ロゴスとイデア (文春学藝ライブラリー 思想 8)

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  • Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784168130199

作品紹介・あらすじ

日本における西洋古典哲学研究の原点「現実」「未来」「過去」「時間」「ロゴス」「イデア」といったギリシャ哲学の根本概念の発生と変遷を丹念に辿った記念碑的著作。

感想・レビュー・書評

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  • 田中美知太郎のような自分の頭で考える哲学者はもう随分少なくなった。田中は西田哲学の隆盛を横目で見ながら苦々しい思いをしていたらしく、厳密な文献研究を軽視した西田のいわゆる「悪戦苦闘のドキュメント」を「雑然たる読書の刺激によって生じた感想や思いつきを綴った」に過ぎぬと痛烈な皮肉を浴びせている。しかし田中は決して文献学の安全地帯に閉じこもっていたわけではない。本書を読めば分かるように「自己自身の胸底から溢れて来る」問題を巡って自らの言葉で一歩一歩思索を積み重ねて行くそのスタイルは、むしろ西田に酷似しているとさえ言える。「著者自身の個人的な思想をのべたものであると共に、全体はプラトン解釈の書とも呼ぶことができる」という言葉に田中の並々ならぬ自信が伺えるが、これこそ哲学研究の理想であろう。かつて京都にはこのような本物の哲学の気風があったことを後輩達は猛省すべきと思うがいかがであろうか。

    その田中は「旧式のプラトン主義者であるとして嗤われることをむしろ誇りとする」と言い放ち、本書で真正面からイデア説を擁護する。それは次のような、あまりに素朴な、しかし極めてまっとうな確信が前提になっている。「自然や芸術によって心が豊かにされ、人の世の情けに、泣かされ、心あらたまる思いをするのは、決して偽りではなく、我々はそれを疑うことができない。イデアの真実というものは、このようなまことに他ならない」

    別の角度からもう少し哲学的な言い方をすればこうなる。「人間性が我々を離れて独立に存在するものでないと言われるなら、我々もまた人間性を離れて独立に存在するものでないと主張しなければならない。・・・人間性なしに、人間でない我々を思い浮かべることも、考えることも不可能」である。イデアを欠いた純然たる個物という発想自体が一つの抽象に過ぎないことを喝破したものだ。

    個物がイデアから独立に考えられないとして、ではイデアは個物なしに考えられるか。田中は言う。「美の観念が過去に見られた美しい事物の記憶像の集積以上に出ないものだとするならば、これまで見たこともないような美しさをどうして理解出来たであろうか。」「経験は事に当たって始めて得られるものである。しかしそれが経験として活用されるのは、それが事前にひとつの予見として用いられる場合においてである。」もはや田中の答えは明らかだろう。

    田中の学説が今日専門家の間でどれだけ支持を得ているのかコメントする能力は評者にはない。ただ「初歩的な問題こそ、真に哲学的な問題」であるとして「つねに自己を素人の立場においた」田中の姿勢は全ての哲学徒が範を仰ぐべきであろう。

  • 【日本における西洋古典哲学研究の原点】「現実」「未来」「過去」「時間」「ロゴス」「イデア」といったギリシャ哲学の根本概念の発生と変遷を丹念に辿った記念碑的著作。

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著者プロフィール

1902年新潟市生まれ.
1926年,京都帝国大学文学部選科修了.
法政大学講師,東京文理科大学講師などを経て,1950年,京都大学文学部教授.
京都大学名誉教授.文学博士.古代ギリシア哲学専攻.
哲学のみならず,広くギリシアへの深い造詣により,わが国の古典ギリシア研究の水準を高めることに寄与.


「1977年 『国際学術講演集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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