決定版 鬼平犯科帳 (9) (文春文庫) (文春文庫 い 4-109)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167908379

作品紹介・あらすじ

人気絶大なる時代小説のベスト&ロングセラー「鬼平犯科帳シリーズ」全24巻を、より読みやすい【決定版】で順次刊行中。「何だ?」「いえ……別に」「何かいいかけてやめるということは、おもしろくもない」「まあ、お気のむずかしいことを……」「おれが、当ててみようか。いま、お前がいいかけたことを」「およしあそばせ」「年寄りくさいことを……と、そういいたかったのであろう、どうだ?」「おそれいりましてございます」「うふ、ふふ……」冒頭の他愛もない平蔵と久栄の会話だが、この夫婦は実に自然に愛情表現をする。そんな平蔵に少女の頃から密かな思いを寄せていた女密偵おまさ。おまさへの、平蔵の粋なはからいとは。密偵たちの関係が大きく動くシリーズ第9巻。「雨引の文五郎」「鯉肝のお里」「泥亀」「本門寺暮雪」「浅草・鳥越橋」「白い粉」「狐雨」の7篇を収録。巻末に、エッセイ「私の病歴 池波正太郎」を特別収録。

感想・レビュー・書評

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  • 前回、淳水堂さんとの鬼平トークが盛り上がり、鬼平読んでいきましょう会をまったりゆる~く始めることと相成りました。ぱちぱち……。
    さて、わたしは9巻です。

    え……えっ、え~!!
    わたしは叫びましたよ。声がひっくり返りました。
    おまさが、おまさがあぁぁとなった『鯉肝のお里』です。
    鬼平の世界では、平蔵の妻という立場よりも女密偵になりたいわたし。そう、平蔵への叶わぬ想いを抱きながら、彼のために命を懸ける女スパイ〈おまさ〉になりたいのね。
    そのおまさが、平蔵のある密偵と情を交わしあっちゃったのです。
    まさかね、ええ、ええ、本人も言ってますけど「こんなことになろうとは……」
    おまさも三十をこえ「女は何よりも、男の肌身に添うているべきものだ」っていう時代では、これは喜ばしいことなんでしょう。
    相手のお方はですね、盗賊時代は首領を務めたこともある貫禄のある男。盗みの三ヶ条を守りぬいてきた本格派。そんな仕事もできて、人柄もよい男とお役目とはいえ、1ヶ月もひとつ屋根の下で寝起きしてたらね、そりゃあ、何かの拍子にクラクラときちゃうのもわかりますよ。
    おまさだってわかってるのです。いつまでも夢見る少女でいられない……ってことは。
    (これでいい……これで、いいのだ……)
    おまさの心の声が切ないじゃないですか。

    だけどね、実は平蔵さんがこうなるように画策し、2人を一つ家に住まわせたとなっちゃね。
    おまけに、「盗賊改メの御頭が、女密偵に手を出せるか」ってね。
    ちょっと銕つぁん、ひと言言わせておくんなさいよ!
    おまさだって、平蔵さんとどうかなりたいなんてこと望んじゃいないと思ってますよ。
    だけどね、愛する人が自分を違う男とくっつけようとしたなんて、何だか悲しいじゃないですか。
    彦十の爺つぁんの方が、おまさの乙女心がわかってるってもんよ。
    そりゃあ、わたしだって頭んなかでは理解してますよ。
    平蔵さんだって、やっぱりおまさのことが大切だから、女の幸せを与えてあげたいってことだったのでしょう……と。
    でもね、こころが何だか割りきれないのですよ。
    だから、平蔵の「こころとこころは別のことよ。」って言葉、考えちゃいました。どういうことなんだろう。
    わたしは、こころは誰のものでもないし、こころのなかでずっと好きな人を想ってることはいけないことじゃないと思うのよね。ただその想いは深いところで眠らせておいて、時折夢の中で会えればいい。そして今、目の前にいる人を愛して、幸せな日々を過ごしていきたい。そんなどちらの気持も本物で、そうやって折り合いをつけながら、大人になっていくのだと思ったのね。
    彦十の爺つぁんはおまさの乙女心を慮ってくれたけど、平蔵はおまさの女心を救ってくれたのかもしれないな。

    ちょっとしんみり……となったわたし。
    そんなわたしを慰めてくれるのは、やっぱり可愛い動物でしょう!
    『本門寺暮雪』で登場したのはワンちゃん。後に〈クマ〉と平蔵に名づけられる茶色の柴犬との出会いの物語。ワンちゃんは平蔵があげた煎餅の恩を忘れずに、平蔵を絶体絶命の場面から助けちゃうのです。そのことから平蔵の家の仔になったクマ。人懐っこいし、ギューとしちゃいたくなりますよ。ほら喜楽煎餅だよ。煎餅あげちゃうよ。

    あと、怪談めいた異色な展開をしたのは『狐雨』でした。あまり良い噂の聞かない男の隠された素顔が怪異によって暴かれるのです。
    もしかしたら、その男の良心の呵責や少年期の継父との関係などが、心の葛藤となって奇怪な行動として現れちゃったのかなぁ。
    普段と違うみんなのあたふた感、それに対して堂々とした久栄さん。そんな姿が見られる後半にかけて面白くなっていきました。

    『雨引の文五郎』『泥亀』では、印象的な盗賊、元盗賊が登場しました。やっぱり名物盗賊が動き回ると勢いが出てきます。
    『浅草・鳥越橋』では、盗賊間の裏切りや策略に嵌まる男、『白い粉』では、自分の心の弱さから盗賊に弱味を握られ、平蔵や周囲の人たちを裏切ることになる料理人が登場する、ちょっと苦い後味が残るお話でした。

    • 地球っこさん
      淳水堂さん、こんばんはー。
      コメントありがとうございます!

      鬼平の「男の肌身が必要」というのは、鬼平の当時というより池波先生の当時の...
      淳水堂さん、こんばんはー。
      コメントありがとうございます!

      鬼平の「男の肌身が必要」というのは、鬼平の当時というより池波先生の当時の感覚……なるほどなぁと思いました。

      今じゃ考えられませんけどね。
      でもわたしが結婚した、ついこの間(嘘おっしゃっい!)まで、寿退社が当たり前でしたからね。。。

      あ、それとわたしの書き方が悪かったのですが、おまさの結婚相手は大滝の五郎蔵なんです。
      彦十は、おまさが平蔵のことを好きなのを知ってるので、平蔵にそのことを伝えに言ってあげたんですよ。
      気のいいお爺ちゃんです(*^^*)

      平蔵はおまさの気持ちわかっていたようです。それでも、いや、だからこそ、五郎蔵とくっつけたかったみたいです。
      五郎蔵、頼んだよ!(わたしの立場もなに? 笑)

      クマのお世話係、はいっ、わたしも応募したいです 笑

      では、では、鬼平会の地球っこでした♪

      2020/08/16
    • 淳水堂さん
      ああ、読んだばかりなのに結婚相手を間違えました〜_| ̄|○
      ああ、読んだばかりなのに結婚相手を間違えました〜_| ̄|○
      2020/08/16
    • 地球っこさん
      淳水堂さん、こんばんは。
      わたしも、淳水堂さんのコメントを読ませていただくまで、おまさが2代目狐火と再会して結婚してたこと、すっかり抜け落...
      淳水堂さん、こんばんは。
      わたしも、淳水堂さんのコメントを読ませていただくまで、おまさが2代目狐火と再会して結婚してたこと、すっかり抜け落ちてました(>_<)
      平蔵の心持ちに惚れ惚れした良い話だったのに〰️。
      思いださせていただきました、ありがとうございます 笑
      2020/08/16
  • 『雨引の文五郎』
    まるで名物のような盗人だった。雨引の文五郎は、昔は西尾の長兵衛親分の片腕だったが、長兵衛が死ぬと跡目を断りきっぱりと一人働きへ鞍替えした。そのおつとめ(盗み)の見事さは「隙間風」と呼ばれるくらいだ。
    こんなに有名なのに誰も顔を知らない。その文五郎の人相書きを鬼平に送りつけてきたのは文五郎自身だった。こうして鬼平をからかう洒落っ気に鬼平は苦るしかなかった。
    その文五郎に恨みを持つ落針の彦蔵という押し込み強盗がいた。鬼平はまとめて彼らを相手にすることにして…。
    ※※※芸達者で他の盗人から「お縄にさせるにはもったいない」と言われるようなひょうきんな顔立ちで筋の通った盗賊。鬼平も真剣に勝ちたがっています。

    『鯉肝のお里』
    鯉は肝を潰すとその苦味臭味がなかなか抜けない。それを通り名にする女賊というからにはいかばかりか。
    偶然そのお里を見かけた鬼平の女密偵おまさは、同じ鬼平の密偵で元盗賊の頭の大滝の五郎蔵とともに張り込むことになり…。
    ※※※裏社会でのストレス解消はセックス…というサガがなんとも言えない。そして元盗賊である密偵たちへも心遣いを持つ鬼平が、粋な仲人働きを見せる。
    「鬼平犯科帳」では、鬼平と密偵たち、鬼平と町人たちのふとした交流も良い感じで書かれています。

    『泥亀』
    かつて盗人宿を預かっていた泥亀の七蔵爺さんは、隠居金をもらいかたぎ暮らしをしている。だがかつて世話になった親分が死に、残された妻子が貧乏暮らしに喘いでいると聞き、なんとか助けたいと一人働きを画策する。でもうまくは行かないのだ。だって七蔵爺さんはただの田舎の盗人宿の親父だし、引退の理由も痔が悪化して歩行にも支障をきたすからなのだ。別の線から事情を知り七蔵を捉えた鬼平でさえ、尻を痛がるこの爺さんを処罰する気にはなれなかったくらいだ。そこで鬼平は…
    ※※※いい感じで人情噺が進みちょっと緩んだ人が出てきます。やっぱりあまり情け容赦ない展開は読んでいて辛いからね。

    『本門寺暮雪』
    かつて鬼平と剣術を習った井関緑之助は、今では気楽な乞食坊主暮らしで、たま〜に鬼平の密偵めいたことをしている。だがそんな呑気な緑之助が鋭い目線を向ける相手がいた。かつて緑之助に斬り付け大怪我を追わせた゛凄い奴゛が江戸に現れたのだ…。
    ※※※名前も目的もわからず”凄い奴”としか形容されない人斬り。ドラマで見たらさぞかし緊迫感があっただろう。
    決着の付け方はうまくいきすぎな気もするが、犬がいい働きしたから良し。

    『浅草・鳥越橋』
    大店に盗みに入る場合には一味のものを奉公人や下女として店に入れる。そうして何年もかけて準備をするのだ。
    そのような”引き込み役”である仁助のもとに相棒の定七から思いがけない知らせが届く。家に残している女房が、盗人のお頭に寝取られたというのだ。あまりの仕打ちにお頭への恨みを募らせる仁助に定七が持ちかけた話は…。
    ※※※盗賊同士の裏切りやら酷い騙しやらなんか怪しい人間関係やらで、巻き込まれて犠牲になった人たちが気の毒な。
    前作「本門寺暮雪」で出てきた柴犬は、鬼平が連れて帰り”クマ”と名付けられて長谷川家の愛犬に。そのうち市中見廻りにも連れて行くつもりらしい。かわいい。

    『白い粉』
    鬼平の屋敷の料理人勘助は悩み抜いていた。鬼平に毒を盛らなければ女房を殺すと脅されたのだ。もともと博打好きで何度も足を踏み外しては料理の師匠や鬼平により助けられた勘助。だがそのような危機を迎えてさらに博打へとのめり込むのだった。

    『狐雨』
    最近鬼平の部下になった同心の青木助五郎は、冴えない風貌と人付き合いの悪さとは裏腹に次々と手柄を挙げていた。同僚たちからはやっかみともつかない悪い噂も流れている。
    そんな時青木はいきなり鬼平の屋敷に押しかけ、人間とも思えない振る舞いに及び出した。
    極悪犯罪者に慣はれている鬼平も、いきなり狐憑きとなった相手にはさすがに畏れを感じ…。
    ※※※現在で言えば脳障害をきたしたのでしょうが、この裏にある人間関係や幼い時の体験話がなんとも物の哀れを感じる。

    • 地球っこさん
      淳水堂さん、おはようございます。

      『鯉肝のお里』での、おまさの心の声にちょっとうるっときちゃいました。
      初恋よ、さよならという感じで...
      淳水堂さん、おはようございます。

      『鯉肝のお里』での、おまさの心の声にちょっとうるっときちゃいました。
      初恋よ、さよならという感じです。
      おまさにも幸せになってほしい。
      おまさのことばかり気になってしまうお話でした 笑

      あと『泥亀』のあの元盗賊のキャラ、いい感じでした。人情噺はわたしも好きです!

      『本門寺暮雪』は、ワンちゃんにズキューンと持ってかれました。

      何だか、今回は本筋(盗み)の登場人物よりも周りが気になるー!

      『狐雨』も怪談ぽくって、意外にも面白かったです。久栄さんは、やっぱり平蔵の妻。堂々としてますね。

      以上、(勝手に名づけた)鬼平会メンバーの感想でした 笑

      2020/08/16
  • 厚い全集で鬼平犯科帳を読んでいましたが文庫が出てそちらにして読んでます。舞台の浅草など歩いてみたいな。

  • 鬼平さんの危機を命がけで救った柴犬ちゃんのお話が良かったです。
    貰い受けたあと、しばらく元の飼い主を思ってクンクン言ってたというのも人情(この場合「犬情」かな?)深くって良し!

    しかし、鬼平さんは犬にまで好かれるのか。
    若い頃はさぞ女性にもモテたんだろうねぇ…。

  • 「鬼平犯科帳」に登場する盗賊には、急ぎ働き、畜生働きをする悪人がいる一方で、本格派や義侠心に富む者もいる。彼らもまた人間なのだ。「雨引きの文五郎」「鯉肝のお里」「本門寺暮雪」「白い粉」などを収録。

  • 1 - - 4 - 6 7

  • 愛犬クマ登場回あり。SPY×FAMILYにも犬が登場していたな。妙なリンクが生じた。

  • 内容(「BOOK」データベースより)
    女密偵・おまさと、かつては本格派の盗賊の首領であった大滝の五郎蔵。二人は平蔵の指示で一つ家に住み、盗賊の見張りを続けるが、その顛末は―(「鯉肝のお里」)。平蔵の愛犬となるクマとの出会いを描く名作(「本門寺暮雪」)ほか、「雨引の文五郎」「泥亀」「浅草・鳥越橋」「白い粉」「狐雨」の全七篇に、エッセイ一篇を特別収録。

  •  長谷川平蔵夫妻は、岸井左馬之助とお静、密偵同士の五郎蔵とおまさの仲人を。この二組のその後の活躍が楽しみです。池波正太郎 著「鬼平犯科帳 9」、2000.7発行、7話。第2話「鯉肝(こいぎも)のお里」(女賊)がお気に入りです。

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著者プロフィール

大正十二(一九二三)年一月二十五日、東京市浅草区聖天町生まれ。昭和十(一九三五)年、下谷区西町小学校卒業、株式仲買店勤務。昭和十四年より三年ほど証券取引所にあった剣道場へ通い、初段を得る。旋盤機械工を経て昭和十九年、横須賀海兵団入団。敗戦の翌年、東京都職員として下谷区役所の衛生課に勤務。昭和二十三年、長谷川伸門下に入る。昭和二十五年、片岡豊子と結婚。昭和二十六年、戯曲「鈍牛」を発表し上演。新国劇の脚本と演出を担当する一方、小説も執筆。昭和三十年、転勤先の目黒税務事務所で都庁職員を辞し、作家業に専念。昭和三十五年、『錯乱』で直木三十五賞受賞。『鬼平犯科帳』『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』の三大シリーズや『真田太平記』等、数々の小説で人気を博す一方、食や映画、旅に関する著作物も多く上梓した。受賞歴はほか吉川英治文学賞、大谷竹次郎賞、菊池寛賞等。平成二(一九九〇)年五月三日、入院していた東京都千代田区神田和泉町の三井記念病院で死去。小社では同じく単行本未収録のエッセイ集『一升桝の度量』(二〇一一)と初期戯曲集『銀座並木通り』(二〇一三)を刊行している。

「2022年 『人生の滋味 池波正太郎かく語りき』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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