惑いの森 (文春文庫 な 69-2)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 48
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167909987

感想・レビュー・書評

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  • 長篇で改めて書いてほしい話がいくつもあった。

  • 50のショートストーリー集です。

    どの作品もそれぞれ違った良さがありますが、私が特に印象に残っているのは、“他人には理解することのできない、彼女だけの苦しみの中に(p39)”いる女の物語『8 雨宿り』や、“生き難さを抱えているすべてのひと達のために祈れって(p175)”教祖が言ったという『45 供述』、“生き難さを感じるひと達と同じ場所で歌えばいいんだ(p182)”と思い歌う『47 すべてのひとに』です。

    人それぞれ生きる苦しみはあるかもしれませんが、希望の光が見え、心が温かくなり励まされる、“やさしい作品集”でした。著者のやさしさが詰まっていました。

  • 二週間に一話はハイペースだけど、この一冊におよそ一年の時間がそのまま流れているわけで、そう考えると面白い。

    あとがきにあるように、ファンの方が持ち歩きたい作品と言うのは分かる気がした。
    (『銃』やら『遮光』やら、中村文則のカバンに潜めるシリーズは不穏だけど、笑)

    「タクシードライバー」という、冒頭の話が、とても良かった。
    同じ時間に、同じことをしなければならない、そんな制約がどんどん強まっていく男。
    同じ時間に、同じバーに来て、同じタイミングで飲み始め、飲み終える。
    それさえ怖くなって店長には時報を流しておいてもらう。

    自分は繰り返しだけをひたすら願うのに、周囲の無遠慮な変化はそれを赦してくれない。
    同じ時間、同じバーにあるはずの席が、その日混雑していて、なくなっていた。

    人であろうとするから、制約が付いてくる。
    だけど、人であったから、救われることもある。
    途中から自分の中の強迫観念のようなものに触れていることに気付きながら、結末に、私が救われた。


    「宗教や神話にあるヘブンとは、本当は、あの世のことではないのだから。ひとが世紀を跨ぎながら創り上げていく、その先に実在する世界のことだから」

  • ブクログさんの「読みたい本プレゼント」でいただいた本。
    寂しさが詰まっていて、読むのに少し時間がかかりました。
    短編集だけど、どこかは繋がってて、ページを行ったり来たり。
    繋がりを考えずに、シンプルに読んだらまた違うのかも。

  • 世界観を共有しながらも、独立したショートショートを集めた短編集。

    物語では、世界に対する復讐を企てるテロ集団のような教団がある。「白い服を着た、胸に妙なバッジをつけた」教団の人間たちは、社会に対する憎悪になり得る「傷」を持った人々を、仲間とすべく集めている。一つ一つの物語は、そうした「傷」を心に抱えた人々の物語が多くを占める。
    自らの「傷」を復讐のための刃物とするために教団に入団する人。「傷」も自分の一部だとして、差し出すことを拒む人。大切な人との出会いによって、「傷」が癒された人。
    自分たちの人生にある闇との、様々な向き合い方が、描かれる物語だった。

    1番印象的だったのは、「48 ソファ」だった。両親が離婚したらしき少年は、父親について行くことを決め、新しい学校へ転入する。彼の心の支えになっているのは、不思議な広い部屋の動物達であった。
    動物達は、少年に、「お別れだね」と言い、もうこの部屋に来てはいけないと言うものの、少年は、それからも繰り返し部屋へやってくる。動物達は、そんな彼を口では拒むものの、断りきれない。
    少年と動物達の温かな関係の物語だった。

  • 『Nの失踪』は、何度も読みたい、かも。

  • 自分と考えが似たところのある人の本を、共感しながら読むのも楽しいけれど、自分が考えたことのないようなことを読んでこんなことを考えながら生きている人もいるんだなぁと思うのもまた面白い。この本は後者だったな、と思う。
    人間のエゴとか世界の醜さが色濃く描かれていて、早く読み終わりたい!と思ったところもあったけど、読むのをやめたい!ではなかったのが不思議。短編集のようになっていて一編は短いので読みやすかったのかも。1冊全体の世界観というか世界線は同じだけれど、もしこれがずっと連続した形式だったら私は途中で読むのをやめてたかもしれない。

  • 作者の長編は本当に重厚な雰囲気なので、疲れてる時や読書に没頭できない時にはこの短編集がちょうどいいかも。
    1番最初のお話が1番好きかな。

  • 短い物語で、どうしてこんなにも心が揺さぶられるのだろう。
    そういう話がいくつかあった。
    なにを書かせてもこの人の文章にはガツンと来るものがある。

  • 気を抜くといきなり心臓を掴まれるショートショート集

著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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