし、シーツだって換えなくていい。おいしいもの食べ
    て、お酒飲んで、セックスして、いいことずくめ、最高じゃない?と思う。
    でもそれは、さっちゃんの元だんなさんの思ってるきらびやかでいつもふんわり楽しい人生と同じで、実はすごくつまんないものなんだよね。ひたすら皿を洗ったり、ふきんでふいたり、ばかほど洗濯物干したり、シーツ換えて腰痛めたり、なんかそういうのがないと、人との関係って深くはならないんだよ。どうしたって。どうしてだかは知らないよ。でも、そういうふうにできてるみたいね。」

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/711892

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著者プロフィール

1964年07月24日東京都生まれ。A型。日本大学芸術学部文藝学科卒業。1987年11月小説「キッチン」で第6回海燕新人文学賞受賞。1988年01月『キッチン』で第16回泉鏡花文学賞受賞。1988年08月『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞受賞。1989年03月『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞受賞。1993年06月イタリアのスカンノ賞受賞。1995年11月『アムリタ』で第5回紫式部賞受賞。1996年03月イタリアのフェンディッシメ文学賞「Under 35」受賞。1999年11月イタリアのマスケラダルジェント賞文学部門受賞。2000年09月『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞受賞。『キッチン』をはじめ、諸作品は海外30数カ国で翻訳、出版されている。

「2013年 『女子の遺伝子』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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