春の庭 (文春文庫)

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著者 : 柴崎友香
  • 文藝春秋 (2017年4月7日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167908270

春の庭 (文春文庫)の感想・レビュー・書評

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  • とてもよかった。思わずほっと息を下ろしてしまうような安心感と、内側から満たされるような温かさ。柴崎友香の小説はどれも読んでいると、「世界は私に開かれていて、受け入れるのを待ってくれている」という感覚になるが、今作は特にそれが強かった。この小説世界に生きられたら……。この作品から受ける感触は本当に温かく、包み込まれるような感じさえする。よく考えたら登場人物たちは、おそらくたいして満足いく生活や人生を送っていないのだが。そこそこの年齢で結婚もしていなければ、友人知人も仕事場の関係しかなく、収入も多くない。そんな生活でも「縁」によってこれだけ支えられているし世界と繋がっているんだよ、というメッセージを感じる。縁とは「その時その場所にいることそのもの」なのだなあと。ある時のある場所を写した写真集というモチーフにそれが端的に表れていると思う。今回とみに感じたのは、繋がりが時間的にも空間的にも宇宙的広がりを持つと同時に精神の内部にまで浸透するような感覚。それは解説にあった人称の入れ替わりや俯瞰視点の導入が効果覿面だったのだと思う。それらの手法の使い方に過去作品と違う工夫を感じた。この作品で芥川賞なのもとても納得できる。歴史でも科学でも物語でも、関係のなさそうな物事が実は繋がっているということに感動しない人はいないと思うが、それは特別なことではなく、凡庸な私たち一人一人の存在や生活の営みもその例に漏れるものではないんだよというのが柴崎友香の一貫して伝えようとしていることなのではないかと思い至った。

  •  難解な作品だな、というのが感想。
     途中までは何も起こらない、だけど何も起こらない故の面白さみたいなものが感じられて、スイスイと読み進められたのだが、作品の終盤近く、視点が三人称から「太郎」という登場人物の姉に唐突に変わってからは、作品の様相がガラリと変わってしまったように感じられた。
     視点どころか、過去・現在といった時系列も入り組んでしまったように感じる。
     しかも視点は姉に変わっているはずなのに、いつのまにか三人称、つまり変わる前の状態に戻ってしまっているようにも読める。
     ネットで検索してみると、この視点の変化については色々な意見が出されているのだが、「これだ!」という解釈は(当然のことながら)出されてはいない。
     少なくとも、作者は何かの意図をもってこういう書き方をしているのだから、単純に「読者を驚かせるための効果」などという軽視の仕方は出来ないだろうと思う。
     いずれにしても、この視点が変化してからの二十数頁が存在するおかげで、僕にとってこの作品は「何がなんだかよく判らないけれど、何かが間違いなく存在している」魅力ある作品となった。
     そういう意味でも(少なくても僕という読者にとっては)この視点の変化は必要不可欠だったことになる。
     書き忘れそうになったけど、第151回芥川賞受賞作品である。

  • 堀江敏幸さんのあとがきが的確で。
    読後なんだかしんみりしてしまいました。

  • 何気ないことが気になって仕方がないという経験は誰しもあろう。しかし何気ないものを追って、ここまでシュール且つ人間味あふれるドラマを作りだした経験はそうないはず。庭の眺望。しかも「春」という限定付き。発想がいい。

  • 表題作、とてもよかった。西さんがすごく可愛くて、水色の家への異常な執着もとてもリアル。あと巳さんが西さんと主人公が部屋にいるのを見てニヤニヤするのも好き。なんか、西さんと主人公ができちゃったらいいなーと思わされる。2人の出会い方や仲良くなり方、でも特別に親密にはならない距離の置き方が、すごく愛おしい。
    最後に姉の視点が紛れ込んでくるのはよくわからなかったが不快ではない。堀江敏幸先生の解説もなるほどと腑に落ちる。一昔前、卒業証書にサインしてくださいと頼んだら、それはやめておきなさいと忠告してくれた堀江先生。
    他には最後の短編もしみじみとよかった。最後らへんの友達へのモノローグが急にどどどっと流れてくるところ、感情の激流ってそういう感じだよなーと思う。

  • 『ソーセージマフィンは、予期したとおりの味だった。ハッシュポテトもミルクも、過剰でもなく不足でもなく、それは快適ということだと、わたしは思った』―『出かける準備』

    柴崎友香の作品で一番好きな作品はやはり「きょうのできごと」ということになるなのだけれど、これはジャームッシュの「ナイト・オン・ザ・プラネット」という映画を彷彿とさせる設定のオムニバス的作品だ。但しジャームッシュの映画には必ず出てくるとても個性的な人物が登場したりはしない。ただゆるゆると過ぎてゆく一日の中に流れる輻輳的な物語(それは毎朝の混み合った電車の中にもあるに違いない物語)の描き方が似ていると思うのだ。そんな非日常ではない日常を描いた作品は、様々な批評で何もない物語というラベルを貼られてしまっていたけれど、映画やドラマのようなできごとが起こらなくても一人ひとりの頭の中はその都度立ち上がる思考や気付きで充分に満ちているということを改めて実感させてくれる作品だ。保坂和志が柴崎友香の作品を批評して、優れた動体視力、という言い方をしていたが、まさにその通りと思う。なにしろ「カンバセイション・ピース」の保坂和志が言うのだから、間違いは無い。

    そういう動体視力に裏打ちされた文章は読み手に色々な思考を促す効果があるようで、柴崎友香の作品を読んでいると思いが彼方此方の脇道に入っていってしまう。そのせいか、この「春の庭」は単行本が出た時にも読んでいるけれど、文庫本で読み直して見ても、不思議と新鮮な印象がある。そして、単行本には含まれていない三篇と併せて読むと、またしても柴崎友香とジャームッシュの相関が見えてくる。この作品に対峙するのは「コーヒー&ジガレッツ」というやはりオムニバス。エピローグの唐突感、切り離されてはいるけれど、中空を漂い続けるモーメンタム。その感じがジャームッシュのこの作品とよく似ている。ジャームッシュは物語を説明的に語らない代わりに登場人物の語りや、小道具に意味を託したりするのが上手いと思うが、柴崎友香も登場人物に内面を細々と語らせたりはしない代わりその人物が見ている景色を描くことで何かを伝えようとする。その映像的手法は、言葉に成り切らない感情を巧みに描写するように思う。人は見たいものしか見えないということを柴崎友香はよく解っているのだと思う。

    最近、貼られ過ぎたレッテルに敢えて挑戦するような作品も手掛けている柴崎友香だが、ひょっとすると「春の庭」は最も柴崎友香らしい作品として残るのかも知れない。もちろん、どんな作品を書いてもこの作家の個性は常にそこにあるのだけれども。

  • 難しいな、と思いつつもとても良い作品だった。
    4編の小説はどれも建物と人の関わりを描いている。

    家や街は住む人によって顔を変える、もしくは
    人によって別の顔が見える、と言うべきか。

    「出かける準備」の、
    街はわたしらと同じだけ歳をとっている、という言葉が印象的だった。


    「春の庭」
    人称が折り重なり、あやふやなまま進む描写は違和感があったが、その足のつかない居心地が面白かった。

    花や植物のことを知っていれば、陽の光が溢れる春の庭にもっと心惹かれただろうな、と思う。

  • 柴崎さんのいつもの感じの本。自由に思ったことパ〜っと書いてはる…と私は思ってるけど読みとり不足だからそう思うのかな。でもエンターテインメント性というか、読者を楽しませよう!みたいな感じは全くない(笑)

    柴崎さんの本ってたま〜に私はハマるのがあって(虹色と幸運・フルタイムライフとか)、作者買いしてしまうけどハズレ多い。大概イライラするし後半読み飛ばしてしまった。

    日常での面白い思考とか風景とか書きたいならエッセイとか、柴崎さんの日記を読みたい。登場人物を使って語らせるには薄すぎると思う。

  • 家の話。住む人によって形を変える。住む人がいないと死んでいく

  • 芥川賞受賞作ということで柴崎さんの作品を初めて手に取りました。
    「春の庭」は水色の家を中心にそれを好きな人とアパートの住人との
    日々の日常生活模様が淡々と描かれていています。
    読解力の不足なのか想像力が乏しいのか
    何が伝えたいのかよく分からず、心に響くものがなく、
    頭にも特に残ることなく終わってしまいました。
    ただいくら身内の物の形見と思っても
    太郎がすり鉢と乳鉢をいつまでも持っていたのが薄気味悪かったです。
    主人公の太郎が途中でわたしになったり、
    視点も太郎から違う人へと変わったりと
    一人称から二人称になったりと変化するので少しややこしかったです。
    それが文章のトリックなのかとも思いましたが。

    「糸」、「見えない」、「出かける準備」も
    ある建物を中心としてそれを取り巻く人々の日常が描かれていましたが、
    情景は事細かく描かれているので想像しやすいのですが、
    人の心情や行動などがあまり描かれていないので
    心にピンと伝わるものが無かったです。

    つい何かが始まる気配があるとこれから何かが起きるのかと思い
    それを期待しながら読み進めますがそれが無く淡々と過ぎていく。
    こんな感じが現実の日常というものかとも思いました。

    何とか理解しようと同じ個所を何度か読み返してみたりしたのですが、
    あまり伝わるものがなくて、まるで国語の教科書でも
    読んでいるかのようで肌にあまり合わなかったようでした。
    このような独特な世界感が芥川賞それとも純文学というものかとも思えました。

    柴崎さんの作品は他にもまだあるので、他の作品を読んでみたら
    また印象も変わるかと思うのでその機会を楽しみにしたいと思います。

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春の庭 (文春文庫)の作品紹介

第151回芥川賞受賞作。「春の庭」書下ろし&単行本未収録短篇を加え 待望の文庫化!東京・世田谷の取り壊し間近のアパートに住む太郎は、住人の女と知り合う。彼女は隣に建つ「水色の家」に、異様な関心を示していた。街に積み重なる時間の中で、彼らが見つけたものとは――第151回芥川賞に輝く表題作に、「糸」「見えない」「出かける準備」の三篇を加え、作家の揺るぎない才能を示した小説集。二階のベランダから女が頭を突き出し、なにかを見ている。(「春の庭」)通りの向こうに住む女を、男が殺しに来た。(「糸」)アパート二階、右端の部屋の住人は、眠ることがなによりの楽しみだった。(「見えない」)電車が鉄橋を渡るときの音が、背中から響いてきた。(「出かける準備」)何かが始まる気配。見えなかったものが見えてくる。解説・堀江敏幸

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