津波の墓標

著者 :
  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198635459

作品紹介・あらすじ

圧倒的な破壊のさなかで心に刻み込まれた、忘れられない光景。『遺体』の著者が綴る、これまで明かせなかった震災の真実の物語。

感想・レビュー・書評

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  • あの大地震と想定外の大津波によって、東北沿岸の町々は破壊された。
    色んな方々がいた。
    肉親を亡くした方、行方不明になった家族の遺体を探す方、怒りの感情を抑えられない方、避難所の外で生活する方。
    そして、被災された方々を撮りにきたマスコミ。
    撮影するのが彼らの仕事とはいえ、過酷な想いをしている方々に向かってカメラを向けるのは暴力にだってなりえる。そう思わずにはいられなかった。

    視聴者が求めている映像を求めて、震災後の感動ストーリーに群がっていくマスコミの描写は大変に醜いものだった。
    ブルーシートを剥がしてまで遺体を撮ろうとする記者、それに憤りを感じ、彼らを撮影する石井さん。マスコミの存在する意味を考えてしまうような内容だった。

    石井さんの前作『遺体―震災、津波の果てに』はとても読み応えのある内容だった。
    (前作の感想 https://booklog.jp/users/skmt1988/archives/1/4103054530
    今作も同様に読み応えがありすぎて読むのが辛い部分も多かった。大切なひとを亡くした方々の話はとても悲しくてやりきれない。

    地震も津波も原発事故も、過去の話じゃない。
    まだ決着がついていない問題もあるし、復興だって終わっていない。心温まる感動ストーリーもいいけど、今も立ち入り禁止になっている地域があることを忘れてはいけない。

    前作の感想の最後と同じように、今回も写真のURLを貼る。未だに2011年3月11日は終わっていない。
    http://imgcc.naver.jp/kaze/mission/USER/20130807/25/2670765/366/1024x683x74006ce4b4aae89f4b5ada9.jpg

  • なんとも、言葉にならない、という心境。

    ただ、マスコミが好きではない。というのを、改めて思った。

    震災後、テレビで連呼された「絆」という言葉や、日本がひとつになってなんちゃら!みたいな、復興へ向けた盛り上がりに、なにやら違和感を感じ続けていて賛同できないでいたのが、これを読んで、そういうものをテレビ局から見せられていたのか、という気持ちになった。

    やはり、現状はそんな簡単なものじゃないはず。
    でも、もちろん、わたしも遠い場所に住んでいるので、なにもわからないことだらけ。

    あーうまく文章にもならない。

  • ノンフィクション作家、石井光太氏が描く、今までに明かすことのできなかった『3・11』の『真実』です。圧倒的な破壊があったあとで大手マスコミが取りこぼした話を丹念に掬い取っていると思っております。

    ノンフィクション作家、石井光太氏がつづる、『3・11』のこれまで明かすことができなかった『真実』の物語です。百年に一度といわれる圧倒的な破壊のさなか、もしくはその後の世界で展開されていることを、石井氏の筆が時に容赦なく、時に被災した人間に寄り添うように丹念に描かれます。

    始まりは石井氏が東京で地震にあったところからです。石井氏の真骨長であるフットワークの軽さで、現地へ新潟から入ろうとします。しかし、それにも一筋縄ではいかないものがあって…。今後に予想される困難な展開を予想されます。

    現場に入った石井氏を待っていたものは圧倒的な『破壊』と『死』でありました。震災後に発生した津波が暴力的な主税で全てを破壊し、海のかなたへ押し流していった様子や、震災直後の被災地の混迷が描き出され、被災者たちが文字通り全てを失い、情報すらも一切入ってこない中で、石井氏に怒りをぶつけている場面が本当に痛々しいものでした。

    現場で石井氏もそこかしこに見たのがあらゆる姿で存在する『遺体』の数々でした。横たわっている、というのはまだいいほうで、木の枝に引っかかっている。または瓦礫の下に埋もれている…。そんな数々の『死』に石井氏の目を通して向き合わされるのです。遺体が見つからずに漂流してしまい、海の底に沈んでしまったままだ、そう投げやりに語る現地の人の言葉がいやおうなしに胸を打ちます。

    さらに、震災を報じるマスメディアにも言及がなされていて、仕事のために『個人』としては決してやりたくないこと、できないことを巨大な『システム』の下にやらざるを得なかった人々。ホテルの部屋で同業の人間と食事をともにしながら被災地を取材するというある種の『矛盾』が石井氏の中にあるという思いがあったことを感じたように思います。

    その上、被災地でも様々な軋轢が被災者達の間で発生するようになり、遺体が見つかった、見つからない遺族との間で発生した感情の軋轢や、いじめを受けている子供たちが行き場がなくなってしまうという現状。被災地に残って復興を手伝うかどうかで意見が分かれ、別居してしまう夫婦。合間合間にはさまれている壮絶な現場の写真も相まって、本当に胸が詰まりました。

    そして最後のほうでは震災から一年後の被災地を描き出し、現地で発生した自殺者が震災でなくなった方と同じ場所に安置されるという話や、身元不明遺体のDNA鑑定の難しさなどが語られていて、遺族が警察の担当者に食って掛かる場面がとても印象に残っております。今回も石井氏の描くノンフィクションの世界は、その圧倒的な『真実』を記しているので、心から打ちのめされました。マスコミには決して報道されないような被災地の『真実』を丹念に掬い取っていて、本当に読み応えがございました。

  • (2013.05.26読了)(2013.05.23借入)
    【東日本大震災関連・その121】
    東日本大震災から、1年経過したら、関連本もあまり出版されなくなるだろうと思っていたのですが、まだ出てきますね。
    一年以内に出た本でもまだ読んでいない本もあるので、全部読む気まではありませんが、ぼちぼち読んでゆきましょう。
    「遺体-震災、津波の果てに-」では、釜石の遺体安置所だけに絞り込んでルポを書いていましたが、取材は、震災直後から被災地に入りこんで行っていたので、この本では、被災地の各所で見聞したことを書いています。取材の期間も一年以上にわたっています。
    東日本大震災では、マスコミのまとめた本の場合は、できるだけ、いい話や希望につながる話を盛り込むように努めている印象ですが、この本では、マスコミが取り上げない、負の部分に重点を置いているかのように思われます。
    著者が、実際に見聞したものがほとんどのようですので、被災地での一つの側面であることは確かです。僕も被災地にいますので、似たような話を聞いたり、見たりもしています。

    【目次】

    第一話 壊滅した街へ
    第二話 被災地の混迷
    第三話 死を受け入れて
    第四話 避難者たち
    第五話 震災を報じる
    第六話 遺体を捜して
    第七話 被災地に残る
    第八話 心の傷痕
    第九話 身元不明者の墓標

    ●3月11日(14頁)
    「陸前高田が消滅した」「気仙沼は全焼だ」「仙台市若林区の荒浜で数百体の遺体が見つかった」など信じられないような情報ばかりが目に飛び込んでくる。
    ●略奪(57頁)
    食料以外のもの、たとえば高級ブランドを売る店のドアがこじ開けられ、有名海外ブランドのバッグが奪われたり、銀行や郵便局のATMが奪い取られたりしたこともあったのだ。警察庁の発表では、震災発生から六月末までの約三か月半、岩手、宮城、福島の三県で起きたATM強盗の現金被害額は約六億八千万円に達している。
    ●海からの声(68頁)
    生存者たちの評言によれば、津波があった日の夜、海の方からはいろんな声や音が聞こえてきたという。流されたものの瓦礫につかまって生き長らえている人々が沖の方から必死に「助けてください」と叫んでいたのだ。だが、港は破壊され、船が流され、瓦礫が海面を覆いつくしている状態では救助作業に当たることはできなかった。
    ●捜し物(77頁)
    彼らが瓦礫の中から見つけ出そうとしていたものは生活必需品だけでなく、アルバムや賞状、位牌など多岐にわたっていた。
    瓦礫はただのゴミではなく、彼らにとってはそこで生きてきた証であり、今後も心の支えとなる大切なものなのである。
    ●瓶詰(78頁)
    残された人々にとって、故人が生前に一生懸命つけていた梅酒や漬物は思い出の品であるに違いない。だからこそ、捨てることをためらい、家の跡地にそっと置いておく。それがまるで地蔵のように被災地のいたるところに並んでいるのだ。
    ●幽霊でも(91頁)
    なぜ大の大人が幽霊が出たと聞いてここに駆けつけたのか。それは、行方不明の肉親に会いたいという一心だったのだ。遺族としては、遺体が見つからないのならば、せめて幽霊であってもいいから再会したいと思う。
    ●遺体を映す(136頁)
    今回の報道において議論になったのが、「マスメディアは遺体を映そうとしない。これは事実を隠蔽しすぎていることにならないか」ということだった。特にネット上ではそうした意見が飛び交っていた。
    ●勇気づける話を(143頁)
    『視聴者は悲惨な話にはうんざりしているから、日本全体を勇気づけるような話を持ってこい。たとえば避難所でペットを飼っている老人の話だとか、子供が生まれたという話が求められているんだ』と言われたんです。目の前で被災者が生活に困っていたり、遺体にすがって泣いていたりしているのに、それを無視して無意味に明るいニュースばかりつくらなければならなくなったんです。
    ●きれいなうちに(166頁)
    もし死んでいるならば、なるべくきれいなうちに見つかって火葬できた方が幸せだというのが人々の思いだった。
    ●DNA型鑑定(232頁)
    今、一万五千七百七十三体の遺体のうち、DNA型鑑定と遺品により身元が判明したのが二千三百八十三体、そのうちDNA型鑑定だけで身元が判明したのはわずか百三十八体にすぎないのです。たった六%程度です。

    ☆関連図書(既読)
    「遺体-震災、津波の果てに-」石井光太著、新潮社、2011.10.25
    (2013年5月28日・記)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    圧倒的な破壊のさなかで心に刻み込まれた、忘れられない光景。『遺体』の著者が綴る、これまで明かせなかった震災の真実の物語。

  • 映画化された『遺体』の著者が書いたもうひとつの震災ルポ。
    『遺体』は、釜石市の遺体処理とそれに関わる人を中心にひとつの物語を構成して秀逸であったが、本書では『遺体』の中で書かれなかった様々な印象的な出来事を並べたものである。あの日津波に襲われた地域の、被害、混迷、死、避難者、報道、遺体、心の傷、など取材の裏側も含めてある取材者を通して状況を記録したものとなっている。

    中でも震災津波被害現場での窃盗・略奪やレイプについて語られる。これまでの報道ではタブーとなっていたことだ。当初のニュースでは、そういった火事場泥棒が起らなかったことが日本人の美徳として語られたこともあったが、現場の感覚ではまったく違う。ただそれを多くの人が知ることは美談で隠してしまうよりも意味があり大事なことなんだと思う。
    また、被災地においてマスコミの側にいることについての引け目についても書いている。居心地の悪いこともあっただろう。それでも、フリーのマスコミでいることと報道機関に所属するマスコミであることでずいぶんと違うようだが。

    ---
    『遺体』で伝えなかったことに対して、著者の中でバランスを取るために書かれたような著作。きれいごとではないことも含めて伝えようとしている。タイトルに『墓標』とあるように将来に何かを残し、伝えるために書かれたものと読み手は受け止めるべきだろう。映画『遺体』が公開された今なら(この出版時期も合わせたに違いない)多くの人の目に止まるのではないだろうか。

  • つくづく人間って忘れる生き物だなぁと実感する。
    未曾有の大災害の時、私もその時代に生きていたはずなのに、当時テレビから報道される被災地の状況に驚愕し、困惑してたのにね。
    この本に書かれてる事を読んで、そう言えばそうだったな、テレビで言ってたな…と思い出す事が多々ありました。

    震災直後から現地に入り、取材をし、こうして一冊の本に纏めてくださった著者に感謝する。

    風化させないように。

  • 10年、もう、まだ、10年。
    一度は東北を訪れて、この悲劇をより現実として感じるべきだと思いつつ、やはりなかなか機会を作ることなく…
    せめてなるべく現実的な、脚色のない本を読みたくて。

  • あの大震災後の津波被害を受けた釜石市で、亡くなった人を
    弔うことに奔走した人々を描いた『遺体』は圧倒的なルポルタージュ
    だった。

    その『遺体』とは違い、被災地を丹念に取材した著者が体験し、
    目撃し、耳にした、大手メディアが伝えなかった現実を綴ったの
    が本書だ。

    この著者で、このテーマである。さすがに重かった。綺麗事や
    美談だけはない、やりきれない辛い現実の集大成だ。

    高校を卒業したばかりの息子を失った父は、その死をなかなか
    受け入れられない。だが、津波に襲われた息子の部屋を整理
    している時に出て来たポルノ雑誌を目にして、やっと息子を
    失ったことを受け入れようとする。

    行方不明の家族がいる人々は、幽霊が出たとの噂にこぞって
    その地へ向かう。未だ発見されない家族。幽霊でもいいから
    会いたい。

    ボランティアの女性に、パワハラ・セクハラものどきの行為を
    働く被災者もいた。

    不仲だった母が津波で亡くなったことで、夜ごと悪夢にうなされ、
    精神的なダメージを受けた女性がいた。

    ほんの僅かの違いで津波被害にあった地域と、無事だった地域
    に分断された場所では、被害者感情がやっかみに変わる。

    大震災、そして大津波。極限の状態は人間のエゴや人間同士
    の軋轢を浮き彫りにもしたのか。

    本書は遺体の身元確認にも利用されたDNA型鑑定の話が
    出ており、これがいかに難しいものなのかがよく理解できた。

    そして思い出したことがある。福島第一原発事故の後、埼玉県
    に避難して来た少女がテレビのインタビューに答えて「東京の
    人たちに私たちの苦しさが分かるか」のように言っていた。

    1日中、ほぼ同じテレビ局にチャンネルを合わせていたのだが、
    このインタビューが流されたのはわずか1回だった。こういう
    本音は自主規制されちゃうんだな…と思った。

    著者はメディアに身をおく人間として、同じ報道関係者の
    話も綴っている。遺体の撮影をしていて、遺族に罵倒され、
    カメラを投げられたカメラマンの話はやりきれない。彼だって、
    撮りたくて撮っていたわけではないだろうにね。

    人間の嫌な面が多く綴られているが、著者はその善悪の判断は
    していない。「きっと、こういうことがあったのだろうな」と相手を
    慮っている。辛い現実を描きながらも、著者の温かさに救われる。

  • 『遺体』の著者が、書ききれなかったエピソードを短編式に記す。
    震災時の略奪の話や、マスコミの取材の話など、きれい事では収まらない話が著者の目に移った姿で描かれます。一般化せず、あくまで著者が目にした、介在したシーンということが非常にリアル。
    作品としては『遺体』を上回るものでは無いけど、合わせて読んでいい一冊でした(そういう評価が適切かどうかは別として)。

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著者プロフィール

1977(昭和52)年、東京生れ。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。ノンフィクション作品に『物乞う仏陀』『神の棄てた裸体』『絶対貧困』『遺体』『浮浪児1945-』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『こどもホスピスの奇跡』など多数。また、小説や児童書も手掛けている。

「2022年 『ルポ 自助2020-』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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