天皇論 象徴天皇制度と日本の来歴 (文春学藝ライブラリー 思想 7)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784168130175

作品紹介・あらすじ

国家は物語のなかに成立する偏狭なナショナリズムではなく、「戦前」と「戦後」という断絶を、みずから納得して受け止めるに十分な「物語」を描く試み。

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  • 本書の目的:我が国の将来の在り方を構想しつつ、それを新たな来歴の中の連続性の上に位置づけること(P56)


    アイデンティティ獲得のための筋
     坂本はまず、個人にとってのアイデンティティについての議論から始める。過去の自己と現在の自己は異なる存在である。このままでは、過去の自己と現在の自己を同一視することはできない。そこで、一つの物語として自己の同一性を実感させるのが「筋」である。筋とは、不自然な飛躍のない、ある種の連続性の中に事態の変化を秩序付けるものである。そして、この自らについて語る物語を坂本は「来歴」と呼ぶ。坂本における「自己」とは、近代経済学が想定してきた「選択する自己」から深化させた、「選択し、物語る自己」である。

    国家の来歴
     個人のアイデンティティにとって「来歴」が重要であることを確認した後、それは「国家」にも当てはまることであると主張する。つまり、「国家の来歴」である。日本がアイデンティティを獲得するには、「日本の来歴」が必要なのである。そのためには、戦前の日本から戦後の日本への変化、換言すれば、大日本帝国憲法から日本国憲法への変化の中に連続した「筋」を見出さなければならないのである。
    憲法学者の中では「八月十五日革命説」を唱え、戦前の日本と戦後日本の連続性を認めないものが多くいる。この説と表裏をなす考えが、「日本国憲法無効説」である。日本国憲法は帝国憲法の正式な改正手続きに則っておらず、そもそも効力を有しないという考えである。だが、坂本は後者の説を以下のように痛切に批判する。「既に制定から半世紀を経て、実際の日本国の統治がそれに即してなされてきたことを考えれば、現在の時点で、日本国憲法が制定の時点に遡って無効であるとすることは、「八月十五日革命説」以上に生産性を欠くものと言わざるを得ない(P103)」。つまり、坂本は連続性を認めない議論(八月十五日革命説)も、そもそも存在自体を否定する議論(日本国憲法無効説)も退けるのである。
    では、日本の「来歴」とは何なのか。坂本の答えは「天皇による統治の正統性の原理」である。江戸と明示は断絶などしていない。「象徴天皇制度」をその橋渡しとして連続しているのである。

  • 【国家は物語のなかに成立する】偏狭なナショナリズムではなく、「戦前」と「戦後」という断絶を、みずから納得して受け止めるに十分な「物語」を描く試み。

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