おれの墓で踊れ

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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198607814

感想・レビュー・書評

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  • Dance on your Grave
    =お前の墓の上で踊ってやる
    =お前が死んで万々歳
    相手を挑発する意味の言葉だそうです。
    でもこの本は「俺の墓で踊れ」。
    1966年に実際にあった事件をもとに書かれたそうです。

    心の友を亡くした少年ハルが、友人の墓の上で「踊って」いるところを逮捕されます。
    彼はなぜそのようなことをしたのか。
    法廷に任命され、彼を見守るソーシャルワーカーの視線と、ハルが唯一尊敬する教師オズボーンの勧めで書いた手記を中心に、語られていきます。

    二人の友情が実は「同性愛」だったのは「児童文学だよね?」と再確認したくなるようなネタです。心の友バリーはとても魅力的で、映画にするな俳優はら誰?と考えながら読むのも楽しい。
     が、私が好きなのは、ハルが手記を書くことによって混乱した自分の記憶や心を整理し、立ち直るきっかけをつかむところ。
    「オズは最初から知っていて書かせたのか?」
    そうすることによって、つまらない人間と思ってきた父親が、実は自分の事を理解していたのではないか?と考え始めるところも好きです。

    この本と同時進行で読んでいたのが谷崎潤一郎の「卍」で、女性の同性愛。こちらは10代男性の同性愛“も”描かれていました。
    どちらも直接的な性描写はありませんが、内容をよく知らずに読み始めた本がこのようにつながりを感じるような内容でちょっとびっくりしました。

  • 自分の全てを理解してくれる親友を求めるのは、泉に映った自分の影を抱きしめようとするのに似ているような気がします。すくってもすくっても、指の隙間から零れ落ちてしまう「親友」という影。私もそうなんですが、女性は「男の友情」に憧れている人が多いです。「男の友情」と「女の友情」は違うのだと思いたいようです。この話は、身体を重ねても、わかりあえなかった少年たちの物語です。

  • 映画の原作に興味を持ち図書館より拝借。思い出すこと、思い出せないことへの罪悪感、このあたりの話のときにぐっときました。無論それは若さゆえのなおさらの葛藤でもあり、そういった意味では胸にチクチクヒリヒリする青春小説ともいえるかな。

  • 「死ぬこと」ではなく「死」に関心をもち、手首を切った血を混ぜ合わせる「心の友」を切望しているハル。
    スピードに追いつくことを夢見てバイクを飛ばし、スリルが好きで、誰のものにもならずに誰とでも関わりたいバリー。
    永続性を夢見るハルと、刹那的なバリー。お互いに食い尽くすか、どちらかがどちらかを殺すしか、路がないのだと思いつめてしまうくらい、危うくて破滅的な関係。

    バリーは解っていたのだろうか。どうして、墓の上で踊れなんて言ったのだろう。
    ただのゲームとして、そんな関係を弄ぶほど、バリーはおとなでも傲慢でもなかった気がした。
    バリーも、多分自分の片翼を欲していたのだ。一瞬でも。
    ただ、それはハルの望む姿とは、哀しいことに違っていたのだろう。

    ハルは多分、あざやかに再生して新しい自分を見つける、なんて事はないと思う。
    バリーの死後、初めて「心の友」だと感じられないスパイクに「サウスエンドみやげ」をやったハル。
    「心の友」を求めることを捨て、「死」を中途半端に抱えたまま、その先がどん底か、あの世か、地上の楽園かは、解らなくて。
    しかしそれこそが、大人になる、ということなのかもしれない。

  • 16歳の少年が友人の墓を荒らして逮捕され、「どちらかが死んだら相手が墓の上で踊るって約束した」という供述以外なにも述べようとしない、そんな実際にあったニュースから出来上がった物語です。面白かった。すっごい、面白かった。
    主人公のハルによる手記をメインにストーリーが進められていくのですが、そのハルの手記がなんとも素晴らしく、ひどく客観的なところから『たぶん何をやってもうまくいかない、頭はそこそこだけどまだ未熟なところだらけ』な16歳の自分笑いものにしながら淡々と書かれています。驚くほど冷め切っているかと思いきや、客観的になろうと努めている文章から感情が爆発しそうにあふれ出してきていたりして、ハルという少年の魅力が渦巻いていた本でした。
    最後のハルのバリー対する気持ちについては、恋をした人なら誰にだって感じたことがある考えだと思います。そこでやっと、スリルとユーモアに溢れたハルとバリーの日々が決して遠いものではないことを実感して、墓の上で踊るハルへと一気に感情が流れ込んでいきました。バリーも、ひどくいい性格をしています。悔しいけど、これは惚れる。

  • (ネタバレ含みます)
    衝撃的なタイトルから、また重苦しい内容を予期して気合いを入れて臨んだのですが…

    重いには重いのですが、面白かったのです。まるで映画をみているようで。サウスエンドはテムズ河が海に流れ込むエリア、ロンドンっ子の海水浴場というから江ノ島のような所じゃないかと思う。それほど土地の細かい描写はないけれど、何となくその場を見てみたくなる。

    このあとバリーの浮気、ハルの嫉妬による大喧嘩、バリーの死、そのあとの一口では語れないいろんな事が立て続けに展開される。その中でバリーの浮気相手でハルの友人でもあるノルウェー人の少女のことばが、かなり核心をついている。

    「友情」とか「恋愛」に関して若い頃はいろいろな妄想を抱いている。自分の描く理想と現実のギャップに誰しも幻滅する。たぶん、そういった事を乗り越えて人間関係を少しずつ築いていくのだろう。ハルもかなり辛い経験をしたが、一つ大きく成長した。
    [国際アンデルセン賞受賞作家 24/35]

  • 女の子でも男の子でも、思春期には同性に対して友情以上の
    感情を芽生えさせることがある。この時期の脆く儚い気持ち
    が小説の題材になることもままある。

    本書もそんな作品のうちのひとつだ。

    16歳のハルは、ある日、友人のヨットを勝手に漕ぎ出して
    操作を誤り、転覆させてしまう。そこへたまたま通りかかった
    少年に助けられる。

    物語に影響され、「心の友」を求めていたハリーは、自分を助け
    てくれた18歳のバリーに幻想を重ねる。

    確かにふたりで過ごす時間は幸せだった。ただ、そんな幸せは
    長く続かない。出会いからわずか7週間後、ふたりは喧嘩別れを
    し、ハルの後を追ったバリーはバイク事故で亡くなってしまう。

    そうして、「心の友」であったハルは生前にバリーと交わした
    約束を実行に移す。その約束とは「どちらかが死んだらもうひとり
    が死んだ相手の墓の上で踊る」ことだった。

    実際に1966年に墓を破損したとして起訴された少年の事件に発想を
    得て書かれた作品だが、本書ではハルの手記、ソシアルワーカーの
    報告書という形式で物語が進み、ハルとバリーの出会いからふたり
    の間に起きた出来事、バリー死後のハルの心理状態などが描かれる。

    大切な人を失った時の複雑な感情は、どんな年齢だろうと変わらない。
    だが、10代という揺れ幅が大きな年代だけに混乱するハルの気持ちが
    手記という形式であるからこそ伝わってくるのかもしれない。

    しかしなぁ、なんで「児童書」の分類に入ってるの?この作品。
    もろにホモセクシュアルな描写もあるので、ヤングアダルトなんじゃ
    ないかと思うんだが。

    小説を読むのことがめっきり少なくなったので、何度もつっかえ
    ながらも読了って感じでした。

    きっと、登場人物と同じ10代の頃に読んだなら、もっと共感できる
    部分もあったのかもしれない。だが、残念ながら私の感性は既に
    鈍っているようで、キラキラしている思春期なんて遠い昔だよ。
    同性同士の友情以上のお話って、もう読めないかもしれない。

    あ、『真夜中の相棒』(テリー・ホワイト)は除く…だけどね。

  • オレは死に興味がある。死とは死体ではなく、大文字の<死>のこと。
    オレはどうかしているかもしれないが、狂ってはいない。

    オレが乗っていたボートを転覆させて海に落ち、無様な海草まみれになったときに黄色いボートを操ってあいつは現れた。
    そしてあいつが<あれ>になるまで7週間。始めから終わりまで49日。
    なぜほかでもないあいつだったのかを考える。
    愛していたのかもしれない。恋はその時がくればわかると前は思っていた。考える必要なんかなにもなく、即座にわかるものだと。

    ……いつかはわかる時がくるのだろうか?

    確実にわかっていたのは、いくら一緒にいても足りなかったことだけ。一緒にいればいたで、まだ足りなかった。あいつを見て、触れて、声を聞いて、一緒に色々したかった。ずっと。昼も夜も。

    7週目の木曜にあいつとオレがノルウェーから来た少女と出会ったとき、終わりが始まり、「おれには重すぎる」と残酷な言葉だけを残して、最悪の形であいつは死んだ。

    そしてオレは今夜、あいつの墓の上で踊る。それが口にしてしまったら最後、死でも覆せない約束だから。


    ……最後まで読んでやっと<サウスエンドみやげ>の意味に気づいた私ってば、ばか( ̄□ ̄;)!
    これが小学校高学年向けの児童書とは、徳間書店恐るべし。

  • Dance on my grave.
    おれが死んだら、墓の上で踊ってくれ――ハルはバリーとの約束を果たし、逮捕される。
    恋には「落ちる」ものなのだと感じさせる本。
    構成が面白い。表紙の字体が素敵!
    けどコレ、女性向だよね。内容は。笑

  • 「おれが先に死んだら、おれの墓の上で踊るんだ」
    バリーの唯一の、最初で最後の束縛だったのかもしれない

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著者プロフィール

1934年イギリス北部生まれ。15歳から文章を書き始める。ロンドンで教職課程を終え、この物語の舞台となったサウスエンド・オン・シーで英文学と演劇を教え始める。60年代にはグロスターに移り、教師を続けながら僧院の僧となる。僧院での生活で「沈黙と熟考の大切さ」を認識したという。68年に児童書の書評専門誌の編集に携わっていた夫人と結婚、70年には夫妻で出版社を興し、児童書の書評誌の出版を始め、現在も各国の優れた児童書をイギリスに紹介。この業績に対し82年にはエリナー・ファージョン賞を贈られた。『ブレイクタイム』(1978・未訳)や『おれの墓で踊れ』(徳間書店)、『ザ・トール・ブリッジ』(1992・未訳)等、寡作ながら質の高い作品を送り出す作家として注目を集め、『二つの旅の終わりに』(徳間書店)でカーネギー賞とプリンツ賞を、2002年には国際アンデルセン賞を受賞した。

「2021年 『おれの墓で踊れ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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